ひとことで言うと、環境基本法は、環境の保全の基本理念と、国・地方公共団体・事業者・国民の責務、環境基本計画や環境基準などの施策の柱を決めた法律です。平成5年(1993年)11月19日に公布され、それまでの公害対策基本法(昭和42年法律第132号)は、同じ日に公布された整備法によって廃止されました。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。この記事は、そのあとで一般知識に手を広げるときに、条文で確かめられる範囲だけを整理したものです。
取り違えやすいのは、公害の7つと、環境基準の対象の4つが一致しないことです。個別の公害事件や地域、政策の評価は扱いません。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。
身近な例で考えると
受験生のあおいさんは、架空のC市に住んでいます。近くにB社の工場があり、あおいさんは、工場から出るものが環境基本法でどう扱われるかを、条文で確かめることにしました。
| 人物・機関 | 立場 | 環境基本法での役割 |
|---|---|---|
| あおいさん | 近くに住む人(国民) | 日常生活に伴う環境への負荷の低減に努める(9条1項) |
| B社 | 工場を動かす事業者 | 事業活動に伴う公害を防止する措置を講ずる責務(8条1項) |
| C市 | 地方公共団体 | 国の施策に準じた施策と、区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定・実施する責務(7条) |
| 政府 | 国 | 環境基本計画と環境基準を定める(15条・16条) |
- 工場の機械の音が、周りの広い範囲に響いている。騒音は公害の7つの1つで、政府が環境基準を定める対象でもある。
- 同じ機械の揺れが、周りの家に伝わっている。振動も公害の7つの1つだが、16条1項の環境基準の対象には入っていない。
- 工場からのにおいが、周りの地域に広がっている。悪臭も公害の7つの1つで、やはり16条1項の環境基準の対象には入っていない。
たとえると、公害の7つは「法律が名前を挙げた困りごとの一覧」、環境基準は「そのうち4つにだけ付けた目標の水準」です。一覧にあるのに目標がないものがある、と覚えます。ただし本物のルールでは、環境基準がない振動や悪臭も、21条の規制の措置の対象には入っています(後の節)。
条文ではこう決まっている
目的と定義(1条・2条)
- 目的(1条):基本理念を定め、国・地方公共団体・事業者・国民の責務を明らかにし、施策の基本となる事項を定めて、現在と将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与し、人類の福祉に貢献する。
- 環境への負荷(2条1項):人の活動により環境に加えられる影響で、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるもの。
- 地球環境保全(2条2項):地球全体の温暖化、オゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少など、地球の全体や広い部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全。温暖化の対策の法律(地球温暖化対策の推進に関する法律)は地球温暖化対策推進法の記事で扱っています。
- 公害(2条3項):事業活動その他の人の活動に伴って生ずる「相当範囲にわたる」大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下、悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生ずること。
2条3項には、かっこ書が3つあります。水質の汚濁には、水質以外の水の状態や水底の底質が悪くなることも含みます。地盤の沈下からは、鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除きます。生活環境には、人の生活に密接な関係のある財産や、動植物とその生育環境も含みます。
基本理念(3条〜5条)と責務(6条〜9条)
- 3条(環境の恵沢の享受と継承等):現在と将来の世代の人間が、健全で恵み豊かな環境の恵沢を受け、人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように行う。
- 4条(環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等):すべての者の公平な役割分担の下で、環境への負荷をできる限り減らし、科学的知見の充実の下で支障を未然に防ぐ。
- 5条(国際的協調による地球環境保全の積極的推進):地球環境保全は、日本の能力を生かし、国際社会での地位に応じて、国際的協調の下に積極的に進める。
責務は、国(6条)・地方公共団体(7条)が「責務を有する」です。事業者(8条)は、公害の防止の措置など1項・2項・4項が「責務を有する」、製品の使用や廃棄による負荷の低減などの3項が「努めなければならない」です。国民(9条)は、日常生活に伴う負荷の低減が「努めなければならない」(1項)、国・地方公共団体の施策への協力などが「責務を有する」(2項)です。6月5日は環境の日です(10条2項)。製品などが廃棄物になるのを抑え、循環資源を再使用・再生利用・熱回収・処分の順に扱うと決めた法律は循環型社会形成推進基本法の記事で扱っています。
環境基本計画(15条)
- 政府は、環境基本計画を定めなければならない(1項)。
- 環境大臣は、中央環境審議会の意見を聴いて案を作り、閣議の決定を求めなければならない(3項)。
- 閣議の決定があったら、環境大臣は遅滞なく公表しなければならない(4項)。変更も同じ手続(5項)。
環境基準(16条)
16条1項は、「政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする」としています。環境基準は、事業者に直接守らせる基準ではなく、政府が施策によって確保を目指す「望ましい基準」です。常に適切な科学的判断を加え、必要な改定をしなければならず(3項)、政府は、公害の防止に関する施策を講じて、この基準が確保されるように努めなければなりません(4項)。
| 典型7公害(2条3項) | 環境基準(16条1項) |
|---|---|
| 大気の汚染 | あり |
| 水質の汚濁 | あり |
| 土壌の汚染 | あり |
| 騒音 | あり |
| 振動 | なし |
| 地盤の沈下 | なし |
| 悪臭 | なし |
規制の措置(21条)と環境影響評価(20条)
21条1項は、国が「講じなければならない」規制の措置を並べています。1号は、大気・水質・土壌の汚染や悪臭の原因となる物質の排出、騒音・振動の発生、地盤の沈下の原因となる地下水の採取などについて、事業者等の遵守すべき基準を定めるなどして公害を防止する規制です。環境基準のない振動・地盤の沈下・悪臭も、ここには入っています。市場の取引に任せるだけでは公害のような損害が取引の外に出てしまう(外部不経済)、という経済の側の説明は市場の失敗の記事にあります。
20条(環境影響評価の推進)は、土地の形状の変更や工作物の新設などの事業を行う事業者が、あらかじめ環境への影響を自ら調査・予測・評価し、その結果にもとづいて環境の保全に適正に配慮することを推進するため、国が必要な措置を講ずるものとしています。手続を具体的に定めたのは、環境影響評価法(平成9年法律第81号)です。同法は、規模が大きく環境影響の程度が著しくなるおそれがある事業について、環境影響評価の手続を定めています(1条)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:B社の工場の排水で、川の水質の汚濁が相当範囲に広がり、周りの人の生活環境に被害が出た。2条3項の公害に当たります。
- 当てはまる例:工場の排水で川の底の泥(底質)が悪くなった。水質そのものでなくても、かっこ書で水質の汚濁に含まれます。
- 当てはまらない例:隣の家の一部屋だけに届く小さな音。2条3項の公害は「相当範囲にわたる」ものに限られるので、この定義の公害には当たりにくい例です。
- ひっかけやすい例:鉱物を掘るための土地の掘削で地盤が沈んだ。2条3項の「地盤の沈下」からは、このかっこ書で除かれています。
- ひっかけやすい例:被害を受けたのが、人の体ではなく、人の生活に密接な関係のある動植物だった。生活環境には動植物とその生育環境も含まれるので、「生活環境に係る被害」になり得ます。
似ているルールとの違い
環境基準と規制の基準
| 比べる点 | 環境基準(16条) | 規制の措置(21条1項1号) |
|---|---|---|
| 性質 | 維持されることが望ましい基準(目標) | 事業者等の遵守すべき基準など |
| だれに向くか | 政府が定め、施策で確保に努める | 事業者等が守る |
| 対象 | 大気・水質・土壌・騒音の4つ | 7つの公害の原因となる行為 |
国の計画は、だれが案を作るか
「政府が計画を定め、閣議の決定を経る」形の法律は多く、案を作る人だけが違います。環境基本計画は環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて作ります(15条3項)。男女共同参画基本計画は内閣総理大臣が男女共同参画会議の意見を聴いて作ります(均等法と男女共同参画社会基本法の記事)。人工知能基本計画は人工知能戦略本部が案を作り、内閣総理大臣が閣議の決定を求めます(AI推進法の記事)。
試験ではここをまちがえやすい
- 7つと4つ:公害は7つ(大気・水質・土壌・騒音・振動・地盤の沈下・悪臭)。環境基準は大気・水質・土壌・騒音の4つだけ。振動・地盤の沈下・悪臭には環境基準の定めがない。
- 「相当範囲にわたる」:公害の定義の要件。狭い範囲の被害は2条3項の公害ではない。
- かっこ書:底質の悪化は水質の汚濁に入る。鉱物の掘採のための掘削による地盤の沈下は除く。
- 環境基準の性質:「維持されることが望ましい基準」。事業者に守らせる規制の基準(21条)と取り違えない。
- 計画を定める人:環境基本計画を定めるのは政府。環境大臣は案を作り、閣議の決定を求め、公表する。
- 年と法律の名前:環境基本法は平成5年。公害対策基本法(昭和42年)は廃止。環境影響評価法は平成9年。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
政府は、環境基本法16条1項にもとづき、騒音と同じく振動についても、人の健康を保護し生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとされている。
答え:✕ 分かれ目は、環境基準の対象です。16条1項が挙げるのは、大気の汚染・水質の汚濁・土壌の汚染・騒音の4つで、振動は入っていません。正しくは、振動は2条3項の公害の1つですが、16条1項の環境基準の対象ではありません。公害の7つ(2条3項)と、環境基準の4つを同じものと考えると○にしてしまいます。振動の発生は、21条1項1号の規制の措置の対象には入っています。
問2(このサイトのオリジナル問題)
鉱物を掘るための土地の掘削によって地盤が沈み、周りに住む人の生活環境に被害が生じた。この地盤の沈み込みは、環境基本法2条3項にいう「地盤の沈下」には当たらない。
答え:○ 分かれ目は、地盤の沈下のかっこ書です。2条3項は、地盤の沈下について「鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く」としています。生活環境に被害が出ているので公害の「地盤の沈下」に当たる、と考えると✕に見えます。同じ2条3項のかっこ書でも、水質の汚濁のほうは、水底の底質の悪化を「含む」と広げる向きなので、除く・含むの向きを分けて覚えます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
環境基本法では、環境基本計画は、環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて定め、定めたあと遅滞なく公表するものとされている。
答え:✕ 分かれ目は、計画を定める主体です。15条1項は「政府は」環境基本計画を定めなければならないとし、3項で、環境大臣は中央環境審議会の意見を聴いて「案」を作成し、閣議の決定を求めるとしています。正しくは、定めるのは政府(閣議の決定)で、環境大臣は案を作り、閣議の決定のあとに遅滞なく公表します(4項)。案を作る人と定める人を取り違えた形で、男女共同参画基本計画(内閣総理大臣が案を作る)とも混ざりやすいところです。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 環境基本法は平成5年法律第91号。公害対策基本法(昭和42年)は整備法で廃止された。
- 公害=人の活動に伴う相当範囲にわたる7つ(大気・水質・土壌・騒音・振動・地盤の沈下・悪臭)による、健康・生活環境の被害。
- 環境基準は政府が定める「望ましい基準」で、大気・水質・土壌・騒音の4つだけ。
- 環境基本計画は政府が定める。案は環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて作り、閣議の決定を求める。
- 環境影響評価は20条で国が推進し、手続は環境影響評価法(平成9年)で定める。
このサイトで次に読むなら、文章理解の記事です。基礎知識の足切りを越える6問の土台は、一般知識より先に文章理解で作れます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました。整備法は衆議院の制定法律のページで確かめました(2026年10月17日確認)。
- e-Gov法令検索「環境基本法」(1条〜10条、15条、16条、20条、21条1項、附則)
- e-Gov法令検索「環境影響評価法」(1条)
- 衆議院「環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成5年法律第92号。1条で公害対策基本法を廃止)
働く人の法律試験ノート