女子差別撤廃条約:「女子に対する差別」の定義と締約国の義務、日本の批准にあわせて変えた法律(国籍法・均等法)

ひとことで言うと、女子差別撤廃条約(正式には「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」)は、性に基づく区別・排除・制限で、女子が男女の平等を基礎として人権と基本的自由を認識し、享有し、行使することを害する「効果又は目的」を持つものを差別とし、その撤廃を締約国に約束させる条約です(1条・2条)。1979年の第34回国連総会で採択され、1981年に発効し、日本は1985年に締結しました(外務省の説明)。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。

締約国の数や順位、各国の比較、委員会の勧告の中身、国内の制度の評価は扱いません。条約は外務省の訳文で、日本の国内の動きは内閣府男女共同参画局の年表で、国籍法は e-Gov 法令検索で確かめた事実だけを書きます(2026年10月17日確認)。

身近な例で考えると

行政書士試験の受験生のゆいさんは、「女子差別撤廃条約」と「男女雇用機会均等法」がどうつながるのか分かりませんでした。そこで、外務省の説明と内閣府男女共同参画局の年表から、年を順に並べました。

  1. 1979年:第34回国連総会で条約が採択された。
  2. 1981年:条約が発効した。
  3. 1984年:条約の批准に向けて、国籍法が改正された。
  4. 1985年:批准に向けて、男女雇用機会均等法の公布、労働基準法の一部改正があり、「家庭科教育に関する検討会議」の報告が出された。
  5. 1985年:日本が条約を締結した。

ゆいさんが分かったのは、条約を締結する前に、国内の法律を条約に合う形に整えていたことです。2条は、締約国が差別となる既存の法律などを修正し又は廃止するための措置をとる、と約束させています。締結・批准の言葉の意味は条約の署名・批准・締結の記事で扱っています。

条約ではこう決まっている

「女子に対する差別」の定義(1条)

  • 何が:性に基づく区別、排除又は制限。
  • どの分野で:政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野でも。
  • だれの:女子。婚姻をしているかいないかを問わない。
  • どんなもの:男女の平等を基礎として人権と基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする「効果又は目的」を有するもの。

「効果又は目的」なので、差別する目的がなくても、効果として女子の権利の行使を害するものは定義に入ります。

締約国の約束(2条)

締約国は、女子に対するあらゆる形態の差別を非難し、差別を撤廃する政策を、すべての適当な手段により、かつ、遅滞なく追求することに合意しています。そのために約束することの例は次のとおりです。

  • (a)男女の平等の原則が憲法その他の法令に組み入れられていなければ定め、その実際的な実現を確保する。
  • (b)女子に対するすべての差別を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む)をとる。
  • (f)差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するための適当な措置(立法を含む)をとる。
  • (g)差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止する。

差別と解さない措置(4条)

  • 暫定的な特別措置(4条1):男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置は、差別と解してはならない。ただし、不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなってはならず、機会と待遇の平等の目的が達成された時に廃止されなければならない。
  • 母性の保護(4条2):母性を保護することを目的とする特別措置(この条約に規定する措置を含む)は、差別と解してはならない。

国籍(9条)と、委員会・報告(17条・18条)

  • 9条1:国籍の取得・変更・保持について、女子に男子と平等の権利を与える。外国人との婚姻や夫の国籍の変更が、自動的に妻の国籍を変えたり、妻を無国籍にしたり、夫の国籍を妻に強制したりしないことを確保する。
  • 9条2:子の国籍に関し、女子に男子と平等の権利を与える。
  • 17条1:女子に対する差別の撤廃に関する委員会を置く。専門家の人数は、条約の効力発生の時は18人、35番目の締約国による批准又は加入の後は23人。
  • 18条1:締約国は、その国について条約が効力を生ずる時から1年以内、その後は少なくとも4年ごと、さらに委員会が要請するときに、とった措置と進歩の報告を、国連事務総長に出すことを約束する。

日本の締結と、国内の法律

年国内の動き(内閣府の年表・外務省の言葉)
1984年批准に向けた国籍法の改正
1985年批准に向けた男女雇用機会均等法の公布、労働基準法の一部改正
1985年「家庭科教育に関する検討会議」の報告
1985年条約の締結(外務省)

今の国籍法2条1号は、子が日本国民となる場合として「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」を定めています。父と母のどちらが日本国民でもよい、という形です。条約9条2の「子の国籍に関し、女子に対して男子と平等の権利を与える」と並べて読むと分かりやすい定めです。この記事では、改正の前の条文の文言は、e-Gov の過去の版で確かめられなかったので書いていません。男女雇用機会均等法の今の条文の中身は男女雇用機会均等法と男女共同参画社会基本法の記事で扱っています。

個人通報の制度を定める選択議定書について、外務省が掲載する政府の報告(2025年4月時点)は、締結について「引き続き、我が国として真剣に検討を進めているところ」としています。この報告の時点で、日本はこの選択議定書を締結していません。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:差別する目的はなかったが、結果として女子の権利の行使を害する効果を持つ規則。1条は「効果又は目的」なので、定義に入ります。
  2. 当てはまる例:婚姻している女子に対する区別。1条は「婚姻をしているかいないかを問わない」としています。
  3. 当てはまらない例:男女の事実上の平等を促進する目的で、期間を区切ってとる暫定的な特別措置。4条1で差別と解してはなりません。母性を保護する特別措置も同じです(4条2)。
  4. ひっかけやすい例:暫定的な特別措置を、目的が達成された後も続けてよいとすること。4条1は、目的が達成された時に廃止されなければならない、としています。
  5. ひっかけやすい例:2条の約束を「法律の修正・廃止」に限るとすること。2条(f)は、法律・規則だけでなく、慣習及び慣行も挙げています。

人種差別撤廃条約とは、どこが違うか

比べる点女子差別撤廃条約人種差別撤廃条約
差別の理由性(1条)人種・皮膚の色・世系・民族的若しくは種族的出身(1条1)
差別としない措置暫定的な特別措置・母性の保護(4条)特別措置(1条4)
委員会発効時18人、35番目の批准・加入の後23人(17条1)18人(8条1)
報告1年以内、その後少なくとも4年ごと(18条1)1年以内、その後2年ごと(9条1)
日本1985年に締結1995年に加入

人種差別撤廃条約は人種差別撤廃条約の記事、報告の期間を児童の権利条約と比べた表は子どもの権利条約の記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 年:採択1979年(第34回国連総会)、発効1981年、日本の締結1985年。国籍法の改正は1984年、均等法の公布は1985年。
  • 定義の「効果又は目的」:目的がなくても、効果で差別になりうる。
  • 4条の特別措置:差別と解さないが、暫定的で、目的が達成されたら廃止。
  • 2条(f):法律・規則だけでなく、慣習・慣行も修正・廃止の対象。
  • 報告:1年以内・少なくとも4年ごと。児童の権利条約(2年以内・5年ごと)、人種差別撤廃条約(1年以内・2年ごと)と入れ替えない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
締約国Aは、男女の事実上の平等を促進する目的で、ある分野の採用で女子を優先する措置を、期間を区切ってとった。この措置は、目的が達成された時に廃止されるものであれば、条約に定義する差別とは解されない。

答え:○ 分かれ目は、4条1の暫定的な特別措置に当たるかです。4条1は、男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置を、差別と解してはならない、としています。女子だけを優先するのは性に基づく区別だから差別だ、と考えると✕に見えます。ただし同じ4条1は、目的が達成された時に措置を廃止しなければならない、としています。廃止せずに続ける措置とは区別します。

問2(このサイトのオリジナル問題)
締約国Bのある規則は、女子を差別する目的で作られたものではなかった。この規則が、結果として女子の権利の行使を害する効果を持っていても、条約1条の「女子に対する差別」には当たらない。

答え:✕ 分かれ目は、1条の「効果又は目的」です。1条は、男女の平等を基礎とした人権の享有・行使を害し又は無効にする「効果又は目的」を有するものを差別としています。正しくは、目的がなくても、効果として権利の行使を害する規則は定義に入ります。目的と効果の両方が必要だと読んだ誤りで、「又は」を「及び」と取り違えています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
締約国Cには、女子に対する差別となる古い慣行が残っているが、その慣行を定めた法律や規則はない。この場合でも、Cは、その慣行を修正し又は廃止するための適当な措置をとることを約束している。

答え:○ 分かれ目は、2条(f)の対象の広さです。2条(f)は、差別となる「既存の法律、規則、慣習及び慣行」を修正し又は廃止するための適当な措置(立法を含む)をとる、としています。法律がなければ国の約束の外だ、と考えると✕に見えます。差別となる刑罰規定の廃止(2条(g))のように法令を対象にする約束もありますが、(f)は慣習・慣行まで含みます。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 女子差別撤廃条約=女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約。1979年採択、1981年発効、日本は1985年に締結。
  • 差別=性に基づく区別・排除・制限で、人権の享有・行使を害する「効果又は目的」を持つもの(1条)。
  • 暫定的な特別措置と母性の保護は差別と解さない(4条)。特別措置は目的達成で廃止。
  • 日本は締結の前に、国籍法の改正(1984年)と均等法の公布(1985年)などを行った。今の国籍法2条1号は「父又は母」。
  • 個人通報の選択議定書は締結しておらず、政府は検討を進めていると説明している(2025年4月の政府の報告の時点)。

このサイトで次に読むなら、法の下の平等の記事です。条約の「差別」の定義と、憲法14条の「合理的な区別」の考え方を並べて確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条約は外務省の訳文で、国籍法は e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。

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