ひとことで言うと、日本銀行が金融市場のお金の量や金利に働きかける主な手段は、オペレーション(公開市場操作)です。日本銀行は「金融市場調節の主たる手段は、金融機関を相手に行う資金の貸付けや国債等の売買です」と説明しています。教科書で並ぶ「公定歩合操作」「預金準備率操作」は、日本銀行の説明では今の主な手段ではありません。以前の「公定歩合」は、いまは「基準貸付利率」と呼ばれています。準備率は1991年(平成3年)10月を最後に変更されていません。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の経済の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、制度の骨組みを知るために読んでください。
今の金融政策の中身・金利の水準・物価の数字と、その評価は書きません。年ごとに変わるからです。日本銀行の3つの役割と政策委員会の顔ぶれは日本銀行の役割の記事(下でリンク)で扱い、この記事は金融政策の「手段」だけを扱います。条文は令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確かめました。日本銀行の説明も同じ日に確かめています。景気の山と谷、景気動向指数の意味は景気循環の記事で扱っています。
身近な例で考えると
架空の「みどり銀行」と、そこに口座を持つ会社員のみさきさんで考えます。みどり銀行は、ほかの銀行と同じく、日本銀行に当座預金(日銀当座預金)を持っています。
- 日本銀行が、オペレーションでみどり銀行から国債を買い入れた。代金は、みどり銀行の日銀当座預金に入る。市場に出回るお金(資金)が増える向きです。
- 別の日に、日本銀行が、自分で振り出した手形をみどり銀行に売った。代金は、みどり銀行の日銀当座預金から日本銀行に移る。資金が減る向きです。
- みどり銀行は、日本銀行に、受け入れている預金等の一定の比率(準備率)以上の金額を預け入れておく義務がある(準備預金制度)。
- みさきさんは、ニュースで「公定歩合」という言葉を聞いた。日本銀行の説明では、かつての「公定歩合」は、いまは「基準貸付利率」と呼ばれている。
たとえると、日銀当座預金は「銀行どうしのお金の置き場」です。日本銀行がそこにお金を入れれば資金が増え、そこから引き上げれば減ります。ただし本物のしくみでは、日銀当座預金の残高は、オペレーションだけでなく、国の税金の受入れや支払い(財政資金の受払)でも増減します(日本銀行の説明)。
条文ではこう決まっている
日本銀行法:何を決め、どんな業務をするか
- 政策委員会の議決(15条1項):1号は手形の割引に係る「基準となるべき割引率」、2号は貸付けに係る「基準となるべき貸付利率」、3号は準備率の設定・変更・廃止、4号は手形・債券などの売買その他の方法による金融市場調節の方針。どれも委員会の議決で決める。
- 業務(33条1項):1号は手形の割引、2号は手形・国債などを担保とする貸付け、3号は「商業手形その他の手形(日本銀行の振出しに係るものを含む。)、国債その他の債券又は電子記録債権の売買」。
日本銀行法の目的(1条)・理念(2条)と政策委員会の顔ぶれは、日本銀行の役割の記事の表にまとめています。この記事では、手段に関わる15条1項の各号と33条1項だけを見ます。
なお、条文に「基準割引率」「基準貸付利率」という名前そのものが書かれているわけではありません。日本銀行が使う今の呼び名と、15条1項1号・2号の「基準となるべき割引率」「基準となるべき貸付利率」という言葉を読み合わせると対応している、というのが、この記事の条文の読み方です。
準備預金制度に関する法律(昭和32年法律第135号)
- 目的(1条):「通貨調節手段としての準備預金制度を確立し」、金融制度の整備を図るとともに、国民経済の健全な発展に資する。
- 法定準備預金額(2条2項):指定金融機関(銀行・信用金庫など)が「保有しなければならない日本銀行に対する預け金の最低額」。
- 準備率(4条1項・2項):日本銀行は、通貨の調節を図るため必要があると認める場合には、準備率を設定し、変更し、又は廃止することができる。準備率は「百分の二十」を超えることができない(一部の指定勘定は「百分の百」)。
- 公告(6条):準備率の設定・変更・廃止は、日本銀行の公告によって行う。
3つの手段を表で比べると
教科書では、金融政策の手段を「公開市場操作」「公定歩合操作」「預金準備率操作」の3つにまとめることがあります。それぞれを、日本銀行の説明と条文に当てはめると次のとおりです。
| 手段 | 何をする | お金・金利への働き | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 資金供給オペ | 資金の貸付けや国債の買入れなど | 市場に資金を供給する | 日銀法15条1項4号・33条1項 |
| 資金吸収オペ | 手形売出し、国債の売却など | 市場から資金を吸収する | 日銀法15条1項4号・33条1項3号 |
| 基準貸付利率(以前の公定歩合) | 補完貸付制度の適用金利 | 無担保コールレート(翌日物)の上限を画する | 日銀法15条1項2号・33条1項2号 |
| 預金準備率操作 | 預け入れさせる比率を上下させる | かつては貸出態度に影響を与えた。1991年10月を最後に変更なし | 準備預金法4条、日銀法15条1項3号 |
オペの具体例は、日本銀行の説明では、資金供給オペとして共通担保資金供給オペ・国債買入・国庫短期証券買入オペなど、資金吸収オペとして手形売出オペ・国債売現先オペ・国庫短期証券売却オペなどが挙がっています。名前を全部覚える必要はありません。「買う・貸す=供給」「売る=吸収」の向きを押さえます。
注意したいのは、日本銀行のいう「オペレーション(公開市場操作)」が、国債の売買だけではないことです。日本銀行は「金融機関を相手に行う資金の貸付けや国債等の売買」をオペレーションと呼んでいます。
「公定歩合」はいまどう位置づけられているか
日本銀行は、次のように説明しています。
- 以前は、「公定歩合」は金融政策の基本的なスタンスを示す代表的な政策金利だった。
- 「1994年(平成6年)に金利自由化が完了し、『公定歩合』と預金金利との直接的な連動性はなくなりました」。
- 「かつての『公定歩合』は、現在、『基準貸付利率』と呼ばれ、『補完貸付制度』の適用金利として、無担保コールレート(オーバーナイト物)の上限を画する役割を担うようになりました」。補完貸付制度は2001年(平成13年)2月に導入された。
無担保コールレート(オーバーナイト物)は、金融機関どうしが担保なしでお金を貸し借りし、翌営業日に返すときの金利です(日本銀行の説明)。日本銀行の統計では、「基準割引率および基準貸付利率(従来『公定歩合』として掲載されていたもの)」という名前で載っています。名称が変わった年月は、日本銀行の説明で確かめられなかったので、この記事では書きません。
預金準備率操作は「廃止」されたのか
制度は廃止されていません。準備預金制度に関する法律は今もあり、4条1項は、日本銀行が準備率を設定・変更・廃止できると定めています。準備率の決定は、日本銀行法15条1項3号で政策委員会の議決事項です。
変わったのは使い方です。日本銀行の説明では、準備率操作は、かつては準備率を上下させて、金融機関のコスト負担の増減を通じて貸出態度等に影響を与え、金融を緩和または引き締めることを目的として運用されていました。いまは「わが国をはじめ短期金融市場が発達した主要国では、そうした金融緩和・引締めの手段として準備預金制度は利用されておらず」、わが国の準備率も「1991年(平成3年)10月を最後に変更されていません」。この記事では、日本銀行が示すこの説明を超えて理由を推し量ることはしません。
景気とのつながり(日本銀行の説明の言葉で)
日本銀行は、金利が下がると、金融機関は低い金利で資金を調達でき、企業や個人への貸出の金利も下げられるようになる、と説明しています。経済活動が活発になり、景気を上向かせる方向に働きます。これを「金融緩和政策」と呼びます。逆に、金利が上がると、資金を借りにくくなり、景気の過熱が抑えられます。これが「金融引締め政策」です。
教科書では、景気が悪いときは資金供給(いわゆる買いオペ)、景気が過熱したときは資金吸収(いわゆる売りオペ)と説明されます。これは教科書での整理です。日本銀行は、日銀当座預金の残高の総額を増減させて資金の需給のバランスを変え、金利を上下にコントロールしていた、と説明しています。どの時期にどちらを選ぶべきかという評価は、この記事では扱いません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:日本銀行が国債を買い入れた。資金供給オペです(日本銀行の説明。33条1項3号の売買)。
- 当てはまる例:日本銀行が、担保をとってみどり銀行にお金を貸した。資金の貸付けもオペレーションに含まれます(33条1項2号)。
- 当てはまらない例:「準備預金制度は廃止されたので、日本銀行はもう準備率を変えられない」。法律は残っていて、4条1項で設定・変更・廃止ができます。
- ひっかけやすい例:「公定歩合を上げ下げすれば預金金利が連動して動く」。1994年の金利自由化の完了で、直接の連動性はなくなっています。
- ひっかけやすい例:手形売出オペは、日本銀行が手形を「買う」のではなく「売る」オペです。資金は吸収する向きです。
似ている言葉との違い
金融政策と並べて「財政政策」という言葉も使われます。教科書では、財政政策は、国(政府・国会)が予算・税・国債などを通じて景気に働きかけることと説明されます。法律の定義語ではないので、ここでは「だれが決めるか」の違いだけを押さえます。
| 比べる点 | 金融政策 | 財政政策(教科書の整理) |
|---|---|---|
| 決めるところ | 日本銀行の政策委員会(日銀法15条) | 国会の議決による予算など |
| 主な手段 | オペ、基準貸付利率、準備率 | 支出・税・国債 |
| 根拠の例 | 日本銀行法、準備預金法 | 憲法・財政法 |
国の予算と国債の決まりは、国の予算と国債の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
- オペの中身:国債の売買だけでなく、資金の貸付けも含む(日本銀行の説明)。買う・貸すのが供給、売るのが吸収。
- 自分の手形を売る:33条1項3号の手形には「日本銀行の振出しに係るもの」も含まれる。手形売出オペは資金吸収。
- 公定歩合の今:「基準貸付利率」と呼ばれ、補完貸付制度の適用金利として、コールレート(翌日物)の「上限」を画する。預金金利と直接には連動しない。
- 準備率:決めるのは日本銀行(政策委員会の議決)。上限は原則100分の20。1991年10月を最後に変更されていないが、制度と規定は残っている。
- 景気との向き:金利を下げる方向が「金融緩和」で景気を上向かせる向き、上げる方向が「金融引締め」で過熱を抑える向き。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
日本銀行が自ら振り出した手形を金融機関に売る「手形売出オペ」は、資金を吸収するオペレーションである。日本銀行法33条1項3号の手形の売買には、日本銀行の振出しに係る手形も含まれるので、この業務は同法に根拠がある。
答え:○ 手形売出オペは、日本銀行の説明で資金吸収オペの一つに挙げられています。日本銀行法33条1項3号は、「商業手形その他の手形(日本銀行の振出しに係るものを含む。)」の売買を業務として定めています。中央銀行が自分の手形を売るのは意外なので✕に見えますが、条文のかっこ書きに入っています。資金を供給するのは国債の買入れなど「買う・貸す」側のオペで、向きを取り違えないようにします。
問2(このサイトのオリジナル問題)
かつて「公定歩合」と呼ばれた金利は、今も預金金利と直接に連動しているので、日本銀行がこの金利を変えると、銀行の預金金利も同じ幅で動くしくみになっている。
答え:✕ 分かれ目は、預金金利との連動が今もあるかです。日本銀行の説明では、1994年(平成6年)に金利自由化が完了し、「公定歩合」と預金金利との直接的な連動性はなくなりました。正しくは、かつての公定歩合は今は「基準貸付利率」と呼ばれ、補完貸付制度の適用金利として、無担保コールレート(オーバーナイト物)の上限を画する役割を担っています。金利自由化の前の、公定歩合が代表的な政策金利だったころの説明と取り違えた誤りです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
預金の準備率は長く変更されていないが、準備預金制度に関する法律は今も、日本銀行が準備率を設定・変更・廃止できると定めており、その決定は日本銀行の政策委員会の議決による。
答え:○ 準備預金制度に関する法律4条1項は、日本銀行が、通貨の調節を図るため必要があると認める場合に、準備率を設定し、変更し、又は廃止することができるとしています。日本銀行法15条1項3号は、この準備率の設定・変更・廃止を政策委員会の議決事項にしています。日本銀行の説明では準備率は1991年10月を最後に変更されていないので、「制度ごとなくなった」と考えると✕に見えます。使われていないことと、法律の規定がなくなったことは別です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 日本銀行の説明では、金融市場調節の主な手段はオペレーション(資金の貸付けや国債等の売買)。買う・貸すが供給、売るが吸収。
- 以前の公定歩合は、今は基準貸付利率。補完貸付制度の適用金利として、コールレート(翌日物)の上限を画する。
- 準備率は準備預金制度に関する法律4条。決めるのは日本銀行(政策委員会の議決)で、上限は原則100分の20。1991年10月を最後に変更なし。
- 金利を下げる方向が金融緩和、上げる方向が金融引締め(日本銀行の説明の言葉)。
このサイトで次に読むなら、市場の失敗の記事です。金融政策とは別に、市場だけではうまくいかない場面で国がとる手段を、法律の条文と結びつけて整理しています。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に確かめました。日本銀行の説明も同じ日に確かめています。
- e-Gov法令検索「日本銀行法」(1条・2条・15条・33条)
- e-Gov法令検索「準備預金制度に関する法律」(1条・2条・4条・6条)
- 日本銀行「金融市場調節とは何ですか?」
- 日本銀行「オペレーション(公開市場操作)にはどのような種類がありますか?」
- 日本銀行「以前の『公定歩合』は、現在、どのように位置づけられていますか?」
- 日本銀行「準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか?」
- 日本銀行「無担保コールレート(オーバーナイト物)とは何ですか? 資金過不足とは何ですか?」
- 日本銀行「金融政策は景気や物価にどのように影響を及ぼすのですか?」
- 日本銀行「基準割引率および基準貸付利率(従来『公定歩合』として掲載されていたもの)の推移」(統計の名称)
働く人の法律試験ノート