ひとことで言うと、需要の価格弾力性は「需要量の変化率÷価格の変化率」で、価格が1%変わったときに需要量(買われる量)が何%変わるかを表す数です。値上げすると需要量は減るので、計算するとマイナスになりますが、教科書では、符号を外して正の数で表します。1より大きいと「弾力的」、1より小さいと「非弾力的」と呼びます。非弾力的な商品は値上げで売上(価格×数量)が増え、弾力的な商品は値上げで売上が減ります。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の経済の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、経済の基本の言葉を知るために読んでください。
価格弾力性は法律の言葉ではなく、法令や公的機関が定めた定義もありません。この記事の定義は、2冊の経済学の教科書(出典欄)に共通する説明です(2026年10月17日確認)。数字はすべてこの記事で作った例で、統計の値や特定の商品・会社は出しません。
身近な例で考えると:需要曲線と供給曲線
パン屋を営むゆきさんの町の、食パン1斤の市場を考えます。値段ごとに、町の人が買いたい数(需要量)と、町のパン屋が売りたい数(供給量)は、次のとおりだとします。
| 1斤の値段 | 買いたい数 | 売りたい数 | どうなるか |
|---|---|---|---|
| 100円 | 120斤 | 60斤 | 60斤足りない(品不足) |
| 150円 | 90斤 | 90斤 | ちょうど釣り合う |
| 200円 | 60斤 | 120斤 | 60斤余る(売れ残り) |
- 需要曲線:値段が高いほど買いたい数は減る。グラフにすると右下がり(左上から右下へ下がる線)。
- 供給曲線:値段が高いほど売りたい数は増える。グラフにすると右上がり。
- 均衡価格:買いたい数と売りたい数が等しくなる値段。この例では150円で、90斤が売り買いされる。
- 均衡より高い値段:売りたい数が上回り、売れ残り(超過供給)が出る。均衡より低い値段:買いたい数が上回り、品不足(超過需要)になる。
たとえると、均衡価格は「買い手の希望と売り手の希望がちょうど重なる値札」です。ただし本物の市場では、値段のほかに好みや所得なども需要量を動かすので、表のように値段だけで決まるわけではありません。市場に任せるだけでは資源がうまく配分されない場面(市場の失敗)は市場の失敗の記事、国どうしが得意な財を作って取引するしくみは比較優位の記事で扱っています。
教科書ではこう定義されている
- 需要の価格弾力性:需要量の変化率(%)を、価格の変化率(%)で割ったもの。
- 符号:価格と需要量は反対に動くので、計算すると負の数になる。そのため、1冊は符号を外した値で表すと、もう1冊は式の頭にマイナスを付けて正の数にすると説明しています。どちらも、正の数にして1と比べます。
- 弾力的・非弾力的:1より大きいと弾力的(価格の変化に大きく反応する)、1より小さいと非弾力的(反応が小さい)。ちょうど1は、価格の変化と同じ割合で需要量が変わる(単位弾力的)。
- 供給の価格弾力性:供給量の変化率を価格の変化率で割ったもの。考え方は同じです。
計算の例で確かめる(2つの商品)
ゆきさんの店で、もとの値段が100円、1か月に1,000個売れている商品が2つあります。どちらも値段を10%上げて110円にしました。
| 項目 | 商品A | 商品B |
|---|---|---|
| 値上げ後に売れた数 | 800個(20%減) | 950個(5%減) |
| 弾力性の計算 | (−20%)÷10%=−2 → 符号を外して2 | (−5%)÷10%=−0.5 → 符号を外して0.5 |
| 呼び方 | 弾力的(1より大きい) | 非弾力的(1より小さい) |
| 売上(値段×数) | 100,000円→88,000円(12%減) | 100,000円→104,500円(4.5%増) |
検算します。商品Aは110×800=88,000、商品Bは110×950=104,500で、どちらも値上げ前は100×1,000=100,000です。商品Aは、値段の上がり方(10%)より売れる数の減り方(20%)が大きいので、売上が減ります。商品Bは、売れる数の減り方(5%)が値段の上がり方より小さいので、売上が増えます。
教科書によっては、変化の前と後の平均を基準に変化率を計算する方法(中点法)を使います。その方法だと、商品Aは約2.33、商品Bは約0.54になり、値は少し変わりますが、1より大きいか小さいかはこの例では変わりません。この記事の計算は、変化の前の値を基準にしています。
弾力性と売上の関係
| 弾力性の大きさ | 呼び方 | 値上げしたとき | 値下げしたとき |
|---|---|---|---|
| 1より大きい | 弾力的 | 売上は減る | 売上は増える |
| 1より小さい | 非弾力的 | 売上は増える | 売上は減る |
| ちょうど1 | 単位弾力的 | 売上は変わらない | 売上は変わらない |
教科書(OpenStax)は、住宅や電気のような必需品の需要は非弾力的だと説明しています。生活に欠かせない物は、値段が上がっても買う量をあまり減らせない、という読み方です。現実の商品の弾力性の値は、統計からの推計によるもので、この記事では扱いません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:値段を20%上げたら売れる数が10%減った。10÷20=0.5で非弾力的。売上は1.2×0.9=1.08倍で、8%増える。
- 当てはまる例:値段を5%下げたら売れる数が15%増えた。15÷5=3で弾力的。売上は0.95×1.15=1.0925倍で、9.25%増える。
- 当てはまらない例:「弾力性が−2なので、1より小さく非弾力的」。符号を外した2で比べるので、弾力的です。
- ひっかけやすい例:値段を10%上げて売れる数が20%減った商品の弾力性を、10÷20=0.5とすること。割る数と割られる数が逆で、正しくは20÷10=2です。
試験ではここをまちがえやすい
- 割り算の向き:分子が需要量の変化率、分母が価格の変化率。
- マイナスの符号:計算の値は負になるが、符号を外して1と比べる。
- 売上の向き:非弾力的なら値上げで売上が増える。弾力的なら値上げで売上が減る。「値上げすれば売上は増える」とは限らない。
- 曲線の傾き:需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がり。均衡より高い値段では売れ残り、低い値段では品不足。
○✕でたしかめよう
問1〜問3では、需要の価格弾力性を「需要量の変化率÷価格の変化率」の符号を外した値で表し、1より大きいときを弾力的、1より小さいときを非弾力的と呼びます。変化率は、変化の前の値を基準にします(この記事で使った教科書の定義)。
問1(このサイトのオリジナル問題)
ゆきさんの店で、ある商品の値段を100円から110円に10%上げたら、1か月に売れる数が1,000個から800個に20%減った。この商品の需要の価格弾力性は0.5で、非弾力的である。
答え:✕ 分かれ目は、割り算の向きです。弾力性は、需要量の変化率を価格の変化率で割ったものです。正しくは、20%÷10%=2で、1より大きいので弾力的です。0.5は、価格の変化率を需要量の変化率で割った(10÷20)値で、分子と分母を取り違えています。この商品は、値上げで売上が1.1×0.8=0.88倍に減ります。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ゆきさんの店で、別の商品の値段を5%上げたら、売れる数が2%減った。この商品の需要の価格弾力性は0.4で非弾力的であり、値上げの後の売上は、値上げの前より増える。
答え:○ 弾力性は2%÷5%=0.4で、1より小さいので非弾力的です。売上は値段1.05倍×数0.98倍=1.029倍で、2.9%増えます。「売れる数が減ったのだから売上も減る」と考えると✕に見えます。数の減り方が値段の上がり方より小さいときは、値上げで売上が増えます。問1の弾力的な商品とは、売上の動く向きが反対です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
ゆきさんの店で、さらに別の商品の値段を4%上げたら、売れる数が12%減った。この商品の需要の価格弾力性は3で弾力的であり、値上げの後の売上は、値上げの前より減る。
答え:○ 弾力性は12%÷4%=3で、1より大きいので弾力的です。売上は1.04×0.88=0.9152倍で、約8.5%減ります。「値上げすれば1個あたりの売上が増えるので、全体の売上も増える」と考えると✕に見えます。弾力的な商品では、数の減り方が値段の上がり方より大きく、売上は減ります。問2の非弾力的な商品とは、売上の動く向きが反対です。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がり。買いたい数と売りたい数が等しくなる値段が均衡価格。
- 需要の価格弾力性=需要量の変化率÷価格の変化率。負の値になるので符号を外して表す。
- 1より大きい=弾力的、1より小さい=非弾力的、ちょうど1=単位弾力的。
- 非弾力的なら値上げで売上が増え、弾力的なら値上げで売上が減る(例:10%上げて5%減→4.5%増、10%上げて20%減→12%減)。
このサイトで次に読むなら、財政の3つの機能の記事です。市場に任せると十分に供給されないものを政府が供給する「資源配分」の考え方へ進めます。
参考にした情報(2026年10月確認)
価格弾力性には法令・公的機関の定義がないため、次の2冊の経済学の教科書(いずれもインターネットで無料で公開されているもの)で、共通する定義を2026年10月17日に確かめました。数値例はこの記事のための架空のもので、本文で検算しています。
- Greenlaw, Shapiro, MacDonald『Principles of Economics 3e』(OpenStax、2022年)5.1(需要・供給の価格弾力性の定義、符号の扱い、弾力的・非弾力的・単位弾力的、中点法)
- 同 5.3(弾力性と売上の関係、必需品の需要)、同 3.1(需要曲線・供給曲線・均衡価格・超過供給と超過需要)
- 『Introduction to Economic Analysis』(LibreTexts 版。Beginning Economic Analysis をもとにした教科書)3.1 Elasticity(弾力性の定義、マイナスの符号の扱い、弾力的・非弾力的、弾力性と売上)
働く人の法律試験ノート