行政相談とオンブズマン制度:行政への苦情を受ける仕組み、行政相談委員と総務省の行政評価・監視、国と自治体の違い

ひとことで言うと、行政相談は、国の行政などへの苦情や要望を、担当の役所とは別の立場の総務省が受けて、解決をうながす仕組みです。総務省は「担当行政機関とは異なる立場から、行政などへの苦情や意見、要望を受け、その解決や実現を促進するとともに、行政の制度や運営の改善に生かす仕組み」と説明しています。法律の根拠は、総務省の所掌事務を定めた総務省設置法4条1項14号の「苦情の申出についての必要なあっせん」です。

窓口の一つが行政相談委員で、総務大臣が委嘱し、国から報酬を受けません(行政相談委員法2条・8条)。審査請求や取消訴訟とは違い、法律が決めた申出の期限はなく、結果に行政機関を従わせる効力を定めた規定もありません。オンブズマン(行政への苦情を受けて調べ、是正を勧める第三者)については、総務省は、行政相談を日本の「独自の行政苦情救済制度」と説明しています。地方公共団体には、条例や要綱で公的オンブズマンを置くところがあります(総務省行政評価局行政相談課の委託調査の報告書〔平成28年3月〕による)。

この記事の位置づけ:行政書士試験の基礎知識の4分野(一般知識・行政書士法等の業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点以上。6問分)を越えるには、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固めるのが、基礎知識の記事で書いた当サイトの方針です。この記事は、条文で決まっている苦情の受け皿の仕組みだけを扱い、制度の評価や、国のオンブズマンを作るべきかの議論は書きません。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。

身近な例で考えると

会社員のはるかさんが、通勤で使う国道の歩道について困っている場面です。

  1. 国道の歩道に大きな段差があり、ベビーカーや車いすが通りにくい。はるかさんは、どこに言えばよいか分からない。
  2. 市の広報で、近くの公民館に行政相談委員が来る日があると知り、相談に行った。
  3. 行政相談委員は話を聞いて助言し、その苦情を総務省か道路を管理する国の機関に通知した。
  4. しばらくして、行政相談委員から、管理する機関がどう対応したかが伝えられた。

はるかさんは「処分」を受けたわけではないので、審査請求や取消訴訟の形にはなじみません。行政相談は、こうした処分にならない困りごとも受けられる仕組みです。たとえるなら、学校の担任の先生ではなく、別の立場の相談室の先生に話し、担任に伝えてもらうようなものです。ただし本物の行政相談では、相談室にあたる総務省が、担当の役所に対応を命じる法的な力を持つわけではありません。

条文ではこう決まっている

総務省設置法4条1項(総務省の所掌事務)

  • 11号:各行政機関の業務の実施状況の評価(その行政機関の政策についての評価を除く)と監視を行うこと。総務省が「行政評価・監視」と呼ぶ仕事です。
  • 14号:各行政機関の業務などに関する「苦情の申出についての必要なあっせん」に関すること。行政相談の根拠です。
  • 15号:「行政相談委員に関すること。」

あっせん(間に入って話をつなぎ、解決をうながすこと)は、相手に命じることとは違います。総務省の説明も、適切な窓口を案内したり「関係機関に働きかけたりして、解決に導きます」という書き方です。

行政相談委員法(昭和41年法律第99号)

  • 1条(目的):国民の行政に関する苦情の解決の促進に役立てること。
  • 2条(委嘱と仕事):総務大臣は、「社会的信望があり、かつ、行政運営の改善について理解と熱意を有する者」に業務を委嘱できる。委嘱は、担当する市町村の区域と、2年以内の期間を示して行う。仕事は、苦情の相談を受けて助言し、総務省か関係する行政機関に通知すること、その処理の結果を必要に応じて相談した人に伝えることなど。この人を行政相談委員という。
  • 4条(意見の陳述):仕事を通じて得た行政運営の改善についての意見を、総務大臣に述べることができる。
  • 5条(規律):仕事で知った秘密を漏らしてはならない(委員でなくなった後も同じ)。地位を政党や政治的な目的のために使ってはならない。
  • 6条(解嘱):心身の故障で仕事ができないとき、仕事を怠ったり5条に違反したりしたとき、委員にふさわしくない非行があったときは、総務大臣が委嘱を解ける。
  • 8条(費用):仕事について国から報酬を受けない。予算の範囲内で、仕事に必要な費用の支給は受けられる。

行政相談委員の名簿・なり方・人数のような実務の話は、条文で決まっていることではないので、この記事では扱いません。

行政評価・監視(総務省の説明)

総務省は、行政機関の業務の実施状況を「主に合規性、適正性、効率性の観点から」評価する行政評価・監視を行い、全国的な調査の結果にもとづいて関係府省に勧告などをすると説明しています。検索では「行政監察」という言葉も使われますが、総務省の今の説明で使われている言葉は「行政評価・監視」です。呼び名の移り変わりの時期は、総務省の説明で確かめられなかったので、この記事では書きません。

審査請求・訴訟とどう違うか

くらべる点行政相談審査請求取消訴訟
だれに総務省(行政相談委員など)審査庁(行政不服審査法4条で決まる)裁判所
何について行政の業務への苦情・要望(処分でなくてよい)処分・不作為処分・裁決
期限法律に定めなし知った日の翌日から3月(行審法18条1項)知った日から6箇月(行訴法14条1項)
結果の効力あっせん。従わせる効力の定めなし裁決は関係行政庁を拘束(52条1項)取消判決は関係行政庁を拘束(33条1項)

審査請求と取消訴訟の期間には、どちらも「正当な理由があるとき」のただし書があります。審査請求の流れは審査請求の記事で扱っています。地方公共団体のお金の使い方を住民が争う住民監査請求・住民訴訟は、行政相談とは別の、地方自治法の仕組みです(直接請求と住民訴訟の記事、監査委員の記事)。

オンブズマン制度:国と自治体の違い

総務省は、オンブズマン制度を、19世紀初めにスウェーデンで初めて置かれた制度で、「高い識見と権威を備えた第三者」が国民の行政に対する苦情を受け付け、中立的な立場から原因を究明し、是正措置を勧告するもの、と説明しています。そのうえで、総務省の行政相談を、日本の政治的・社会的風土の中で発展してきた「独自の行政苦情救済制度」とし、行政評価局・行政相談委員・行政改善推進会議の3者を挙げています。

くらべる点国の行政相談自治体の公的オンブズマン
根拠総務省設置法・行政相談委員法その自治体の条例や要綱
だれが総務省、総務大臣が委嘱する行政相談委員議会や首長が任命・委嘱する、職員以外の第三者
何をする苦情のあっせん、関係機関への通知・働きかけ苦情の調査、是正の勧告、意見表明、その公表など

右の列は、総務省の説明ではなく、総務省行政評価局行政相談課の委託で一般財団法人行政管理研究センターが行った調査研究の報告書(平成28年3月)の説明によります。報告書は、公的オンブズマンを、地方公共団体の職員以外の第三者が議会や首長に任命・委嘱され、住民の苦情を受けて勧告・意見表明などをする機関として扱い、設置の根拠が条例のもの・要綱のものがあるとしています。置くかどうかや権限は自治体ごとに違い、報告書の数字も平成28年3月の時点のものなので、この記事では数も個別の自治体の名前も書きません。

市民が自分たちで作る団体が「市民オンブズマン」と名乗ることがありますが、議会や首長に任命・委嘱された機関でなければ、公的オンブズマンとは別物です。逆に、自治体の公的オンブズマンの名前に「市民」が入っている例もあるので、名前ではなく、だれに任命・委嘱されたかで見分けます。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:国の出先機関の窓口の案内が分かりにくいという苦情を、行政相談委員に相談した。処分でない苦情も、行政相談で受けられます。
  2. 当てはまる例:1年前の出来事についての苦情を、今になって総務省の窓口に相談した。行政相談には、法律が決めた申出の期限がありません。
  3. 当てはまらない例:あっせんを受けた機関が、総務省の働きかけのとおりに対応する法的な義務を負う、という理解。行政相談の法律には、そうした拘束力の定めがありません。拘束力があるのは審査請求の裁決や取消判決です。
  4. ひっかけやすい例:行政相談委員を、市町村長が任命する市の職員だと考える。委嘱するのは総務大臣で、国から報酬は受けません。

試験ではここをまちがえやすい

  • 根拠の条文:行政相談は総務省設置法4条1項14号の「苦情の申出についての必要なあっせん」。行政評価・監視は同項11号。
  • 委嘱する人:行政相談委員は総務大臣が委嘱。担当の市町村の区域と2年以内の期間を示す(行政相談委員法2条)。
  • 報酬:国から報酬は受けない。必要な費用は予算の範囲内で支給を受けられる(8条)。
  • 期限と効力:行政相談には期限の定めも拘束力の定めもない。3月・6箇月の期間や拘束力は、審査請求・取消訴訟の決まり。
  • オンブズマン:国では、総務省が行政相談を「独自の行政苦情救済制度」と説明。自治体は条例・要綱で公的オンブズマンを置く例がある(総務省の委託調査の報告書)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
はるかさんは、国の機関の窓口の対応について、総務省に行政相談をしたい。行政相談も、審査請求と同じく、そのことを知った日の翌日から3月を過ぎると、正当な理由がない限りすることができない。

答え:✕ 分かれ目は、申出の期限が法律にあるかです。行政相談の根拠である総務省設置法4条1項14号と行政相談委員法には、苦情の申出の期限の定めがありません。正しくは、期限に縛られずに相談できます。「知った日の翌日から3月」は、処分についての審査請求の期間(行政不服審査法18条1項)で、ここから借りてきた誤りです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
行政相談委員は、総務大臣が、担当する市町村の区域と2年以内の期間を示して業務を委嘱する人で、その業務について国から報酬を受けない。

答え:○ 分かれ目は、委嘱する人と報酬の扱いです。行政相談委員法2条は、総務大臣が、区域と2年以内の期間を示して委嘱するとし、8条1項は、業務について国から報酬を受けないとしています。市町村長が任命する職員、または給与を受ける国の職員と考えると✕に見えます。報酬はなくても、予算の範囲内で業務に必要な費用の支給は受けられます(8条2項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
総務省が、行政相談で受けた苦情について関係する行政機関にあっせんをした場合、その内容は、審査請求の裁決と同じく、関係する行政機関を法的に拘束する。

答え:✕ 分かれ目は、結果に拘束力の定めがあるかです。総務省設置法4条1項14号は「必要なあっせん」とするだけで、行政相談の法律には、あっせんに行政機関を従わせる効力の定めがありません。正しくは、あっせんは解決をうながす働きかけです。「関係行政庁を拘束する」は、審査請求の裁決(行政不服審査法52条1項)と取消判決(行政事件訴訟法33条1項)の決まりです。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 行政相談:担当とは別の立場の総務省が苦情を受けてあっせんする仕組み(総務省設置法4条1項14号)。処分でない苦情も受ける。
  • 行政相談委員:総務大臣が、市町村の区域と2年以内の期間を示して委嘱。国から報酬なし。秘密を守り、政治的目的に地位を使わない。
  • 審査請求(3月・裁決に拘束力)、取消訴訟(6箇月・判決に拘束力)と違い、行政相談には期限・拘束力の定めがない。
  • オンブズマン:国では、総務省が行政相談を「独自の行政苦情救済制度」と説明。自治体は条例・要綱で公的オンブズマンを置く例がある(総務省の委託調査の報告書)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました。行政相談・行政評価・監視・オンブズマンの説明は、総務省のページと、総務省の委託調査の報告書で確かめました(いずれも2026年10月17日確認)。

このサイトで次に読むなら、中央省庁再編の記事です。行政評価・監視を受け持つ総務省がどんな改革でできたかを、条文で確かめられます。

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