消費者裁判手続特例法とは:特定適格消費者団体が起こす共通義務確認訴訟と簡易確定手続の二段階、対象になる請求

ひとことで言うと、消費者裁判手続特例法は、同じ原因で多くの消費者にお金の被害が出たとき、内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」が、二段階の裁判手続でまとめて回復を図る仕組みを決めた法律です。1段階目の「共通義務確認訴訟」で、事業者が消費者に金銭を支払う義務を負うかを決めます。2段階目の「簡易確定手続」で、だれにいくら支払うかを決めます。消費者が加わるのは2段階目で、団体に授権(手続を任せること)をします(34条1項)。

「消費者裁判手続特例法」は略した呼び方で、法律の題名は「消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号)です。消費者庁の説明では、平成28年10月1日に施行されました。令和4年法律第59号による改正(この法律の部分は令和5年10月1日施行)で、一定の慰謝料などが対象に加わっています。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の社会の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。個別の団体・事業者・事件や、手続の費用などの実務には入らず、令和8年4月1日時点の条文の骨組みだけを整理します(2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確認)。

身近な例で考えると

さきさんは、会社で働きながら行政書士試験の勉強をしています。以前、語学スクールを営むA社と受講の契約を結びましたが、途中で解約しました。ところがA社は、さきさんを含む多くの受講者に、同じ理由で、残りの受講料を返さないと言っています。一人分の金額は小さく、さきさんが一人で訴えるのは負担が大きい場面です。

人物・団体この法律での立場すること
A社事業者(被告)1段階目で訴えられ、2段階目で届け出られた債権に認否をする
特定適格消費者団体原告・申立てをする団体1段階目の訴えを起こし、2段階目の申立てと債権届出をする
さきさん対象消費者2段階目で団体に授権する
裁判所判断する機関1段階目で判決、2段階目で簡易確定決定

たとえると、まず「A社は、返金しなければならない立場にあるか」を代表して決め、それが決まったら「だれにいくら返すか」を一人ずつ決める、という二段の進め方です。ただし本物のルールでは、1段階目を起こせるのは特定適格消費者団体だけで、さきさんたちが集まって自分で起こす訴訟ではありません。

条文ではこう決まっている

目的(1条)

1条は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた「財産的被害等」を対象にしています。財産的被害等は「財産的被害及び精神上の苦痛を受けたことによる損害」と定義されています。消費者と事業者の間には、情報の質と量、交渉力の格差があり、消費者が自分で回復を図るのは難しい場合があります。そこで、特定適格消費者団体が「被害回復裁判手続」を追行できるようにした、というのが1条の書き方です。

言葉の定義(2条)

言葉条文の意味(要点)
消費者(1号)個人(事業を行う場合におけるものを除く)
消費者契約(3号)消費者と事業者の間の契約(労働契約を除く)
共通義務確認の訴え(4号)相当多数の消費者に生じた財産的被害等について、事業者等が、これらの消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づき、金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴え
簡易確定手続(7号)共通義務確認訴訟の結果を前提に、債権届出にもとづいて対象債権などの存否と内容を確定する裁判手続
特定適格消費者団体(10号)消費者契約法の適格消費者団体のうち、71条により内閣総理大臣の認定を受けた者

4号には、「個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて」という限定も入っています。1段階目で決めるのは、多くの消費者に共通する部分だけです。

二段階の流れ

  1. 1段階目・共通義務確認訴訟:特定適格消費者団体が、事業者等を被告にして共通義務確認の訴えを起こす(3条1項)。裁判所は、共通する義務があるかを判決で示す。消費者は、この訴訟に特定適格消費者団体を補助するために参加することもできない(8条1項。民事訴訟法42条の補助参加の例外)。
  2. 2段階目の始まり:請求を認容する判決が確定したとき(または請求の認諾で終わったとき)、当事者だった団体は、正当な理由がある場合を除き、簡易確定手続開始の申立てをしなければならない(15条1項)。
  3. 消費者が加わる:団体が通知・公告をし、対象消費者は団体に授権する(34条1項)。
  4. 債権届出:届け出ることができるのは「簡易確定手続申立団体に限り」とされている(33条1項)。消費者が自分で届け出るのではない。
  5. 確定:事業者等が認否をし、裁判所が簡易確定決定をする。決定に適法な異議があれば「異議後の訴訟」に移る(2条8号)。

対象になる請求・ならない損害(3条)

3条1項は、事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務で、消費者契約に関するものを対象にしています。2項は、そのうち3号〜5号の請求(損害賠償の請求)について、対象から外す損害を並べています。

区分中身条
入る契約上の債務の履行の請求1項1号
入る不当利得に係る請求1項2号
入る契約上の債務の不履行による損害賠償の請求1項3号
入る不法行為に基づく損害賠償の請求(民法の規定によるものに限る)1項4号
入る被用者が業務の執行で加えた損害についての、事業者・事業監督者・被用者への請求1項5号
入らない契約の目的物以外の財産の滅失・損傷による損害、目的物について得るはずだった利益の喪失(役務の場合も同じ)2項1号〜4号
入らない人の生命又は身体を害されたことによる損害2項5号
原則入らない精神上の苦痛を受けたことによる損害(慰謝料)。例外は次の段落2項6号

精神上の苦痛の損害でも、額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通し、かつ、次のどちらかに当たるものは対象になります(2項6号)。イ=一つの訴えで財産的な請求と併せて請求され、財産的な請求と共通する事実上の原因に基づくもの。ロ=事業者の故意によって生じたもの。消費者庁の概要資料は、この慰謝料の追加を令和5年10月1日施行の改正としています。

さらに3条4項は、認容の判決をしても、簡易確定手続で個々の債権の存否や内容を適切かつ迅速に判断することが困難だと認めるときは、裁判所が訴えの全部または一部を却下できるとしています。一人ひとりの事情を細かく調べないと決まらない被害は、この手続に向かないということです。

令和4年法律第59号による改正

消費者庁の説明では、この改正法は令和4年6月1日に公布され、この法律に関する改正規定は令和5年10月1日に施行されました。消費者庁の概要資料が挙げる主な点は、一定の慰謝料を対象に加えたこと、事業者のほかに、一定の場合に事業監督者・被用者(個人)も被告にできるようにしたこと、和解の早期柔軟化、事業者等による消費者への通知、消費者団体訴訟等支援法人の制度などです。慰謝料は、この改正で対象に加わったものです。

だれが訴えを起こせるか(71条)

71条1項は「適格消費者団体は、内閣総理大臣の認定(以下「特定認定」という。)を受けた場合に限り、被害回復関係業務を行うことができる」と定めています。つまり、2段階の認定があります。消費者契約法13条の認定を受けた適格消費者団体が、さらに71条の特定認定を受けて、はじめて特定適格消費者団体になります。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:中途解約した多くの受講者に、事業者が同じ理由で受講料を返さない。消費者契約に関する金銭の支払義務で、契約上の債務の履行や不当利得の請求として扱えます(3条1項1号・2号)。
  2. 当てはまる例:不当な勧誘を理由に多くの消費者が契約を取り消した後の、代金の返還の請求。取消し後の返還は不当利得に係る請求です(3条1項2号)。
  3. 当てはまらない例:商品の欠陥で生じた、人の生命・身体の損害。3条2項5号で対象から外れます。一人ひとりが自分で損害賠償を求めることになります。
  4. ひっかけやすい例:慰謝料。原則は対象外ですが、主要な事実関係が相当多数の消費者に共通し、財産的な請求と併せて請求するか、事業者の故意によるときは対象になります(3条2項6号)。
  5. ひっかけやすい例:事業者どうしの取引の被害。3条1項は「消費者契約に関する」請求に限っていて、消費者は事業を行う場合の個人を除いた個人です(2条1号・3号)。

似ているルールとの違い

消費者団体の訴えには、もう一つ、消費者契約法の差止請求があります。こちらは、これから起きる被害を止める仕組みです。

比べる点差止請求被害回復
根拠消費者契約法12条この法律の3条など
できる団体適格消費者団体(同法13条の認定)特定適格消費者団体(71条の特定認定も要る)
求めるもの不当な勧誘・不当な契約条項の使用の停止・予防などすでに生じた被害の金銭の支払
消費者の関わり団体が請求する2段階目に授権して加わる

差止請求の対象になる不当な契約条項(消費者契約法8条〜10条)がどう判断されるかは、更新料と敷引特約の判例の記事で消費者契約法10条を例に扱っています。クレジットで買った商品のトラブルで、販売店に言える事情をカード会社などにも言えるかは、割賦販売法の記事の「抗弁の接続」の話です。1項4号の不法行為そのものの要件は、民法の不法行為の記事にあります。消費者政策の全体の枠組み(消費者の権利、国・地方公共団体・事業者の責務)は、消費者基本法の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • だれが起こすか:1段階目の原告は特定適格消費者団体。消費者本人ではない。適格消費者団体であるだけでは足りず、71条の特定認定が要る。
  • 消費者が加わる時期:2段階目。団体に授権し(34条1項)、債権届出は団体だけがする(33条1項)。
  • 対象外の損害:拡大損害(目的物以外の財産の損害)、逸失利益、生命・身体の損害。生命・身体の損害には、慰謝料のような故意の例外がない。
  • 慰謝料の改正:令和5年10月1日施行の改正で加わった。今は、主要な事実関係の共通性に加えて「財産的請求と併せて」か「事業者の故意」のどちらかがあれば入る。
  • 差止めとの区別:差止請求は消費者契約法12条で、これからの行為を止める。この法律はすでに生じた金銭の被害の回復。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
語学スクールのA社が、中途解約した多数の受講者への返金を同じ理由で拒んでいる。共通義務確認の訴えを起こせるのは特定適格消費者団体なので、受講者のさきさんが手続に加わるのは、簡易確定手続で団体に授権するときである。

答え:○ 分かれ目は、消費者がどの段階で加わるかです。3条1項で共通義務確認の訴えを起こせるのは特定適格消費者団体で、消費者は2段階目の簡易確定手続で、団体に授権します(34条1項)。1段階目の訴訟には、団体を補助するための参加もできません(8条1項)。債権届出も「簡易確定手続申立団体に限り」できます(33条1項)。被害を受けた本人が最初から原告になるはず、と考えると✕に見えます。被害を受けた人が自分の名前で訴える、ふつうの訴訟と取り違えないことです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
精神上の苦痛を受けたことによる損害(慰謝料)は、財産的な請求と一つの訴えで併せて請求する場合でも、共通義務確認の訴えの対象にならない。

答え:✕ 分かれ目は、改正後の3条2項6号の例外です。正しくは、額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通し、財産的請求と併せて請求され、それと共通する事実上の原因に基づく慰謝料は、対象になります(3条2項6号イ)。事業者の故意によって生じたものも同じです(同号ロ)。慰謝料が対象に加わったのは令和5年10月1日施行の改正なので、改正前の知識のまま答えると誤ります。

問3(このサイトのオリジナル問題)
消費者契約に関して多数の消費者の身体が害されたことによる損害は、事業者の故意によって生じたものであっても、共通義務確認の訴えの対象にならない。

答え:○ 分かれ目は、「事業者の故意」の例外がどの号にあるかです。人の生命又は身体を害されたことによる損害は、3条2項5号で対象から外され、この号には例外がありません。故意の例外(6号ロ)は、精神上の苦痛の損害についてのものです。故意なら慰謝料が入るのだから身体の損害も入る、と考えると✕に見えます。5号と6号の例外を取り違えないことです。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 題名は「消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号)。
  • 1段階目=共通義務確認訴訟(特定適格消費者団体が事業者等を訴える)。2段階目=簡易確定手続(消費者が団体に授権、団体が債権届出)。
  • 対象は消費者契約に関する金銭の請求(3条1項)。拡大損害・逸失利益・生命身体の損害は外れる(3条2項)。
  • 慰謝料は、共通性に加えて「財産的請求と併せて」か「事業者の故意」で入る(令和5年10月1日施行の改正)。
  • 特定適格消費者団体=適格消費者団体(消費者契約法13条)+特定認定(71条)。どちらも内閣総理大臣の認定。

このサイトで次に読むなら、割賦販売法の記事です。同じく消費者の取引を守る法律で、だれがだれに何を言えるかを条文で決めていく点が、この記事の読み方とそろっています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の内容を確かめました(2026年10月17日確認)。

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