電気通信事業法と通信の秘密:検閲の禁止・秘密の保護(3条・4条)と罰則、利用者に関する情報の外部送信の決まり

ひとことで言うと、電気通信事業法は、電気通信事業者が取り扱っている通信について、検閲を禁じ(3条)、通信の秘密を侵してはならないとし(4条1項)、秘密を侵した者を罰する(179条)法律です。憲法21条2項後段の「通信の秘密は、これを侵してはならない」を、通信の事業の場面で具体的にした決まりと言えます。

罰則は、通信の秘密を侵した者が「2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」、電気通信事業に従事する者が侵したときは「3年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金」で、どちらも未遂を罰します(179条)。令和5年6月16日からは、利用者の端末から利用者に関する情報を外部に送らせるときに、その内容などを利用者に知らせる決まり(27条の12)も施行されています。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、情報通信・個人情報保護の分野の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問を、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。ガイドラインの実務や個別の事業者の扱いには入らず、令和8年4月1日時点の条文だけを整理します(2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確認)。

身近な例で考えると

そうたさんは、通信の会社「ひかり通信」で回線の保守をしている会社員で、行政書士試験の受験生です。仕事中、故障を調べるために、ある利用者の通信の記録を見ることがあります。りんさんは、そうたさんの学生時代の友人です。

人物・会社立場関係する条文
ひかり通信電気通信事業者取扱中の通信を検閲しない(3条)、秘密を侵さない(4条1項)
そうたさん電気通信事業に従事する者知り得た他人の秘密を守る。退職後も同じ(4条2項)
りんさん事業とは無関係の人他人の通信の秘密を侵せば179条1項の対象

そうたさんが確かめて分かったのは、守る義務は「仕事をしている間だけ」ではないこと、罰則は事業者の社員だけに向けたものではないこと、の2つです。たとえると、通信の秘密は「郵便の封筒の中身と、だれがだれにいつ出したかの両方」を守る決まりです。ただし本物のルールでは、利用者の有効な同意がある場合や、正当業務行為などに当たる場合は、違法にならないと解されています(後で説明します)。

条文ではこう決まっている

憲法と電気通信事業法の4つの条

規定だれに向けた決まりか中身
憲法21条2項後段人権の規定(国と個人の関係)通信の秘密は、これを侵してはならない
事業法3条事業者の取扱中の通信電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない
事業法4条事業者と従事者取扱中の通信の秘密を侵さない(1項)。従事者は知り得た他人の秘密を守る。退職後も同じ(2項)
事業法179条秘密を侵した者2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金。従事者は3年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金。未遂も罰する

179条の罰則の組み立て

  • 1項:電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵した者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金。主語は「侵した者」で、事業者や従事者に限っていません。
  • 2項:電気通信事業に従事する者が1項の行為をしたときは、3年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金。中にいる人が侵したときは重くなります。
  • 3項:1項・2項の未遂罪は、罰する。

刑の名前は、令和7年6月1日施行の刑法等の改正のあとの「拘禁刑」です。改正の前の条文では、同じ年数で「懲役」と書かれていました(e-Gov 法令検索の改正前の版で確認)。

「侵す」とは何か、何が守られるか

条文は「侵す」の中身を書いていません。総務省の学術雑誌『情報通信政策研究』に載った、総務省の担当課の職員による指針の立案担当者解説(令和3年)は、次のように説明しています。条文の言葉ではなく、解説の説明です。

  • 守られる範囲:通信内容にとどまらず、通信当事者の住所・氏名、発信場所、通信年月日などの通信の構成要素や、通信回数などの通信の存在の事実の有無を含む。
  • 侵害の3つの型:知得(積極的に知ろうとする意思の下で知ること)、窃用(発信者または受信者の意思に反して利用すること)、漏えい(他人が知り得る状態に置くこと)。
  • 侵害に当たらない場合:通信当事者の有効な同意がある場合。
  • 違法性が阻却される場合:正当行為(刑法35条)、正当防衛(36条)、緊急避難(37条)に当たる場合などは、例外的に違法性が阻却されると解されている。課金や苦情への対応など業務に必要な範囲での通信履歴の記録は、正当業務行為とされている。

登録と届出(9条・16条)

電気通信事業を営もうとする者は、総務大臣の登録を受けなければならないのが原則で(9条)、登録を受けるべき者以外は総務大臣への届出をします(16条1項)。どちらの事業者も、3条・4条の対象です。

利用者に関する情報の外部送信(27条の12)

  • だれが:電気通信事業者または第三号事業を営む者で、利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者。
  • どんなとき:利用者の端末(電気通信設備)に、端末に記録された利用者に関する情報を利用者以外の者に送る機能を起動させる指令(条文の言葉で「情報送信指令通信」)を送ろうとするとき。
  • 何をする:あらかじめ、送信される利用者に関する情報の内容、送信先の電気通信設備などを、利用者に通知するか、利用者が容易に知り得る状態に置く。
  • かからない場合(1号〜4号):役務を利用するのに送信が必要な情報として総務省令で定めるもの、事業者が利用者に送った識別符号で自分の設備に送られるもの、利用者が送信に同意している情報、利用者の求めで送信や利用を止める措置(オプトアウト)をとり、その方法などを利用者が容易に知り得る状態に置いている場合でその措置を求められていない情報。

条文は、特定の技術の名前を使わず、「情報送信機能」「情報送信指令通信」という言葉で決めています。総務省の資料によると、この決まりは改正法の施行の日である令和5年6月16日から施行され、対象の役務は、他人の通信を媒介する役務や、検索・閲覧の役務などの類型で総務省令が定めています。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:そうたさんが、仕事で知った利用者の通信の相手と日時を、りんさんに話す。中身でなくても、通信の構成要素は守られる範囲に入ると解されています。従事者なので、179条2項の重い刑の対象になります。
  2. 当てはまる例:そうたさんが退職した後に、在職中に知った他人の秘密を話す。4条2項は「その職を退いた後においても、同様とする」としています。
  3. 当てはまらない例:料金の計算のために、業務に必要な範囲で通信の履歴を記録する。上の解説は、総務省のガイドラインが業務に必要な場合に限って認める通信履歴の記録を、正当業務行為としています。
  4. ひっかけやすい例:事業と無関係のりんさんが、事業者の取扱中の他人の通信の秘密を侵す。179条1項の主語は「侵した者」なので、りんさんも対象です。従事者に当たらないので、刑は1項の重さです。
  5. ひっかけやすい例:27条の12を「送信の前に利用者の同意を取る義務」と覚えること。条文の義務は、通知するか容易に知り得る状態に置くことで、同意は義務がかからない場合の一つ(3号)です。

似ているルールとの違い

決まり守るものこの記事との関係
憲法21条2項後段通信の秘密(人権)人権の規定。事業法は事業の場面での決まり
電気通信事業法4条・179条事業者の取扱中の通信の秘密この記事の中心
個人情報保護法生存する個人に関する情報通信に限らない。定義と義務は別の法律の決まり
不正アクセス禁止法IDなどで利用を制限している仕組み他人の識別符号の無断入力などの不正アクセス行為を禁じる(3条)

憲法の検閲・表現の自由の考え方は表現の自由の記事にあります。個人情報保護法の定義は個人情報保護法の記事、不正アクセス禁止法の定義と罰則は情報通信の用語の記事で扱っています。EUの一般データ保護規則(GDPR)はGDPRの記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 罰則の主語:179条1項は「侵した者」。事業者の社員に限らない。従事者は2項で重くなる(2年・100万円→3年・200万円)。
  • 未遂:179条3項で、1項・2項の未遂も罰する。
  • 退職後:従事者の守秘は、退職後も同じ(4条2項)。
  • 守られる範囲:通信の中身だけでなく、当事者・日時・回数なども含むと解されている。
  • 外部送信の義務の中身:27条の12は「通知又は容易に知り得る状態に置く」。同意の取得を義務にした条文ではない。
  • 刑の名前:令和7年6月1日からは「拘禁刑」。「懲役」と書いた肢は改正前の書き方。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
電気通信事業法179条は、電気通信事業に従事する者が通信の秘密を侵した場合を罰する規定であり、事業に従事していない者が電気通信事業者の取扱中の通信の秘密を侵しても、同条の罪には当たらない。

答え:✕ 分かれ目は、罰則の主語です。179条1項は、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を「侵した者」を2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処するとし、主語を限っていません。正しくは、事業に従事していない者も1項の対象で、従事する者が侵したときに2項で3年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金に重くなります。4条2項の守秘の義務が従事者に向けた規定であることと、罰則の主語を取り違えた誤りです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
電気通信事業者で回線の保守をしていたそうたさんが、退職した後に、在職中に取り扱った通信に関して知り得た他人の秘密を友人に話すことは、電気通信事業法4条2項に違反する。

答え:○ 分かれ目は、守る義務がいつまで続くかです。4条2項は、電気通信事業に従事する者は、在職中に電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならないとし、「その職を退いた後においても、同様とする」と続けています。もう従事していないので義務はない、と考えると✕に見えます。守る対象は、在職中に知った秘密である点も問題文に合っています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
電気通信事業法27条の12の対象となる事業者が、利用者の端末から利用者に関する情報を外部に送信させる指令の通信を行おうとするときは、送信される情報について、あらかじめ利用者の同意を得なければならない。

答え:✕ 分かれ目は、義務の中身です。27条の12は、あらかじめ、送信される情報の内容や送信先などを利用者に通知し、または利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない、としています。正しくは、同意の取得は義務ではなく、利用者が同意している情報は義務がかからない場合の一つ(3号)です。義務がかからない場合として挙がっている「同意」を、義務そのものと取り違えた誤りです。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 3条=取扱中の通信の検閲の禁止。4条1項=通信の秘密を侵さない。4条2項=従事者の守秘は退職後も。
  • 179条:侵した者は2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金、従事者は3年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金。未遂も罰する。
  • 侵害=知得・窃用・漏えい。有効な同意があれば侵害に当たらず、正当業務行為などは違法性が阻却されると解されている。
  • 27条の12(令和5年6月16日施行):外部送信の前に、情報の内容・送信先などを通知または容易に知り得る状態に置く。同意は除外の一つ。

このサイトで次に読むなら、不正指令電磁的記録に関する罪の記事です。同じ情報通信の分野で、刑法の条文の要件と法定刑を同じ形で整理しています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の内容を確かめました(2026年10月17日確認)。

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