ひとことで言うと、選挙権の年齢は、平成27年の公職選挙法等の改正(平成27年法律第43号)で「満18年以上」になり、平成28年6月19日から施行されました(公職選挙法9条)。同じ18歳の線で、18歳未満の人は選挙運動ができません(137条の2)。インターネットを使った選挙運動は、平成25年の改正(平成25年法律第10号)で解禁され、ウェブサイト等による選挙運動はだれでもでき、電子メールによる選挙運動は候補者・政党等に限られます(142条の3・142条の4。令和8年4月1日時点の条文)。
「ネット選挙」は一般に使われる呼び方で、法律の言葉ではありません。法律の言葉は「インターネット等を利用する方法」による選挙運動で、その中を「ウェブサイト等を利用する方法」と「電子メールを利用する方法」に分けています。この記事では、条文と附則・公的機関の説明に書いてあることだけを書き、改正のメリット・デメリットや評価は書きません。
この記事の位置づけ:行政書士試験の基礎知識の4分野(一般知識・行政書士法等の業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点以上。6問分)を越えるには、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固めるのが、基礎知識の記事で書いた当サイトの方針です。この記事は、そのうえで、公職選挙法の条文で決まっている年齢とインターネットの決まりだけを扱います。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。
身近な例で考えると
高校3年生のりくさん(18歳)と、弟で高校2年生のそらさん(17歳)の家で、選挙が近づいた場面です。
- りくさんは、満18年以上なので、衆議院議員・参議院議員の選挙権を持つ(9条1項)。
- りくさんは、選挙運動の期間中に、自分のブログで、応援したい候補者への投票を呼びかけた。ウェブサイト等を使う選挙運動は、候補者でない人もできる(142条の3)。
- そらさんも同じことをしたいと思ったが、17歳なので選挙運動はできない(137条の2第1項)。SNSでもブログでも同じ。
- りくさんは、友だちに、候補者への投票を呼びかける電子メールを送ろうとした。しかし、令和8年4月1日時点の条文では、電子メールで選挙運動の文書を配れるのは候補者・政党等に限られる(142条の4。2027年3月1日施行の改正で変わる点は後で書きます)。
たとえるなら、ブログやSNSは「自分の家の前に掲示板を出す」ようなもので、見たい人が見に来ます。電子メールは「相手の家の郵便受けに入れる」ようなもので、相手を選んで届けます。法律は、この2つを分けて決めています。ただし本物の決まりでは、掲示板でも、出せるのは選挙運動ができる期間だけで、18歳未満の人は出せません。
条文ではこう決まっている
選挙権と選挙運動の年齢(9条・10条・137条の2)
- 9条1項:「日本国民で年齢満十八年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。」
- 9条2項:地方公共団体の議会の議員と長の選挙権は、満18年以上で、引き続き3箇月以上その市町村の区域内に住所を持つ人。
- 10条1項(被選挙権):衆議院議員は満25年以上、参議院議員は満30年以上。都道府県知事は満30年以上、市町村長と地方議会の議員は満25年以上。
- 137条の2:「年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない。」だれも18歳未満の人を使って選挙運動をしてはならない。ただし、選挙運動のための労務に使う場合は除く(2項)。
平成27年の改正:いつから、どの選挙から
平成27年法律第43号(公職選挙法等の一部を改正する法律)は、平成27年6月19日に公布されました。附則1条は「公布の日から起算して一年を経過した日から施行する」としていて、施行は平成28年6月19日です(青森県選挙管理委員会の説明でも同じ日)。附則2条で、施行日の後に初めて公示される衆議院議員の総選挙か参議院議員の通常選挙の公示日のうち早い日以後に、公示・告示される選挙から適用されました。
「なぜ18歳か」について、改正法の附則には理由を説明する条文はありません。附則11条は、選挙権の年齢を満18年以上に引き下げることをふまえ、国が「民法(明治二十九年法律第八十九号)、少年法その他の法令の規定について検討を加え」、必要な法制上の措置を講ずるとしています。民法の成年年齢が18歳になったのは、これとは別の改正で、令和4年4月1日からです(法務省の説明。民法4条)。
| 何が | 年齢 | 根拠・いつから |
|---|---|---|
| 国政選挙・地方選挙の選挙権 | 満18年以上 | 公職選挙法9条。平成28年6月19日施行 |
| 選挙運動ができる年齢 | 18歳未満はできない | 公職選挙法137条の2 |
| 憲法改正の国民投票の投票権 | 満18年以上 | 日本国憲法の改正手続に関する法律3条 |
| 成年 | 18歳 | 民法4条。令和4年4月1日施行 |
| 裁判員に選ばれる資格 | 衆議院議員の選挙権を持つ人 | 裁判員法13条 |
| 被選挙権(くらべる用) | 満25年以上・満30年以上 | 公職選挙法10条 |
国民投票の手続は憲法改正の記事、成年と未成年者の取引は制限行為能力者の記事で扱っています。裁判員は「衆議院議員の選挙権を有する者」の中から選ばれるので(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律13条)、選挙権の年齢はここにもつながります。18歳・19歳の扱いは裁判員制度の記事、衆議院・参議院の選挙の仕組みは選挙制度の記事で扱っています。
平成25年の改正:インターネット選挙運動の解禁
平成25年法律第10号(公職選挙法の一部を改正する法律)は、平成25年4月26日に公布され、附則1条で「公布の日から起算して一月を経過した日から施行する」とされました。当サイトがこの決まりで数えると、施行は平成25年5月26日です。総務省は、この平成25年の法改正(議員立法)で「インターネット等を利用する方法による選挙運動が解禁されました」と説明しています。次の表と箇条は、令和8年4月1日時点の条文です(2027年3月1日施行の改正は、この節の最後に分けて書きます)。
| 方法 | だれができるか(令和8年4月1日時点) | 決まりの例 | 2027年3月1日から |
|---|---|---|---|
| ウェブサイト等(ブログ・SNSなど。電子メールを除く) | だれでも(18歳未満を除く) | 連絡先の表示(142条の3第3項) | 新142条の3にまとめられる |
| 電子メール | 候補者・政党等(142条の4第1項) | 送ってよい相手の限定、選挙運動用である旨などの表示(142条の4第2項・7項) | 新142条の3にまとめられ、候補者・政党等に限る今の142条の4はなくなる |
- 期間:選挙運動は、候補者などの届出のあった日から選挙の期日の前日までしかできない(129条)。前日までに載せたウェブサイト等の文書は、選挙の当日も見られる状態にしておける(142条の3第2項)。
- 電子メールを送ってよい相手:自分から送信を求めた人・同意した人、または政治活動用の電子メールを続けて受け取っていて、通知を受けても拒まなかった人に限る(142条の4第2項)。送信を拒まれたら、その人には送れない(6項)。
- 有料の広告:自分の選挙運動のために、候補者の氏名や政党の名前などを表示した有料のインターネット広告を出すことは、だれにもできない(142条の6第1項)。別に、選挙運動の期間中、政党等が、選挙運動用のウェブサイト等を表示させる機能を持つ有料広告を出すことは認められている(4項)。
- 適正な利用:選挙に関しインターネット等を使う人は、候補者への悪質な誹謗中傷をするなど表現の自由を濫用して選挙の公正を害さないよう、適正な利用に努めなければならない(142条の7。努力の義務)。
基準日の後の改正(2027年3月1日施行):令和8年法律第58号(2026年7月17日公布)で、次のように変わります。e-Gov の2027年3月1日施行の版の条文で確かめました。
- 電子メールもまとめて扱う:今の142条の3は、ウェブサイト等を「電子メールを利用する方法を除いたもの」としています。新142条の3(インターネット等を利用する方法による文書図画の頒布)は、この除外を置かず、頒布する人も限っていません。電子メールによる頒布を候補者・政党等に限り、送ってよい相手を限る今の142条の4は改められ、新142条の4は別の表示の義務の条になります。
- AIで作った画像・映像の表示(新142条の5):人工知能関連技術を利用して作成・改変された画像や映像を載せた選挙運動の文書図画などを頒布する人は、人工知能関連技術で作成・改変されたものである旨が正しく表示されるようにしなければならない。社会通念に照らして軽微な改変や、実際に撮影されたものと誤認されるおそれのないものは除かれます。
- 虚偽の事項(新142条の7第1項):選挙に関しインターネット等を利用する人は、候補者に関し虚偽の事項を公にしたり、事実をゆがめて公にしたりして、選挙の公正を害することがないようにしなければならない。今の142条の7の「適正な利用に努めなければならない」は、2項に残ります。
試験との関係:令和9年度の行政書士試験の法令の基準日は、試験案内で公表されるまで決まっていません。令和9年4月1日になれば、この改正は範囲に入ります。この記事のほかの説明(電子メールは候補者・政党等に限る、など)は令和8年4月1日時点の条文なので、改正の後の決まりと混ぜないようにします。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:18歳のりくさんが、選挙運動の期間中に、ブログで候補者への投票を呼びかけた。ウェブサイト等による選挙運動として認められます。
- 当てはまらない例:17歳のそらさんが、SNSで同じ呼びかけをした。18歳未満は、インターネットでも選挙運動ができません(137条の2第1項)。
- 当てはまらない例:りくさんが、友だち全員に、候補者への投票を呼びかける電子メールを送った。令和8年4月1日時点の条文では、電子メールによる選挙運動は候補者・政党等に限られます(142条の4第1項)。
- ひっかけやすい例:18歳になってすぐ引っ越したりくさんが、引っ越し先の市の市長選挙で投票しようとした。地方の選挙権には、引き続き3箇月以上の住所の要件があります(9条2項)。
試験ではここをまちがえやすい
- 選挙権と被選挙権:選挙権は満18年以上。被選挙権は満25年以上(衆議院議員・市町村長・地方議会の議員)と満30年以上(参議院議員・都道府県知事)。
- 国政と地方の違い:地方の選挙権だけ、引き続き3箇月以上の住所の要件がある(9条2項)。
- 18の線のずれ:選挙権は平成28年6月19日施行、成年年齢は令和4年4月1日施行。同時ではない。
- ネットでも年齢の線は同じ:18歳未満は、ブログ・SNSでも選挙運動ができない。
- ウェブサイト等と電子メール:ウェブサイト等はだれでも、電子メールは候補者・政党等(令和8年4月1日時点)。2027年3月1日施行の改正の後の決まりと混ぜない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
満18歳のりくさんは、2か月前に今の市へ引っ越してきた。りくさんは衆議院議員の選挙権を持つが、この市の市議会議員の選挙権を持つには、満18年以上であることに加え、引き続き3箇月以上この市の区域内に住所を持つことが要る。
答え:○ 分かれ目は、国政と地方で住所の要件が違うことです。公職選挙法9条1項は国会議員の選挙権を「年齢満十八年以上」の日本国民とし、9条2項は、地方公共団体の議会の議員と長の選挙権に「引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する」ことを加えています。満18歳ならどの選挙でも投票できる、と考えると✕に見えます。被選挙権の年齢(10条)とも分けて覚えます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
17歳の高校生そらさんが、選挙運動の期間中に、自分のSNSで特定の候補者への投票を呼びかけることは、ウェブサイト等を利用する方法によるものであれば許される。
答え:✕ 分かれ目は、選挙運動ができる年齢です。公職選挙法137条の2第1項は「年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない」としていて、インターネットを使う場合も例外にしていません。正しくは、17歳のそらさんはSNSでも選挙運動ができません。ウェブサイト等を使う選挙運動は候補者以外の人もできる(142条の3)という決まりを、年齢の制限まで外れると取り違えた誤りです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
選挙権の年齢を満18年以上にした平成27年の公職選挙法等の改正法が施行された平成28年6月19日に、民法の成年年齢も同時に18歳に引き下げられた。
答え:✕ 分かれ目は、2つの18歳の線の施行日です。平成27年法律第43号は平成28年6月19日に施行されましたが、民法の成年年齢を18歳にした改正の施行は令和4年4月1日です(法務省の説明。民法4条)。正しくは、2つは同時ではありません。平成27年の改正法の附則11条は、民法・少年法などについて国が検討を加えるとしただけで、成年年齢そのものは変えていません。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 選挙権は満18年以上(9条)。平成27年法律第43号で、平成28年6月19日施行。地方の選挙権は引き続き3箇月以上の住所も要る。
- 18歳未満は選挙運動ができない(137条の2)。インターネットでも同じ。
- インターネット選挙運動は平成25年法律第10号で解禁。ウェブサイト等はだれでも、電子メールは候補者・政党等(令和8年4月1日時点)。
- 成年年齢18歳は令和4年4月1日から(民法4条)。国民投票の投票権も満18年以上。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめ、2027年3月1日施行の改正は e-Gov の施行日指定の版で確かめました。改正法の附則は衆議院の制定法律のページ、施行の日と解禁の説明は法務省・総務省・青森県選挙管理委員会の説明で確かめました(いずれも2026年10月17日確認)。
- e-Gov法令検索「公職選挙法」(9条、10条、129条、137条の2、142条の3〜142条の7。2027年3月1日施行の版の142条の3〜142条の7)
- 衆議院「公職選挙法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第43号)(附則1条・2条・11条)
- 衆議院「公職選挙法の一部を改正する法律」(平成25年法律第10号)(附則1条・2条)
- e-Gov法令検索「民法」(4条)と法務省のページ(民法の成年年齢の引下げ)
- e-Gov法令検索「日本国憲法の改正手続に関する法律」(3条)
- e-Gov法令検索「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(13条)
- 総務省「インターネット選挙運動の解禁に関する情報」
- 青森県選挙管理委員会「選挙権年齢等の18歳への引下げ」(施行日)
このサイトで次に読むなら、選挙権と一票の格差の記事です。選挙権が憲法の上でどう扱われ、判例で何が争われてきたかを確かめられます。
働く人の法律試験ノート