裁判員制度とは:対象になる事件、裁判員の選ばれ方と辞退、評議と評決、守秘義務

ひとことで言うと、裁判員制度は、国民が裁判員として刑事裁判に参加し、被告人が有罪かどうか、有罪ならどのような刑にするかを、裁判官と一緒に決める制度です(裁判所の説明)。根拠は「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(平成16年法律第63号。以下「裁判員法」)で、平成16年5月21日に成立し、平成21年5月21日から始まりました。

対象は、死刑または無期拘禁刑に当たる罪の事件などで(2条1項)、地方裁判所で、原則として裁判官3人と裁判員6人の合議体が扱います(2条2項)。裁判員は衆議院議員の選挙権を持つ人から選ばれ(13条)、評決は裁判官と裁判員の双方の意見を含む過半数で決まります(67条1項)。

この記事の位置づけ:行政書士試験の基礎知識の4分野(一般知識・行政書士法等の業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点以上。6問分)を越えるには、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固めるのが、基礎知識の記事で書いた当サイトの方針です。この記事は、裁判員法の条文で決まっている制度の骨組みだけを扱い、個別の事件、刑の重さ、制度の評価は書きません。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。

身近な例で考えると

会社員のゆいさんが、裁判員に選ばれるまでの流れです(法務省の説明の流れに沿った架空の話です)。

  1. 選挙人名簿をもとに、裁判員候補者名簿が作られる。ゆいさんの名前がこの名簿に載る。
  2. ある事件について、名簿の中から候補者に選ばれ、選任手続の期日に裁判所へ来るよう知らせが届く。
  3. 選任手続の日に裁判所へ行く。そこで、法律で裁判員になれない人に当たらないか、辞退の申立てがあるかなどが確かめられ、その事件の裁判員6人が選ばれる。
  4. ゆいさんは、裁判官3人・ほかの裁判員5人と公判で証拠を見聞きし、評議(話し合い)をして、有罪かどうかと刑を決める。
  5. 判決のあとも、評議の中でだれがどんな意見だったかなどは、話してはいけない(70条1項)。

同じ名簿に載ったほかの人の場合も見ておきます。72歳のたけしさんは、年齢を理由に辞退の申立てができます(16条1号)。弁護士のあやさんは、裁判員の職務に就くことができない人に当たります(15条1項)。

たとえるなら、裁判員は「選挙人名簿の中から選ばれる、その事件だけの臨時の審査員」です。ただし本物のルールでは、裁判員が加わるのは事実の認定・法令の適用・刑の量定で、法令の解釈や訴訟の手続の判断は裁判官だけで決めます(6条)。

条文ではこう決まっている

対象事件と合議体(2条)

  • 地方裁判所は、次の事件を裁判員の参加する合議体で扱う(1項):①死刑または無期拘禁刑に当たる罪の事件、②裁判所法26条2項2号の事件(裁判官の合議体で扱う事件)のうち、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件。
  • 合議体は、裁判官3人・裁判員6人。裁判官のうち1人が裁判長(2項)。
  • 公判前整理手続で公訴事実に争いがないと認められ、適当と認められる事件は、裁判官1人・裁判員4人の合議体にできる(3項)。そのためには、検察官・被告人・弁護人に異議がないことを確かめる(4項)。

だれが何を決めるか(6条)

  • 裁判官と裁判員の合議で決める(1項):事実の認定、法令の適用、刑の量定。
  • 裁判官だけの合議で決める(2項):法令の解釈に係る判断、訴訟手続に関する判断など。

裁判員になれる人・なれない人・辞退できる人(13条〜17条)

  • 選任資格(13条):衆議院議員の選挙権を持つ人の中から選ぶ。
  • 欠格事由(14条):国家公務員法38条に当たる人のほか、義務教育を終了しない人(同等以上の学識がある人を除く)、拘禁刑以上の刑に処せられた人、心身の故障のため職務の遂行に著しい支障がある人は、裁判員になれない。
  • 就職禁止事由(15条):国会議員、国務大臣、裁判官・検察官・弁護士(その職にあった人を含む)、警察職員、大学の法律学の教授・准教授、都道府県知事・市町村長、自衛官などは、裁判員の職務に就けない(1項)。逮捕・勾留されている人なども同じ(2項)。
  • 辞退事由(16条):年齢70年以上の人、会期中の地方公共団体の議会の議員、常時通学を要する課程に在学する学生・生徒、過去5年以内に裁判員・補充裁判員だった人などは、辞退の申立てができる。やむを得ない事由があって職務を行うことなどが困難な人も同じ(8号)。
  • 事件に関連する不適格事由(17条):被告人・被害者、その親族などは、その事件について裁判員になれない。

13条の「衆議院議員の選挙権を持つ人」は、公職選挙法の改正(平成28年6月19日施行)で18歳以上になりました。ただし、裁判員については、少年法の手当てがされるまでの暫定的な措置として18歳・19歳は職務に就けないとされていました。法務省の説明では、令和3年5月の少年法の改正でこの措置がなくなり、18歳・19歳の人が実際に裁判員に選ばれるようになったのは令和5年からです。

評決と守秘義務(9条・67条・70条・108条)

  • 評決(67条1項):裁判員の関与する判断は、構成裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。
  • 裁判員の義務(9条):法令に従い公平誠実に職務を行う。評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。
  • 評議の秘密(70条1項):評議の経過、それぞれの裁判官・裁判員の意見、その多少の数は、漏らしてはならない。
  • 罰則(108条):裁判員・補充裁判員が評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(1項)。裁判員だった人が、それぞれの意見やその多少の数を漏らしたときなども同じ(2項)。

制度の骨組みを1枚の表で

項目中身条文
対象死刑・無期拘禁刑に当たる罪の事件、裁判官の合議体で扱う事件のうち、故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪の事件2条1項
構成裁判官3人・裁判員6人(争いがないなどの事件は1人・4人も可)2条2項・3項
選ばれる人衆議院議員の選挙権を持つ人13条
なれない人欠格・就職禁止・事件関連の不適格14条・15条・17条
辞退70歳以上・学生・やむを得ない事由など(申立てが要る)16条
裁判官だけで決めること法令の解釈・訴訟手続の判断6条2項
評決双方の意見を含む過半数67条1項
守秘義務評議の秘密など。違反は罰則9条2項・70条・108条

制度と憲法の関係については、最高裁判所大法廷平成23年11月16日判決(平成22年(あ)第1196号)が、憲法は刑事裁判における国民の司法参加を許容しているとし、裁判員制度は憲法31条・32条・37条1項・76条1項・80条1項、76条3項、76条2項に違反せず、裁判員の職務等は18条後段の「苦役」に当たらないとしました。裁判官の身分保障と司法権の独立は裁判官の身分保障の記事、三審制などの裁判の仕組みは基礎法学の記事にあります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(辞退):大学に通う20歳のりくさん(常時通学を要する課程)は、辞退の申立てができます(16条3号)。申し立てるかどうかは本人が決めます。
  • 当てはまらない例(就職禁止):弁護士のあやさんは、辞退の申立て以前に、裁判員の職務に就けません(15条1項)。「辞退できる人」とは別の枠です。
  • 当てはまらない例(判断の分担):ある条文の言葉をどう読むか(法令の解釈)について、裁判員が多数決に加わることはありません(6条2項1号)。条文を事件に当てはめる「法令の適用」には加わります(同条1項2号)。
  • ひっかけやすい例(評決):9人のうち5人が同じ意見でも、その5人に裁判官が1人も入っていなければ、その意見で判断することはできません(67条1項)。

試験ではここをまちがえやすい

  • 「なれない」と「辞退できる」の入れ替え:70歳以上・学生は辞退の申立てができる人(16条)。欠格(14条)・就職禁止(15条)とは別。
  • 評決の要件:単なる過半数ではなく「構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む」過半数(67条1項)。
  • 判断の分担:事実の認定・法令の適用・刑の量定は裁判官と裁判員。法令の解釈・訴訟手続は裁判官だけ(6条)。
  • 対象と裁判所:裁判員の参加する合議体を作るのは地方裁判所で、対象は2条1項の刑事事件です。民事事件は対象になりません。
  • 年齢:選任資格は衆議院議員の選挙権(13条)。18歳・19歳が実際に選ばれるようになったのは令和5年から(法務省の説明)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
裁判官3人・裁判員6人の合議体の評議で、被告人が有罪かどうかについて、裁判員6人全員が有罪、裁判官3人全員が無罪の意見だった。この場合、合議体の員数の過半数が有罪の意見なので、有罪の判断となる。

答え:✕ 分かれ目は、過半数の中身です。裁判員の関与する判断は、「構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む」合議体の員数の過半数の意見によります(裁判員法67条1項)。正しくは、有罪の意見の6人に裁判官が1人も入っていないので、有罪の判断にはなりません。人数だけで数える単純な過半数(裁判所法77条の考え方)を当てはめると○にしてしまいます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
裁判員の参加する合議体で事件を扱う場合でも、法令の解釈に係る判断は、構成裁判官の合議によって決め、裁判員はこれに加わらない。

答え:○ 分かれ目は、「法令の適用」と「法令の解釈」の違いです。事実の認定・法令の適用・刑の量定は、構成裁判官と裁判員の合議で決めます(6条1項)。法令の解釈に係る判断と訴訟手続に関する判断は、構成裁判官だけの合議で決めます(同条2項)。「裁判員は判決のすべてに加わる」と考えると✕に見えます。似た言葉の「法令の適用」には裁判員が加わる点と取り違えないようにします。

問3(このサイトのオリジナル問題)
衆議院議員の選挙権を持つ72歳のたけしさんは、ある事件の裁判員候補者として選任手続に呼ばれた。たけしさんは年齢を理由に辞退の申立てをすることができるが、年齢だけを理由に、裁判員となることができない人に当たるわけではない。

答え:○ 分かれ目は、70歳以上が「辞退事由」か「欠格事由」かです。年齢70年以上の人は、裁判員となることについて辞退の申立てをすることができます(16条1号)。欠格事由(14条)・就職禁止事由(15条)に年齢の定めはありません。つまり、たけしさんは申し立てれば辞退でき、申し立てなければ選ばれることもあります。「高齢者は裁判員になれない」と覚えていると✕にしてしまいます。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 裁判員法(平成16年法律第63号)。平成21年5月21日から開始。対象は死刑・無期拘禁刑に当たる罪などの刑事事件で、地方裁判所(2条1項)。
  • 原則は裁判官3人・裁判員6人(2条2項)。選ばれるのは衆議院議員の選挙権を持つ人(13条)。
  • なれない人(14条・15条・17条)と、辞退できる人(16条:70歳以上・学生・やむを得ない事由など)を分ける。
  • 法令の解釈・訴訟手続は裁判官だけ(6条2項)。評決は双方の意見を含む過半数(67条1項)。
  • 評議の秘密は漏らしてはならない(9条・70条)。違反は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(108条1項)。

このサイトで次に読むなら、人身の自由と刑事手続の判例の記事です。裁判員が加わる刑事裁判の前提になる、憲法31条以下の適正手続を確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました(2026年10月17日確認。罰則と対象事件の刑は、刑法等の一部を改正する法律〔令和7年6月1日施行〕のあとの「拘禁刑」の文言です)。制度の開始日は裁判所、18歳・19歳の扱いは法務省の説明、判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。

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