ひとことで言うと、難民条約(正式には「難民の地位に関する条約」)は、人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員であること・政治的意見の5つを理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を持ち、国籍国の外にいる人を「難民」とし、その人を迫害のおそれのある国へ追い出したり送り返したりしてはならない、と決めた条約です。日本は、この条約と、それを補う議定書の締約国です。日本の中では、出入国管理及び難民認定法(入管法)が、法務大臣による「難民の認定」と「補完的保護対象者の認定」の手続を決めています。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。この記事は、そのあとで一般知識に手を広げるときに、条約の訳文と条文で確かめられる範囲だけを整理したものです。
認定の数や国ごとの統計、政策の評価、個別の事例、申請の手続の実務は扱いません。条約は外務省の訳文で、入管法は令和8年4月1日時点の条文を e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。人権の条約のうち、社会権規約と自由権規約(国際人権規約)は国際人権規約の記事で扱っています。
身近な例で考えると
行政書士試験の受験生のみなとさんは、ニュースで聞く「難民」と、条約の「難民」が同じ意味なのかが気になりました。そこで、条約・議定書・入管法がいつ、何を決めたのかを順に並べてみました。
- 1951年7月28日:難民条約がジュネーブで作られた。難民の定義は「1951年1月1日前に生じた事件の結果として」という日付の限定つきだった。
- 1967年:条約を補う「難民の地位に関する議定書」が採択された。日付の限定を外し、地理的な制限なしに当てはめることにした。
- 昭和56年(1981年)10月3日:日本が難民条約に加入した。「加入」と「批准」「締結」の言葉の違いは条約の締結の手続の記事で扱っています。
- 昭和57年(1982年)1月1日:日本が議定書に加入し、同じ日に条約・議定書が日本について効力を生じた(発効)。
- 令和5年(2023年)12月1日:入管法の改正で、補完的保護対象者の認定の制度が始まった。
みなとさんが気づいたのは、日常の言葉の「難民」は広く使われるのに対し、条約の「難民」は要件がはっきり決まった言葉だということです。たとえると、条約の難民の定義は「入場の条件が細かく書かれた入場券」です。条件の1つでも欠けると、条約の難民には当たりません。ただし本物のルールでは、条約の難民に当たらない人のうち一定の人を、入管法が「補完的保護対象者」として別に保護しています。
条約と入管法ではこう決まっている
難民の定義(条約1条A(2)・議定書1条)
外務省の訳文で、条約1条A(2)の要件を分けると次のようになります。
- 理由:人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見の5つのどれか。
- 恐怖:その理由で迫害を受けるおそれがあるという「十分に理由のある恐怖」を持っている。
- 場所:国籍国の外にいる(国籍がない人は、常居所を持っていた国の外にいる)。
- 保護:国籍国の保護を受けることができない、または、その恐怖のために保護を受けることを望まない。
条約のもとの文には「1951年1月1日前に生じた事件の結果として」という限定があり、1条Bは、その事件を「欧州において生じた事件」と読むか「欧州又は他の地域において生じた事件」と読むかを、各国が宣言で選ぶ形にしていました。議定書1条は、この日付の語を除いて定義を当てはめ(2)、いかなる地理的な制限もなしに適用する(3)としました。
また、1条Fは、次のどれかに当たると考えられる相当な理由がある人には、条約を当てはめないとしています(除外条項)。(a)平和に対する犯罪・戦争犯罪・人道に対する犯罪を行ったこと、(b)難民として避難国への入国を許可される前に、避難国の外で重大な犯罪(政治犯罪を除く)を行ったこと、(c)国際連合の目的と原則に反する行為を行ったこと、の3つです。
追放・送還の禁止(条約33条=ノン・ルフールマン原則)
- 33条1:締約国は、難民を、いかなる方法によっても、5つの理由のために生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ、追放し、または送還してはならない。ノン・ルフールマン(送り返さない)原則と呼ばれます。
- 33条2:締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある難民や、特に重大な犯罪で有罪の判決が確定し、その国の社会にとって危険な存在となった難民は、1の利益を求めることができない。
33条1は「難民を」とだけ書き、滞在が合法かどうかで区別していません。この点が、すぐ前の32条(合法的に滞在する難民の追放の制限)や31条(許可なく入国した難民に刑罰を科さない)との違いです。
入管法の定義と認定(2条・61条の2・53条3項)
- 難民(2条3号):難民条約1条または議定書1条の規定により、難民条約の適用を受ける難民。入管法は定義を自分で書かず、条約に任せています。
- 補完的保護対象者(2条3号の2):難民以外の人で、難民の要件のうち、迫害を受けるおそれがある理由が条約1条A(2)の5つの理由であること「以外の要件」を満たすもの。
- 認定する人(61条の2第1項・2項):法務大臣が、本邦にある外国人の申請にもとづき、その提出した資料にもとづいて、難民の認定・補完的保護対象者の認定を行うことができる。
- 難民の申請からの切り替え(61条の2第3項):難民の認定の申請をした人について、難民の認定をしない処分をする場合に、その人が補完的保護対象者に当たると認めるときは、補完的保護対象者の認定を行うことができる。
- 理由の通知(61条の2第4項・5項):認定したときは認定証明書を交付し、認定しない処分をしたときは、理由を付した書面で通知する。
- 送還先(53条3項):退去強制の送還先には、条約33条1項の領域の属する国その他迫害を受けるおそれのある領域の属する国(法務大臣が日本国の利益または公安を著しく害すると認める場合を除く)、拷問等禁止条約3条1項の国、強制失踪条約16条1項の国を含まない。
補完的保護対象者の認定は、令和5年の改正(出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律、令和5年法律第56号。令和5年6月16日公布)で作られ、令和5年12月1日に施行されました。同じ改正のほかの規定の多くは令和6年6月10日の施行です(出入国在留管理庁の案内)。
| 決まり | 決めていること | 日本での扱い |
|---|---|---|
| 難民条約(1951年) | 難民の定義(1条)、除外(1条F)、追放・送還の禁止(33条) | 昭和56年10月3日加入、昭和57年1月1日発効 |
| 議定書(1967年) | 日付の限定と地理的な制限を外す(1条) | 昭和57年1月1日加入・発効 |
| 入管法 | 難民・補完的保護対象者の定義(2条)、認定(61条の2)、送還先(53条3項) | 認定は法務大臣。補完的保護は令和5年12月1日から |
当てはまる例・当てはまらない例
ここでは、人物の境遇ではなく、要件の組み合わせだけで考えます。
- 当てはまる例:政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を持ち、国籍国の外にいて、その恐怖のために国籍国の保護を望まない人。1条A(2)の要件がそろっています。
- 当てはまらない例:同じ恐怖を持っていても、国籍国の中にとどまっている人。「国籍国の外にいる」の要件を欠くので、条約の難民には当たりません。
- 当てはまらない例:1条Fの(a)〜(c)のどれかに当たると考えられる相当な理由がある人。ほかの要件を満たしていても、条約は当てはめられません。
- ひっかけやすい例:迫害を受けるおそれはあるが、その理由が5つの理由ではない人。条約の難民には当たりませんが、ほかの要件を満たせば、入管法の補完的保護対象者に当たります(2条3号の2)。
- ひっかけやすい例:許可を受けずに入国した難民。33条1の追放・送還の禁止は、合法に滞在しているかどうかを要件にしていないので、この人にも及びます。
似ているルールとの違い
条約の31条・32条・33条
| 条 | だれが対象か | 決めていること |
|---|---|---|
| 31条1 | 生命・自由が脅かされた領域から直接来て、許可なく入国・滞在している難民 | 不法な入国・滞在を理由に刑罰を科さない(遅滞なく当局に出頭し、相当な理由を示すことが条件) |
| 32条1 | 合法的に滞在する難民 | 国の安全・公の秩序を理由とする場合を除き、追放しない |
| 33条1 | 難民(合法・不法の区別なし) | 迫害のおそれのある領域の国境へ追放・送還しない |
難民の認定と、行政手続法・行政不服審査法
行政法の科目とつながる点が1つあります。行政手続法3条1項10号は、外国人の出入国、入管法61条の2第1項の難民の認定、同条2項の補完的保護対象者の認定、帰化に関する処分と行政指導に、行政手続法を使わないとしています。くわしくは行政手続法の適用除外の記事にあります。
一方で、難民の認定をしない処分などについての審査請求は、入管法61条の2の12が法務大臣に対してするものとし、法務大臣は裁決の前に難民審査参与員の意見を聴かなければならないとしています(同条3項)。行政不服審査法の適用除外との関係は行政不服審査法の適用除外の記事で確かめられます。外国人の人権の考え方そのものは人権の主体の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
- 5つの理由:人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員であること・政治的意見。この5つ以外の理由は条約の難民の定義に入らない(補完的保護の側に回る)。
- 国籍国の外:条約の難民は「国籍国の外にいる」ことが要件。国の中にとどまっている人は条約の難民ではない。
- 33条と32条の対象:送還の禁止(33条)は難民一般、追放の制限(32条)は合法的に滞在する難民。入れ替えに注意。
- 33条2の例外:国の安全への危険、特に重大な犯罪での確定判決と社会への危険。この2つの場面では33条1の利益を求められない。
- 年の取り違え:条約は1951年、議定書は1967年。日本の発効は昭和57年(1982年)1月1日で、条約への加入(昭和56年10月3日)とは日が違う。
- 認定するのはだれか:入管法の難民の認定も補完的保護対象者の認定も法務大臣(61条の2)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
難民条約33条1の追放・送還の禁止は、締約国に合法的に滞在している難民を対象とする規定であり、許可を受けずに入国した難民には及ばない。
答え:✕ 分かれ目は、規定の対象です。33条1は「難民を、いかなる方法によつても」迫害のおそれのある領域の国境へ追放・送還してはならないとし、滞在が合法かどうかで区別していません。正しくは、許可なく入国した難民にも33条1の禁止は及びます。「合法的に滞在する難民」を対象にしているのは、すぐ前の32条(国の安全・公の秩序を理由とする場合を除き追放しない)です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
本邦にある外国人Aは、難民の認定の申請だけをし、補完的保護対象者の認定の申請はしていなかった。この場合でも、法務大臣は、Aについて難民の認定をしない処分をするときに、Aが補完的保護対象者に当たると認めれば、補完的保護対象者の認定をすることができる。
答え:○ 分かれ目は、別の申請が要るかどうかです。入管法61条の2第3項は、難民の認定の申請をした外国人について難民の認定をしない処分をする場合に、その人が補完的保護対象者に当たると認めるときは、補完的保護対象者の認定を行うことができるとしています。1項(難民)と2項(補完的保護)で申請が分かれているので、2項の申請がなければ認定できないと考えると✕に見えます。認定をしない処分には、理由を付した書面での通知が要ります(同条4項・5項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を持つ人であっても、国籍国の中にとどまっているときは、難民条約1条A(2)の難民には当たらない。
答え:○ 分かれ目は、場所の要件です。1条A(2)は、5つの理由による迫害のおそれへの十分に理由のある恐怖に加えて、「国籍国の外にいる者」であることを要件にしています。理由と恐怖の要件を満たしているので難民に当たる、と考えると✕にしてしまいます。入管法2条3号も、難民を「難民条約第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民」としているので、同じ要件で考えます。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 条約の難民=5つの理由による迫害のおそれへの十分に理由のある恐怖+国籍国の外にいる+国籍国の保護を受けられない・望まない。
- 条約は1951年、議定書は1967年(日付と地理的な制限を外す)。日本について昭和57年1月1日に発効。
- 33条1は難民一般を迫害のおそれのある国へ送り返さない原則。例外は33条2の2つの場面。32条は合法的に滞在する難民の追放の制限。
- 入管法:難民と補完的保護対象者の認定は法務大臣(61条の2)。補完的保護は5つの理由以外の理由の人で、令和5年12月1日から。
このサイトで次に読むなら、文章理解の記事です。基礎知識の足切りを越える6問の土台は、一般知識より先に文章理解で作れます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条約は外務省の訳文で、入管法・行政手続法は e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の条文を確かめました(2026年10月17日確認)。
- 外務省「難民の地位に関する条約」(1条A(2)・B・F、31条1、32条1、33条)
- 外務省「難民の地位に関する議定書」(1条2・3)
- 外務省「国内における難民の受け入れ」(日本の加入と発効の日)
- e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法」(2条3号・3号の2、53条3項、61条の2、61条の2の12)
- e-Gov法令検索「行政手続法」(3条1項10号)
- 出入国在留管理庁「令和5年改正入管法について」(改正法の題名・番号・公布日・施行日)
- 出入国在留管理庁「補完的保護対象者認定制度」
働く人の法律試験ノート