ひとことで言うと、衆議院は、1人を選ぶ小選挙区(289人)と、ブロックごとの比例代表(176人)を別々に選び、合わせて465人にする「小選挙区比例代表並立制」です。参議院は、都道府県を単位とする選挙区(148人)と、全国を一つにした比例代表(100人)の248人で、比例代表は候補者の名前でも政党の名前でも投票できます(公職選挙法4条・12条・46条)。
この記事の位置づけ:行政書士試験の基礎知識の4分野(一般知識・行政書士法等の業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点以上。6問分)を越えるには、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固めるのが、基礎知識の記事で書いた当サイトの方針です。この記事は、その方針のうえで、一般知識のうち条文で決まっている選挙の仕組みだけを扱います。選挙の結果・政党名・制度の良し悪しは書きません。一票の格差の判例は選挙権と一票の格差の記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点の公職選挙法・日本国憲法を e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。選挙権の年齢とインターネットを使う選挙運動は18歳選挙権とインターネット選挙運動の記事で扱っています。
身近な例で考えると
会社員のりなさんが、衆議院の総選挙と参議院の通常選挙で投票する場面です。政党は「A党・B党・C党」という仮の名前にします。
- 衆議院の総選挙:りなさんは投票用紙を2枚受け取る。1枚目(小選挙区)には候補者1人の名前を書く。2枚目(比例代表)には政党の名前を書く(46条1項・2項)。
- 小選挙区では、いちばん多く票を得た1人が当選する(13条1項:各選挙区の議員の数は1人)。
- 比例代表では、りなさんの住むブロックで、各政党の得票に応じて議席が配られ、政党が出した名簿の順位の上から当選人が決まる。
- 参議院の通常選挙:選挙区の用紙には候補者の名前を書く。比例代表の用紙には、名簿に載った候補者1人の名前か、政党の名前のどちらかを書く(46条3項)。
たとえるなら、衆議院の選挙は、クラス代表を「班ごとの1位」と「クラス全体の投票で各グループに配る枠」の2本立てで選び、あとで合わせるやり方です。ただし本物のルールでは、比例代表は全国一つではなく11のブロックに分かれていて、両方に名前を出す重複立候補には条件があります。
条文ではこう決まっている
定数と選ぶ区域(公職選挙法4条・12条〜14条)
| 議院 | 選び方 | 定数 | 区域 |
|---|---|---|---|
| 衆議院 | 小選挙区 | 289人 | 別表第一の選挙区。1区1人(13条1項) |
| 衆議院 | 比例代表 | 176人 | 別表第二の11ブロック(13条2項) |
| 参議院 | 選挙区 | 148人 | 別表第三の選挙区(14条1項)。原則は都道府県、2県で一つの区域が2つ |
| 参議院 | 比例代表 | 100人 | 全都道府県の区域を通じて(12条2項) |
検算します。衆議院は289人+176人=465人、参議院は148人+100人=248人で、4条1項・2項の定数と一致します。11ブロックと、2県で一つの選挙区(鳥取県・島根県、徳島県・高知県)は、総務省「なるほど!選挙」の「選挙の種類」で確かめました。両議院の議員の定数は法律で定めると、憲法43条2項が定めています。
衆議院の比例代表:順位つきの名簿と重複立候補(86条の2)
- 名簿を出せる政党など:所属する衆議院議員・参議院議員が5人以上(1項1号)、直近の国政選挙の得票が有効投票の100分の2以上(2号)、名簿の候補者の数がそのブロックの定数の10分の2以上(3号)のどれかに当たる政党その他の政治団体。
- 名簿:「当選人となるべき順位」を書いた名簿を出す(1項)。一般に「拘束名簿式」と呼ばれます(条文の言葉ではありません)。
- 重複立候補:1号か2号に当たる政党などは、小選挙区の候補者を名簿にも載せられる(4項)。2人以上の重複立候補者を、同じ順位にできる(6項)。
衆議院の比例代表:当選人の決め方(95条の2)
- 議席の数:各政党などの得票数を1、2、3…で順に割り、その商の大きい順に、ブロックの定数に達するまで数える。各政党などの商の個数が当選人の数(1項)。一般に「ドント方式」と呼ばれます。
- 同じ順位の人の間:小選挙区で、その区の当選者の得票数に対する自分の得票数の割合の大きい人から順に決める(3項)。一般に「惜敗率(せきはいりつ)」と呼ばれます。
- 名簿から外れる人:小選挙区で当選した人(5項)と、小選挙区で得票が93条1項1号の数(有効投票の総数の10分の1)に達しなかった人(6項)は、名簿に載っていないものとみなされる。
参議院の比例代表:非拘束名簿式と特定枠(86条の3・95条の3)
- 名簿を出せる政党など:所属国会議員5人以上、直近の国政選挙の得票が100分の2以上、その選挙で候補者を10人以上持つ、のどれか(86条の3第1項)。
- 名簿:候補者の氏名などを書き、順位は書かない。ただし、一部の候補者を「優先的に当選人となるべき候補者」として、その順位とともに、ほかの候補者と区分して書ける(1項)。この区分が一般に「特定枠」と呼ばれます(条文の言葉ではありません)。
- 政党の得票数:政党名の票に、その名簿の候補者の名前を書いた票を加えたもの(95条の3第1項)。これを衆議院と同じく1、2、3…で割る方法で、各政党などの当選人の数を決める。
- だれが当選するか:特定枠の候補者が先に、その順位で。そのあと、ほかの候補者は個人の得票数の多い順(95条の3第3項・4項)。
- 重複立候補:参議院の名簿については、86条の2第4項(重複立候補)を準用していません(86条の3第2項)。
任期と解散(日本国憲法45条〜47条)
衆議院議員の任期は4年で、衆議院が解散されたときは、その期間の満了前に終わります(45条)。参議院議員の任期は6年で、3年ごとに議員の半数を改選します(46条)。選挙区・投票の方法など選挙に関する事項は法律で定めます(47条)。このため参議院の通常選挙は3年に1回で、その回に選ぶのは定数の半分です。国会の種類(常会・臨時会・特別会)は国会議員の特権と国会の種類の記事で扱っています。
議席の配り方を計算で確かめる
仮の数字です。定数5人のブロックで、A党6万票、B党4万票、C党1万5千票だったとします。各党の得票を1、2、3で割ります。
| 割る数 | A党 | B党 | C党 |
|---|---|---|---|
| ÷1 | 60,000(1番) | 40,000(2番) | 15,000 |
| ÷2 | 30,000(3番) | 20,000(4・5番) | 7,500 |
| ÷3 | 20,000(4・5番) | 13,333 | 5,000 |
商の大きい順に5つ取ると、60,000・40,000・30,000・20,000・20,000です。A党3人、B党2人、C党0人で、合計5人です。次にA党の名簿で、2位にXさんとYさんが同じ順位で載っていて、A党の3人目を2人で争うとします。小選挙区でXさんは当選者5万票に対し4万票(割合80%)、Yさんは当選者6万票に対し3万票(割合50%)なら、割合の大きいXさんが先です(95条の2第3項)。
衆議院と参議院の違いを1枚で
| 比べる点 | 衆議院 | 参議院 |
|---|---|---|
| 比例代表の区域 | 11ブロック | 全国で一つ |
| 比例代表の投票 | 政党などの名称・略称 | 候補者名か、政党などの名称・略称 |
| 名簿 | 順位を付ける | 順位を書かない(特定枠を除く) |
| 同じ人が両方に出る | できる(重複立候補) | できない |
| 任期 | 4年(解散あり) | 6年(3年ごとに半数改選) |
「並立」は、小選挙区と比例代表で別々に当選人を決め、それを合わせるという意味です。比例代表の議席の数は、小選挙区の結果と関係なく、比例代表の得票だけで配られます(95条の2第1項)。
制度の始まりは、公的な資料で次のとおりです。衆議院の小選挙区比例代表並立制は、平成6年の公職選挙法改正で導入され、平成8年10月20日の総選挙が改正後初めての総選挙でした(衆議院「国会議員定数の変遷」)。参議院は、昭和57年の改正で拘束名簿式の比例代表制、平成12年の改正で非拘束名簿式、平成27年の改正で2つの合区、平成30年の改正で特定枠が導入されました(参議院「参議院議員選挙制度の変遷」)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:A党の重複立候補者Xさんが小選挙区で落選したが、名簿の順位と割合で比例代表の当選人になった。95条の2第3項・4項の場面です。
- 当てはまらない例:Xさんが小選挙区で当選した。名簿に載っていないものとみなされ、比例代表の当選人の数え方から外れます(5項)。
- 当てはまらない例:A党の名簿1位のZさんは重複立候補者だったが、小選挙区の得票が有効投票の総数の10分の1に届かなかった。名簿の順位が高くても、比例代表で当選できません(6項)。
- ひっかけやすい例:参議院の比例代表で、りなさんが候補者の名前を書いた。その票は、その候補者の順位を決める票であると同時に、その候補者の名簿を出した政党の得票にも入ります(95条の3第1項)。
試験ではここをまちがえやすい
- 数字の組:衆議院465=289+176、参議院248=148+100。比例代表の区域は衆議院が11ブロック、参議院が全国一つ。
- 惜敗率の使いどころ:使うのは、名簿で同じ順位にされた人の間だけ。名簿の順位を飛び越えて、惜敗率の高い人から当選するわけではない。
- 10分の1:重複立候補者は、小選挙区で有効投票の総数の10分の1に届かないと、比例代表で当選できない。
- 参議院の比例代表の票:候補者名の票も、政党の得票に数える。
- 名簿の形:順位つき(衆議院)か、順位なし+特定枠だけ順位つき(参議院)か。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
衆議院の比例代表選挙で、A党の当選人は2人で、名簿1位のVさんは比例代表だけの候補者だった。2位のXさんと3位のYさんは小選挙区で落選し(どちらも有効投票の総数の10分の1以上)、惜敗率はYさんのほうが高かった。この場合、A党の2人目の当選人はYさんになる。
答え:✕ 分かれ目は、割合(いわゆる惜敗率)を使う場面です。公職選挙法95条の2第3項は、この割合で順位を決めるのを、名簿で「同一の順位」とされた人の間に限っています。正しくは、2位のXさんと3位のYさんは順位が違うので、1位のVさんに次ぐ2人目は、名簿の順位どおりXさんです(同条4項)。重複立候補者はいつも割合の順に当選する、と考えると○にしてしまいます。割合が働くのは、86条の2第6項で同じ順位にされた人どうしです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
衆議院の総選挙で、A党の名簿1位に載った重複立候補者Zさんは、小選挙区で落選し、その得票は有効投票の総数の10分の1に達しなかった。Zさんは、小選挙区の得票がこの数に届かなかったので、名簿の1位であっても比例代表の当選人にはなれない。
答え:○ 分かれ目は、小選挙区の得票の下限です。95条の2第6項は、小選挙区の得票数が93条1項1号の数(有効投票の総数の10分の1)に達しなかった名簿登載者を、名簿に記載されていないものとみなして当選人を決めるとしています。名簿の1位なら当選する、と考えると✕に見えます。小選挙区で当選した人を名簿から外す5項と並べて、名簿から外れる2つの場合として覚えます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
参議院の比例代表選挙で、りなさんは、B党の名簿に載っている候補者Wさんの名前を書いて投票した。この票は、Wさんの得票になるだけでなく、各政党の当選人の数を決めるときのB党の得票にも数えられる。
答え:○ 分かれ目は、政党の得票数に何が入るかです。95条の3第1項は、政党などの得票数を、その名簿に載った各候補者の得票数を含むものとしています。候補者名の票は候補者の順位を決めるためだけのもの、と考えると✕に見えます。衆議院の比例代表は政党などの名称・略称だけを書く投票なので(46条2項)、候補者名の票という仕組みそのものがありません。
まとめ
- 衆議院:小選挙区289人(1区1人)+比例代表176人(11ブロック・順位つき名簿)=465人。小選挙区と比例代表を別々に決めて合わせる並立制。
- 議席は得票を1、2、3…で割った商の大きい順。同じ順位の重複立候補者の間は惜敗率。小選挙区で当選した人と、10分の1に届かなかった人は名簿から外れる。
- 参議院:選挙区148人(2つの合区あり)+比例代表100人(全国一つ)=248人。比例代表は候補者名か政党名で投票し、候補者名の票も政党の得票。名簿は順位を書かず、特定枠だけ順位つき。
- 任期は衆議院4年(解散あり)、参議院6年(3年ごとに半数改選)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました(2026年10月17日確認。公職選挙法4条は、その後の版でも定数が変わっていないことも確かめました)。ブロックの数と合区は総務省の説明、制度の導入の年は衆議院・参議院の資料で確かめました。
- e-Gov法令検索「公職選挙法」(4条、12条〜14条、46条、86条の2、86条の3、93条1項1号、95条の2、95条の3)
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(43条、45条〜47条)
- 総務省「なるほど!選挙 選挙の種類」(衆議院の11ブロック、参議院の2県で一つの選挙区、任期と半数改選)
- 衆議院「国会議員定数の変遷(1)衆議院議員」(平成6年の公職選挙法改正、改正後初の総選挙)
- 参議院「参議院議員選挙制度の変遷」(比例代表制・非拘束名簿式・合区・特定枠の導入の年)
このサイトで次に読むなら、選挙権と一票の格差の記事です。この記事の定数と区域の仕組みが、憲法の平等の問題としてどう争われてきたかを、判例で確かめられます。
働く人の法律試験ノート