憲法改正の手続をわかりやすく:96条の発議と国民投票、国民投票法で決まっていること

ひとことで言うと、憲法改正は3つの段階で進みます。①国会が、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で発議する。②国民投票で過半数の賛成を得る。③天皇が、国民の名で公布する(日本国憲法96条)。投票の細かい決まりは、「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下「国民投票法」)と国会法に置かれています。

この記事は、手続の流れと条文の数字だけを扱います。どんな改正がよいか、という中身の議論や政治の動きには触れません。統治の数字をまとめて覚えたい人は、憲法の勉強法の記事の数字の一覧も使えます。

身近な例で考えると

登場するのは、18歳の高校3年生・みおさんです。ある憲法改正案について、国民投票が行われることになったとします(架空の話で、改正の中身は決めていません)。

原案の提出から公布までの流れ

  1. 衆議院議員100人以上の賛成で、憲法改正原案が提出された(国会法68条の2)。原案は、内容において関連する事項ごとに区分して出す(同68条の3)。
  2. 衆議院と参議院が、それぞれ総議員の3分の2以上の賛成で可決した(憲法96条1項)。
  3. 最後の可決があった時に、国会が憲法改正を発議し、国民に提案したものとされる(国会法68条の5第1項)。
  4. 国民投票は、発議した日から起算して60日以後180日以内で、国会が議決した期日に行う(国民投票法2条1項)。
  5. みおさんは18歳なので、投票権がある(同法3条)。投票は、改正案ごとに一人一票(同法47条)。
  6. 賛成の票が、投票総数(賛成の票と反対の票を合わせた数)の2分の1を超えたので、国民の承認があったものとされた(同法126条1項・98条2項)。
  7. 天皇が、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちに公布した(憲法96条2項)。

みおさん「国民投票の『過半数』って、投票に行った人全員の半分のこと?」。答えは、国民投票法98条2項にあります。投票総数は「賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数」です。無効の票は数に入りません。

たとえ話と、本物との違い

学校の生徒会の規約を変えるとき、役員会で3分の2の賛成を得て、全校生徒の投票にかける、という仕組みに似ています。ただし本物の憲法改正では、衆議院と参議院の両方で、それぞれ「総議員」の3分の2以上が要ります。出席した人ではなく、議員全体が分母です。どちらか一方の議院だけでは発議できません。

条文ではこう決まっている

憲法96条

  • 1項前段:改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。
  • 1項後段:承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成が必要。
  • 2項:承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちに公布する。

公布は、天皇の国事行為の一つです(7条1号「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること」)。国事行為なので、内閣の助言と承認が要ります(3条)。国事行為の全体は天皇の国事行為の記事で一覧にしています。

国会法で決まっていること

  • 原案の発議の人数:議員が憲法改正原案を発議するには、衆議院では議員100人以上、参議院では議員50人以上の賛成が要る(68条の2)。ふつうの議案の人数(56条1項)によらない。
  • 区分:原案は、内容において関連する事項ごとに区分して発議する(68条の3)。
  • 発議の時点:原案について国会で最後の可決があったとき、その可決をもって国会が発議し、国民に提案したものとする。両議院の議長は、発議をした旨と改正案を官報に公示する(68条の5第1項)。
  • 憲法審査会:各議院に置かれ、憲法改正原案や国民投票に関する法律案などを審査する(102条の6)。

国民投票法で決まっていること

項目中身条文
投票の期日発議の日から起算して60日以後180日以内で、国会が議決した日2条1項
投票権日本国民で年齢満18年以上の者3条
票の数改正案ごとに一人一票47条
投票総数賛成の票と反対の票の合計98条2項
承認の条件賛成の票が投票総数の2分の1を超えること126条1項
公布の手続首相は通知を受けたら直ちに公布の手続を執る126条2項
争う訴え異議のある投票人が、告示の日から30日以内に東京高等裁判所へ127条

127条の訴えの被告は、中央選挙管理会です。126条1項の承認の条件には、投票率は入っていません。条文が見ているのは、賛成の票と、賛成・反対の合計との関係だけです。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:総議員300人の議院で200人が賛成した。3分の2は200人なので、「3分の2以上」に当たります(人数は説明のための例です)。もう一方の議院でも、その総議員の3分の2以上が要ります。
  • 当てはまる例:国民投票で、賛成が510万票、反対が480万票、無効が30万票だった。投票総数は賛成と反対の合計の990万票で、その2分の1は495万票です。賛成の510万票はこれを超えるので、承認があったことになります。
  • 当てはまらない例:衆議院では総議員の3分の2以上で可決されたが、参議院で否決された。96条1項は「各議院の」総議員の3分の2以上を求めるので、発議になりません。法律案のような衆議院の再可決(59条2項)の定めは、改正の発議にはありません。
  • 当てはまらない例:衆議院の解散中に、参議院の緊急集会で発議する。96条1項は各議院の総議員の3分の2以上を求めるので、参議院だけの緊急集会(54条2項)では要件を満たせません。
  • ひっかけやすい例:出席議員の3分の2で発議できると考えること。出席議員が分母なのは、法律案の再可決(59条2項)や議員の除名(58条2項)です。改正の発議は「総議員」です。
  • ひっかけやすい例:公布は「天皇の名で」と考えること。96条2項は「国民の名で」です。

似ているルールとの違い

法律を作る手続と比べる

比べる点法律憲法改正
議員が案を出す人数衆20人・参10人以上(予算を伴うと衆50人・参20人以上)(国会法56条1項)衆100人・参50人以上(国会法68条の2)
議院での可決出席議員の過半数(56条2項)各議院の総議員の3分の2以上(96条1項)
衆議院の優越ある(59条2項・4項)定めがない
国民の投票ない過半数の賛成が要る(96条1項)
公布天皇(7条1号)天皇が国民の名で(96条2項)

法律と比べると、案を出す人数・可決の数・国民投票の3か所で、改正のほうが重くなっています。衆議院の優越がないことも、法律との大きな違いです。法律案・予算・条約での衆議院の優越の数字は、三権分立の記事の数字の節で比べています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 分母:発議は各議院の「総議員」の3分の2以上。「出席議員」ではありません(96条1項)。
  • 衆議院の優越:「参議院で否決されても、衆議院が再び可決すれば発議できる」とする形。59条2項は法律案の定めで、改正の発議にはありません。
  • 過半数の数え方:「投票した人の数(無効票を含む)の過半数」とする形。国民投票法の投票総数は、賛成と反対の合計です(98条2項・126条1項)。
  • 公布の名義:天皇が「国民の名で」公布します(96条2項)。公布は国事行為で、内閣の助言と承認によります(3条・7条1号)。
  • 人数の取り違え:原案の発議は衆100人・参50人以上(国会法68条の2)。ふつうの議案の衆20人・参10人(同56条1項)と混同しない。
  • 期日と年齢:投票は発議から60日以後180日以内(国民投票法2条1項)。投票権は満18年以上(同法3条)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
ある憲法改正案の国民投票で、賛成が505万票、反対が485万票、無効が40万票だった。この場合、国民の承認があったことになる。

答え:○ 分かれ目は、「投票総数」に無効の票を入れるかどうかです。国民投票法98条2項は、投票総数を「賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数」とし、126条1項は、賛成の票がその2分の1を超えたら国民の承認があったものとします。投票総数は990万票、その2分の1は495万票で、賛成の505万票はこれを超えます。無効票も入れた1,030万票の半分(515万票)と比べると、505万票は届かないので✕に見えます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
憲法改正原案が、衆議院では総議員の3分の2以上の賛成で可決されたが、参議院では否決された。この場合、衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再び可決すれば、国会が憲法改正を発議したことになる。

答え:✕ 分かれ目は、改正の発議に衆議院の優越があるかどうかです。96条1項は「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」を求めていて、どちらかの議院が否決すれば発議になりません。正しくは、衆議院が再び可決しても発議はできません。出席議員の3分の2以上での再可決は、法律案についての定め(59条2項)です。それを改正の発議に当てはめると○に見えます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
国民投票で承認された憲法改正は、天皇が、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして直ちに公布する。この公布は国事行為であり、内閣の助言と承認によって行われる。

答え:○ 分かれ目は、公布の名義と、国事行為としての扱いです。96条2項は、天皇が「国民の名で」公布すると定めています。公布は7条1号の国事行為で、3条により内閣の助言と承認が要ります。「天皇の名で」と覚えていたり、改正は国民が決めたものだから内閣は関わらないと考えたりすると✕に見えます。内閣総理大臣は、承認の通知を受けたら直ちに公布の手続を執ります(国民投票法126条2項)。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 発議:各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が発議(96条1項)。衆議院の優越はない。
  • 原案:衆100人・参50人以上の賛成で提出し、関連する事項ごとに区分(国会法68条の2・68条の3)。
  • 国民投票:発議から60日以後180日以内、満18年以上、改正案ごとに一人一票(国民投票法2条・3条・47条)。
  • 承認:賛成の票が、賛成と反対の合計の2分の1を超えること(同法98条2項・126条1項)。
  • 公布:天皇が国民の名で、直ちに(96条2項)。国事行為なので内閣の助言と承認による。

次に読むなら、国政調査権と議院の権能の記事がおすすめです。議院の中で決めるときの「出席議員の3分の2」の場面を表にしていて、この記事の「総議員の3分の2」との違いがはっきりします。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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