条約の署名・批准・締結の違い:内閣が結び国会が承認する(憲法73条3号)、条約・協定・議定書・宣言の呼び方

ひとことで言うと、条約の「締結」は、国が「この条約に拘束されます」と同意を表すことです(外務省の説明)。その同意を確定させる行為の名前が、批准・受諾・承認・加入です。批准を条件にして署名しただけでは、国はまだ条約に拘束されません。日本では、条約を締結するのは内閣で、事前に、時宜(じぎ=そのときの事情)によっては事後に、国会の承認を経ます(憲法73条3号)。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。

この記事は、条約を結ぶ手続の言葉だけを扱います。個々の条約の中身や締約国の数、条約の評価は扱いません。条約法に関するウィーン条約(条約法条約)は外務省の訳文で、憲法は e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。

身近な例で考えると

行政書士試験の受験生のはるとさんは、ニュースで「署名」と「批准」が別の日に出てくるのが不思議でした。そこで、外務省の説明にある日本の例を並べてみました。

  • 核兵器不拡散条約(NPT):日本は1970年2月に署名し、1976年6月に批准した。
  • 包括的核実験禁止条約(CTBT):日本は1996年9月24日に署名し、1997年7月8日に批准書を国連事務総長に寄託した。
  • 人種差別撤廃条約:日本は1995年に「加入」した。

はるとさんが分かったのは、署名と批准の間に、国内の手続(国会の承認)が入ることです。また、署名をしないまま、あとから「加入」という形で加わる道もあります。では、条約を結ぶ流れを順に見てみます。

  1. 交渉と採択:条約文は、原則として、作成に参加したすべての国の同意で採択される(条約法条約9条1)。
  2. 確定と署名:条約文が真正かつ最終的なものとされ(10条)、各国の代表が署名する。
  3. 国会の承認:日本では、内閣が締結する前に、時宜によっては後に、国会の承認を経る(憲法73条3号)。
  4. 批准・受諾・承認・加入:国が条約に拘束されることへの同意を、国際的に確定的なものにする行為(2条1(b))。批准書は天皇が認証する(憲法7条8号)。
  5. 交換・寄託:批准書などを締約国の間で交換するか、寄託者に寄託した時に、同意が確定する(16条)。
  6. 効力発生:条約に定める日、または交渉国が合意する日に効力を生じる(24条1)。

国内では、条約を公布するのも天皇の国事行為です(憲法7条1号)。公布と施行の違いは法令の公布と施行の記事で扱っています。

条約と憲法ではこう決まっている

条約法条約の言葉(2条・11条〜16条・18条・24条)

  • 条約の定義(2条1(a)):国の間で文書の形式により締結され、国際法によって規律される国際的な合意。訳文は「名称のいかんを問わない」としています。
  • 同意の表し方(11条):署名、条約を構成する文書の交換、批准、受諾、承認、加入。合意があればほかの方法でもよい。
  • 署名(12条1):署名が同意を表す効果を持つと条約が定めている場合などには、署名で同意が表される。
  • 批准(14条1):批准で同意を表すと条約が定めている場合や、国の代表者が「批准を条件として」署名した場合などは、批准で同意が表される。受諾と承認は、批准と同様の条件で使われる(14条2)。
  • 加入(15条):加入で同意を表せると条約が定めている場合などに、加入で同意が表される。15条の要件に署名は出てきません。
  • 署名のあとの義務(18条(a)):批准などを条件として署名した国は、当事国とならない意図を明らかにする時までの間、条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務がある。
  • 効力発生(24条):条約に定める態様・日による。定めがなければ、同意がすべての交渉国について確定した時に効力を生じる(24条2)。
  • 守る義務(26条・27条):効力を有する条約は当事国を拘束し、当事国は誠実に履行しなければならない。条約を守らない理由として、自国の国内法を持ち出すことはできない。

留保(2条1(d)・19条)

留保(りゅうほ)は、条約の特定の規定について、自国への法的効果を排除したり変更したりするために、署名・批准・受諾・承認・加入の際に単独に行う声明です(2条1(d))。訳文は、ここでも「用いられる文言及び名称のいかんを問わない」としています。名前が「宣言」でも、中身がこれに当たれば留保です。条約が留保を禁止しているとき、条約が認める特定の留保に当たらないとき、条約の趣旨及び目的と両立しないときは、留保を付けられません(19条(a)〜(c))。

日本国憲法(73条3号・61条・7条・98条2項)

だれが何をするか条文
内閣条約を締結する73条3号
国会締結を承認する。事前に、時宜によっては事後に73条3号ただし書
衆議院の優越承認の議決で予算と同じ扱い(60条2項の準用)61条
天皇批准書の認証、条約の公布(内閣の助言と承認による)7条8号・1号

内閣の権限の全体は内閣の記事、61条の議決の扱いは衆議院の優越の記事、7条の国事行為は天皇の国事行為の記事で扱っています。98条2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と定めています。

国会の承認が要る条約と、要らない取決め

どの国際約束に国会の承認が要るかは、憲法の条文には書かれていません。政府の見解として、1974年(昭和49年)2月20日の衆議院外務委員会で外務大臣が次の3つを挙げています(国会会議録で確かめました)。

  • 国会の立法権にかかわるような約束を内容として含む国際約束
  • すでに予算または法律で認められている以上に財政支出義務を負う国際約束
  • 政治的に重要な国際約束であって、発効のために批准が要件とされているもの

同じ答弁は、すでに国会の承認を経た条約や、国内法・予算の範囲内で実施できる国際約束を「行政取りきめ」とし、73条2号の外交関係の処理の一環として行政府限りで締結し得る、としています。行政取りきめかどうかは、交換公文という形式ではなく内容で決まる、とも述べています。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:A国の代表が、批准を条件として条約に署名した。A国はまだ条約に拘束されていないが、18条(a)の義務は負う。
  2. 当てはまる例:署名の手続に加わらなかったB国も、条約が加入を定めていれば、加入で同意を表せる(15条(a))。日本が人種差別撤廃条約に加わったのは「加入」です。
  3. 当てはまらない例:「国会が承認した日に、条約は日本について効力を生じる」とすること。国会の承認は締結の前の国内の手続で、効力の発生は条約の定めや交渉国の合意によります(24条1)。
  4. ひっかけやすい例:「名前が『協定』なら、国会の承認は要らない」とすること。条約法条約の条約は名称を問いません。国会の承認が要るかどうかも、上の政府見解では形式ではなく内容で決まります。
  5. ひっかけやすい例:「国内の法律に反するので、条約を守らなくてよい」とすること。当事国は、不履行の根拠として自国の国内法を援用できません(27条)。

似ている言葉との違い

言葉中身条約法条約
署名条約文が確定した後の記名。条約が定めれば同意の表明にもなる12条
批准署名の後に、同意を確定させる行為2条1(b)・14条1
受諾・承認批准と同様の条件で同意を表す行為14条2
加入条約が定めるときなどに同意を表す行為。署名を前提にしない15条
交換・寄託批准書などを交換・寄託した時に同意が確定16条
締結条約に拘束されることへの同意を表すこと(外務省の説明)—

条約の名前も、効力の有無を決めません。外務省の説明では、国の間の法的な約束は「条約」「協定」「憲章」「規約」「交換公文」など様々な呼び方をされます。

呼び方例(外務省の訳文の題名)扱い
条約難民の地位に関する条約条約法条約の「条約」
協定アジア開発銀行を設立する協定名称を問わないので「条約」
議定書難民の地位に関する議定書同じく「条約」
憲章国際連合憲章同じく「条約」
宣言世界人権宣言国連総会が採択した宣言で、条約ではない。その内容を基礎に条約にしたのが国際人権規約

外務省は、世界人権宣言を、1948年12月10日に第3回国連総会で採択された「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」を宣言したもの、と説明しています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 署名=拘束ではない:批准を条件にした署名なら、拘束されるのは批准の後。ただし署名の時から18条(a)の義務がある。
  • 批准と加入:どちらも同意を確定させる行為。加入は署名を前提にしない(15条)。
  • 承認と発効:国会の承認は国内の手続。効力の発生は条約の定めや合意による(24条)。
  • 主語:締結は内閣、承認は国会、批准書の認証と公布は天皇(内閣の助言と承認による)。
  • 名前:協定・議定書・憲章も条約法条約の「条約」。留保も名前ではなく中身で決まる。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
A国の代表は、批准を条件として、ある多数国間条約に署名した。A国はまだ条約に拘束されていないが、当事国とならない意図を明らかにする時までは、条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務を負う。

答え:○ 分かれ目は、署名だけの段階で何の義務があるかです。批准を条件として署名した国は、批准で同意を表すことになるので(条約法条約14条1(c))、署名の時点では拘束されていません。それでも18条(a)は、当事国とならない意図を明らかにする時までの間、条約の趣旨及び目的を失わせる行為を行わない義務を定めています。拘束されていないなら義務も何もない、と考えると✕に見えます。この義務は、条約の規定そのものを守る義務(26条)とは別のものです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
B国は、ある多数国間条約の署名に加わらなかった。この条約が加入による同意の表明を定めていても、署名をしていないB国は、あとからこの条約の当事国になることはできない。

答え:✕ 分かれ目は、批准と加入の違いです。条約法条約15条(a)は、加入で同意を表せることを条約が定めている場合、その国の同意は加入で表される、としています。正しくは、B国は加入で当事国になれます。署名の後に同意を確定させるのは批准(14条1)で、署名を前提にしない加入とを取り違えた誤りです。日本も、人種差別撤廃条約には加入で加わっています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
内閣が、ある条約を締結するため、事前に国会の承認を求めた。国会が承認の議決をした場合、この条約は、その議決の日から日本について効力を生ずる。

答え:✕ 分かれ目は、国内の承認と、国際的な効力の発生の区別です。国会の承認は、内閣が締結する前の国内の手続です(憲法73条3号ただし書)。正しくは、条約は条約に定める態様・日、または交渉国が合意する態様・日に効力を生じます(条約法条約24条1)。批准書などの交換・寄託で同意が確定する(16条)ことも、承認の後に来ます。国会の承認と、条約の効力発生とを取り違えた誤りです。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 締結=条約に拘束されることへの同意を表すこと。批准・受諾・承認・加入は、同意を確定させる行為の名前(2条1(b))。
  • 批准を条件にした署名だけでは拘束されないが、18条(a)の義務がある。加入は署名を前提にしない(15条)。
  • 日本では内閣が締結し(73条3号)、国会が事前に、時宜によっては事後に承認する。批准書の認証と公布は天皇の国事行為(7条8号・1号)。
  • 効力の発生は条約の定めや合意による(24条)。名前が協定・議定書・憲章でも、条約法条約の「条約」に当たる。

このサイトで次に読むなら、上の例に出てきた人種差別撤廃条約の記事です。「加入」と「留保」が、実際の条約でどう使われているかを確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条約は外務省の訳文で、憲法は e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。

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