ひとことで言うと、核兵器不拡散条約(NPT。正式には「核兵器の不拡散に関する条約」)は、1967年1月1日前に核兵器などを製造し爆発させた国を「核兵器国」と定め、それ以外の国への核兵器の拡散を防ぐ条約です。核兵器禁止条約(正式には「核兵器の禁止に関する条約」)は、核兵器の開発・実験・生産・保有・使用・使用の威嚇などを、締約国に「いかなる場合にも」行わないと約束させる条約です。日本はNPTの締約国です。核兵器禁止条約については、2026年10月17日に、寄託者である国連事務総長が公表する条約の状況の一覧で確かめた時点で、日本は署名国にも締約国にも入っていません。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。
この記事は、2つの条約が何を定めているかと、日本の締結の有無だけを扱います。安全保障の評価、条約を締結するかどうかの理由や賛否、特定の国の動きは扱いません。条約の中身は外務省の説明と仮訳で、日本の扱いは外務省の説明と、国連事務総長が公表する条約の状況の一覧で確かめた事実だけを書きます(2026年10月17日確認)。
身近な例で考えると
行政書士試験の受験生のひなたさんは、「核兵器不拡散条約」と「核兵器禁止条約」の名前が似ていて、どちらがどちらか混ざってしまいました。そこで、外務省の説明にある日付を順に並べました。
- 1968年7月1日:NPTが署名のために開放された。
- 1970年:日本が2月に署名し、3月5日にNPTが発効した。
- 1976年6月:日本がNPTを批准した。
- 1995年5月:NPTの無期限延長が決定された。
- 1996年9月:国連総会が包括的核実験禁止条約(CTBT)を採択した。日本は9月24日に署名し、1997年7月8日に批准書を寄託した。
- 2017年7月7日:核兵器禁止条約がニューヨークで作成された(9月20日から署名のため開放)。
- 2021年1月:核兵器禁止条約が発効した。
ひなたさんが分かったのは、NPTは「核兵器国」と「それ以外の国」を分けて義務を定める条約で、核兵器禁止条約は締約国に核兵器そのものに関わる行為を禁じる条約だ、ということです。署名・批准・発効の言葉の意味は条約の署名・批准・締結の記事で扱っています。
条約ではこう決まっている
NPTの主な条(外務省の説明)
| 条 | 中身 |
|---|---|
| 9条3 | 「核兵器国」とは、1967年1月1日前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国 |
| 1条・2条 | 核兵器国の核不拡散義務(1条)、非核兵器国の核不拡散義務(2条) |
| 3条 | 非核兵器国は、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾する義務 |
| 4条1 | 原子力の平和的利用は、締約国の「奪い得ない権利」 |
| 6条 | 締約国が誠実に核軍縮交渉を行う義務 |
| 8条3 | 条約の運用を検討する5年ごとの運用検討会議 |
| 10条2 | 効力発生の25年後に、無期限に効力を持つか、追加の一定期間延長するかを決める会議 |
外務省は、9条3に当たる国を、米・露・英・仏・中の5か国と説明しています。外務省は、条約の目的と内容を、核不拡散・核軍縮・原子力の平和的利用の3つに分けて説明しています。保障措置(ほしょうそち)は、平和的な利用のための原子力が軍事目的に回されないよう確かめる仕組みです。10条2の会議では、1995年5月に、条約の無期限延長が決定されました。外務省の説明では、締約国数は191か国・地域です(2026年4月現在)。
8条3の会議を、検索などで「再検討会議」と呼ぶ例も見かけますが、外務省の表記は「運用検討会議」です。外交青書2025も「第11回NPT運用検討会議」と書いています。この記事は外務省の表記にそろえます。
核兵器禁止条約の1条と発効の条件(外務省の仮訳)
1条1は、「締約国は,いかなる場合にも,次のことを行わないことを約束する」として、次のような行為を挙げています。
- (a)核兵器その他の核爆発装置を開発し、実験し、生産し、製造し、その他の方法によって取得し、占有し、又は貯蔵すること。
- (b)核兵器その他の核爆発装置又はその管理を、いずれかの者に対して直接又は間接に移譲すること。
- (d)核兵器その他の核爆発装置を使用し、又はこれを使用するとの威嚇を行うこと。
このほか、受領すること、禁止された活動を援助・奨励すること、援助を求めたり受けたりすること、自国の領域に配置を認めることなども挙げられています((c)(e)(f)(g))。発効の条件は、15条1で「50番目の批准書,受諾書,承認書又は加入書が寄託された後90日で効力を生ずる」と定められています。
日本の締結の有無
- NPT:1970年2月に署名、1976年6月に批准(外務省)。
- 核兵器禁止条約:署名も締結もしていない(2026年10月17日に、国連事務総長が公表する条約の状況の一覧で確かめた時点。同じ一覧では、条約は2021年1月22日に発効)。
- CTBT:1996年9月24日に署名、1997年7月8日に批准書を寄託(外務省)。CTBTは、附属書二に掲げる特定の44か国すべての批准が発効に必要とされ(14条)、まだ発効していない。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:1967年1月1日より前に核爆発装置を製造し、爆発させた国。9条3の「核兵器国」です。
- 当てはまらない例:1967年1月1日以後に初めて製造し、爆発させた国。9条3の日付の条件を満たさないので、NPTの「核兵器国」には当たりません。
- 当てはまる例:NPTの締約国である非核兵器国が、IAEAの保障措置を受け入れること。3条の義務です。
- ひっかけやすい例:「1995年に、NPTは25年間延長された」とすること。10条2の会議で決まったのは無期限延長です。
- ひっかけやすい例:「CTBTはすでに発効している」とすること。44か国すべての批准が必要で、まだ発効していません。
2つの条約は、どこが違うか
| 比べる点 | NPT | 核兵器禁止条約 |
|---|---|---|
| 成立 | 1968年署名開放、1970年発効 | 2017年作成、2021年1月発効 |
| 中身の中心 | 核兵器国以外への拡散の防止、保障措置、平和的利用、核軍縮の交渉 | 開発・保有・移譲・使用・使用の威嚇などを、いかなる場合にも行わない |
| 会議・期間 | 5年ごとの運用検討会議(8条3)。1995年に無期限延長 | 50番目の批准書などの寄託の後90日で発効(15条1) |
| 日本 | 1976年に批准 | 署名・締結していない(2026年10月17日確認) |
IAEAは、国連の専門機関ではなく、国連システム図で「関連機関」に分けられる機関です。国連の専門機関との違いは国連の専門機関の記事、国連の主要機関と安全保障理事会のしくみは国際連合のしくみの記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
- 名前:「不拡散」はNPT、「禁止」は核兵器禁止条約。日本が締約国なのはNPT。
- 核兵器国の日付:1967年1月1日「前」に製造しかつ爆発させた国(9条3)。外務省の説明では5か国。
- 保障措置:IAEAの保障措置を受諾するのは非核兵器国(3条)。
- 会議:運用検討会議は5年ごと(8条3)。1995年5月の決定は無期限延長(10条2)。
- 核兵器禁止条約:使用だけでなく「使用するとの威嚇」も禁止(1条1(d))。発効は50番目の寄託の後90日(15条1)。
- CTBT:日本は批准しているが、条約は未発効。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
A国は、1967年1月1日より後に、初めて核爆発装置を製造し、爆発させたので、核兵器の不拡散に関する条約9条3の定義では、「核兵器国」の範囲の外に置かれる。
答え:○ 分かれ目は、9条3の日付です。9条3は、「核兵器国」を「1967年1月1日前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国」と定めています。核爆発装置を持ち、爆発させた国なら核兵器国だ、と考えると✕に見えます。日付より後に初めて爆発させた国は、この定義に当たりません。外務省の説明では、9条3に当たるのは米・露・英・仏・中の5か国です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
核兵器の不拡散に関する条約の効力発生の25年後に開かれた会議では、条約を、追加の一定期間延長することが決定された。
答え:✕ 分かれ目は、10条2の会議で選ばれた結論です。10条2は、効力発生の25年後に、条約が無期限に効力を有するか、追加の一定期間延長されるかを決める会議を開くとしています。正しくは、1995年5月に、条約の無期限延長が決定されました(外務省の説明)。10条2が示す2つの選択肢のうち、選ばれなかった「追加の一定期間の延長」と取り違えた誤りです。5年ごとの運用検討会議(8条3)とも別の会議です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
核兵器の禁止に関する条約1条1は、締約国が、いかなる場合にも、核兵器その他の核爆発装置を使用することだけでなく、これを使用するとの威嚇を行うことも行わないと約束する形をとっている。
答え:○ 分かれ目は、1条1(d)の範囲です。外務省の仮訳では、1条1は「締約国は,いかなる場合にも,次のことを行わないことを約束する」とし、(d)で「核兵器その他の核爆発装置を使用し,又はこれを使用するとの威嚇を行うこと」を挙げています。禁止されるのは実際の使用だけだ、と考えると✕に見えます。使用の威嚇まで禁じる点は、拡散の防止を中心とするNPTの1条・2条と違うところです。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- NPT=核兵器の不拡散に関する条約。1968年署名開放、1970年発効、日本は1976年に批准。
- 核兵器国=1967年1月1日前に核兵器などを製造しかつ爆発させた国(9条3)。非核兵器国はIAEAの保障措置を受諾(3条)。
- 運用検討会議は5年ごと(8条3)。1995年5月に無期限延長が決定(10条2)。
- 核兵器禁止条約=2017年作成、2021年1月発効。開発・保有・移譲・使用・使用の威嚇などを禁止(1条1)。日本は署名・締結していない(2026年10月17日確認)。
- CTBTは、日本は批准しているが、44か国すべての批准が要るため未発効。
このサイトで次に読むなら、国連の専門機関の記事です。IAEAのような関連機関と、専門機関・補助機関の分け方を、国際連合憲章の条文で確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条約の中身は外務省の説明と仮訳で確かめました(2026年10月17日確認)。
- 外務省「核兵器不拡散条約(NPT)の概要」(署名開放・発効の日、日本の署名と批准、9条3の定義と5か国、1条〜4条・6条・8条3・10条2、1995年5月の無期限延長、締約国数〔2026年4月現在〕。令和8年4月24日の版)
- 外務省「核兵器の禁止に関する条約(暫定的な仮訳)」(1条1、15条1、2017年7月7日の作成と9月20日の署名開放)
- 外務省「外交青書2022」第3章第1節4(2021年1月の核兵器禁止条約の発効)
- 国際連合 条約集「Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons」の状況(英語)(署名国・締約国の一覧に日本が入っていないこと、2021年1月22日の発効。2026年10月17日確認)
- 外務省「外交青書2025」第3章第1節4(「第11回NPT運用検討会議」の表記)
- 外務省「包括的核実験禁止条約(CTBT)の概要」(1996年9月の採択、日本の署名と批准書の寄託、14条の発効要件、未発効。令和8年7月27日の版)
- 国連広報センター「国連システム図」(2024年8月の日本語版)(IAEAが関連機関に分けられていること)
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