入会権:村の人たちが山林や原野を共同で使う権利、共有の性質の有無・登記ができないこと・判例

ひとことで言うと、入会権(いりあいけん)は、ある地域の住民の集まり(入会集団)が、山林や原野で草や薪を取るなどの使い方を、昔からの慣習にもとづいてみんなで続けている権利です。民法に入会権の定義の条文はなく、置かれているのは263条と294条の2つだけです。どちらの条文も「各地方の慣習に従う」を先に置いています。

慣習で決まらない部分には、民法の規定を使います。入会集団がその土地を持っている「共有の性質を有する入会権」には共有の規定を適用し(263条)、他人の土地の上の「共有の性質を有しない入会権」には地役権の規定を準用します(294条)。また、入会権は不動産登記法3条の登記できる権利に入っていません。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

この記事は、263条と294条の違い、登記との関係、入会権をめぐる最高裁の判例4件を扱います。相続で入会権が引き継がれるかという疑問にも、民法は条文を置いていません。これもその地方の慣習によります。

身近な例で考えると

舞台は、架空の「わかば地区」です。実在の土地や団体の話ではありません。

人物・団体立場この話での役
わかば山の会地区の住民の入会集団わかば山を昔から共同で使ってきた
はるとさん会の代表者会の手続をまとめる
あおいさん会の構成員訴えに加わるかで迷っている
ひなた林業となりの山の持ち主わかば山も自分の土地だと言い出した
  1. わかば地区の住民は、何代も前から、わかば山で下草を刈り、薪を取ってきた。山は住民の集まりのものとされてきた。これは「共有の性質を有する入会権」の形です(263条)。
  2. 住民は、となりのひなた林業の山でも、昔からの慣習で秋に草を刈ってきた。土地はひなた林業のものです。これは「共有の性質を有しない入会権」の形です(294条)。
  3. ある年、ひなた林業が「わかば山もうちの土地だ」と言い出した。会は、わかば山が入会地であることを裁判で確かめたいと考えた。
  4. ところが、構成員のあおいさんは、訴えに加わることに同意しなかった。全員で訴えなければならないのか、が問題になった(下の昭和41年判決・平成20年判決)。

たとえるなら、入会権は「地域で受け継がれてきた、みんなの山の使い方のルール」です。ただし本物のルールでは、使い方の中身を決めるのは民法の条文より先に、その地方の慣習です。条文は、慣習で決まらないところを埋める役です。

条文ではこう決まっている

  • 263条:「共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。」この節は、民法の「共有」の節(249条以下)です。
  • 294条:「共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。」この章は、地役権の章(280条〜294条)です。
  • 適用と準用の違い:適用=その規定をそのまま当てはめる。準用=似た場面なので、必要な読み替えをして当てはめる。
  • 地役権の中身(280条):地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自分の土地の便益に使う権利を持つ。入会権は自分の土地のためではなく、集団の住民のための権利なので、地役権の規定は「準用」になる、と読むと整理しやすくなります。
  • 不動産登記法3条:登記できる権利は、所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・配偶者居住権・採石権の10種類です。入会権はこの中にありません。

だれが入会権者になるか、どんな使い方ができるか、といった点も、民法には定めがありません。どれも、その集団の慣習(と、慣習にもとづく会則)で決まります。共有の規定の中身は共有の記事、地役権は相隣関係と地役権の記事で確かめられます。入会権は、民法の物権編に置かれた物権の一つです。物権は法律で定めたもののほかは作れない(175条)という原則は、物権の原則の記事で扱っています。

2つの入会権を表で比べる

比べる点共有の性質あり(263条)共有の性質なし(294条)
土地の持ち主入会集団の側集団以外の人(他人)
まず従うもの各地方の慣習各地方の慣習
慣習で決まらない点共有の規定を適用地役権の規定を準用
入会権の登記できないできない
確認の訴え原則は全員で(昭和41年判決)同じ(判決は性質を問わない)

入会権そのものは登記できないので、入会地は、代表者や構成員の名前で所有権の登記がされていることがあります。登記の名義と、実際にだれの入会地かがずれる場面があるので、判例には登記名義人についての判断もあります(下の平成6年判決の三)。

判例ではどう扱われてきたか

入会権は慣習の権利なので、条文が少ないぶん、判例で決まってきたことがあります。ここでは裁判所ウェブサイトで確かめた最高裁の4件を、場面ごとに並べます。

確認の訴えは全員で(最高裁判所第二小法廷 昭和41年11月25日判決)

判決は、入会権確認の訴えは、入会権が共有の性質を有するかどうかを問わず、入会権者全員で起こすことを要する固有必要的共同訴訟(こゆうひつようてききょうどうそしょう=関係者全員がそろわないと起こせない訴え)であるとしました(裁判要旨)。入会権は集団の全員に属する権利なので、一部の人だけで勝ち負けを決められない、という考え方です。

加わらない人は被告にしてよい(最高裁判所第一小法廷 平成20年7月17日判決)

では、あおいさんのように訴えに同調しない構成員がいると、だれも訴えられないのでしょうか。判決は、ある土地が入会地か第三者の土地かに争いがある場合、訴えに同調しない構成員がいて全員で訴えを起こせないときは、一部の構成員が、同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟の当事者となる形で、第三者に対し、全員が入会権を持つことの確認を求める訴えを起こすことができ、当事者適格(その訴えの当事者になる資格)を否定されないとしました(裁判要旨)。

昭和41年判決を変えたのではなく、「全員が当事者になる」という形を保ったまま、同調しない人を原告ではなく被告の側に置くことを認めた判決です。

入会団体が訴えるとき(最高裁判所第三小法廷 平成6年5月31日判決)

  • 一:入会権者である住民が入会団体をつくり、それが権利能力のない社団に当たる場合、その団体は、構成員全員の総有(そうゆう=持分に分けず、全員でひとまとまりに持つこと)に属する不動産について、総有権確認の訴えの原告になれる。
  • 二:その団体の代表者が原告の代表者として訴えを進めるには、規約などで不動産を処分するのに必要とされる総会の議決などの手続による授権(じゅけん=その行為をしてよいという許し)が要る。
  • 三:規約などの手続で、代表者でない構成員を登記名義人とすることとされた場合、その構成員は、登記手続を求める訴えの原告になれる。

権利能力のない社団が成り立つ条件と、その財産の持ち方は権利能力なき社団の記事で扱っています。

会則と公序良俗(最高裁判所第二小法廷 平成18年3月17日判決)

入会集団の慣習にもとづく会則が、入会権者の資格をどう限っているかが争われました。判決の結論は2つに分かれます。

  • 資格を一家の代表者としての世帯主に限る部分は、現在においても、公序良俗に反するものということはできない。
  • 資格を原則として男子孫に限り、地区の住民以外の男性と結婚した女子孫は離婚して旧姓に戻らない限り資格を認めない部分は、遅くとも平成4年以降においては、性別のみによる不合理な差別として民法90条により無効である。

慣習が先に来る入会権でも、民法90条(公序良俗)の枠の外には出られない、ということです。90条の全体は公序良俗違反の記事にあります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(共有の性質あり):わかば山の会の住民が、会のものとされてきたわかば山で、慣習に従って薪を取る。慣習で決まらない点は、共有の規定で補います(263条)。
  • 当てはまる例(共有の性質なし):住民が、ひなた林業の山で、昔からの慣習で草を刈る。土地は他人のものなので、慣習で決まらない点は地役権の規定を準用します(294条)。
  • 当てはまらない例:はるとさん一人が、ひなた林業と契約を結び、お金を払って1年間だけ薪を取らせてもらう。これは集団の慣習ではなく、個人の契約による権利です。入会権の条文ではなく、契約と、その契約の種類の規定で考えます。
  • ひっかけやすい例:わかば山の登記簿に、はるとさん個人の名前で所有権が登記されている。入会権は登記できないので、入会地の登記が個人名義になっていることがあります。登記名義だけを見て「はるとさん一人の山」と決めつけない、という場面です(平成6年判決の三は、規約の手続で構成員を登記名義人にした場面)。

似ているルールとの違い:入会権・地役権・共有

比べる点入会権地役権共有
だれのための権利か入会集団の住民自分の土地の便益(280条)共有者それぞれ
中身を決めるもの各地方の慣習が先設定行為で定めた目的民法の共有の規定
登記できないできる(不登法3条4号)所有権の登記(同条1号)

入会権は、共有の規定や地役権の規定を借りる場面があっても、共有そのものでも地役権そのものでもありません。たとえば共有なら、各共有者が自分の持分を売れるのが原則ですが、入会権では、まず慣習がどう決めているかを見ます。共有の規定が出てくるのは、慣習で決まらない部分だけです。

試験ではここをまちがえやすい

  • 行き先の入れ替え:共有の性質あり→共有の規定を「適用」(263条)。共有の性質なし→地役権の規定を「準用」(294条)。共有の性質なしに共有の規定、と入れ替える形に注意します。
  • 順番の入れ替え:どちらも「各地方の慣習に従うほか」。民法の規定が慣習より先、とする形は誤りです。
  • 登記:入会権は不動産登記法3条の登記できる権利に入っていない。地役権・永小作権・賃借権は入っているので、並べて覚えます。
  • 確認の訴えの当事者:原則は全員で(昭和41年判決)。ただし、同調しない人を被告に加えて全員が当事者になる形なら、一部の構成員が起こせる(平成20年判決)。
  • 団体の代表者の授権:権利能力のない社団である入会団体は原告になれるが、代表者が訴えを進めるには総会の議決などによる授権が要る(平成6年判決)。
  • 会則の判例の結論が2つ:世帯主に限る部分は公序良俗に反しない。男子孫に限る部分は90条で無効(平成18年判決)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
わかば地区の住民の集団は、ひなた林業が持つ山で、昔からの慣習により草を刈ってきた(共有の性質を有しない入会権)。この入会権について慣習で決まらない点があるときは、民法の共有の規定が準用される。

答え:✕ 分かれ目は、慣習で決まらない点の行き先です。294条は、共有の性質を有しない入会権について「各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する」としており、この章は地役権の章です。正しくは、地役権の規定が準用されます。共有の規定を使うのは、共有の性質を有する入会権で、しかも「準用」ではなく「適用」です(263条)。2つの条文の行き先を入れ替えた形です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
わかば山が入会地かひなた林業の土地かで争いになった。わかば山の会の構成員のうちあおいさんだけが訴えに同調しないため、全員で訴えを起こせない。この場合、ほかの構成員は、あおいさんも被告に加えて構成員全員が当事者となる形で、ひなた林業に対し、全員が入会権を持つことの確認を求める訴えを起こすことができる。

答え:○ 分かれ目は、同調しない構成員を訴訟のどこに置くかです。最高裁判所第一小法廷平成20年7月17日判決は、この場面で、同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式なら、一部の構成員が入会権の確認の訴えを起こすことができ、当事者適格を否定されないとしました。入会権確認の訴えは入会権者全員で起こす固有必要的共同訴訟とした昭和41年11月25日判決だけを覚えていると、✕にしてしまいます。全員が当事者になる点は、平成20年判決でも変わっていません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
わかば山の会は権利能力のない社団に当たり、わかば山は構成員全員の総有に属する。会の代表者はるとさんは、総会の議決などの手続による授権がなくても、代表者であるというだけで、会を原告とする総有権確認の訴えを代表者として進めることができる。

答え:✕ 分かれ目は、代表者に授権が要るかです。最高裁判所第三小法廷平成6年5月31日判決は、権利能力のない社団である入会団体の代表者が総有権確認の訴えを原告の代表者として進めるには、規約などで不動産を処分するのに必要とされる総会の議決などの手続による授権が要るとしました。正しくは、授権がなければ進められません。同じ判決が、入会団体そのものは原告になれるとした部分(要旨の一)と取り違えた形です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 入会権は、住民の集まりが慣習にもとづいて山林や原野を共同で使う権利。民法の条文は263条と294条だけで、どちらも慣習が先。
  • 共有の性質あり→共有の規定を適用(263条)。共有の性質なし→地役権の規定を準用(294条)。
  • 入会権は不動産登記法3条の登記できる権利に入っていない。
  • 確認の訴えは原則全員で(昭和41年判決)。同調しない人は被告に加えてよい(平成20年判決)。入会団体の代表者が訴えを進めるには授権が要る(平成6年判決)。
  • 会則のうち世帯主に限る部分は公序良俗に反しない。男子孫に限る部分は90条で無効(平成18年判決)。

このサイトで次に読むなら、公序良俗違反の記事です。平成18年判決で使われた民法90条が、ほかにどんな約束を無効にするのかが分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です