物権的請求権をわかりやすく:返還・妨害排除・妨害予防の3つと、だれに請求できるか

物権的請求権(ぶっけんてきせいきゅうけん)とは、所有権などの物権を持つ人が、その物の支配をじゃまされたときに、じゃましている人に対して、じゃまをやめさせる請求権です。返してもらう(返還)、取り除いてもらう(妨害排除)、前もって防いでもらう(妨害予防)の3つがあります。

民法には、物権的請求権を直接定めた条文がありません。それでも、物権の性質から当然に認められると説明されています。押さえる点は、だれに請求できるか(今じゃましている人。建物の登記名義が残った人の判例)、時効で消えるか(所有権にもとづくものは消えない)、占有の訴えとどう違うかの3点です。

身近な例で考えると

人物立場したこと
ひかりさん土地と自転車の持ち主物権的請求権を使いたい
ごうさんとなりの人ひかりさんの土地を勝手に使った
のぶおさんひかりさんの土地に建物を建てた人建物を売ったが、登記を自分の名前のままにした
  1. 返還:ごうさんが、ひかりさんの自転車を勝手に持っていき、自分の家の前に置いている。ひかりさんは「返して」と言える。
  2. 妨害排除:ごうさんが、ひかりさんの空き地に自分の資材を積み上げた。ひかりさんは「どけて」と言える。
  3. 妨害予防:ごうさんの家の古いブロック塀が、ひかりさんの土地の側に傾き、今にも倒れそうだ。ひかりさんは「倒れないようにして」と言える。
  4. 相手方の問題:のぶおさんは、ひかりさんの土地に勝手に建物を建て、自分の名前で登記した。その後、建物をじゅんさんに売ったが、登記はのぶおさんのまま。ひかりさんは、だれに「建物を壊して土地を明け渡して」と言えばよいか。

1〜3の考え方は、自分の物を自分のものとして使えるという所有権の中身(206条)から出てきます。所有権を持っていても、じゃまをやめさせる手段がなければ意味がないからです。4は判例で決まっています。

条文ではどうなっているか

物権的請求権そのものの条文はありません。関係する条文は次のとおりです。

  • 206条:所有者は、法令の制限内で、自由に所有物を使用・収益・処分する権利を持つ。
  • 197条〜201条(占有の訴え):占有者(物を事実上持っている人)には、占有保持の訴え(198条:妨害の停止と損害賠償)、占有保全の訴え(199条:妨害の予防か損害賠償の担保)、占有回収の訴え(200条:物の返還と損害賠償)がある。
  • 202条:占有の訴えは「本権の訴え」を妨げず、本権の訴えも占有の訴えを妨げない。本権(ほんけん=所有権など、占有の根拠になる権利)にもとづく訴えがあることを前提にしている。
  • 166条2項:債権または所有権以外の財産権は、権利を行使できる時から20年で時効により消える。所有権は入っていない。

ただの占有者にさえ、返還・妨害の停止・予防を求める手段が条文で用意されています。それなら、より強い権利である所有権などにも同じ手段があるはずだ、と説明されます。3つの種類が占有の訴えの3つと対応しているのはこのためです。

3つの種類と、相手方・時効

種類どんなとき求めること対応する占有の訴え
返還請求権物を奪われ、他人が持っている物を返すこと占有回収の訴え(200条)
妨害排除請求権占有は奪われていないが、じゃまされているじゃまを取り除くこと占有保持の訴え(198条)
妨害予防請求権じゃまされるおそれがあるおそれを取り除くこと占有保全の訴え(199条)

相手方は「今じゃましている人」:建物の登記名義人の判例

  • 最高裁平成6年2月8日判決(第三小法廷):他人の土地の上の建物を取得し、自らの意思でその登記をした人は、建物を別の人に譲っても、登記名義を持ち続ける限り、土地の持ち主に対して、建物の所有権を失ったと主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。
  • 最高裁昭和35年6月17日判決(第二小法廷):裁判所の嘱託(仮処分の申請にもとづく登記の依頼)で建物の所有権保存登記がされていても、その前に建物を未登記のまま他人に譲り、敷地を占拠していない名義人に対しては、建物の収去を求めることは許されない。
  • 分かれ目:登記が自分の意思でされたか。自分で登記して名義を持ち続ける人は、譲ったことを持ち出して逃げられない。自分の意思によらない登記の名義人は、相手方にならない。

所有権にもとづく請求は、時効で消えない

166条2項は、時効で消える財産権から所有権を外しています。だから、所有権にもとづく物権的請求権も、時効で消えないと整理されます。ただし、相手が取得時効(162条)の要件を満たすと、相手が所有権を取得し、もとの持ち主は所有権そのものを失います。「請求権が時効で消える」のとは別の話です。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:空き地の資材

ごうさんが、ひかりさんの空き地に資材を積んだままです。ひかりさんは、所有権にもとづく妨害排除請求権で、ごうさんに撤去を求められます。何年たっていても、所有権にもとづく請求そのものは時効で消えません。

当てはまらない例:自分の意思によらない登記の名義人

裁判所の嘱託で建物の登記名義人になっただけで、その前に建物を未登記のまま譲り、敷地も使っていない人には、ひかりさんは建物の収去を求められません(昭和35年判決)。今、建物を持って土地をじゃましている人を相手にします。

ひっかけやすい例:建物を売ったのに名義はそのまま

身近な例ののぶおさんは、自分で登記をして、建物をじゅんさんに売った後も名義を持ち続けています。ひかりさんがのぶおさんに建物収去・土地明渡しを求めたとき、のぶおさんは「もう自分の建物ではない」と言って逃れることはできません(平成6年判決)。

ひっかけやすい例:占有の訴えの期間を当てはめる

占有保持の訴えは、妨害が続いている間か、やんでから1年以内に起こします(201条1項)。占有回収の訴えは、奪われた時から1年以内です(201条3項)。これは占有の訴えの期間で、所有権にもとづく物権的請求権にはかかりません。

似ているルールとの違い

比べる点物権的請求権(所有権)占有の訴え
根拠条文なし(物権の性質)197条〜202条
使える人物権を持つ人占有者(他人のために占有する人も。197条)
期間所有権にもとづくものは時効で消えない1年などの期間がある(201条)
相手方今じゃましている人奪った人の特定承継人には、事情を知っていたときだけ(200条2項)

202条2項は、占有の訴えについて「本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない」と定めています。占有の訴えでは、だれが本当の持ち主かではなく、占有が乱されたかどうかだけを判断します。所有権の争いは、本権の訴えで別に決めます。占有の訴えのくわしい中身は占有権の記事で確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 条文はないが認められる:返還・妨害排除・妨害予防の3つ。占有の訴えの3つと対応。
  • 相手方は今じゃましている人:ただし、自らの意思で建物の登記をした人は、譲った後も名義を持つ限り収去・明渡しを免れない。
  • 所有権にもとづく請求は時効で消えない:166条2項は所有権を外している。取得時効で所有権を失うのは別の話。
  • 占有の訴えの1年の期間は、物権的請求権にはかからない。
  • 占有の訴えでは、本権の理由で判断しない(202条2項)。

肢を読んだら、まず「所有権にもとづく請求か、占有の訴えか」を決め、それから期間・相手方・判断の理由を当てはめます。宅建試験の権利関係でも、所有権と占有の関係は同じ条文で考えます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
のぶおさんは、ひかりさんの土地の上の建物を取得し、自分の意思で自分名義の登記をした。その後、建物をじゅんさんに売ったが、登記は自分の名義のままである。ひかりさんが建物収去・土地明渡しを求めた場合、のぶおさんは、建物を売ったことを理由にこれを免れることはできない。

答え:○ 分かれ目は、自らの意思でした登記の名義を持ち続けているかです。最高裁平成6年2月8日判決は、自らの意思で建物の登記をした人は、建物を譲っても登記名義を持ち続ける限り、建物所有権を失ったと主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れないとしました。相手方は今の持ち主のじゅんさんだけ、と考えると✕に見えます。自分の意思によらない嘱託登記の名義人について収去請求を認めなかった昭和35年6月17日判決と区別します。

問2(このサイトのオリジナル問題)
ごうさんが、ひかりさんの空き地に勝手に資材を積み、2年がたった。ひかりさんは、妨害が始まってから1年を過ぎているので、所有権にもとづいて資材の撤去を求めることはできない。

答え:✕ 分かれ目は、1年の期間が占有の訴えのものか、所有権にもとづく請求のものかです。1年の期間を定める201条は占有の訴えについての規定で、しかも占有保持の訴えは妨害が続いている間は起こせます(201条1項)。正しくは、ひかりさんは所有権にもとづく妨害排除請求権で撤去を求められます。166条2項も、時効で消える財産権から所有権を外しています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ごうさんは、ひかりさんが使っていた自転車の本当の持ち主である。ごうさんは、ひかりさんに断りなく、力ずくで自転車を持ち去った。ひかりさんが占有回収の訴えを起こした場合、裁判所は、ごうさんが本当の持ち主であることを理由に、ひかりさんの請求を退けることはできない。

答え:○ 分かれ目は、占有の訴えで本権の理由を判断に使えるかです。202条2項は、占有の訴えについては本権に関する理由に基づいて裁判をすることができないとしています。本当の持ち主が取り返しただけなら許される、と考えると✕に見えます。ごうさんが所有権を言うなら、別に本権の訴えで争います(202条1項は二つの訴えが互いを妨げないとする)。

民法の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 物権的請求権は条文がないが、物権の性質から認められる。返還・妨害排除・妨害予防の3つ。
  • 相手方は今じゃましている人。自らの意思で建物の登記をした人は、譲っても名義を持つ限り逃れられない。
  • 所有権にもとづく請求は時効で消えない(166条2項)。取得時効で所有権を失うのは別の話。
  • 占有の訴えは197条〜202条。1年の期間や、特定承継人への制限は占有の訴えの話。
  • 占有の訴えでは、本権の理由で判断しない(202条2項)。

不動産の登記と対抗の基本は登記と対抗の記事、隣どうしの土地のルールは相隣関係と地役権の記事で確かめられます。次に読むなら、抵当権にもとづく妨害排除請求の記事がおすすめです。物を使う権利を持たない抵当権者が、なぜ妨害排除を求められるのかが分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年度試験の出題の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。