ひとことで言うと、代理人がした契約で、だまされたか、ある事情を知っていたかは、原則として代理人について決めます(民法101条1項・2項)。契約をその場でしたのは代理人だからです。ただし、特定の行為を頼んだ本人は、自分が知っていた事情について「代理人は知らなかった」と主張できません(3項)。また、代理人が未成年者などの制限行為能力者でも、そのことを理由に契約を取り消すことはできません(102条本文)。
この記事では、①101条の3つの項、②102条の本文とただし書、③だれの事情で決めるかを分ける表、を扱います。代理の基本・無権代理・表見代理は代理の記事、「代理人として」と示さなかった場合は顕名の記事、復代理人・自己契約・代理権の濫用は復代理の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は、家を建てる土地を探しているあおいさん、あおいさんに頼まれて土地を買う代理人のしょうたさん、土地の持ち主のたけるさんです(架空の話です)。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| あおいさん | 本人 | 「駅の近くの土地を買ってきて」と代理権を与えた |
| しょうたさん | 代理人 | あおいさんの代理人として、たけるさんと契約した |
| たけるさん | 相手方 | 自分の土地をしょうたさんに売った |
- あおいさんが、しょうたさんに土地を買う代理権を与えた。
- たけるさんは、本当は地盤が弱いと知っていたのに「地盤は調べ済みで問題ない」とうそを言った。
- しょうたさんはそれを信じ、あおいさんの代理人として土地を買う契約をした。
- あおいさんは、その場にいなかった。だまされたのは、しょうたさんか、あおいさんか。
答えは、しょうたさんです。契約の効果はあおいさんに生じますが(99条1項)、意思表示をしたのはしょうたさんです。詐欺があったかは、しょうたさんについて決めます(101条1項)。しょうたさんがだまされていれば、この契約は詐欺を理由に取り消せます(96条1項)。
たとえるなら、代理人は「本人の代わりに交渉の席に座る人」です。席でだまされたか、席で何を知っていたかは、座っていた人で決めます。ただし本物のルールでは、本人が席の外で知っていた事情を使って得をしようとする場面に、3項の例外があります。
条文ではこう決まっている
代理行為の瑕疵(101条)
- 1項(代理人がした意思表示):代理人が相手方にした意思表示の効力が、意思の不存在・錯誤・詐欺・強迫、またはある事情を知っていたこと(知らなかったことに過失があったこと)で左右されるときは、その事実の有無は「代理人について決する」。
- 2項(相手方が代理人にした意思表示):相手方が代理人にした意思表示の効力が、受けた者がある事情を知っていたこと(知らなかったことに過失があったこと)で左右されるときも、「代理人について決する」。
- 3項(本人が知っていた事情):「特定の法律行為をすることを委託された代理人」がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張できない。本人が過失によって知らなかった事情も同じ。
瑕疵(かし)は「きず」のことで、ここでは意思表示にきずがある(だまされた、勘ちがいした、など)という意味です。1項と2項は向きが違うだけで、どちらも「その場にいた代理人で決める」というルールです。3項は、本人が知っていたのに、知らない代理人を使って守られようとすることを防ぐ規定です。
代理人の行為能力(102条)
- 本文:制限行為能力者(未成年者・成年被後見人・被保佐人・同意の審判を受けた被補助人)が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。
- ただし書:制限行為能力者が「他の制限行為能力者の法定代理人として」した行為は、この限りでない(取り消せる)。
本文の理由は、契約の効果が代理人ではなく本人に生じることと、任意代理では本人が自分でその代理人を選んだことです。改正前の102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない。」の一文だけで、いまの形とただし書は令和2年4月1日施行の改正によるものです。法定代理では、本人(他の制限行為能力者)が代理人を選んでいないので、本人を守るために取り消せるようにしています。このとき取り消せる人には、本人である「当該他の制限行為能力者」も含まれます(120条1項かっこ書)。被保佐人が、13条1項の行為を制限行為能力者の法定代理人としてするには、保佐人の同意がいります(13条1項10号)。
当てはまる例・当てはまらない例
| 例 | だれの事情で決めるか | 結論 |
|---|---|---|
| しょうたさんがだまされて買った | 代理人(101条1項) | 詐欺を理由に取り消せる |
| たけるさんの本心でない申込みを、しょうたさんだけが見抜いていた | 代理人(101条2項) | 申込みは無効(93条1項ただし書) |
| あおいさんが特定の土地を頼み、その土地の事情を自分は知っていた | 本人の事情も入る(101条3項) | 代理人の不知を主張できない |
| 代理人のしょうたさんが17歳だった | 行為能力は問わない(102条本文) | 未成年を理由に取り消せない |
例1:代理人がだまされた(当てはまる例)
冒頭の場面です。地盤についてうそを言われ、それを信じたのはしょうたさんなので、詐欺があったかはしょうたさんで決めます(101条1項)。あおいさんがその場でだまされていなくても、この契約は詐欺を理由に取り消せます。反対に、しょうたさんがうそを見抜いていたのに契約したなら、だまされたとは言えません。
例2:相手の本心でない申込みを、代理人だけが見抜いていた(当てはまる例)
たけるさんが、本心ではないのに、しょうたさんに「この土地を100万円で売る」と申し込んだとします。本心でない意思表示(心裡留保=しんりりゅうほ)も原則は有効ですが、相手方が本心でないと知り、または知ることができたときは無効です(93条1項)。この申込みを受けたのは代理人のしょうたさんなので、知っていたかはしょうたさんで決めます(101条2項)。しょうたさんが見抜いていれば、あおいさんが知らなくても、申込みは無効です。
例3:本人だけが事情を知っていた(ひっかけやすい例)
たけるさん名義の土地は、もともとまりさんの土地で、二人が示し合わせたうその売買(虚偽表示)で名義をたけるさんに移したものだったとします。虚偽表示は無効ですが、その無効は「善意の第三者」(事情を知らずに取引に入った人)に対抗できません(94条1項・2項)。
あおいさんはうその売買だと知っていましたが、しょうたさんに「たけるさん名義のあの土地を買って」と特定して頼みました。しょうたさんは事情を知らずに買いました。この場合、あおいさんは、自分が知っていた事情について、しょうたさんが知らなかったことを主張できません(101条3項)。代理人が善意だからといって、本人のあおいさんが94条2項で守られるわけではありません。1項の原則(代理人で決める)だけで答えると誤る例です。
例4:未成年者が代理人だった(当てはまらない例)
しょうたさんが17歳だったとします。成年年齢は18歳なので、しょうたさんは未成年者です。それでも、あおいさんは、しょうたさんが未成年者であることを理由に、たけるさんとの契約を取り消せません(102条本文)。契約の効果を受けるのはあおいさんで、しょうたさんを選んだのもあおいさん自身だからです。未成年者が自分のためにした契約を取り消せる(5条2項)こととは、場面が違います。
例5:制限行為能力者が、別の制限行為能力者の法定代理人だった(ひっかけやすい例)
102条ただし書の場面です。法定代理人(親権者や成年後見人のように、法律の定めで代理人になる人)自身が制限行為能力者で、本人も制限行為能力者だったときは、行為能力の制限を理由に取り消せます。本人が代理人を選んでいないからです。「代理人の行為はどんな場合も取り消せない」と覚えると、このただし書を落とします。
なお、反対の向き、つまり本人側の代理人が相手方をだまして契約させた場面は、101条の場面ではありません。101条が定めているのは、代理人がだまされた、代理人が事情を知っていた、という代理人の側の事情です。だまされた相手方が取り消せるかは、詐欺の規定(96条)の問題として考えます。
似ているルールとの違い
代理の場面では、「だれの事情を見るか」が規定ごとに違います。
| 場面 | 見るのはだれの事情か | 条文 |
|---|---|---|
| 代理人がした意思表示のきず・善意悪意 | 代理人 | 民法101条1項 |
| 相手方が代理人にした意思表示 | 受けた代理人 | 民法101条2項 |
| 特定の行為を頼まれた代理人の行為 | 本人が知っていた事情も | 民法101条3項 |
| 表見代理が成り立つか | 相手方(代理権があると信じる正当な理由) | 民法110条 |
| 第三者がだました | 相手方が知っていた・知ることができたか | 民法96条2項 |
101条は「代理人の意思表示にきずがあるか」の話で、110条(表見代理)は「代理権がないのに本人に効果が生じるか」の話です。表見代理では、守られるかどうかを相手方の側の事情で決めます。問題文が「代理権がない」場面か、「代理権はあるが意思表示にきずがある」場面かを、最初に見分けます。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、代理が主な論点の問題は28問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では4問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも3問あります。代理行為の瑕疵だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 詐欺の有無を本人で決める、とする形:意思表示をしたのは代理人なので、代理人で決めます(101条1項)。
- 代理人が善意なら本人も守られる、とする形:特定の行為を頼んだ本人が知っていた事情は、代理人の不知で打ち消せません(101条3項)。
- 相手方の意思表示を受けた場面を本人で決める、とする形:受けた代理人で決めます(101条2項)。
- 未成年の代理人の行為は取り消せる、とする形:行為能力の制限を理由に取り消せません(102条本文)。自分のための契約(5条2項)と取り違えた形です。
- 代理人の行為は例外なく取り消せない、とする形:他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せます(102条ただし書)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんは、たけるさん名義の土地がまりさんとの虚偽表示で移されたものだと知りながら、その土地を買うことをしょうたさんに特定して頼んだ。しょうたさんが事情を知らずに買った場合でも、あおいさんは、94条2項の善意の第三者として保護されると主張できない。
答え:○ 分かれ目は、101条3項の本人の事情です。特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張できません(101条3項)。あおいさんは虚偽表示を知っていたので、しょうたさんの善意を使って94条2項の保護を受けることはできません。事情の有無は代理人で決める、という1項の原則だけで考えると✕に見えます。原則(1項)と例外(3項)を取り違えた考え方です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんは、17歳のしょうたさんに頼んで、たけるさんから土地を買う代理をしてもらった。しょうたさんは親の同意を得ていなかったので、あおいさんは、しょうたさんが未成年者であることを理由に、この売買契約を取り消すことができる。
答え:✕ 分かれ目は、代理人の行為能力です。制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができません(102条本文)。契約の効果を受けるのはあおいさんで、未成年のしょうたさんを選んだのもあおいさんだからです。正しくは、親の同意がなくても、未成年を理由には取り消せません。未成年者が自分のためにした契約を、法定代理人の同意がないことを理由に取り消せるルール(5条2項)と取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
たけるさんは、本心ではないのに、あおいさんの代理人しょうたさんに「この土地を100万円で売る」と申し込み、しょうたさんは本心でないと見抜いていたが、あおいさんは知らなかった。この申込みは、受けたしょうたさんが知っていたので、無効である。
答え:○ 分かれ目は、相手方が代理人にした意思表示を、だれの事情で決めるかです。心裡留保は、相手方が本心でないと知り、または知ることができたときは無効です(93条1項ただし書)。相手方が代理人にした意思表示で、受けた者が事情を知っていたかが問題になるときは、代理人について決めます(101条2項)。本人のあおいさんが知らなかったので有効だ、と考えると✕に見えます。契約の効果が本人に生じること(99条)と、事情をだれで決めるか(101条)を取り違えた考え方です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 代理人がした意思表示のきず(詐欺・強迫・錯誤など)と、事情を知っていたかは、代理人について決める(101条1項)。
- 相手方が代理人にした意思表示も、受けた代理人の事情で決める(101条2項)。
- 特定の行為を頼んだ本人は、自分が知っていた事情(過失で知らなかった事情も)について、代理人の不知を主張できない(101条3項)。
- 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由に取り消せない(102条本文)。
- 他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せる(102条ただし書。令和2年4月施行)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。102条ただし書の改正の趣旨は、法務省の債権法改正の説明資料で確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(5条、13条、93条、94条、96条、99条、101条、102条、110条、120条)
- 法務省「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」(代理人の行為能力に関する見直し)
- 法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」(令和2年4月1日施行)
このサイトで次に読むなら、94条2項の類推適用の記事です。例3で使った「善意の第三者」が、うその登記を信じた人の保護にどう広がるかを確かめられます。
働く人の法律試験ノート