親権の停止・親権の喪失・管理権の喪失:家庭裁判所が親権を制限する3つの場合(民法834条〜836条)

ひとことで言うと、親権の行使が子の利益を害するとき、家庭裁判所は、子や親族などの請求で、その父または母の親権を制限できます。制限の仕方は3つです。親権を失わせる親権喪失(834条)、2年以内の期間だけ止める親権停止(834条の2)、財産の管理だけを外す管理権喪失(835条)です。

3つは、要件の言葉の重さと、制限される範囲で見分けます。親権喪失だけが「著しく」の付いた重い要件で、しかも「2年以内に原因が消える見込みがあるときは、できない」というただし書があります。この記事では、条文の要件・期間・請求できる人を中心に扱います。申立ての書類や手続の実務は扱いません。

条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。この日に施行された家族法の改正(令和6年法律第33号)で、親権者の決め方や親権の行使の方法も変わっています。離婚後の親権者の決め方は婚姻と離婚をわかりやすくで扱っています。

身近な例で考えると

登場人物は次のとおりです(架空の話です)。ここでは、財産の管理が問題になる場面で考えます。

人物立場この話での役
りんさん中学生の子自分名義の預金を持っている
こうたさん父ゆきさんと結婚している親権者
ゆきさん母こうたさんと結婚している親権者
のぞみさんりんさんのおばりんさんの親族
  1. こうたさんとゆきさんは結婚しているので、2人ともりんさんの親権者です(818条2項)。親権は、父母が共同して行います(824条の2第1項)。
  2. りんさんは、親類から贈られたお金で、自分名義の預金を持っています。子の財産の管理は、親権者の仕事です(824条)。
  3. ところが、こうたさんは、りんさんの預金を自分の買い物に使い続け、管理のしかたが不適当になっていました。
  4. のぞみさんは、りんさんの親族として、家庭裁判所に、こうたさんの管理権喪失の審判を請求しました(835条)。
  5. 家庭裁判所は、こうたさんの管理権の行使が不適当で、りんさんの利益を害すると認め、管理権喪失の審判をしました。
  6. こうたさんは、りんさんの財産を管理できなくなります。しかし、りんさんの身の回りの世話や教育(監護・教育)をする権利と義務は残ります(820条)。財産の管理は、親権者のゆきさんが行います(824条の2第1項2号)。

たとえるなら、管理権喪失は「家の鍵は持ったままで、金庫の鍵だけを預かる」ことです。親権停止は「家の鍵を一定の期間だけ預かる」、親権喪失は「家の鍵を返してもらう」ことにあたります。ただし本物のルールでは、どの審判も、原因が消えれば家庭裁判所が取り消すことができます(836条)。親権喪失も、二度と戻らないという意味ではありません。

条文ではこう決まっている

3つの審判(834条〜835条)

  • 親権喪失(834条):父または母による虐待や悪意の遺棄があるとき、そのほか親権の行使が「著しく」困難または不適当で、子の利益を「著しく」害するとき。ただし、2年以内にその原因が消える見込みがあるときは、この審判はできない(ただし書)。
  • 親権停止(834条の2):親権の行使が困難または不適当で、子の利益を害するとき(1項)。家庭裁判所は、原因が消えるまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態や生活の状況などを考えて、2年を超えない範囲内で停止の期間を定める(2項)。
  • 管理権喪失(835条):父または母による「管理権」の行使が困難または不適当で、子の利益を害するとき。
  • 請求できる人(3つとも同じ):子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官。民法以外では、児童福祉法33条の7により、児童相談所長も、これらの審判とその取消しを請求できます。

審判の取消し・辞任(836条・837条)

  • 取消し(836条):834条本文・834条の2第1項・835条の原因が消えたときは、家庭裁判所は、本人またはその親族の請求で、それぞれの審判を取り消せる。
  • 辞任(837条1項):親権を行う父または母は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権または管理権を辞することができる。
  • 回復(837条2項):辞任の事由が消えたときは、家庭裁判所の許可を得て、親権または管理権を回復できる。

親権の中身と、未成年後見(820条〜824条・838条)

  • 親権は、子の利益のために行使する(818条1項)。監護・教育の権利義務(820条)、居所の指定(822条)、財産の管理と、財産に関する法律行為の代表(824条)が中身です。
  • 令和4年の改正(令和4年12月16日施行)で、親の懲戒の規定がなくなりました。今の821条は、子の人格を尊重し、年齢と発達の程度に配慮し、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない、と定めています。
  • 未成年後見は、未成年者に親権を行う者がないとき、または親権を行う者が管理権を有しないときに始まる(838条1号)。親権を行う者が管理権だけを持たない場合、未成年後見人は財産に関する権限だけを持つ(868条)。後見人を監督する後見監督人と、後見人と子の利益が相反するときの扱いは後見監督人と後見人が一人でできない行為にあります。

3つの審判を表で比べる

比べる点親権喪失親権停止管理権喪失
制限される範囲親権の全部親権の全部(期間だけ)財産の管理と代表
要件の言葉著しく困難・不適当、著しく害する困難・不適当、害する管理権の行使が困難・不適当、害する
期間定めなし2年を超えない範囲で定める定めなし
できない場合2年以内に原因が消える見込みがあるとき条文上の定めなし条文上の定めなし

覚え方の軸は「重さ」です。いちばん重い親権喪失は、要件に「著しく」が2回入り、2年以内に原因が消えそうなら使えません。その場合に使うのが、2年以内の期間を区切る親権停止です。2つの「2年」は、停止の期間の上限と、喪失のただし書の見込みの期間で、役割が違います。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:家庭裁判所が、親権の行使が不適当で子の利益を害すると認め、原因が消えるまで1年半ほどと見込んで、1年6か月の親権停止の審判をした。2年を超えない範囲なので、834条の2第2項に合います。
  • 当てはまらない例:家庭裁判所が、2年以内に原因が消える見込みがあると判断したのに、親権喪失の審判をした。834条ただし書により、この場合は親権喪失の審判はできません。
  • 当てはまらない例:こうたさんの管理権喪失の審判のあと、原因が消えたので、検察官が審判の取消しを請求した。取消しを請求できるのは「本人またはその親族」です(836条)。審判そのものを請求できる人と、取消しを請求できる人は同じではありません。
  • ひっかけやすい例:中学生のりんさん本人が、家庭裁判所に親権停止の審判を請求した。請求できる人の最初に「子」が入っているので、子本人も請求できます(834条の2第1項)。
  • ひっかけやすい例:こうたさんとゆきさんの両方に管理権喪失の審判があった。2人は監護・教育を続けますが、財産を管理する親権者がいなくなるので、未成年後見が始まります(838条1号)。この未成年後見人は、財産に関する権限だけを持ちます(868条)。

似ているルールとの違い

親権を外したり、親権者に代わる人を置いたりする仕組みはほかにもあります。だれが始めるか、何が外れるかで比べます。

仕組み始める人外れるもの
親権喪失・停止(834条・834条の2)子・親族・検察官などが請求し、家庭裁判所が審判親権の全部(停止は期間だけ)
管理権喪失(835条)同上財産の管理と代表
辞任(837条)親権者自身が、家庭裁判所の許可を得て親権または管理権
特別代理人(826条)親権者が家庭裁判所に選任を請求利益が相反する行為についての代理だけ

特別代理人は、親権そのものを制限する仕組みではありません。たとえば、こうたさんが自分の借金のために、りんさんの財産を担保に入れるような、親と子の利益がぶつかる行為についてだけ、家庭裁判所が選んだ人が子を代理します(826条1項)。親権者がこの手続をとらずにした行為の扱いは代理の応用の記事で、未成年者の行為の取消しの基本は制限行為能力者の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 期間の入れ替え:親権停止の期間は「2年を超えない範囲」(834条の2第2項)。「3年」「5年」などに替える形や、喪失にも期間があるとする形に注意します。
  • ただし書の位置:「2年以内に原因が消える見込み」で審判ができなくなるのは、親権喪失です(834条ただし書)。親権停止の要件ではありません。
  • 要件の重さの入れ替え:「著しく」が付くのは親権喪失だけ。親権停止・管理権喪失は「困難又は不適当」「害する」です。
  • 請求できる人:子本人が入る。民法で審判の取消しを請求できるのは「本人又はその親族」で、検察官は入らない(836条。児童福祉法33条の7で児童相談所長も請求できる)。
  • 管理権喪失の効果:外れるのは財産の管理と代表で、監護・教育の権利義務は残る(820条)。
  • 改正前の知識:親の懲戒の規定は令和4年の改正で削除された。今の821条は、子の人格の尊重と体罰などの禁止の規定です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
家庭裁判所は、こうたさんの親権の行使が不適当で、子のりんさんの利益を害すると認めた。原因が消えるまで3年ほどかかると見込まれた。この場合、家庭裁判所は、こうたさんの親権を3年間停止する審判をすることができる。

答え:✕ 分かれ目は、停止の期間の上限です。親権停止の期間は、家庭裁判所が「二年を超えない範囲内で」定めます(834条の2第2項)。正しくは、3年間の停止はできません。2年以内に原因が消える見込みがないときは、要件を満たせば親権喪失の審判の対象になりえます(834条)。喪失のただし書の「2年以内に原因が消滅する見込み」と、停止の期間の上限の「2年」を取り違えやすい形です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
中学生のりんさんは、父こうたさんの親権の行使が不適当で自分の利益が害されていると考えている。民法の規定によれば、りんさん本人も、家庭裁判所に、こうたさんの親権停止の審判を請求することができる。

答え:○ 分かれ目は、請求できる人に子本人が入るかです。親権停止の審判は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人または検察官の請求ですることができ、最初に「子」が挙がっています(834条の2第1項)。未成年者は自分で手続ができないと考えると✕に見えます。親権喪失(834条)と管理権喪失(835条)の請求も同じ顔ぶれです。民法で審判の取消しを請求できるのは「本人又はその親族」(836条)で、こちらとは顔ぶれが違います。

問3(このサイトのオリジナル問題)
こうたさんとゆきさんは結婚しており、2人ともりんさんの親権者である。2人の双方について管理権喪失の審判があった場合、2人がりんさんの監護・教育を続けていても、りんさんについて未成年後見が開始する。

答え:○ 分かれ目は、未成年後見が始まる場合です。未成年後見は、親権を行う者がないときだけでなく、親権を行う者が管理権を有しないときにも始まります(838条1号)。監護・教育をする親権者がいるので✕に見えますが、財産を管理する人がいなくなるからです。この場合の未成年後見人は、財産に関する権限だけを持ちます(868条)。一方だけが管理権を失った場合は、もう一方の親権者が財産を管理する(824条の2第1項2号)ので、未成年後見は始まりません。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 親権の制限は3つ:親権喪失(834条)・親権停止(834条の2)・管理権喪失(835条)。どれも家庭裁判所の審判。
  • 親権喪失だけが「著しく」の重い要件で、2年以内に原因が消える見込みがあればできない。
  • 親権停止は2年を超えない範囲で期間を定める。
  • 請求できるのは、子・親族・未成年後見人・未成年後見監督人・検察官。取消しは本人またはその親族の請求。どちらも、児童福祉法では児童相談所長も請求できる。
  • 管理権喪失でも監護・教育は残る。親権を行う者が管理権を持たないと未成年後見が始まり、後見人は財産の権限だけを持つ。

このサイトで次に読むなら、親子のルール(嫡出推定・認知・養子)です。親権の前提になる「だれが法律上の親か」の決まりがつながります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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