遺産分割(いさんぶんかつ)は、亡くなった人の遺産を、相続人のだれが何を受け継ぐか決める手続です。相続が始まると、遺産はいったん相続人みんなの共有になります。それを、話し合い(協議)か家庭裁判所の審判で分けます(民法907条)。
ひとことで言うと、分割の効力は「亡くなった時にさかのぼる」けれど、「第三者の権利は害せない」(909条)。預貯金は、分割の前でも、各相続人が「3分の1×自分の法定相続分」まで、1つの金融機関につき150万円を上限に、単独で払戻しを受けられます(909条の2)。
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、相続が主な論点の問題は27問(26回)で、直近10回では8問でした。借地借家法・区分所有法・不動産登記法を除く権利関係の論点では、直近10回で賃貸借(8問)と並んで最も多い数です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。遺産分割は、この相続の問題の中の肢として出る論点です。
この記事では、遺産分割の手続と効力を扱います。だれが相続人になるか、法定相続分、相続放棄、遺留分は相続の記事、遺言の方式と効力は遺言の記事にあります。
身近な例で考えると
父のまさおさんが亡くなりました。相続人は、妻のよしこさん(法定相続分2分の1)、長男のたかしさん(4分の1)、長女のなつみさん(4分の1)の3人です。遺産は、自宅の土地と建物、A銀行の普通預金1,200万円、田んぼです。
- まさおさんが亡くなった(相続の開始)。遺産は3人の共有になる。預金も、相続分に応じて当然に分かれるのではなく、遺産分割の対象になる。
- 葬儀の費用がいる。なつみさんは、A銀行で、1,200万円×3分の1×4分の1=100万円まで、ほかの2人の同意なしに払戻しを受けた(909条の2前段)。
- 3か月後、3人で話し合い、自宅はよしこさん、田んぼはたかしさん、預金の残りは3人で分けることにした(協議による分割)。
- なつみさんが先に受け取った100万円は、遺産の一部の分割で取得したものとみなされる(909条の2後段)。残りの分け方で、そのぶんを調整する。
- 分割の効力は、まさおさんが亡くなった時にさかのぼる。よしこさんは、亡くなった時から自宅を受け継いでいたことになる(909条本文)。
- よしこさんは自宅の相続登記をする。法定相続分(2分の1)を超えて受け継いだ部分は、登記をしないと第三者に主張できない(899条の2第1項)。
たとえるなら、遺産分割は、家族でケーキを切り分けることです。ただし本物のルールでは、切り分けた時からではなく、亡くなった時から自分の分だったことになります。その間に第三者が権利を手に入れていたときは、その人の権利は害せません。
条文ではこう決まっている
- 分割の基準(906条):遺産に属する物や権利の種類・性質、各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活の状況その他一切の事情を考えて分ける。
- 協議と審判(907条):遺言で禁止されている場合などを除き、共同相続人は、いつでも、協議で遺産の全部または一部を分割できる(1項)。協議が調わないとき、または協議ができないときは、各相続人は、全部または一部の分割を家庭裁判所に請求できる(2項)。
- 遺言による指定と禁止(908条1項):亡くなった人は、遺言で分割の方法を定めたり、第三者に定めることを任せたりできる。相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、分割を禁止することもできる。
- 相続人の契約・家庭裁判所による禁止(908条2項〜5項):共同相続人は、5年以内の期間を定めて、分割をしない契約ができる。更新も5年以内。家庭裁判所も、特別の事由があれば、5年以内の期間を定めて分割を禁止でき、更新も5年以内。どれも、期間の終わりは相続開始の時から10年を超えられない。
- 分割の効力(909条):遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼって効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
- 分割前の預貯金の払戻し(909条の2):各相続人は、相続開始の時の預貯金債権の額の3分の1に、自分の法定相続分を掛けた額まで、単独で権利を行使できる。1つの金融機関ごとの上限は法務省令で150万円。払戻しを受けた分は、一部の分割で取得したものとみなす。
- 分割前に処分された財産(906条の2):分割の前に遺産が処分されても、共同相続人全員の同意で、その財産が分割の時に遺産として残っているものとみなせる(1項)。相続人の一人が処分したときは、その人の同意はいらない(2項)。
- 預貯金も分割の対象(判例):最高裁判所大法廷平成28年12月19日決定は、共同相続された普通預金債権などは、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になるとした。150万円の上限は、標準的な当面の必要生計費や平均的な葬式の費用などを考えて法務省令で定める、と909条の2が書いている。
- 10年たった分割(904条の3):相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、生前の贈与(特別受益)や寄与分の調整(903条〜904条の2)を使わない。10年以内に家庭裁判所に分割を請求していた場合などは別。
分割を禁止できる期間
| だれが | 1回の期間 | 期間の終わりの上限 |
|---|---|---|
| 亡くなった人(遺言) | 相続開始から5年以内 | 相続開始から5年 |
| 相続人どうしの契約 | 5年以内(更新も5年以内) | 相続開始から10年 |
| 家庭裁判所 | 5年以内(更新も5年以内) | 相続開始から10年 |
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(払戻しの計算):なつみさんの例。1,200万円×1/3×1/4=100万円。150万円の上限より少ないので、100万円まで単独で払戻しを受けられる。
- 当てはまる(上限がかかる):A銀行の預金が6,000万円なら、計算上は6,000万円×1/3×1/4=500万円。しかし1つの金融機関ごとの上限は150万円なので、A銀行からは150万円まで。
- 当てはまる(勝手に売った財産):たかしさんが、分割の前に、遺産の車を勝手に売ってしまった。よしこさんとなつみさんの2人が同意すれば、たかしさんの同意がなくても、車が遺産として残っているものとみなして分けられる(906条の2第2項)。
- ひっかけやすい(分割の前の第三者):分割の前に、たかしさんが自宅の共有持分(4分の1)をけいすけさんに売り、登記もした。その後、分割で自宅はよしこさんのものになった。分割はさかのぼるが、けいすけさんの権利は害せない(909条ただし書)。
- ひっかけやすい(分割の後の第三者):分割で自宅をよしこさんが受け継いだが、登記をしないうちに、たかしさんが法定相続分の持分をけいすけさんに売り、けいすけさんが先に登記した。よしこさんは、法定相続分を超える部分を、登記なしにけいすけさんに主張できない(899条の2第1項)。
似ているルールとの違い
第三者が出てくる場面を、分割の前と後で並べます。
| 時期 | 第三者 | 結論 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 分割の前 | 相続人から持分を買い、登記した人 | 分割の効力で権利を奪えない | 909条ただし書 |
| 分割の後 | 相続人から法定相続分の持分を買い、先に登記した人 | 超える部分は登記がないと対抗できない | 899条の2第1項 |
遺産分割は、ほかの分野ともつながります。
| 分野 | つながり | 条文 |
|---|---|---|
| 不動産登記法 | 遺産分割で取得したら、知った日から3年以内に相続登記。法定相続分で登記した後の分割なら、分割の日から3年以内 | 76条の2 |
| 農地法 | 遺産分割で農地を取得するときは3条の許可はいらない。農業委員会への届出はいる | 3条1項12号・3条の3 |
相続登記の義務と過料は不動産登記法の記事、農地の許可がいらない場面の一覧は農地法の記事で確かめられます。相続が国土法の届出・登録免許税・不動産取得税・宅建業の免許などでどう扱われるかは、宅建の各分野で「相続」はどう扱われるかで1行ずつ並べています。
試験ではここをまちがえやすい
- 払戻しの計算:「預金×3分の1×法定相続分」で、1つの金融機関ごとに150万円まで。3分の1を掛け忘れる、上限を全体の上限と思う、の2つに注意します。
- 分割の禁止の期間:1回は5年以内、終わりは相続開始から10年まで。遺言による禁止は相続開始から5年を超えない期間です。
- さかのぼる効力と第三者:909条は「さかのぼる」けれど「第三者の権利を害せない」。分割の後の第三者は、899条の2の登記の問題です。
- 処分した相続人の同意:906条の2で、処分した本人の同意はいりません。全員の同意が要るのは、処分した人以外の相続人です。
- 農地の許可:遺産分割での取得は農地法3条の許可がいらず、届出がいります。売買と混ぜた選択肢に注意します。
宅建試験では、相続の問題の中で、遺産分割の効力や預貯金の払戻し、分割の禁止を肢として問う形や、登記・農地法と組み合わせた形も、確かめておく範囲です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
Aが死亡し、相続人は配偶者Bと子C・Dの3人である。相続開始の時のE銀行の普通預金は1,200万円。Cは、遺産分割の前でも、B・Dの同意なしに、E銀行から100万円まで払戻しを受けられる。
答え:○ 分かれ目は、払戻しの計算です。909条の2により、各相続人は、相続開始の時の預貯金の額の3分の1に自分の法定相続分を掛けた額まで、単独で権利を行使できます。Cの法定相続分は4分の1なので、1,200万円×1/3×1/4=100万円で、1つの金融機関ごとの上限150万円の範囲内です。「分割の前は全員の同意がないと払戻しできない」と考えると✕にしてしまいます。払い戻した分は、一部の分割で取得したものとみなされます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
Aの相続人B・C・Dは、相続開始の直後に、遺産の全部について、期間を10年と定めて、分割をしない旨の契約を結ぶことができる。
答え:✕ 分かれ目は、1回の契約で定められる期間です。908条2項は、共同相続人は「5年以内」の期間を定めて分割をしない契約ができるとし、その終わりは相続開始の時から10年を超えられないとしています。正しくは、1回の契約は5年以内で、更新も5年以内です(同条3項)。「10年」は期間の終わりの上限で、1回の期間と取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
Aの相続人B・C・Dのうち、Cが遺産分割の前に遺産の自動車を勝手に売却した。BとDが同意すれば、Cの同意がなくても、その自動車が分割の時に遺産として存在するものとみなすことができる。
答え:○ 分かれ目は、処分した本人の同意がいるかです。906条の2第1項は、共同相続人全員の同意で、処分された財産を遺産として存在するものとみなせるとし、同条2項は、相続人が処分したときはその相続人の同意はいらないとしています。「全員の同意」という1項の言葉だけを読むと✕にしてしまいます。
まとめ
- 遺産分割は、協議(いつでも、全部か一部)か、まとまらなければ家庭裁判所の審判(907条)。
- 分割を禁止できるのは、遺言なら相続開始から5年以内、契約・家庭裁判所なら1回5年以内で終わりは相続開始から10年まで(908条)。
- 分割はさかのぼって効力を生じるが、第三者の権利は害せない(909条)。分割後の第三者には、法定相続分を超える部分は登記がないと対抗できない(899条の2)。
- 預貯金は分割前でも「3分の1×法定相続分」、1つの金融機関ごとに150万円まで単独で払戻しできる(909条の2)。
- 分割前に処分された財産は、全員の同意で遺産に残っているとみなせる。処分した本人の同意はいらない(906条の2)。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」の相続の問題で続けて解けます。登記や農地法の肢と組み合わせて解くと、分野をまたぐ問題に慣れます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(899条の2、903条〜904条の3、906条、906条の2、907条、908条、909条、909条の2)
- e-Gov法令検索「民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令」(150万円)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(76条の2)
- e-Gov法令検索「農地法」(3条1項12号、3条の3)
- 裁判所「最高裁判所大法廷平成28年12月19日決定(平成27(許)11)」(共同相続された預貯金債権は遺産分割の対象)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
- 不動産適正取引推進機構(宅建試験の問題と正解の公開。出題数は当サイトが数えたもの)
働く人の法律試験ノート