一時使用(いちじしよう)の賃貸借は、工事の間だけ、建て替えの間だけのように、一時的に使うだけだとはっきりしている賃貸借です。借地借家法は、こうした賃貸借には、借りる人を手厚く守る条文の一部、または全部を使わないことにしています。
ひとことで言うと、借地は「一部だけ外れる」(25条)、借家は「全部外れる」(40条)です。一時使用の借地でも、登記した建物による対抗力や地代の増減請求は残ります。一時使用の借家は、借地借家法の借家の章が使われず、民法の賃貸借のルールだけになります。
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、借地借家法が主な論点の問題は、借地が37問、借家が40問で、直近10回ではどちらも10回すべてに1問ずつ出ていました。一時使用は、この中の個々の肢として出る論点で、肢ごとの数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。
この記事では、一時使用の借地と借家で、どの条文が外れ、どの条文が残るかを扱います。借地借家法の全体は借地借家法の記事にあります。
身近な例で考えると
登場人物は4人(社)です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ふみえさん | 地主 | 空き地を貸す |
| やまと建設 | 建設会社 | 近くのビル工事の間だけ、仮設の事務所を置くため土地を借りる |
| けんいちさん | 家主 | 一戸建てを貸す |
| りょうさん | 会社員 | 自宅の建て替えの間だけ、けんいちさんの家を借りる |
まず、借地の場面です。
- やまと建設は、ビル工事の1年間だけ、ふみえさんの空き地に仮設の事務所を置く約束で借りた。契約書にも、工事のための一時的な利用だと書いた。
- 工事が終わり、1年がたった。ふつうの借地なら、存続期間は30年になり(3条)、更新の決まりもある。
- しかし、一時使用がはっきりしているので、30年の期間や更新のルール、期間満了の建物買取請求は使われない(25条)。やまと建設は、事務所を取り払って土地を返す。
次に、借家の場面です。
- りょうさんは、自宅を建て替える10か月の間だけ、けんいちさんの家を借りた。建て替えの間の仮住まいであることを、2人とも分かったうえで契約した。
- ふつうの借家なら、1年未満の期間は「期間の定めがない」ものとみなされ(29条1項)、家主からやめるには正当の事由と6か月前の申入れがいる。
- 一時使用がはっきりしているので、借地借家法の借家の章は全部使われない(40条)。10か月がたてば、民法の賃貸借のとおり契約は終わる。
たとえるなら、一時使用は「短期のレンタル」です。ただし本物のルールでは、期間の長さだけで決まるわけではありません。何のために、どんな事情で、短い間だけ貸すのかがはっきりしていることが要ります。
条文ではこう決まっている
- 借地の一時使用(25条):臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、「第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は」適用しない(前条=24条)。
- 借家の一時使用(40条):「この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。」この章=第3章 借家(26条〜40条)。
- 判例(期間の長さ):最高裁判所第三小法廷昭和36年10月10日判決(旧借家法8条の事案)は、一時使用の建物賃貸借といえるために、期間が1年未満でなければならないものではないとした。家主が3年後に自分で店を始める計画で期間を3年に限り、借主もその事情を了解していたことなどから、一時使用にあたるとした事例。
- 民法のルール:借地借家法が外れた部分は、民法の賃貸借による。存続期間は50年まで(604条)。登記をすれば、その後に物権を取得した人に対抗できる(605条)。期間を定めなかったときは、いつでも解約の申入れができ、土地は1年、建物は3か月で終わる(617条1項)。
一時使用の借地で外れる条文・残る条文
| 条文 | 中身 | 一時使用の借地 |
|---|---|---|
| 3条〜8条 | 存続期間30年・更新・建て直しによる延長など | 外れる |
| 10条 | 登記した建物による対抗力 | 残る |
| 11条 | 地代の増減請求 | 残る |
| 13条 | 期間満了の建物買取請求 | 外れる |
| 17条・18条 | 借地条件の変更・更新後の建て直しの許可 | 外れる |
| 19条 | 譲渡・転貸の裁判所の許可 | 残る |
| 22条〜24条 | 定期借地権など | 外れる |
一時使用の借家は、26条(更新)、27条・28条(解約の申入れと正当の事由)、29条(1年未満の期間)、31条(引渡しによる対抗力)、32条(家賃の増減)、33条(造作買取)、38条(定期建物賃貸借)を含め、第3章が全部外れます。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(工事の仮設事務所):やまと建設の例。臨時の設備のため、と目的がはっきりしているので、25条の一時使用。
- 当てはまる(建て替えの間の仮住まい):りょうさんの例。建て替えの期間だけ、と2人とも分かって契約しているので、40条の一時使用。
- 当てはまらない(期間を短くしただけ):ふつうのアパートを、特別な事情もなく「期間6か月」で貸した。一時使用の事情がないので、ふつうの借家。期間は1年未満なので、期間の定めがないものとみなされる(29条1項)。
- ひっかけやすい(期間3年でも一時使用):上の昭和36年の判例のように、期間が1年以上でも、短い間だけ貸す事情がはっきりしていれば、一時使用にあたることがある。
- ひっかけやすい(一時使用の借地の対抗力):一時使用の借地でも、10条は外れていない。借地の上に自分名義で登記した建物があれば、土地を買った人に借地権を主張できる。
似ているルールとの違い
一時使用の借家と、まぎらわしい2つの契約を並べます。タダで貸す使用貸借は使用貸借の記事、民法の賃貸借の基本は賃貸借の記事にあります。
| 比べる点 | 一時使用の借家 | 定期建物賃貸借 | 使用貸借 |
|---|---|---|---|
| 借り賃 | ある | ある | ない(タダ) |
| 借地借家法 | 借家の章が全部外れる | 適用される(38条) | 適用されない |
| 引渡しでの対抗 | できない(登記なら民法605条) | できる(31条) | できない |
| 期間が来たら | 民法どおり終わる | 終わる(更新しない特約) | 民法どおり終わる |
定期建物賃貸借は、借地借家法の中の制度です。公正証書による等書面で契約し、更新がないことを前もって書面で説明するなどの手続がいります。一時使用は、借地借家法の外に出る契約で、こうした手続の定めはありません。そのかわり、一時使用であることが「明らか」でなければなりません。
試験ではここをまちがえやすい
- 借地と借家の入れかえ:借地は25条に挙がった条文だけが外れ、借家は40条で第3章が全部外れます。「一時使用の借地には借地借家法が全く適用されない」とする選択肢に注意します。
- 残る条文を外す型:一時使用の借地でも、10条(対抗力)・11条(地代の増減)・19条(譲渡・転貸の許可)は25条に挙がっていません。
- 引渡しの対抗力:一時使用の借家には31条が使われません。引渡しだけでは、その後に建物を買った人に対抗できません。
- 期間の長さだけで決める型:一時使用かどうかは、期間が1年未満かどうかでは決まりません。1年未満の期間は、ふつうの借家なら「期間の定めがない」扱いになる(29条1項)ので、その数字と混ぜた選択肢に注意します。
- 建物買取請求:一時使用の借地では13条が外れるので、期間満了の建物買取請求はできません。
宅建試験では、借地または借家の問題の肢の一つとして、一時使用でも残る条文、外れる条文を確かめておく範囲です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
Aは、一時使用のためであることが明らかな借地権の設定を受け、その土地の上に、自分名義で登記した建物を所有している。その後、地主Bが土地をCに売った場合、Aは、借地権をCに対抗できる。
答え:○ 分かれ目は、一時使用の借地で外れる条文に10条が入っているかです。25条が外すのは3条〜8条・13条・17条・18条・22条〜24条で、借地上の登記した建物による対抗力(10条1項)は外れていません。一時使用の借家では借家の章が全部外れる(40条)ので、その形と混ぜると✕にしてしまいます。外れるのは、30年の存続期間や更新、期間満了の建物買取請求などです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
Aは、自宅の建て替えの間だけ住むためであることが明らかな建物の賃貸借をBと結び、引渡しを受けた。その後、Bが建物をCに売った場合、Aは、賃貸借の登記がなくても、引渡しを受けているので賃借権をCに対抗できる。
答え:✕ 分かれ目は、一時使用の借家で31条が使えるかです。40条は、一時使用が明らかな建物の賃貸借には、借家の章(第3章)を適用しないとしています。正しくは、31条の「引渡しによる対抗力」は使えず、Cに対抗するには民法605条の登記がいります。ふつうの借家の31条や、一時使用でも10条が残る借地(25条)と取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
家主Bは3年後に自分でその店舗を使う計画があり、借主Aもその事情を了解して、期間を3年に限って店舗を貸した。期間が1年以上であっても、このような事情から短期間に限る趣旨が明らかであれば、一時使用の建物賃貸借にあたりうる。
答え:○ 分かれ目は、一時使用かどうかが期間の長さだけで決まるかです。最高裁判所第三小法廷昭和36年10月10日判決(旧借家法8条の事案)は、一時使用の建物賃貸借といえるために期間が1年未満でなければならないものではないとし、同じような事情の3年の賃貸借を一時使用とした事例です。「1年」という数字は、ふつうの借家で1年未満の期間を「期間の定めがない」とみなす29条1項の数字で、それと結びつけると✕にしてしまいます。
まとめ
- 借地の一時使用(25条):3条〜8条・13条・17条・18条・22条〜24条が外れる。10条・11条・19条などは残る。
- 借家の一時使用(40条):借家の章(第3章)が全部外れ、民法の賃貸借のルールだけになる。
- 一時使用の借家は、引渡しだけでは対抗できない。登記なら民法605条で対抗できる。
- 一時使用かどうかは、目的や事情から「明らか」かどうかで決まる。期間1年未満が要件ではない(昭和36年10月10日判決)。
- 定期建物賃貸借は借地借家法の中の制度、使用貸借はタダの契約で、一時使用とは別もの。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。借地・借家・使用貸借の肢をまぜて解くと、どの法律の守りがある契約かを見分ける練習になります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。
- e-Gov法令検索「借地借家法」(3条〜8条、10条、11条、13条、17条〜19条、22条〜25条、26条〜29条、31条〜33条、38条、40条)
- e-Gov法令検索「民法」(604条、605条、617条)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷昭和36年10月10日判決(昭和33(オ)208)」(一時使用のための借家権。期間が1年未満でなければならないものではない)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
- 不動産適正取引推進機構(宅建試験の問題と正解の公開。出題数は当サイトが数えたもの)
働く人の法律試験ノート