ひとことで言うと、国際収支統計は、居住者と非居住者の間の取引を記録した統計で、大きく経常収支・資本移転等収支・金融収支の3つと、誤差脱漏から成ります。経常収支は、貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計です(財務省の説明)。
4つの項目の間には、「経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0」という関係があります。これは、IMF国際収支マニュアル第6版に合わせて、平成26年(2014年)1月の取引から統計が見直されたときの形です(財務省・日本銀行のお知らせ)。見直しの前は「資本収支」という区分がありました。IMF(国際通貨基金)は国連の専門機関の一つで、専門機関の仕組みは国連の専門機関の記事で扱っています。
この記事の位置づけ:行政書士試験の基礎知識の4分野(一般知識・行政書士法等の業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点以上。6問分)を越えるには、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固めるのが、基礎知識の記事で書いた当サイトの方針です。この記事は、財務省・日本銀行の説明で確かめた項目の中身と式だけを扱います。日本の収支の額、黒字・赤字の移り変わり、その評価は書きません(2026年10月17日確認)。
身近な例で考えると
日本に住む人や会社が、外国の相手とお金のやりとりをする場面を、どの項目に入るかで分けます(架空の話です)。
- みなと電機が、外国の会社に家電を輸出した。財貨(物)の輸出なので、貿易収支に入る。
- みなと電機が、外国の運送会社に、運送の代金を払った。サービスの取引なので、サービス収支に入る。
- みなと電機が、外国にある子会社から配当金を受け取った。対外金融資産から生じた収益なので、第一次所得収支(投資収益)に入る。
- 会社員のさくらさんが、外国に移り住んでそこで働いている兄に、お祝いのお金を送った。対価を伴わない資産の提供なので、第二次所得収支に入る。
- みなと電機が、外国に新しく子会社をつくって出資した。金融資産の取引なので、金融収支(直接投資)に入る。
たとえるなら、国際収支は「国全体の家計簿」です。給料や買い物(経常収支)と、貯金や借金の増減(金融収支)を両方つけるので、きちんとつければ両方の合計が合うようにできています。ただし本物の統計は複式で記録され、資料のずれを調整する誤差脱漏という項目があります。
項目ごとの中身(財務省・日本銀行の説明)
| 大きな項目 | 中の項目 | 中身 |
|---|---|---|
| 経常収支 | 貿易・サービス収支 | 貿易収支(財貨の輸出入)とサービス収支(サービス取引)の合計 |
| 経常収支 | 第一次所得収支 | 対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等 |
| 経常収支 | 第二次所得収支 | 居住者と非居住者の間の、対価を伴わない資産の提供 |
| 資本移転等収支 | ― | 対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除、非生産・非金融資産の取得処分等 |
| 金融収支 | 直接投資・証券投資・金融派生商品・その他投資・外貨準備 | 金融資産にかかる、居住者と非居住者の間の債権・債務の移動を伴う取引 |
| 誤差脱漏 | ― | 統計上の誤差を調整するための項目 |
経常収支は、財務省の説明では、金融収支に計上される取引以外の、居住者・非居住者間で債権・債務の移動を伴うすべての取引の収支を示すものです。日本銀行の説明では、誤差脱漏は、一つの取引の貸方と借方の資料が同時に手に入らないことや、評価の方法の違いで、合計が合わなくなる分を調整します。
金融収支のプラスとマイナス
- 今の統計の金融収支は、資産・負債の増減に着目し、資産・負債の増加をプラス、減少をマイナスとします(財務省・日本銀行のお知らせ)。
- 日本銀行の説明では、金融収支の値が正のときは「純貸出」または「純資産増加」、負のときは「純借入」または「純資産減少」といいます。
- 見直しの前の投資収支は、資金の流出入に着目し、資産の増加をマイナスで表していました。対外投資(資産)の側の符号は、見直しで逆になりました。
自作の数値例で恒等式を検算する
架空の国の1年の国際収支です(単位は億円、数字はすべて説明のための架空のものです)。
| 項目 | 数字 | 中身の例 |
|---|---|---|
| 貿易収支 | +20 | 輸出100、輸入80 |
| サービス収支 | -5 | 受取30、支払35 |
| 第一次所得収支 | +15 | 海外からの配当・利子の受取が多い |
| 第二次所得収支 | -3 | 海外への仕送りなどの支払が多い |
| 経常収支 | +27 | 20-5+15-3 |
| 資本移転等収支 | -2 | 債務免除など |
| 金融収支 | +24 | 純貸出(純資産増加) |
| 誤差脱漏 | -1 | 式が0になるように調整 |
検算します。経常収支は20-5+15-3=27です。恒等式に入れると、27+(-2)-24+(-1)=0 となり、式が成り立ちます。誤差脱漏がないとすると、金融収支は経常収支と資本移転等収支の合計(27-2=25)と等しくなるはずで、実際の統計の値との差(25-24=1)を誤差脱漏が埋めています。
この形から、経常収支が黒字(プラス)で、資本移転等収支と誤差脱漏が小さいときは、金融収支もプラス(純貸出・純資産増加)になる、という向きが読み取れます。見直しの前の式は「経常収支+資本収支+外貨準備増減+誤差脱漏=0」で、符号の向きが今と違います。
似ている区分との違い
| 比べる点 | 見直しの前 | 今(平成26年1月の取引から) |
|---|---|---|
| 大きな項目 | 経常収支・資本収支・外貨準備増減 | 経常収支・資本移転等収支・金融収支 |
| 資本の取引 | 資本収支=投資収支+その他資本収支 | 投資収支と外貨準備増減を合わせて金融収支、その他資本収支は資本移転等収支 |
| 経常収支の中の名前 | 所得収支・経常移転収支 | 第一次所得収支・第二次所得収支 |
| 恒等式 | 経常収支+資本収支+外貨準備増減+誤差脱漏=0 | 経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0 |
為替の制度では、日本の円は、1973年(昭和48年)2月から変動相場制に移りました(経済企画庁「昭和48年度年次経済報告」)。比較優位と自由貿易のルールは比較優位の記事で扱っています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(第一次所得収支):外国の会社の株から受け取る配当金は、対外金融資産から生じた収益で、第一次所得収支の投資収益に入ります。
- 当てはまらない例(直接投資と配当):外国に子会社をつくる出資そのものは金融収支(直接投資)で、経常収支ではありません。そこから受け取る配当金が、第一次所得収支です。
- 当てはまらない例(債務免除):外国に貸したお金の返済を免除するのは、資本移転等収支に入ります。対価を伴わないお金の送り(仕送りなど)は第二次所得収支で、区別されます。
- ひっかけやすい例(金融収支の符号):外国の株を買って対外資産が増えると、今の金融収支ではプラスです。見直しの前の投資収支の向き(資産の増加はマイナス)で考えると逆になります。
試験ではここをまちがえやすい
- 経常収支の中身:貿易・サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支。資本移転等収支は経常収支に入らない。
- 第一次と第二次の取り違え:利子・配当金など(第一次)と、対価を伴わない資産の提供(第二次)。
- 第二次所得収支と資本移転等収支:対価のない提供でも、固定資産の提供・債務免除は資本移転等収支。
- 式の符号:金融収支の前だけがマイナス(経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0)。
- 古い区分の名前:「資本収支」は見直しの前の区分。今の統計にはない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
日本の政府が、外国の政府に貸していたお金の返済を免除した。この債務免除は、国際収支統計では、対価を伴わない資産の提供として第二次所得収支に計上される。
答え:✕ 分かれ目は、対価のない取引のうち、何が資本移転等収支に入るかです。財務省の説明では、資本移転等収支は、対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除のほか、非生産・非金融資産の取得処分等の収支を示します。正しくは、債務免除は資本移転等収支に計上されます。第二次所得収支も「対価を伴わない資産の提供」なので、言葉が似ていて取り違えやすい組み合わせです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
日本の会社が、外国に持つ子会社から配当金を受け取った。子会社への出資は直接投資として金融収支に計上されるが、この配当金の受取りは、金融収支ではなく経常収支の第一次所得収支に計上される。
答え:○ 分かれ目は、投資そのものと、投資から生じる収益の区別です。財務省の説明では、金融収支は直接投資・証券投資などの合計で、第一次所得収支は対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支です。日本銀行も、対外金融資産負債から生じた収益は第一次所得収支の投資収益に計上するとしています。「直接投資に関係するお金だから金融収支」と考えると✕に見えます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
ある年の国際収支で、経常収支が30億円の黒字、資本移転等収支と誤差脱漏がどちらも0だった。この場合、今の統計の金融収支はマイナス30億円となり、純借入(純資産減少)を表す。
答え:✕ 分かれ目は、今の統計での金融収支の符号です。恒等式は「経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0」なので、30+0-金融収支+0=0 から、金融収支はプラス30億円です。正しくは、プラスは「純貸出」または「純資産増加」を表します(日本銀行の説明)。資産の増加をマイナスで表した見直し前の投資収支の向きで考えると、○にしてしまいます。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 経常収支=貿易・サービス収支+第一次所得収支(利子・配当金等)+第二次所得収支(対価を伴わない資産の提供)。
- 資本移転等収支=対価の受領を伴わない固定資産の提供・債務免除など。金融収支=直接投資・証券投資・金融派生商品・その他投資・外貨準備。
- 経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0。金融収支は資産・負債の増加がプラス。
- 平成26年1月の取引から、IMF国際収支マニュアル第6版に合わせて見直し。「資本収支」はそれより前の区分。
このサイトで次に読むなら、比較優位の記事です。貿易収支に記録される輸出入が、どんな考え方とルールのもとで行われているかを確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
項目の中身は財務省の用語の解説、恒等式と見直しの中身は財務省・日本銀行のお知らせと日本銀行のFAQで確かめました(2026年10月17日確認)。数値例はこの記事のための架空のもので、計算は本文で検算しています。
- 財務省「国際収支 用語の解説」(経常収支、貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支、資本移転等収支、金融収支)
- 財務省・日本銀行「『国際収支関連統計』の見直しを行います」(2013年10月8日)(IMF国際収支マニュアル第6版、平成26年1月の取引計上分から、新旧の恒等式、金融収支の符号、所得収支・経常移転収支の名称の変更)
- 日本銀行「国際収支関連統計のFAQ」(誤差脱漏、純貸出・純借入、投資収益、旧統計の資本収支)
- 内閣府ウェブサイト掲載 経済企画庁「昭和48年度年次経済報告」(昭和48年2月以降の変動相場制)
働く人の法律試験ノート