不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆるウイルス作成罪):作成・提供・供用・取得・保管と、不正アクセス禁止法との違い

ひとことで言うと、不正指令電磁的記録に関する罪は、使う人の意図に反する動作をさせる不正なプログラムなどを、正当な理由がないのに、人の電子計算機で実行させる目的で作成・提供・取得・保管したり、実際に人の電子計算機で実行される状態に置いたり(供用)することを罰する刑法の罪です(168条の2・168条の3)。

「ウイルス作成罪」は通称です。刑法の第19章の2の章名は「不正指令電磁的記録に関する罪」で、条文は「ウイルス」という言葉を使っていません。この罪は、情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年法律第74号)で設けられました(法務省の資料)。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、情報通信・個人情報保護の分野の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問を、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。プログラムの技術の仕組みや個別の事件には入らず、令和8年4月1日時点の条文と、最高裁判所の判断の基準だけを整理します(2026年10月17日に e-Gov 法令検索と裁判所ウェブサイトで確認)。

身近な例で考えると

行政書士試験の受験生のめいさんは、会社でシステムの管理をしています。同じ部署のこうたさんと、「どの段階から罪になるのか」を条文で確かめてみました。ここでは、開くと、使う人に知らせないまま中のファイルを消してしまうプログラム(Xと呼びます)で考えます。

  1. ある人が、正当な理由がないのに、他人のパソコンで動かす目的でXを作った。→作成(168条の2第1項)。
  2. その人が、Xがそういうプログラムだと知っている別の人にXを渡した。→提供(同項)。
  3. 受け取った人が、他人のパソコンで動かす目的でXを持ち続けた。→取得・保管(168条の3)。
  4. Xを、他人のパソコンで実行される状態に置いた。→供用(168条の2第2項。条文の言葉は「人の電子計算機における実行の用に供した」)。そうしようとして途中で果たせなかったときは、供用の未遂(同条3項)。

めいさんが気づいたのは、パソコンが実際に壊れたり、だれかの業務が止まったりする前の段階から罪になる、という点です。たとえると、この罪は「火事を起こす道具を、人の家で使うつもりで作る・渡す・持つ・仕掛ける」段階を罰する決まりです。ただし本物のルールでは、どの行為も「正当な理由がないのに」と、人の電子計算機で実行させる目的(供用では、実際に人の電子計算機で実行される状態に置くこと)が要件です。

条文ではこう決まっている

対象になる記録(168条の2第1項1号・2号)

  • 1号:人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、またはその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録。
  • 2号:1号のほか、1号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録。

1号の要件は、「意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき」(反意図性)と、「不正な」(不正性)の2つに分けて考えられています。

行為と法定刑

行為条文要件の要点法定刑
作成・提供168条の2第1項正当な理由がない。人の電子計算機における実行の用に供する目的。1号・2号の記録3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
供用168条の2第2項正当な理由がない。1号の電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した1項と同じ
供用の未遂168条の2第3項2項の罪の未遂罰する
取得・保管168条の3正当な理由がない。168条の2第1項の目的。1号・2号の記録2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金

未遂を罰する3項は「前項の罪の未遂は、罰する」と書き、2項(供用)だけを指しています。刑の名前は、令和7年6月1日施行の刑法等の改正のあとの「拘禁刑」です。

「意図に反する」「不正な」の判断(最高裁判所の判例)

最高裁判所第一小法廷令和4年1月20日判決(令和2年(あ)第457号、不正指令電磁的記録保管被告事件)は、2つの要件の判断の仕方を次のように示しました(裁判要旨)。

  • 反意図性:そのプログラムについて「一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作が異なる場合に肯定される」。一般の使用者が認識すべき動作は、プログラムの動作の内容に加え、プログラムに付された名称、動作に関する説明の内容、想定される利用方法等を考慮して認定する。
  • 不正性:電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護するという観点から、「社会的に許容し得ないプログラム」について肯定される。判断には、動作の内容に加え、その動作が電子計算機の機能や情報処理に与える影響の有無・程度、プログラムの利用方法等を考慮する。

事案は、ウェブサイトの閲覧者の同意を得ずに、その電子計算機を使って仮想通貨のマイニングを行わせるプログラムコードでした。判決は、判示の事情の下で、反意図性は認められるが、閲覧者の電子計算機の機能に与える影響の程度や、社会的に受け入れられている広告の表示のプログラムとの比べなどから、社会的に許容し得ないものとはいえず不正性は認められないとして、不正指令電磁的記録に当たらないとしました。2つの要件の一方だけでは足りない、という点が読みどころです。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:正当な理由がないのに、他人のパソコンで動かす目的でXを保管していた。自分で作っていなくても、168条の3の保管に当たります。
  2. 当てはまる例:Xを他人のパソコンで実行される状態に置こうとしたが、途中で果たせなかった。供用の未遂として罰せられます(168条の2第3項)。
  3. 当てはまらない例:Xを作り始めたが、完成させずにやめた。未遂を罰する3項は供用(2項)だけを対象にしているので、作成の未遂を罰する規定はありません。
  4. ひっかけやすい例:1号の電磁的記録そのものではないが、その不正な指令を記述した記録。2号は「電磁的記録その他の記録」と書き、作成・提供(1項)と取得・保管(168条の3)の対象に入れています。ただし供用(2項)の対象は1号の電磁的記録だけです。
  5. ひっかけやすい例:使う人の想定と違う動きをするが、影響が小さく社会的に受け入れられている仕組みと変わらないプログラム。反意図性があっても、不正性がなければ不正指令電磁的記録に当たりません(上の判例)。

似ているルールとの違い

罪何をすると罪か法定刑
不正指令電磁的記録作成等(刑法168条の2)不正なプログラムなどの作成・提供・供用3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
不正指令電磁的記録取得等(刑法168条の3)同じ目的での取得・保管2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
不正アクセス行為(不正アクセス禁止法3条・11条)他人の識別符号を無断で入力するなどして、制限されている利用をできる状態にする3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
電子計算機損壊等業務妨害(刑法234条の2)電子計算機を損壊し、または虚偽の情報・不正な指令を与えるなどして、使用目的に反する動作をさせ、人の業務を妨害する5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金。未遂も罰する

見分けの軸は「何が起きたら罪か」です。168条の2・168条の3は、業務の妨害や不正なログインが起きる前の段階を罰します。234条の2は、人の業務を妨害したことが要件です。不正アクセス禁止法は、プログラムではなく、他人のIDなどを使って利用の制限をすり抜ける行為を罰します。不正アクセス禁止法の定義は情報通信の用語の記事で扱っています。罪と刑はあらかじめ法律で決めておく、という罪刑法定主義の考え方は人身の自由の記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 通称と条文:「ウイルス作成罪」は通称。条文は「不正指令電磁的記録」。作成だけでなく提供・供用・取得・保管も罰する。
  • 未遂:未遂を罰するのは供用(168条の2第2項)だけ。作成・提供・取得・保管の未遂は罰しない。
  • 法定刑:作成・提供・供用は3年・50万円、取得・保管は2年・30万円。不正アクセス行為は3年・100万円、234条の2は5年・100万円。
  • 2つの要件:反意図性は「一般の使用者が認識すべき動作」が基準。不正性は「社会的に許容し得ない」か。両方がそろって当たる。
  • 記録の範囲:2号の「その他の記録」は作成・提供・取得・保管の対象。供用の対象は1号の電磁的記録だけ。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
Aは、正当な理由がないのに、不正指令電磁的記録を、Bのパソコンで実行される状態に置こうとしたが、途中でBに気づかれて果たせなかった。この場合、Aは刑法168条の2の罪の未遂として処罰の対象となる。

答え:○ 分かれ目は、未遂を罰する範囲です。168条の2第2項は、正当な理由がないのに1項1号の電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者(供用)を1項と同じく罰し、3項は「前項の罪の未遂は、罰する」としています。何も起きていないので罪にならない、と考えると✕に見えます。ただし3項が指すのは2項の供用だけなので、作成や提供の途中でやめた場合を未遂として罰する規定はありません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
Aは、他人が作成した不正指令電磁的記録を受け取り、正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で保管していた。Aは、自ら作成も提供もしていなくても、刑法上処罰の対象となる。

答え:○ 分かれ目は、持っているだけの段階が罪になるかです。168条の3は、正当な理由がないのに、168条の2第1項の目的(人の電子計算機における実行の用に供する目的)で、同項各号の記録を取得し、または保管した者を、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処するとしています。「ウイルス作成罪」という通称から、作った人だけが罰せられると考えると✕にしがちです。刑は作成・提供(3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)より軽く決められています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
最高裁判所の判例は、刑法168条の2第1項の「その意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき」という要件の有無を、そのプログラムを実際に実行させられた個々の使用者が、その動作を認識していたかどうかで判断するとしている。

答え:✕ 分かれ目は、判断の基準となる人です。最高裁判所第一小法廷令和4年1月20日判決は、この要件(反意図性)は、そのプログラムについて「一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作が異なる場合に肯定される」とし、名称や動作の説明の内容、想定される利用方法等も考慮して認定するとしています。正しくは、個々の使用者の実際の認識ではなく、一般の使用者が認識すべき動作が基準です。条文の「人が」「その意図」という言葉から、実行させられた一人ひとりの意図を基準にすると読み違えた誤りです。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 章名は「不正指令電磁的記録に関する罪」(平成23年法律第74号で新設)。「ウイルス作成罪」は通称。
  • 作成・提供・供用は3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金。取得・保管は2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金。
  • 未遂を罰するのは供用だけ。どの行為も「正当な理由がないのに」が要件。
  • 判例:反意図性は一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作のずれ、不正性は社会的に許容し得ないか。両方そろって当たる。

このサイトで次に読むなら、電気通信事業法と通信の秘密の記事です。同じ情報通信の分野で、通信の秘密を侵した者の罰則を、主語と刑の重さで整理しています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の内容を、判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確かめました(2026年10月17日確認)。

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