行政書士試験の情報通信の用語:覚えておく用語と、深追いしない線引き

情報通信は、基礎知識(14題・択一式)の出題分野の一つです。試験研究センターは「情報通信・個人情報保護」を出題分野として示していますが、どの用語が出るかという細かい範囲は示していません。だから、用語を片っ端から覚えるより、どこで線を引くかを先に決めるほうが、限られた時間の使い方として合理的です。

当サイトの線引きは3段です。①法律に定義がある用語は、条文の言葉で正確に覚える(不正アクセス行為、電子署名など)。②総務省などの公的機関が説明している基本用語は、意味を一言で言えるようにする(IPアドレス、公開鍵暗号、フィッシングなど)。③製品名・規格の細かい番号・技術の内部の仕組みは、深追いしない。①は条文で答えが一つに決まるので、点に結びつきやすい部分です。

基礎知識全体の範囲と足切り(令和7年度の合否判定基準では24点)の考え方は行政書士試験の「基礎知識」で扱っています。同じ分野の個人情報保護は記事の最後で案内し、この記事は情報通信の用語に絞ります。

身近な例で考えるとどうなるか

会社員のみなとさんの一日で、用語がどこに出てくるかを見ます。

  1. 朝、銀行を名乗るメールが届いた。「口座が止まります」とあり、リンク先にIDとパスワードを入れる画面があった。これはフィッシング。銀行になりすましてIDの入力を求めるメールを送ること自体が、不正アクセス禁止法で禁止されている(7条)。
  2. 昼、元同僚が、みなとさんのIDとパスワードを使って、無断で会社のシステムにログインしていたと分かった。これは不正アクセス行為(2条4項1号)で、3条で禁止されている。
  3. 夕方、取引先との契約を電子データで結び、電子署名をした。本人による電子署名があれば、その電子データは「真正に成立したものと推定する」(電子署名法3条)。
  4. 夜、自宅のパソコンのファイルが暗号化され、元に戻す代わりにお金を要求された。これはランサムウェア。

1〜3は法律の条文で答えが決まる話(①の段)、4は公的機関の説明で意味を言えればよい話(②の段)です。ただし本物の試験では、用語の意味だけでなく、法律の要件(だれの承諾がないか、何を目的にしたか)がずらされます。①の段は条文の言葉まで確かめます。

①の段:法律に定義がある用語

不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)

用語・条文定義・中身の急所
——
識別符号(2条2項)アクセス管理者が利用者を区別するために付けた符号。パスワードのように「みだりに第三者に知らせてはならない」とされる符号や、顔・声・署名から作る符号
アクセス制御機能(2条3項)入力された符号が正しいかを確かめて、利用の制限を解除する機能
不正アクセス行為(2条4項)①他人の識別符号を、アクセス管理者や本人の承諾なく入力して使えるようにする、②識別符号以外の情報や指令を入力して制限をすり抜ける、など
禁止される行為(3条〜7条)不正アクセス行為(3条)、不正アクセスのための他人の識別符号の取得(4条)、正当な理由のない他人の識別符号の提供(5条)、不正に取得された識別符号の保管(6条)、管理者になりすました識別符号の入力の要求(7条)
アクセス管理者の防御措置(8条)識別符号の適正な管理などに「努める」(努力義務)

罰則の重さも、言い分けの急所です。

  • 不正アクセス行為(3条違反):3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(11条)。
  • 識別符号の不正取得(4条)・不正保管(6条)・入力の不正要求(7条)、相手の不正アクセスの目的を知りながらの提供(5条):1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(12条)。
  • それ以外の5条違反(目的を知らない提供):30万円以下の罰金(13条)。

7条が、いわゆるフィッシングにあたる行為です。条文は「フィッシング」という言葉を使っていませんが、アクセス管理者になりすますなどして、識別符号の入力を求める表示をネットに出したり、メールを送ったりすることを禁じています。だれかが実際に入力したかどうかは要件ではありません。

電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)

  • 電子署名(2条1項):電磁的記録に記録できる情報について行われる措置で、次の2つの両方にあたるもの。①その情報が、措置をした者の作成に係るものであることを示すためのもの。②その情報について改変が行われていないかどうかを確認できるもの。
  • 認証業務(2条2項):利用者が電子署名をしたことを確かめるために使う事項が、その利用者のものであることを証明する業務。
  • 特定認証業務(2条3項):方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令の基準に合う電子署名について行われる認証業務。
  • 効果(3条):本人による電子署名が行われているとき、電磁的記録は「真正に成立したものと推定する」。「みなす」ではありません。

サイバーセキュリティ基本法とデジタル手続法

  • サイバーセキュリティ(サイバーセキュリティ基本法2条):電磁的方式で記録・発信・伝送・受信される情報の漏えい・滅失・毀損の防止などの安全管理のために必要な措置と、情報システム・情報通信ネットワークの安全性・信頼性の確保のために必要な措置が講じられ、その状態が適切に維持管理されていること。令和8年4月1日時点の条文で確かめました(この法律は同年10月1日にも改正が施行されましたが、4月1日より後なので令和8年度試験の範囲外です)。
  • デジタル手続法の基本原則(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律2条):①手続と関係する事務の一連の流れが情報通信技術で行われるようにする、②一度行政機関に出した情報は、同じ内容をもう一度出さなくてよいようにする、③多数の手続をまとめて一度に行えるようにする。行政の説明資料では、それぞれ「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクテッド・ワンストップ」と呼ばれています。

②の段:公的な説明で意味を確かめた基本用語

総務省の「国民のためのサイバーセキュリティサイト」の用語集で意味を確かめた用語です。意味を一言で言えれば足ります。

用語一言の意味取り違えやすい相手
———
IPアドレスネットワークで機器を区別するため、各コンピュータに割り振られる一意の数字の組み合わせドメイン名(人が読む名前)
DNSドメイン名をIPアドレスに変換する仕組みIPアドレスそのもの
URLインターネット上の情報の場所を示す、住所のような文字列ドメイン名(URLの一部)
CookieWebサーバが利用者のコンピュータに保存する管理用のファイルログ(サーバ側の記録)
SSL/TLSインターネット上のデータを暗号化し、なりすましを防ぐための約束ごと(プロトコル)VPN
VPN多くの人が使う網を通っても、暗号化などで専用線のような状態をつくる技術・機器SSL/TLS
共通鍵暗号暗号化と復号で同じ鍵を使う公開鍵暗号
公開鍵暗号暗号化と復号で異なる鍵を使う共通鍵暗号
多要素認証知っているもの・持っているもの・本人自身に関するもののうち、2つ以上で本人を確かめる同じ種類を2回使う認証
マルウェア攻撃をするソフトウェア(コード)の総称ウイルス(その一部)
ランサムウェアファイルを暗号化して使えなくし、復旧と引き換えに身代金を求めるマルウェアボット
ボットコンピュータを外部から遠隔操作するためのウイルスの一種ランサムウェア
フィッシング本物そっくりの偽サイトに誘導して、重要な情報を入力させてだまし取る行為標的型攻撃
標的型攻撃特定の組織を狙って、機密情報やID・パスワードなどを盗もうとする攻撃不特定多数を狙う迷惑メール
DoS攻撃・DDoS攻撃大量の要求を送りつけてサーバを使えなくする攻撃。DoSは1台から、DDoSは多数のコンピュータから一斉に不正アクセス
ファイアウォール外部と内部のネットワークの境目に置き、外からの不正な侵入を防ぐしくみVPN

総務省の用語集は、電子署名について、一般に公開鍵暗号方式を使い、秘密鍵で作って公開鍵で確かめる、と説明しています。法律の定義(作成者を示す・改変がないか確かめられる)と、技術の説明(公開鍵暗号を使う)を、分けて覚えると混ざりません。

③の段:深追いしないもの

次のものは、当サイトでは覚える対象にしていません。法令の条文や公的な用語集で意味が一つに決まらず、時間をかけても点に結びつく見込みが立ちにくいからです。

  • 特定の会社の製品名・サービス名や、その機能の違い。
  • 規格の細かい番号や版(無線LANの規格の枝番、暗号の方式のバージョンの数字など)。
  • 暗号や通信の内部の計算の仕組み。
  • 意味がまだ定まっていない新しい言葉の、言葉の定義そのもの。

新しい言葉に出会ったときは、「法律に定義があるか」「公的機関の用語集にあるか」の順で確かめ、どちらにもなければ深追いしない、と決めておくと迷いません。

試験ではここをまちがえやすい

  • 不正アクセス行為の要件を入れ替える型:他人の識別符号の入力が不正アクセス行為になるのは、アクセス管理者や識別符号の本人の承諾がないときです。「パスワードを知っていたから許される」わけではありません。
  • フィッシングに結果を求める型:7条は、なりすましてIDの入力を求める表示やメールそのものを禁じています。だれかが入力したかは問いません。
  • 電子署名の効果を言い換える型:3条は「推定する」。「みなす」とする肢は誤りです。
  • 電子署名の要件を一つ外す型:2条1項は、作成者を示すことと、改変の有無を確かめられることの両方を求めます。
  • 努力義務を義務にする型:アクセス管理者の防御措置(8条)は「努める」です。
  • 用語の組を入れ替える型:公開鍵暗号と共通鍵暗号、DoSとDDoS、DNSとIPアドレスは、説明を入れ替えた肢が作りやすい組です。

基礎知識で何問を、どの分野から取るかは、行政書士試験の得点戦略とあわせて考えます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みなとさんは、以前同僚のBから業務の都合でパスワードを教えてもらっていた。退職後、Bにもシステムの管理者にも断らずに、BのIDとパスワードをネットワーク経由で入力して会社のシステムにログインした場合、みなとさんの行為は不正アクセス行為にあたる。

答え:○ 分かれ目は、入力についての承諾があるかです。不正アクセス禁止法2条4項1号は、アクセス管理者や識別符号の本人の承諾を得ずに、他人の識別符号を入力して利用できる状態にすることを不正アクセス行為としています(3条で禁止、11条で3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)。以前に教えてもらっていたので✕に見えますが、今回のログインについて承諾はありません。パスワードを知っていることと、使うことの承諾は別です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
取引先との契約を記録した電磁的記録に、本人による電子署名が行われているときは、その電磁的記録は真正に成立したものとみなされ、相手方は、本人が作成したものではないと反証して争うことはできない。

答え:✕ 分かれ目は、「推定」か「みなす」かです。電子署名法3条は、本人による電子署名が行われているときは、電磁的記録は「真正に成立したものと推定する」としています。正しくは、推定なので、反対の事実を証明して争う余地があります。「みなす」は反証を許さない言い方で、法律の効果の強さを入れ替えた誤りです。

問3(このサイトのオリジナル問題)
Aは、銀行になりすまして、IDとパスワードの入力を求める偽のログイン画面へのリンクを付けたメールを、銀行の利用者に送った。まだ誰もIDなどを入力していなくても、Aの行為は不正アクセス禁止法に違反する。

答え:○ 分かれ目は、結果が要件かどうかです。不正アクセス禁止法7条は、アクセス管理者になりすますなどして、識別符号の入力を求める内容のメールを利用者に送ることなどを禁じています(12条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)。だれも入力していないので✕に見えますが、入力を求める行為そのものが禁止の対象です。実際に他人のIDで入力してログインすれば、別に不正アクセス行為(3条)にあたります。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 情報通信は細かい範囲が公表されていない。①法律の定義、②公的な用語集、③深追いしない、の3段で線を引く。
  • 不正アクセス行為は、承諾なく他人の識別符号を入力するなど。3条違反は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。
  • フィッシングにあたる入力の不正要求(7条)は、だれも入力していなくても違反。
  • 電子署名は「作成者を示す」と「改変がないか確かめられる」の両方。効果は「推定」。
  • 基本用語は、公開鍵暗号と共通鍵暗号、DoSとDDoS、DNSとIPアドレスのように組で覚える。

次に読むなら、行政書士試験の個人情報保護法がおすすめです。情報通信と同じ分野として出題される個人情報保護法は、条文の定義で答えが決まる部分が多く、この記事の①の段と同じ覚え方が使えます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。