特別支配株主の株式等売渡請求:90%以上を持つ株主が残りの株を取得する手続と、売渡株主の救済

ひとことで言うと、株式等売渡請求(かぶしきとう うりわたしせいきゅう)は、会社の議決権の90%以上を持つ株主が、残りの株主全員から株を強制的に買い取るしくみです(会社法179条)。この株主を特別支配株主(とくべつしはいかぶぬし)といいます。

株主総会の決議はいりません。かわりに、株を買われる会社(対象会社)の承認がいります。取締役会を置く会社なら、承認は取締役会の決議です(179条の3)。株を手放す側(売渡株主)は、差止め・価格決定の申立て・無効の訴えで争えます。この記事では、上場廃止や税などの実務は扱わず、試験の論点として手続と救済を整理します。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

舞台は、取締役会を置く「みどり物産株式会社」です。株を自由に売り買いできない会社(公開会社でない会社)で、発行している株は1種類だけです。

人物・会社立場持っている議決権
あおば商事親会社86%
あおば運輸あおば商事が株を全部持つ子会社6%
こうたさん個人の株主5%
ほかの個人株主個人の株主3%
  1. あおば商事は、みどり物産を完全に自分のグループの会社にしたいと考えた。
  2. あおば商事だけでは86%だが、株を全部持つ子会社あおば運輸の6%と合わせると92%になる。これで特別支配株主に当たる(179条1項)。
  3. あおば商事は、1株あたりの代金や取得日などを決めて、みどり物産に通知し、承認を求めた(179条の2・179条の3第1項)。
  4. みどり物産の取締役会が承認した。みどり物産は、取得日の20日前までに、こうたさんたちに通知した(179条の4第1項)。
  5. 取得日に、こうたさんたちの株は全部あおば商事のものになった(179条の9第1項)。こうたさんは代金を受け取る立場になる。

たとえると、マンションの部屋の9割以上を持つ人が、残りの部屋を決まった値段で全部買い取れるようなものです。ただし本物のルールでは、買い取る人が直接「売ってください」と頼むのではありません。会社が承認し、会社から株主に知らせることで、請求があったものとみなされます(179条の4第3項)。

条文ではこう決まっている

だれが請求できるか(179条)

  • 特別支配株主とは、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を持つ者。定款でこれを上回る割合を定めたときは、その割合(179条1項)。
  • 数えるときは、その者が発行済株式の全部を持つ会社など(特別支配株主完全子法人)の議決権も合わせる。
  • 請求の相手は、対象会社と特別支配株主自身を除く株主の全員。特別支配株主完全子法人には、請求しないこともできる(179条1項ただし書)。
  • 株と一緒に、新株予約権(決まった値段で株を受け取れる権利)の売渡しも請求できる(179条2項)。

決めること・承認・通知(179条の2〜179条の5)

  • 特別支配株主は、株の対価として交付する金銭の額(または算定方法)、その割当て、取得日などを定める(179条の2第1項)。割当ては、持っている株の数に応じたものでなければならない(同条3項)。
  • 特別支配株主は、対象会社に通知して、その承認を受けなければならない(179条の3第1項)。取締役会設置会社では、承認するかどうかは取締役会の決議で決める(同条3項)。
  • 株と新株予約権を一緒に請求されたとき、対象会社は新株予約権の分だけを承認することはできない(179条の3第2項)。
  • 承認した対象会社は、取得日の20日前までに、売渡株主などに通知する(179条の4第1項)。登録株式質権者などへの通知は公告に代えられるが、売渡株主への通知は会社法の上では公告に代えられない(同条2項のかっこ書)。上場会社のような振替株式の会社は、別の法律で公告によることになっている(社債、株式等の振替に関する法律161条2項)。
  • 通知(または公告)をしたとき、特別支配株主から売渡株主に請求がされたものとみなす(179条の4第3項)。費用は特別支配株主が負う(同条4項)。
  • 対象会社は、通知などの日から、取得日の後6か月(公開会社でない会社は1年)を経過する日まで、内容を書いた書面などを本店に備え置く(179条の5)。

撤回と取得(179条の6・179条の9・179条の10)

  • 特別支配株主は、取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限り、全部について撤回できる(179条の6第1項)。取締役会設置会社では、承諾も取締役会の決議(同条2項)。
  • 特別支配株主は、取得日に売渡株式などの全部を取得する(179条の9第1項)。
  • 売り渡す株が譲渡制限株式でも、対象会社はその取得を承認する決定をしたものとみなす(179条の9第2項)。
  • 対象会社は、取得日の後遅滞なく、取得の内容を書いた書面などを作り、取得日から6か月(公開会社でない会社は1年)、本店に備え置く(179条の10)。

売渡株主の争い方(179条の7・179条の8・846条の2〜)

  • 差止め:売渡株主が不利益を受けるおそれがあるとき、特別支配株主に対し、取得をやめるよう請求できる(179条の7第1項)。理由は、①売渡請求が法令に違反する、②対象会社が売渡株主への通知や179条の5の備置きに違反した、③対価の額や割当てが、対象会社の財産の状況などに照らして著しく不当、の3つ。
  • 価格決定の申立て:売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までに、裁判所に売買価格の決定を申し立てられる(179条の8第1項)。決まった価格には、取得日後の法定利率による利息も付く(同条2項)。
  • 無効の訴え:取得の無効は、訴えでしか主張できない。期間は取得日から6か月以内、公開会社でない会社は1年以内(846条の2第1項)。起こせるのは、取得日に売渡株主だった者、取得日に対象会社の取締役などだった者、いまの取締役など(同条2項)。被告は特別支配株主(846条の3)。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:あおば商事(86%)と、株を全部持つ子会社あおば運輸(6%)を合わせて92%。完全子法人の分は合わせて数えるので、あおば商事は特別支配株主です(179条1項)。
  2. 当てはまらない例:あおば運輸の株を、あおば商事が60%しか持っていなかった。発行済株式の全部を持つ会社ではないので、あおば運輸の6%は合わせられません。あおば商事は86%で、特別支配株主に当たりません。
  3. 当てはまらない例:みどり物産の定款に「特別支配株主の割合は95%」と定めてあった。上回る割合を定款で定めたときはその割合によるので、92%では足りません(179条1項のかっこ書)。
  4. ひっかけやすい例:あおば商事が、みどり物産の株主総会で売渡請求の承認を受けようとした。承認するのは対象会社で、取締役会設置会社なら取締役会の決議です(179条の3第3項)。株主総会の決議の問題ではありません。
  5. ひっかけやすい例:こうたさんが、代金が安すぎるとして、みどり物産を相手に取得の差止めを求めた。差止めの相手は特別支配株主のあおば商事です(179条の7第1項)。株を取得するのが会社ではないからです。

株式の併合・全部取得条項付種類株式とどう違うか

少ない株を持つ株主に会社から出てもらう方法は、ほかに2つあります。株式の併合(10株を1株にまとめるなど)と、全部取得条項付種類株式(株主総会の決議で、その種類の株を会社が全部取得できる株)です。併合の手続そのものは株式の併合・分割・無償割当ての記事、全部取得条項の付け方は種類株式の記事で扱っています。ここでは3つを並べます。

比べる点株式等売渡請求株式の併合全部取得条項付種類株式
株を取得する者特別支配株主(端数は売却して代金を交付)会社
株主総会いらない(取締役会の承認)特別決議(180条2項)取得の特別決議(171条1項)
差止めの相手特別支配株主(179条の7)会社(182条の3)会社(171条の3)
代金・価格の争い価格決定の申立て(179条の8)反対株主の買取請求(182条の4)価格決定の申立て(172条)
専用の無効の訴えある(846条の2)なしなし

株主総会の特別決議の要件は、309条2項3号(171条1項の総会)と4号(180条2項の総会)に並んでいます。3分の2などの数字は会社法で覚える数字の一覧で見直せます。売渡請求では総会を開かず、対象会社(取締役会設置会社なら取締役会)が承認するかどうかを決めます。併合や全部取得では、無効を争う専用の訴えは828条1項の一覧にありません。売渡請求には846条の2の専用の訴えがあります。

価格決定の申立ての期間は、売渡請求(179条の8)も全部取得条項付種類株式(172条)も「取得日の20日前の日から取得日の前日まで」です。ただし172条で申し立てられるのは、総会の前に反対を通知して総会でも反対した株主と、議決権を使えない株主です。売渡請求には総会がないので、売渡株主ならだれでも申し立てられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 承認する機関:対象会社の承認で、取締役会設置会社は取締役会の決議(179条の3第3項)。株主総会の特別決議を求める肢は、併合・全部取得と混ぜた形です。撤回の承諾も取締役会の決議です(179条の6第2項)。
  • 90%の数え方:発行済株式の全部を持つ会社などの議決権は合わせる。過半数を持つだけの子会社は合わせない。定款で上回る割合を定めればその割合。
  • 相手と被告:差止めの相手も、無効の訴えの被告も特別支配株主(179条の7・846条の3)。併合と全部取得の差止めは会社が相手です。
  • 期間:通知は取得日の20日前まで。価格決定の申立ては取得日の20日前の日から前日まで。無効の訴えは取得日から6か月、公開会社でない会社は1年。
  • 新株予約権だけの承認:株と一緒に請求されたとき、新株予約権の分だけを承認することはできない(179条の3第2項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
あおば商事は、みどり物産の総株主の議決権の86%を持ち、あおば商事が発行済株式の全部を持つあおば運輸が6%を持つ。みどり物産の定款に割合の定めはない。あおば商事は、特別支配株主として株式売渡請求ができる。

答え:○ 分かれ目は、90%を数えるときに合わせる議決権です。179条1項は、本人と、本人が発行済株式の全部を持つ会社など(特別支配株主完全子法人)が合わせて10分の9以上を持つとき、本人を特別支配株主としています。86%と6%で92%なので当たります。自分だけで90%が必要と考えると✕に見えます。合わせられるのは株を全部持つ会社の分だけで、過半数を持つだけの子会社の議決権は数えません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
取締役会を置くみどり物産に対し、特別支配株主のあおば商事が株式売渡請求の承認を求めた。承認するかどうかは、みどり物産の株主総会の特別決議で決める。

答え:✕ 分かれ目は、承認を決める機関です。179条の3第3項は、取締役会設置会社が承認するかどうかを決めるときは、取締役会の決議によるとしています。正しくは、みどり物産の取締役会の決議で承認します。株主総会の特別決議が要るのは、株式の併合(180条2項)や全部取得条項付種類株式の取得(171条1項)で、309条2項3号・4号に並んでいます。少数株主を締め出す3つの方法の決め方を取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みどり物産の株は全部が譲渡制限株式である。特別支配株主のあおば商事による株式売渡請求の手続が進み、取得日になった。こうたさんの株がこの日にあおば商事に移るについて、譲渡の承認を別に得る手続はいらない。

答え:○ 分かれ目は、譲渡制限株式の承認の扱いです。特別支配株主は取得日に売渡株式の全部を取得し(179条の9第1項)、売渡株式が譲渡制限株式であるときは、対象会社がその取得を承認する決定をしたものとみなされます(同条2項)。譲渡制限株式の取得には会社の承認がいる、という原則を当てはめると✕に見えます。対象会社が売渡請求を承認する手続(179条の3)とは別に、譲渡の承認を求める手続をとる必要はありません。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 特別支配株主は、議決権の90%以上(定款で上回る割合も可)を、株を全部持つ子会社などと合わせて持つ者。
  • 株主総会はいらない。対象会社の承認がいり、取締役会設置会社は取締役会の決議。撤回にも対象会社の承諾がいる。
  • 対象会社は取得日の20日前までに売渡株主に通知し、通知で請求がされたものとみなす。取得日に株は全部特別支配株主に移る。
  • 売渡株主は、特別支配株主を相手に差止め、裁判所に価格決定の申立て(20日前の日から前日まで)、特別支配株主を被告に無効の訴え(6か月、公開会社でない会社は1年)。

このサイトで次に読むなら、株式と株主の権利の記事です。譲渡制限株式の承認や自己株式の扱いを確かめると、売渡請求で何が省かれているのかが見えやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。

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