ひとことで言うと、株主総会は原則として取締役が招集し(296条3項)、株主は、その総会に向けて自分の提案を出すことができます(株主提案権)。提案のしかたは3つです。①総会の議題(話し合う事項)を加えてもらう議題提案権(303条)、②総会の場で議案(具体的な案)を出す議案提出権(304条)、③自分の議案の要領を、ほかの株主に事前に知らせてもらう議案要領通知請求権(305条)です。
取締役会設置会社では、①と③に「議決権の1%以上または300個以上・6か月前から保有(公開会社)・総会の8週間前まで」の要件があり、③には令和元年の会社法改正(令和元年法律第70号。令和3年3月1日施行)で「議案は10個まで」の上限ができました。あわせて、会社が株主の権利の行使に関して利益を与えることは禁止されています(120条)。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。
少数株主権の割合と期間を一覧で見たいときは会社法で覚える数字の一覧を使ってください。この記事は、招集から提案までの手続の流れと、10個の上限の数え方、利益供与を扱います。株主全員の同意で総会の決議や招集の手続を省ける場合(319条・300条)は株主総会の書面決議の記事にあります。
身近な例で考えると
舞台は、株式の譲渡に制限がない(公開会社である)取締役会設置会社「あおば精機株式会社」です(架空の話です)。
| 人物 | 立場 | この話での役 |
|---|---|---|
| あおば精機 | 公開会社・取締役会設置会社 | 6月25日に定時株主総会を開く |
| さとみさん | 株主 | 議決権の2%を1年前から持っている |
| けんじさん | 株主 | 議決権を1個だけ持っている |
| ひろしさん | 株主 | 会社から品物を受け取った |
- あおば精機の取締役会は、総会の日時・場所と、剰余金の配当などの議題(総会の目的である事項)を決めた(298条1項・4項)。
- さとみさんは、4月下旬に、取締役に「取締役の選任」を議題に加えるよう請求し、自分の推す候補者の議案の要領を株主全員に知らせるよう求めた。総会の8週間前(4月30日)より前なので間に合う(303条2項・305条1項)。
- さとみさんは議決権の2%を1年前から持っているので、「1%以上または300個以上を6か月前から」の要件を満たす。
- あおば精機は、6月11日より前に、株主に書面で招集通知を発した。公開会社なので2週間前まで、取締役会設置会社なので書面が要る(299条1項・2項2号)。
- 総会の当日、けんじさんは、議題になっている剰余金の配当について、会社の案と違う配当の額の議案を会場で出した。議案提出権には保有の割合の要件がない(304条)。
一方、あおば精機は、総会の前に、ひろしさんに「総会で厳しい質問をしないでほしい」と頼んで高額の品物を贈りました。これは、株主の権利の行使に関する利益の供与で、禁止されています(120条1項)。
たとえるなら、株主総会は「学校の学級会」です。議題を決めて知らせるのは司会(取締役・取締役会)の仕事で、生徒(株主)は議題を加えたり、当日に案を出したりできます。ただし本物のルールでは、議題を加えるには議決権の割合と期限の条件があり、当日に出せるのは、もう議題になっている事項についての案だけです。
条文ではこう決まっている
招集(296条〜300条・309条5項)
- 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集する(296条1項)。株主総会は、株主が裁判所の許可を得て招集する場合を除き、取締役が招集する(同条3項)。
- 招集する取締役は、日時・場所、目的である事項(議題)、書面や電磁的方法での議決権行使を認めるかなどを決める(298条1項)。取締役会設置会社では、この決定は取締役会の決議による(同条4項)。
- 招集通知は、総会の日の2週間前までに発する。公開会社でない会社は、書面・電磁的方法での議決権行使を定めた場合を除き1週間前まで。さらに取締役会設置会社でない会社は、定款でもっと短くできる(299条1項)。
- 書面・電磁的方法での議決権行使を定めたとき、または取締役会設置会社であるときは、招集通知は書面でしなければならない。株主の承諾があれば電磁的方法でもよい(299条2項・3項)。
- 株主全員の同意があれば、招集の手続を経ずに開ける。ただし、書面・電磁的方法での議決権行使を定めたときは除く(300条)。
- 取締役会設置会社の株主総会は、298条1項2号の事項(招集のときに決めた議題)以外は決議できない(309条5項)。
- 議決権の3%以上を6か月前から持つ株主(公開会社でない会社は保有期間の要件なし)は、取締役に招集を請求でき、招集の手続がされないときは、裁判所の許可を得て自ら招集できる(297条)。
株主提案権(303条〜305条)
- 議題提案権(303条):株主は、取締役に、一定の事項(自分が議決権を行使できる事項に限る)を総会の目的とするよう請求できる(1項)。取締役会設置会社では、議決権の1%以上または300個以上を6か月前から持つ株主に限り、総会の日の8週間前までに請求する(2項)。公開会社でない取締役会設置会社では6か月の要件がない(3項)。
- 議案提出権(304条):株主は、総会の場で、総会の目的である事項について議案を出せる。ただし、議案が法令・定款に違反するとき、または実質的に同じ議案が総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年たっていないときは出せない。
- 議案要領通知請求権(305条):株主は、総会の日の8週間前までに、自分が出そうとする議案の要領を株主に通知するよう請求できる(1項)。取締役会設置会社では、303条2項と同じ割合・保有期間の要件がある(1項ただし書・2項)。304条ただし書と同じ事情があるときは使えない(6項)。
- 10個の上限(305条4項・5項):取締役会設置会社の株主が、10を超える議案について請求したときは、10を超える分には1項〜3項を適用しない。役員等の選任の議案、解任の議案、会計監査人を再任しない議案は、数にかかわらずそれぞれ1つとみなす。定款変更の2つ以上の議案は、別々に決議すると内容が互いに矛盾する可能性があるときだけ1つとみなす。どの議案を10を超える分とするかは取締役が決めるが、株主が優先順位を付けていればそれに従う。
利益供与の禁止(120条・970条)
- 会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、会社または子会社の計算で財産上の利益を供与してはならない(120条1項)。
- 会社が特定の株主に無償で財産上の利益を供与したときは、株主の権利の行使に関して供与したものと推定する。有償でも、会社や子会社の受けた利益が著しく少ないときは同じ(2項)。
- 違反して利益を受けた人は、会社または子会社に返還しなければならない(3項)。
- 供与に関与した取締役(法務省令で定める者)は、会社に対し、連帯して、供与した利益の価額を支払う義務を負う。ただし、注意を怠らなかったことを証明した人は免れる。利益の供与をした取締役自身は、この証明で免れることができない(4項)。この義務は総株主の同意がなければ免除できない(5項)。
- 刑事罰もある。取締役などが利益を供与したときは、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。事情を知って受けた人も同じ(970条1項・2項)。
3つの提案権を表で比べる
取締役会設置会社(公開会社)の場合です。
| 権利 | 保有の要件 | 期限 | 10個の上限 |
|---|---|---|---|
| 議題提案権(303条) | 1%以上か300個以上・6か月 | 総会の8週間前まで | なし |
| 議案提出権(304条) | なし(1株でも) | 総会の場 | なし |
| 議案要領通知請求権(305条) | 1%以上か300個以上・6か月 | 総会の8週間前まで | あり(305条4項) |
取締役会設置会社でない会社では、議題提案権(303条1項)に割合・保有期間・期限の要件がなく、議案要領通知請求権も、割合・保有期間の要件がありません(305条1項本文。8週間前の期限はかかる)。取締役会を置かない会社は株主が少ないことを前提にしている、と考えると整理しやすくなります。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:さとみさんが、取締役の候補者3人の選任議案を出したうえで、定款変更の議案を7つ(互いに関係のないもの)出した。選任の議案は数にかかわらず1つとみなされるので、1+7=8で、10を超えません(305条4項1号)。
- 当てはまらない例:総会の日の6週間前に、さとみさんが議題の追加を請求した。取締役会設置会社では8週間前までに請求しなければならないので、間に合いません(303条2項)。
- 当てはまらない例:けんじさんが、総会の場で、招集通知に書かれていない「定款の変更」を新しい議題として出した。304条で出せるのは、総会の目的である事項(もとからの議題)についての議案だけです。取締役会設置会社の総会は、招集のときに決めた議題以外は決議できません(309条5項)。
- ひっかけやすい例:あおば精機が、総会の前に、特定の株主ひろしさんに無償で品物を贈った。会社が「権利の行使とは関係ない」と言うだけでは足りません。無償の供与は、権利の行使に関するものと推定されます(120条2項)。
似ているルールとの違い:招集請求と議題提案
| 比べる点 | 招集請求(297条) | 議題提案(303条) |
|---|---|---|
| 何をするか | 総会そのものを開かせる | 開かれる総会に議題を加える |
| 割合 | 議決権の3%以上 | 1%以上か300個以上(取締役会設置会社) |
| 6か月の保有 | 要る(公開会社でない会社は不要) | 要る(公開会社でない会社は不要) |
| 株主が自ら動けるか | 裁判所の許可を得て自ら招集できる | 株主が自ら総会を開く定めはない |
招集の手続や決議の方法に法令違反があったときに決議を争う訴えは、株主総会決議取消しの訴えで扱っています。取締役が会社に損害を与えたときに株主が会社のために訴える仕組みは株主代表訴訟の記事にあります。
試験ではここをまちがえやすい
- 招集の決定をする機関:取締役会設置会社では取締役会の決議(298条4項)。代表取締役が一人で決めるのではありません。
- 書面の要否:取締役会設置会社の招集通知は書面(株主の承諾があれば電磁的方法)。公開会社でない会社で1週間前でよい場合も、書面は要ります(299条2項2号)。
- 10個の数え方:役員の選任・解任の議案は人数にかかわらず1つ。定款変更の議案は、矛盾する可能性があるときだけまとめて1つ。
- 304条の要件の付け足し:議案提出権に1%・6か月の要件はない。ただし、10分の1以上の賛成を得られなかった議案は3年間出せない。
- 利益供与の責任:供与をした取締役は、注意を怠らなかったことを証明しても免れない。関与しただけの取締役は、その証明で免れる(120条4項ただし書)。
- 推定とみなすの入れ替え:無償の供与は「推定する」(120条2項)。役員の選任の議案を1つと数えるのは「みなす」(305条4項)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
取締役会設置会社であるあおば精機の株主さとみさんは、議案の要領の通知を請求し、候補者ごとに分けた取締役の選任の議案5つと、互いに関係のない定款変更の議案8つの、合わせて13の議案を出した。あおば精機は、10を超える3つの議案については、通知の請求を拒むことができる。
答え:✕ 分かれ目は、10個の上限の数え方です。取締役会設置会社では、10を超える数の議案には305条1項〜3項を適用しませんが、役員の選任に関する議案は、数にかかわらず1つの議案とみなされます(305条4項1号)。正しくは、選任の議案1つと定款変更の議案8つの合わせて9つで、10を超えないので、拒めません。定款変更の議案をまとめて1つとみなすのは、別々に決議すると内容が矛盾する可能性があるときだけです(同項4号)。議案を出した数のまま数えると○にしてしまいます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
あおば精機の取締役Aは、株主ひろしさんの権利の行使に関し、会社の計算で財産上の利益を供与した。Aは、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しても、会社に対し、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。
答え:○ 分かれ目は、ただし書で免れることができる人の範囲です。利益の供与に関与した取締役は、会社に対し、連帯して供与した利益の価額を支払う義務を負い、注意を怠らなかったことを証明すれば免れます(120条4項)。ただし書は「当該利益の供与をした取締役を除く」としているので、供与をしたA自身はこの証明で免れません。関与した取締役と同じに考えると✕に見えます。この義務は、総株主の同意がなければ免除できません(同条5項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
公開会社でない取締役会設置会社のB社は、書面や電磁的方法による議決権の行使を定めていない。B社が、株主総会の日の1週間前までに株主に電話で招集の通知をしても、招集の手続は法令に違反しない。
答え:✕ 分かれ目は、招集通知の方式です。公開会社でない会社は、書面などでの議決権行使を定めていなければ、総会の日の1週間前までに通知を発すればよい点は正しいです(299条1項)。しかし、取締役会設置会社の招集通知は書面でしなければならず、株主の承諾があれば電磁的方法でもよいとされています(同条2項2号・3項)。正しくは、電話での通知は書面の要件に反し、招集の手続の法令違反になります。定款で期間を短くでき、方式の定めもないのは、取締役会設置会社でない会社の場合で、それと取り違えた形です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。
まとめ
- 招集は取締役。取締役会設置会社では招集の決定は取締役会で、通知は書面(承諾があれば電磁的方法)。期限は2週間前、公開会社でない会社は原則1週間前。
- 提案権は3つ:議題提案(303条)、議場での議案提出(304条)、議案要領の通知請求(305条)。
- 取締役会設置会社の303条・305条:1%以上か300個以上、公開会社なら6か月、8週間前まで。305条は10個まで(役員の選任・解任の議案は1つと数える)。
- 利益供与は禁止(120条)。無償なら推定、受けた人は返還、関与した取締役は連帯して支払義務。供与をした取締役は無過失の証明でも免れない。
このサイトで次に読むなら、株主総会決議取消しの訴えです。招集の手続の違反が、どんなときに決議の取消しにつながるかが分かります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「会社法」(120条、296条〜300条、303条〜305条、309条5項、970条。令和8年4月1日時点)
- 法務省「会社法の一部を改正する法律について」(令和元年法律第70号。株主が同じ総会で提案できる議案の数の制限。令和3年3月1日施行)
働く人の法律試験ノート