株式会社の機関(きかん)とは、会社の中で「決める人」「動かす人」「チェックする人」の役割分担のことです。大事なことを決めるのが株主総会(かぶぬしそうかい)、会社を動かすのが取締役(とりしまりやく)、取締役の仕事をチェックするのが監査役(かんさやく)です。どの機関を置くかは、会社の大きさと「公開会社かどうか」で決まります。
この記事で扱うのは、株主総会・取締役・取締役会・代表取締役・監査役の5つです。会計参与・会計監査人・監査等委員会・指名委員会等は、置かなければならない場面だけ触れます。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)の時点のものを e-Gov 法令検索で確かめています。4月2日以降に施行された会社法の改正(2026年8月施行の改正など)は、令和8年度試験の範囲外なので扱いません。
身近な例で考えると
パン屋さんの会社「あおぞらベーカリー株式会社」で考えます。登場人物は次の3人です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| はるかさん | 株主・取締役(社長) | パンを焼き、店を切り盛りする |
| はるかさんのお父さん | 株主 | 開店のお金を出した |
| 友人のけんたさん | 株主 | 少しだけお金を出した |
株主(かぶぬし)は、会社にお金を出して株を持っている人です。会社の「持ち主」にあたります。会社が成長するにつれて、機関がどう変わるかを順に見ます。
- 開店したとき:株は3人だけが持ち、株を人に売るには会社の承認がいると定款(ていかん=会社の基本ルールブック)に書いた。取締役ははるかさん1人。このときは取締役会も監査役もなくてかまわない。
- 株主総会:3人が集まり、「はるかさんを取締役にする」と決めた。取締役を選ぶのは株主総会の仕事。
- 店が3つに増えたとき:はるかさんのほかに店長2人を取締役にし、3人で「取締役会」を置いた。取締役会を置くと、取締役の中から代表取締役(会社の顔)を選ぶ。あわせて、原則として監査役も置く。
- もっと大きくしたいとき:株をだれでも自由に買えるように定款を変える(公開会社になる)。公開会社になると、取締役会は置くのが義務になる。
たとえると、株主総会は「オーナー会議」、取締役は「店を任された店長」、監査役は「店長の仕事を見回るチェック係」です。ただし、本物のルールでは監査役は会社の外の見回り係ではなく、株主総会で選ばれる会社の役員です。また、取締役会がある会社では、オーナー会議(株主総会)が決められることは法律と定款に書いたことだけに絞られます。ここがたとえと違うところです。
条文ではこう決まっている
どの会社に何を置くか(326条〜328条)
- どの株式会社にも、取締役を1人以上置く(326条1項)。株主総会もどの会社にもある。
- 取締役会・会計参与・監査役・監査役会・会計監査人・監査等委員会・指名委員会等は、定款で決めれば置ける(326条2項)。
- 公開会社・監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社は、取締役会を置かなければならない(327条1項)。
- 取締役会を置いた会社は、監査役を置かなければならない。ただし、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社は除く。また、公開会社でない会社が会計参与を置いたときも、監査役はいらない(327条2項)。
- 大会社(だいがいしゃ)は、会計監査人を置く。公開会社である大会社は、監査役会と会計監査人の両方を置く(328条。監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社は除く)。
「公開会社」とは、株の全部に「売るときは会社の承認がいる」という定款の決まりを付けていない会社です(2条5号)。一部の株だけでも自由に売れるなら公開会社です。上場しているかどうかとは関係ありません。「大会社」は、最終事業年度の貸借対照表(会社の財産の一覧表)で、資本金が5億円以上か、負債の合計が200億円以上の会社です(2条6号)。
株主総会(295条・309条・341条)
- 取締役会がない会社:株主総会は、会社に関する「一切の事項」を決議できる(295条1項)。
- 取締役会がある会社:株主総会が決議できるのは、会社法に書いてある事項と、定款で決めた事項だけ(295条2項)。
- 法律で株主総会が決めるとされた事項を、取締役などほかの機関が決めてよいとする定款の決まりは、効力がない(295条3項)。
- ふつうの決議(普通決議):議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決める(309条1項。定款で変えられる)。
- 役員を選ぶ・やめさせる決議:定足数(ていそくすう=決議に必要な出席の量)は、定款で下げても議決権の3分の1までしか下げられない(341条)。
- 特別決議:議決権の過半数を持つ株主が出席し(定款で3分の1まで下げられる)、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成して決まる(309条2項)。監査役をやめさせる決議はこちら(309条2項7号)。
取締役(329条〜332条・339条・348条・349条)
- 選ぶのは株主総会(329条1項)。株主総会は、いつでも決議でやめさせられる(339条1項)。正当な理由なくやめさせたときは、やめさせられた人は損害の賠償を求められる(339条2項)。
- なれない人(欠格〈けっかく〉)は331条1項に並んでいる。主なものは、法人と、会社法などの罪で刑を受けて2年たたない人。ほかの罪で拘禁刑以上の刑を受け、執行が終わっていない人もなれない(執行猶予中の人を除く)。1項2号は「削除」となっていて、成年被後見人であることは今は欠格に当たらない。
- 公開会社は、「取締役は株主でなければならない」と定款で決められない。公開会社でない会社なら決められる(331条2項)。
- 取締役会を置く会社では、取締役は3人以上(331条5項)。
- 任期は、選ばれてから2年以内に終わる最後の事業年度の定時株主総会が終わるときまで。定款や株主総会の決議で短くできる。公開会社でない会社(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)は、定款で10年まで延ばせる(332条1項・2項)。
- 取締役会がない会社では、取締役が会社の仕事をし(業務執行)、2人以上いれば過半数で決める(348条)。取締役はそれぞれが会社を代表する。ただし、代表取締役を決めることもできる(349条1項〜3項)。
- 代表取締役は、会社の仕事に関する「一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限」を持つ(349条4項)。
取締役会(362条・363条・365条)
- 取締役会は、すべての取締役でつくる会議(362条1項)。仕事は、業務執行の決定、取締役の仕事の監督、代表取締役を選ぶこと・やめさせること(362条2項)。
- 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選ばなければならない(362条3項)。
- 大事な財産を売る・買う、多額の借金をする、支配人など重要な使用人を選ぶなどの決定は、1人の取締役に任せられない(362条4項)。
- 代表取締役などの業務を執行する取締役は、3か月に1回以上、仕事の様子を取締役会に報告する(363条2項)。
- 取締役が会社と同じ商売をする(競業)、会社と取引をする(利益相反取引)ときは、大事な事実を話して承認を受ける。承認するのは、取締役会がない会社では株主総会、ある会社では取締役会(356条1項・365条1項)。
監査役(335条・336条・381条・389条)
- 監査役は、取締役の職務の執行を監査する(381条1項)。いつでも取締役などに事業の報告を求め、会社の業務や財産を調べられる(381条2項)。
- 監査役は、その会社や子会社の取締役・使用人などを兼ねられない(335条2項)。チェックする人とされる人が同じだと意味がないからです。
- 監査役会を置く会社では、監査役は3人以上で、半分以上は社外監査役(335条3項)。
- 任期は、選ばれてから4年以内に終わる最後の事業年度の定時株主総会が終わるときまで。公開会社でない会社は定款で10年まで延ばせる(336条1項・2項)。取締役と違い、定款や決議で「短くできる」という定めはない。例外は、途中でやめた監査役の補欠として選ばれた人で、定款で前の人の残りの任期までにできる(336条3項)。
- 公開会社でない会社(監査役会設置会社・会計監査人設置会社を除く)は、定款で監査役の監査を「会計に関するもの」だけに限れる(389条1項)。
当てはまる例・当てはまらない例
あおぞらベーカリーの形を少しずつ変えて、条文に合うかどうかを見ます。
- 当てはまる(許される)例:株を売るには承認がいる会社で、取締役ははるかさん1人だけ、取締役会も監査役もない。326条1項の「取締役1人以上」を満たし、取締役会を置く義務(327条1項)もないので、この形で問題ありません。
- 当てはまらない例:株をだれでも自由に買える会社(公開会社)なのに、取締役会を置いていない。公開会社は取締役会を置く義務があるので(327条1項)、この形は認められません。
- 当てはまらない例:取締役会を置いたのに、取締役ははるかさんとお父さんの2人だけ。取締役会を置く会社の取締役は3人以上なので(331条5項)、足りません。
- ひっかけやすい例:取締役会を置いたが、監査役は置かず、かわりに会計参与(かいけいさんよ)を置いた。公開会社でないなら、これは許されます(327条2項ただし書)。「取締役会があれば監査役は必須」と丸暗記していると、まちがえます。
- ひっかけやすい例:定款に「取締役は当社の株主に限る」と書いた。公開会社でないなら有効、公開会社なら無効です(331条2項)。会社の種類で答えが変わります。
- ひっかけやすい例:取締役会がある会社の株主総会で、定款に書いていない「新しい店の内装の色」を決議した。取締役会がある会社の株主総会は、法律と定款に書いた事項しか決議できないので(295条2項)、この決議はできません。取締役会がない会社なら決議できます(295条1項)。
似ているルールとの違い
まず、取締役と監査役を比べます。選び方は同じでも、任期とやめさせ方が違います。
| 項目 | 取締役 | 監査役 |
|---|---|---|
| 選ぶ機関 | 株主総会(329条) | 株主総会(329条) |
| 任期の原則 | 2年(332条1項) | 4年(336条1項) |
| 短くできるか | できる | できない(補欠は例外) |
| 公開会社でない会社 | 定款で10年まで | 定款で10年まで |
| やめさせる決議 | 普通決議(341条)※ | 特別決議(309条2項7号) |
※累積投票(るいせきとうひょう=少数の株主も取締役を選びやすくする投票のしかた)で選ばれた取締役をやめさせるときは、特別決議になります(309条2項7号)。
次に、取締役会がない会社とある会社を比べます。取締役会を置くと、株主総会の力が絞られ、そのぶん取締役会が決めるようになります。
| 項目 | 取締役会なし | 取締役会あり |
|---|---|---|
| 株主総会が決められること | 一切の事項 | 法律と定款の事項だけ |
| 取締役の人数 | 1人以上 | 3人以上 |
| 会社を代表する人 | 取締役が各自(代表取締役を決めることもできる) | 取締役会が選んだ代表取締役 |
| 競業・利益相反の承認 | 株主総会 | 取締役会 |
代表取締役が会社のために契約をする仕組みは、民法の「代理」と似ています。ただし、代表取締役の行為は会社そのものの行為として扱われ、権限は法律で「一切の裁判上又は裁判外の行為」と広く決まっています。代理の基本は代理をわかりやすくで確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
株式会社の機関は、行政書士試験の会社法で問われやすい分野です。次の型を条文に結びつけて覚えます。
- 「公開会社」の意味のすりかえ:上場会社のことだと思わせる形。条文の定義は「株の全部に譲渡(じょうと)制限を付けていない会社」です(2条5号)。
- 例外の消し込み:「取締役会設置会社は監査役を置かなければならない」とだけ言って、327条2項の例外(公開会社でない会計参与設置会社など)を落とす形。
- 数字の入れかえ:取締役2年・監査役4年、伸長(しんちょう=延ばすこと)は10年、取締役会は3人以上、監査役会は3人以上で半分以上が社外。年数と人数を入れかえる選択肢に注意します。
- 決議の種類の入れかえ:取締役の解任は原則として普通決議(定足数は3分の1まで)、監査役の解任は特別決議。逆にした選択肢が作りやすい形です。
- 株主総会の権限の広さ:取締役会があるかないかで、株主総会が決められる範囲が違います(295条1項・2項)。
- 承認する機関の取りちがえ:競業・利益相反取引の承認は、取締役会がある会社では取締役会です(365条1項)。
会社法全体をどこまでやるかは、商法・会社法は捨てていいかで配点と合わせて整理しています。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
株を売るときに会社の承認がいる株式会社(公開会社でない会社)は、取締役が1人だけで、取締役会も監査役も置かないことができる。
答え:○
どの会社も取締役は1人以上いればよく(326条1項)、取締役会を置く義務があるのは公開会社などに限られます(327条1項)。取締役会を置かなければ、327条2項の監査役を置く義務も生じません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
取締役会を置いている会社の株主総会は、会社に関するどんな事項でも決議することができる。
答え:✕
どんな事項でも決議できるのは、取締役会がない会社の株主総会です(295条1項)。取締役会がある会社では、会社法に書いてある事項と定款で決めた事項に限られます(295条2項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
監査役を任期の途中でやめさせるには、取締役をやめさせるときと同じく、株主総会の普通決議で足りる。
答え:✕
取締役の解任は、原則として341条の決議(普通決議の形)です。しかし、監査役の解任は特別決議です(309条2項7号)。出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成がいります。
まとめ
- 機関は「決める(株主総会)・動かす(取締役)・チェックする(監査役)」の役割分担。取締役はどの会社にも1人以上いる。
- 公開会社は取締役会が必須。取締役会を置くと取締役3人以上・代表取締役の選定が必要で、原則として監査役も置く。
- 取締役会がある会社の株主総会は、法律と定款に書いた事項しか決められない。
- 任期は取締役2年・監査役4年。公開会社でない会社は定款でどちらも10年まで延ばせる。
- 解任は、取締役が原則として普通決議(341条)、監査役が特別決議(309条2項7号)。
このサイトで次に読むなら、会社が生まれるまでの手続きを扱う株式会社の設立をわかりやすくがおすすめです。設立のときに最初の取締役や監査役をだれが選ぶかが分かり、この記事の内容とつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 会社法(e-Gov 法令検索):2条5号・6号、295条、309条、326条〜329条、331条、332条、335条、336条、339条、341条、348条、349条、356条、362条、363条、365条、381条、389条。令和8年4月1日時点で施行されている条文で確認しました。
- 行政書士試験研究センター「試験案内」:令和8年度試験は令和8年4月1日現在施行の法令から出題。
働く人の法律試験ノート