計算書類の流れ:作成・監査・取締役会の承認・定時株主総会・決算公告と、備置きと閲覧(会社法435条〜442条)

ひとことで言うと、計算書類(けいさんしょるい)は、会社の1年の財産と損益の状況を示す書類で、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表の4つです(会社法435条2項、会社計算規則59条1項)。事業報告と附属明細書は、一緒に作りますが計算書類ではありません。

流れは、作成→監査→取締役会の承認→株主への提供→定時株主総会→公告です。定時株主総会では、計算書類は承認を受け、事業報告は内容を報告します(438条2項・3項)。総会の後は、貸借対照表(大会社は損益計算書も)を公告します(440条1項)。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

この記事は、計算書類の範囲、承認と報告の分かれ方、公告の例外、備置きと閲覧の年数を扱います。会計参与と会計監査人の役割は会計参与と会計監査人の記事、配当の財源の規制は剰余金の配当の記事に任せます。

身近な例で考えると

舞台は、架空の「そよかぜ文具株式会社」です。取締役会と監査役を置き、会計監査人は置いていません。公開会社でも大会社でもありません。

人物・会社立場この話での役
ゆうとさん代表取締役計算書類と事業報告を作る
ちさとさん監査役監査をする
えりさん株主計算書類を見たい
みのり銀行債権者貸付先の財産の状況を確かめたい
  1. 作成:事業年度が終わり、ゆうとさんは、計算書類(4つ)・事業報告・それぞれの附属明細書を作った(435条2項)。
  2. 監査:監査役のちさとさんが、計算書類・事業報告・附属明細書を監査した(436条1項)。
  3. 取締役会の承認:監査を受けたものについて、取締役会が承認した(436条3項)。
  4. 備置きの開始:定時株主総会の日の2週間前の日から、本店に計算書類などを、支店にその写しを備え置いた(442条1項・2項)。
  5. 株主への提供:定時株主総会の招集の通知に際して、承認を受けた計算書類と事業報告(監査報告を含む)を株主に提供した(437条)。
  6. 定時株主総会:計算書類は総会の承認を受け、事業報告は取締役が内容を報告した(438条2項・3項)。
  7. 公告:総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告した。大会社ではないので、損益計算書の公告は要らない(440条1項)。

たとえるなら、計算書類は「会社の通知表」です。担任(取締役)が作り、学年主任(監査役)が確かめ、職員会議(取締役会)を通し、保護者会(株主総会)で認めてもらい、最後に学校だより(公告)で外にも知らせます。ただし本物のルールでは、事業報告は通知表そのものではなく「1年の活動報告」で、総会では認めてもらうのではなく報告するだけです。

条文ではこう決まっている

作成と保存(435条)

  • 会社は、成立の日の貸借対照表を作らなければならない(1項)。
  • 各事業年度の計算書類(貸借対照表、損益計算書その他法務省令で定めるもの)と事業報告、これらの附属明細書を作らなければならない(2項)。法務省令で定めるものは、株主資本等変動計算書と個別注記表(会社計算規則59条1項)。電磁的記録で作ってもよい(3項)。
  • 計算書類を作った時から10年間、計算書類とその附属明細書を保存しなければならない(4項)。

監査と承認(436条〜439条)

  • 監査役設置会社(監査の範囲を会計に限る定めのある会社を含み、会計監査人設置会社を除く):計算書類・事業報告・附属明細書は、監査役の監査を受ける(436条1項)。
  • 会計監査人設置会社:計算書類とその附属明細書は監査役(監査等委員会・監査委員会)と会計監査人の監査、事業報告とその附属明細書は監査役(同)の監査を受ける(436条2項)。事業報告は会計監査人の監査の対象ではありません。
  • 取締役会設置会社:計算書類・事業報告・附属明細書(監査が必要な会社では監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受ける(436条3項)。招集の通知に際して、承認を受けた計算書類と事業報告(監査報告・会計監査報告を含む)を株主に提供する(437条)。
  • 定時株主総会:取締役は計算書類と事業報告を総会に提出・提供する(438条1項)。計算書類は総会の承認を受け(2項)、事業報告は内容を報告する(3項)。
  • 会計監査人設置会社の特則(439条):取締役会の承認を受けた計算書類が、法令・定款に従い財産と損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に当たる場合は、総会の承認は要らない。その場合、取締役は計算書類の内容を総会に報告する。

公告(440条)

  • 定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社は貸借対照表と損益計算書)を公告する(1項)。
  • 公告の方法が官報か日刊新聞紙(939条1項1号・2号)の会社は、貸借対照表の要旨の公告で足りる(2項)。
  • その会社は、貸借対照表の内容の情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日まで、インターネットなどで続けて見られる状態に置く措置をとれる。そのときは1項・2項の公告は要らない(3項)。
  • 金融商品取引法24条1項により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社には、1項〜3項を適用しない(4項)。

公告や通知を怠ったときは、取締役などが100万円以下の過料の対象になります(976条2号)。大会社かどうかの判定は公開会社と大会社の記事にあります。

備置きと閲覧の年数を表で見る(442条)

何をどこにいつから・何年
計算書類・事業報告・附属明細書(監査報告などを含む)本店総会の日の1週間前の日(取締役会設置会社は2週間前の日)から5年間
同じものの写し支店同じ日から3年間
臨時計算書類本店作った日から5年間
臨時計算書類の写し支店作った日から3年間
  • 支店の例外:計算書類などを電磁的記録で作り、支店で閲覧などの請求に応じられる措置(法務省令で定めるもの)をとっているときは、支店に写しを置かなくてよい(2項ただし書)。
  • 閲覧できる人:株主と債権者は、会社の営業時間内いつでも、閲覧などを請求できる。謄本・抄本の交付などは、会社の定めた費用を払う(3項)。
  • 親会社社員:権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て請求できる(4項)。
  • 書面決議のとき:株主総会の決議を省略する場合(319条1項)は、備置きの始まりは「提案があった日」(442条1項1号のかっこ書)。

数字を並べると、保存は10年(435条4項)、本店の備置きは5年、支店は3年、ネットでの開示は総会の終結の日後5年です。「保存」と「備置き」は別の義務で、年数も違います。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:株主のえりさんが、そよかぜ文具の本店で、営業時間内に計算書類の閲覧を請求した。株主は営業時間内いつでも請求できます(442条3項1号)。写しの交付を求めるなら、会社の定めた費用を払います(同項2号)。
  • 当てはまる例:みのり銀行が、債権者として支店で計算書類の写しの閲覧を求めた。支店にも写しを3年間置く決まりで、債権者も請求できます(2項・3項)。
  • 当てはまらない例:そよかぜ文具の親会社の株主が、裁判所の許可を得ずに、子会社であるそよかぜ文具の計算書類の閲覧を求めた。親会社社員は裁判所の許可が要ります(4項)。
  • ひっかけやすい例:大会社で、有価証券報告書を提出しなければならない会社が、総会の後に貸借対照表も損益計算書も公告しなかった。440条4項で1項〜3項が適用されないので、違反ではありません。

似ているルールとの違い:計算書類・事業報告・附属明細書

比べる点計算書類事業報告
中身貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表1年の事業の状況などの報告
会計監査人の監査受ける(会計監査人設置会社)受けない(監査役などの監査)
定時株主総会承認(439条の場合は報告)報告
公告貸借対照表(大会社は損益計算書も)なし
10年の保存(435条4項)あり(附属明細書も)定めなし

附属明細書は、計算書類と事業報告それぞれの内容を補う書類で、監査と備置きの対象ですが、総会に提出する書類(438条1項)には入っていません。計算書類の承認の決議を争う訴えと訴えの利益の判例は決議取消しの訴えの記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 計算書類の範囲:4つ(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)。事業報告と附属明細書を含める形は誤りです。
  • 承認と報告:計算書類は総会の承認、事業報告は報告。会計監査人設置会社で439条の要件に当たれば、計算書類も報告でよい。
  • 公告の中身:貸借対照表。損益計算書まで公告するのは大会社。有価証券報告書の提出会社は公告の規定を適用しない。
  • 備置きの年数と起算日:本店5年・支店3年。起算日は総会の日の1週間前の日、取締役会設置会社は2週間前の日。
  • 保存と備置きの入れ替え:保存は作った時から10年(435条4項)。備置きの5年と入れ替えない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
取締役会設置会社・監査役設置会社であるそよかぜ文具(会計監査人は置いていない)の定時株主総会では、取締役会の承認を受けた計算書類と事業報告の両方について、総会の承認の決議をする。

答え:✕ 分かれ目は、総会での扱いが「承認」か「報告」かです。438条2項は提出された計算書類について総会の承認を求め、3項は事業報告について取締役が内容を総会に「報告しなければならない」としています。正しくは、承認の決議をするのは計算書類だけで、事業報告は報告です。事業報告は、435条2項で計算書類と並べて作る書類ですが、計算書類には含まれません。会計監査人設置会社で計算書類も報告でよくなる439条の場面とも区別します。

問2(このサイトのオリジナル問題)
C社は大会社で、金融商品取引法により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない。C社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表と損益計算書の両方を公告する義務を負う。

答え:✕ 分かれ目は、440条4項の例外です。440条1項は大会社に貸借対照表と損益計算書の公告を求めていますが、4項は、金融商品取引法24条1項により有価証券報告書を提出しなければならない会社には、1項〜3項を適用しないとしています。正しくは、C社は公告の義務を負いません。大会社かどうかの1項だけで判断し、4項の適用除外を読み落とした形です。官報・日刊新聞紙で公告する会社が貸借対照表の要旨で足りる(2項)のとは別の例外です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
取締役会設置会社であるそよかぜ文具は、各事業年度の計算書類と事業報告、その附属明細書を、定時株主総会の日の2週間前の日から5年間、本店に備え置かなければならない。

答え:○ 分かれ目は、備置きの起算日です。442条1項1号は、本店に備え置く期間を、定時株主総会の日の1週間前の日から5年間とし、かっこ書で「取締役会設置会社にあっては、二週間」としています。そよかぜ文具は取締役会設置会社なので、2週間前の日からです。1週間前の日だけを覚えていると✕にしてしまいます。支店に写しを置く期間は3年(2項)、計算書類と附属明細書の保存は作った時から10年(435条4項)で、それぞれ別の数字です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 計算書類=貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表。事業報告・附属明細書は含まない。
  • 作成→監査(436条1項・2項)→取締役会の承認(3項)→株主への提供(437条)→総会で計算書類は承認・事業報告は報告(438条)。439条の要件に当たれば計算書類も報告。
  • 公告は貸借対照表(大会社は損益計算書も)。官報・新聞なら要旨、ネット開示5年なら公告不要、有価証券報告書の提出会社は適用除外(440条)。
  • 備置き:本店5年・支店3年。起算日は総会の日の1週間前の日(取締役会設置会社は2週間前の日)。保存は10年(435条4項)。

このサイトで次に読むなら、会計参与と会計監査人の記事です。計算書類を「作る側」と「監査する側」の役割の違いが分かり、436条の監査の分け方がつかみやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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