定款の記載事項と出資の仮装:絶対的記載事項・変態設立事項、見せ金・預合い・仮装払込みの責任

ひとことで言うと、出資の仮装(かそう)とは、株のお金を払い込んだように見せて、実際には会社にお金を残さないことです。代表的な形が、見せ金(みせがね)と預合い(あずけあい)です。払込みを仮装した発起人や引受人は、会社に対して、仮装した金額の全額を払う義務を負います(会社法52条の2・213条の2)。設立そのものの効力を争う設立無効の訴えは設立無効の訴えと会社の不成立で扱っています。

この記事では、①定款に書く事項の3つの分け方、②見せ金・預合い・仮装払込みの違い、③だれが何を払うか、の順に扱います。設立の流れ全体は株式会社の設立の記事、会社ができたあとの株の発行は募集株式の発行の記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

はるかさんとだいきさんは、2人だけが発起人(会社をつくる人)となって「そよかぜ食品株式会社」をつくることにしました(発起設立)。だいきさんは、会社ができたら最初の取締役(設立時取締役)になる予定です。

  1. はるかさんは、引き受けた株のお金1,000万円を用意できなかった。
  2. そこで知人のけんじさんから1,000万円を借り、銀行に払い込んだ。最初から、会社ができたらすぐ返すつもりだった。
  3. 会社の設立の登記がすむと、はるかさんは1,000万円を引き出し、けんじさんに返した。
  4. だいきさんは、この計画を知りながら、引出しの手続を手伝った。

これが見せ金です。たとえると、お店の開店の日だけ借りた商品を棚に並べ、写真をとったらすぐ返すようなものです。棚が埋まって見えても、お店の財産は増えていません。ただし本物のルールでは、借りたお金で払い込むこと自体が禁じられているのではありません。会社に資金を残す意図がなく、すぐ引き出して返すところが問題になります。

定款に書く事項は3つに分かれる(27条〜29条・37条)

仮装の話の前に、定款(ていかん=会社の基本のルールを書いたもの)に書く事項を整理します。「絶対的記載事項」「変態設立事項」「任意的記載事項」は、教科書で使われる呼び名で、条文の言葉ではありません。

分け方中身書かないと
絶対的記載事項(27条)目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名(名称)と住所定款として足りない(「記載しなければならない」)
変態設立事項(28条)現物出資、財産引受け、発起人の報酬など特別の利益、設立に関する費用その事項の効力が生じない
相対的記載事項(29条)この法律で、定款に定めなければ効力が生じない事項その事項の効力が生じない
任意的記載事項(29条)その他の事項で、会社法に反しないもの定款の外で決めてもよい

発行可能株式総数(会社が発行できる株の上限)は、27条の5つに入っていません。定款の認証のときに書いていなくても、会社が成立する時までに、発起人全員の同意で定款を変えて定めればよいとされています(37条1項)。公開会社をつくるときは、設立のときに発行する株の総数を、発行可能株式総数の4分の1より少なくできません(37条3項)。28条の4つも、書かないと効力がない点で、相対的記載事項の一つとして説明されます。変態設立事項の検査役の調査は、設立の記事で扱っています。

見せ金・預合い・仮装払込みはどう違うか

見せ金:判例が「有効な払込みとはいえない」とした形

最高裁判所第二小法廷昭和38年12月6日判決(昭和35年(オ)第1154号)は、見せ金による株式の払込みの効力を扱いました。裁判所ウェブサイトの裁判要旨は、次の場合には有効な株式払込みがされたとはいえないとしています。

  • 当初から、本当の払込みとして会社の資金を確保する意図がない。
  • 一時的な借入金で、払込みの外形(見た目)だけを整える。
  • 会社の成立の手続のあと直ちに払込金を払い戻し、借入先に返す。

この判決は、会社法ができる前の商法の時代のものです。3つの事情がそろった事案の判断なので、「借入金で払い込んだら無効」と広げて読まないことが大事です。

預合い:銀行と通じてする仮装で、罪になる(965条)

預合いは、一般に、発起人などが払込みを取り扱う銀行から借入れをし、それを払込金に回したうえで、借入れを返すまでは払込金を引き出さないと銀行と約束する形をいいます。お金が銀行の外に出ず、帳簿の上で払込みがあったように見えるだけです。

  • 発起人・取締役など960条1項1号〜7号の者が、株式の発行に係る払込みを仮装するため預合いをしたときは、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方(965条前段)。
  • 預合いに応じた者(銀行の側)も同じく罰せられる(965条後段)。
  • 募集設立で払込金の保管の証明書を出した銀行は、証明書の記載が事実と違うことや、払込金の返還に制限があることを、成立後の会社に主張できない(64条2項)。

仮装払込みの責任:条文で全額の支払を定めた

平成26年の会社法改正(平成26年法律第90号)で、出資の履行を仮装した場合の責任の条文が加わりました(52条の2・209条2項3項・213条の2など)。見せ金や預合いは、この「払込みの仮装」の代表的な形として説明されます。条文は仮装の形を限っていません。

だれが何を払うか:表で比べる

場面払う人払うもの責任を免れる道
設立で発起人が払込みを仮装(52条の2第1項)仮装した発起人仮装した金額の全額証明による免責はない。免除は総株主の同意(55条)
同じ場面で関与した者(52条の2第2項)関与した発起人・設立時取締役同じ額(連帯)注意を怠らなかったと証明すれば免れる
募集設立の引受人が仮装(102条の2)設立時募集株式の引受人仮装した払込金額の全額免除は総株主の同意
同じ場面で関与した者(103条2項)関与した発起人・設立時取締役同じ額(引受人と連帯)注意を怠らなかったと証明すれば免れる
会社成立後の募集株式で仮装(213条の2)募集株式の引受人仮装した払込金額の全額免除は総株主の同意
同じ場面で関与した者(213条の3)関与した取締役(指名委員会等設置会社では執行役も)同じ額(連帯)注意を怠らなかったと証明すれば免れる

関与した人の免責のただし書には、「出資の履行を仮装したものを除く」とあります(52条の2第2項・213条の3第1項)。仮装した本人は、注意を怠らなかったと証明しても免れません。

払うまで、仮装した株の権利は使えない

  • 仮装した発起人は、支払がされるまで、仮装した株について、設立時株主・株主の権利を使えない(52条の2第4項)。
  • その株や株主となる権利を譲り受けた人は、権利を使える。ただし、譲り受けた人に悪意(事情を知っている)または重大な過失があるときは使えない(52条の2第5項)。
  • 会社成立後の募集株式でも同じ形(209条2項・3項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:はるかさんの見せ金。仮装したはるかさんは、そよかぜ食品に1,000万円の全額を払う義務を負います(52条の2第1項1号)。関与しただいきさんも連帯して同じ額を負います(同条2項・3項)。
  2. 当てはまらない例:はるかさんがけんじさんから借りた1,000万円を払い込み、会社はそのお金で設備を買って営業を始めた。はるかさんは自分の給料から少しずつけんじさんに返している。会社に資金が残り、事業に使われているので、見せ金の判例の事案とは違います。
  3. 当てはまらない例(場面を変えて):だいきさんが、はるかさんの引出しを知らず、職務を行うについての注意も怠っていなかった。関与した者として法務省令で定める者に当たる場合でも、注意を怠らなかったと証明すれば支払の義務を免れます(52条の2第2項ただし書)。
  4. ひっかけやすい例:はるかさんが「自分も注意を怠らなかった」と証明した。仮装した本人は、ただし書の免責から除かれているので、全額の支払を免れません。
  5. ひっかけやすい例:そよかぜ食品の株主総会が、特別決議ではるかさんの支払義務を免除した。52条の2第1項の義務は、総株主の同意がなければ免除できません(55条)。決議の多数では足りません。

現物出資の不足額の責任とどう違うか

設立のときの責任には、現物出資(お金以外の財産の出資)の価額が足りない場合の責任(52条)もあります。仮装の責任と並べると、払う額と免れる道が違います。

比べる点現物出資の不足(52条)払込みの仮装(52条の2)
払う額定款の価額との不足額仮装した金額の全額
払う人発起人・設立時取締役(連帯)仮装した発起人+関与した発起人・設立時取締役(連帯)
検査役の調査を経た場合現物出資者など以外は免れるこのような免責はない
注意を怠らなかった証明現物出資者など以外は免れる。募集設立では使えない(103条1項)関与した者だけ免れる。仮装した本人は免れない

どちらの義務も、免除には総株主の同意がいります(55条)。数字や決議の要件の一覧は会社法で覚える数字の一覧で確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 見せ金の判例の限定:「当初から会社の資金を確保する意図がない」「直ちに払い戻して返す」がそろった事案。借入金での払込み一般を無効にしたのではない。
  • 預合いは罪:965条。応じた銀行の側も罰せられる(後段)。刑は令和8年4月1日時点で「拘禁刑」の言葉。
  • 免責の範囲:注意を怠らなかった証明で免れるのは関与した者だけ。仮装した本人は除かれる。
  • 権利行使の制限と譲受人:本人は払うまで使えない。善意で重大な過失のない譲受人は使える。
  • 免除:総株主の同意(55条・102条の2第2項・213条の2第2項)。株主総会の特別決議では足りない。
  • 定款の分類:発行可能株式総数は27条の5つに入らない(37条1項)。28条の4つは、書かないとその事項の効力がない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
発起設立で、発起人はるかさんが払込みを仮装し、設立時取締役だいきさんは法務省令で定める関与者に当たる。だいきさんは、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば、仮装された金額を会社に支払う義務を負わない。

答え:○ 分かれ目は、免責の証明ができる人です。52条の2第2項は、仮装に関与した発起人・設立時取締役にも全額の支払義務を負わせつつ、ただし書で、注意を怠らなかったことを証明した場合は免れるとしています。仮装の責任は全員が無条件に負う、と覚えていると✕に見えます。ただし書のかっこ書は「出資の履行を仮装したもの」を除いているので、仮装した本人のはるかさんは、同じ証明をしても免れません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の場面で、はるかさんは、まだ1,000万円を払っていない。はるかさんの株を譲り受けたゆいさんは、仮装の事情を知らず、知らないことに重大な過失もない。この場合、ゆいさんも、はるかさんが支払うまで株主の権利を使えない。

答え:✕ 分かれ目は、権利行使の制限がかかる人です。支払がされるまで権利を使えないのは、仮装した発起人です(52条の2第4項)。正しくは、株を譲り受けたゆいさんは、悪意または重大な過失がない限り、株主の権利を使えます(同条5項)。本人に対する4項の制限を、譲り受けた人にまで広げた形です。会社成立後の募集株式でも、209条2項・3項が同じ組み立てになっています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
発起人たくみさんは、知人から借りたお金で株の払込みをした。会社の成立後、払込金はそのまま会社の運転資金として使われ、たくみさんは自分の収入で知人に返している。判例によれば、この払込みは有効な払込みとはいえない。

答え:✕ 分かれ目は、見せ金の判例の限定です。最高裁判所第二小法廷昭和38年12月6日判決が有効な払込みといえないとしたのは、当初から会社の資金を確保する意図がなく、一時的な借入金で外形を整え、成立の手続のあと直ちに払込金を払い戻して借入先に返した場合です。正しくは、払込金が会社に残って事業に使われているこの事例は、判例の事案に当たりません。「借入金で払い込んだ」という一点だけで判例の結論を広げた形です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 定款は、27条の5つ(書かなければならない)、28条の4つ(書かないとその事項の効力がない)、29条(効力の要件になる事項とその他の事項)。発行可能株式総数は成立の時までに定めればよい。
  • 見せ金は、資金を残す意図なく借入金で外形を整え、直ちに払い戻して返す形。判例は有効な払込みといえないとした。
  • 預合いは965条の罪で、応じた者も罰せられる。
  • 仮装した発起人・引受人は全額を払う。関与した者は連帯し、注意を怠らなかったと証明すれば免れる。本人は免れない。免除は総株主の同意。

このサイトで次に読むなら、会社法の一問一答です。設立・株式・取締役の20問で、この記事の責任の組み立てを、ほかの論点とまぜて確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確かめました。

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