ひとことで言うと、特定商取引法(正式には「特定商取引に関する法律」)は、訪問販売など7つの取引について事業者の守るルールを決め、そのうち6つにクーリング・オフ(一定の期間内なら理由を問わず契約をやめられる仕組み)を置いた法律です。期間は、訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入が8日、連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引が20日です。通信販売にはクーリング・オフがなく、別に「返品の特約の表示がなければ引渡しから8日は解除できる」という定め(15条の3)があります。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。この記事は、そのあとで一般知識に手を広げるときに、条文で確かめられる範囲だけを整理したものです。消費者の権利と、国・地方公共団体・事業者の責務を定める消費者基本法は消費者基本法の記事で扱っています。クレジットカードや分割払いの取引の決まりは割賦販売法の記事、多くの消費者の被害を団体が裁判でまとめて回復する手続は消費者裁判手続特例法の記事で扱っています。
業者の名前や事例、書面の書き方、相談の手続の実務は扱いません。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。
身近な例で考えると
行政書士試験の受験生のそうたさんは、ひとり暮らしの会社員です。最近の出来事を、特定商取引法のどの取引に当たるかで分けてみました。
- 自宅に業者が訪ねてきて、浄水器を買う契約をした(訪問販売)。
- ネットの通販サイトで、スニーカーを注文した(通信販売)。
- 業者から電話がかかってきて、勧められた教材を電話で申し込んだ(電話勧誘販売)。
- 自宅に来た業者に、使わなくなった貴金属のアクセサリーを売る契約をした(訪問購入)。
1・3・4にはクーリング・オフがあり、2にはありません。たとえると、クーリング・オフは「不意打ちで決めた契約に付いている、頭を冷やすための時間」です。自分で店やサイトを選んで買う通信販売には、この時間が法律で付いていません。ただし本物のルールでは、通信販売にも、広告に返品の特約の表示がないときの解除の定めがあります。
条文ではこう決まっている
7つの取引(1条・2条と各章)
1条は、対象の取引を「訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引」と並べています。訪問販売・通信販売・電話勧誘販売は第2章、連鎖販売取引は第3章、特定継続的役務提供は第4章、業務提供誘引販売取引は第5章、訪問購入は第5章の2です。
- 訪問販売(2条1項):営業所等以外の場所で契約の申込みを受けたり契約したりする販売(1号)と、営業所等以外の場所で呼び止めて営業所等に同行させた人などとの契約(2号)。
- 通信販売(2条2項):郵便等で申込みを受けて行う販売で、電話勧誘販売に当たらないもの。
- 電話勧誘販売(2条3項):電話をかけて勧誘し、その相手から郵便等で申込みを受けたり契約したりするもの。
クーリング・オフの期間と起算点
| 取引 | クーリング・オフ | 数え始め | 条 |
|---|---|---|---|
| 訪問販売 | 8日 | 契約書面(5条)を受け取った日。先に申込書面(4条)を受け取っていればその日 | 9条 |
| 通信販売 | なし | (返品の定めは15条の3) | — |
| 電話勧誘販売 | 8日 | 19条の書面を受け取った日。先に18条の書面ならその日 | 24条 |
| 連鎖販売取引 | 20日 | 37条2項の書面を受け取った日。再販売の商品の最初の引渡しがそれより後ならその日 | 40条 |
| 特定継続的役務提供 | 8日 | 42条2項・3項の書面を受け取った日 | 48条 |
| 業務提供誘引販売取引 | 20日 | 55条2項の書面を受け取った日 | 58条 |
| 訪問購入 | 8日 | 58条の8の書面を受け取った日。先に58条の7の書面ならその日 | 58条の14 |
どの条も「受領した日から起算して」と書いているので、書面を受け取った日を1日目に数えます。共通するしくみは次のとおりです(訪問販売の9条で見ます)。
- 方法:書面または電磁的記録で、申込みの撤回または契約の解除ができる(9条1項)。
- 効力の時期:通知を発した時に効力を生ずる(9条2項)。
- お金:業者は損害賠償や違約金を請求できない(3項)。商品を使ったあとでも、使用で得た利益に当たるお金などを請求できない(5項)。
- 期間の延長:業者がうそを告げたり威迫したりして、期間内にクーリング・オフをしなかったときは、改めて交付される書面を受け取った日から8日を過ぎるまでできる(1項ただし書)。
- 特約:これらに反する特約で申込者等に不利なものは無効(8項)。
特定継続的役務提供では、本体の契約を解除したとき、あわせて買った関連商品の販売契約も解除できます(48条2項。ただし書の例外があります)。訪問購入では、売った人は、クーリング・オフの期間内なら、引渡しの期日の定めがあっても、物品の引渡しを拒めます(58条の15)。また、訪問購入のクーリング・オフは第三者にも主張できますが、第三者が善意でかつ過失がないときは主張できません(58条の14第3項)。
通信販売の返品のルール(15条の3)
- 原則(1項本文):商品の引渡し(特定権利の移転)を受けた日から起算して8日を経過するまでは、申込みの撤回または契約の解除ができる。
- 例外(1項ただし書):業者が、撤回・解除についての特約を広告に表示していたときは、この限りでない。ネットの申込み(電子消費者契約)などでは、広告に加えて省令で定める方法でも表示している必要がある。
- 送料(2項):商品の引取りや返還にかかる費用は購入者の負担。
クーリング・オフとの違いは、特約で外せること(業者が「返品不可」と表示していれば使えない)と、送料が購入者の負担であることです。数え始めも、書面ではなく商品の引渡しです。
適用除外(26条)
- 営業のための契約(1項1号):申込者や購入者が「営業のために若しくは営業として締結するもの」には、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の節の規定を使わない。
- ほかの除外(1項2号〜8号):日本の外にいる人への販売、国・地方公共団体が行う販売、労働組合などがその構成員に行う販売、事業者がその従業者に行う販売など。8号には、金融商品取引業者・宅地建物取引業者・旅行業者が行う一定の取引(イ・ロ・ハ)と、ほかの法律で購入者などの利益を保護できるとして政令で定める取引が挙がっている。
- クーリング・オフだけが使えない場面(5項):書面を受け取ったあとに、使うと価値が大きく下がる政令指定の消耗品を自分で使ったとき(1号)、その場で商品を受け取り代金を全部払った契約(5条2項・19条2項の場面)で総額が3,000円に満たないとき(3号。金額は施行令17条1項)など。
- 自分から呼んだ訪問(6項1号):住居で契約の申込みや締結をしたいと「請求」した人への訪問販売には、4条〜10条を使わない。
令和3年の改正(電磁的記録の通知と書面の電子化)
令和3年の改正(消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律、令和3年法律第72号。令和3年6月16日公布)は、多くの規定が令和4年6月1日に施行され、クーリング・オフの通知を、書面だけでなく電磁的記録(メールなど)でもできるようになりました。契約書面などを、相手の承諾を得て電磁的方法で渡せるようにする規定は、消費者庁の案内では令和5年6月1日に施行されています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:そうたさんが自宅で浄水器の契約をし、その日に契約書面を受け取った。その日を1日目として8日目までにメールなどの電磁的記録で解除の通知を発すれば、クーリング・オフになります(9条1項・2項)。
- 当てはまる例:友人に誘われ、連鎖販売取引に当たる契約を、店舗などによらずに商品を販売する個人として結んだ。37条2項の書面を受け取った日から起算して20日を経過するまでは解除できます(40条)。
- 当てはまらない例:そうたさんが自分から業者に電話し、「家で契約したいので来てほしい」と頼んで、自宅で契約した。住居での契約を請求した人への訪問販売なので、9条は使えません(26条6項1号)。
- 当てはまらない例:通販サイトに「お客様都合の返品はできません」と特約が表示されていた。15条の3第1項ただし書で、引渡しから8日の解除もできません。
- ひっかけやすい例:自宅を訪ねてきた業者と契約し、その場で商品を受け取って代金2,500円を全部払った。訪問販売の形でも、代金の総額が3,000円に満たないので、9条のクーリング・オフはできません(26条5項3号・施行令17条1項)。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 特定商取引法(訪問販売) | 宅建業法(37条の2) |
|---|---|---|
| 期間 | 書面を受け取った日から8日 | クーリング・オフについて書面で告げられた日から8日 |
| 通知の方法 | 書面または電磁的記録 | 書面 |
| 効力の時期 | 通知を発した時 | 書面を発した時 |
宅建業法のクーリング・オフは、業者が自ら売主となる宅地・建物の売買で、事務所等以外の場所でした申込みなどが対象です。場所の区別や、引渡しと代金の全部の支払で終わる点は宅建業法のクーリング・オフの記事で扱っています。宅地建物取引業者が行う一定の取引は、特定商取引法26条1項8号ロで、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の規定の適用から外されています。消費者と事業者の間の契約の条項が無効になるかを決める消費者契約法は、更新料と敷引特約の記事で10条を見られます。ネットの申込みの操作ミスの扱いは電子消費者契約法の記事にあります。
試験ではここをまちがえやすい
- 8日と20日:20日は連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引の2つだけ。ほかの4つは8日。
- 通信販売:クーリング・オフはない。15条の3は特約で外せる解除の定めで、数え始めは引渡し、送料は購入者。
- 連鎖販売の起算点:書面を受け取った日と、再販売の商品の最初の引渡しの日のうち、遅いほう。
- 訪問購入の向き:消費者が「売る」側。期間内は引渡しを拒める(58条の15)。
- 営業のための契約:訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の規定は、営業のための契約には使わない(26条1項1号)。
- 通知の方法:特定商取引法は令和4年6月1日から電磁的記録でも通知できる。宅建業法は書面。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
店舗などによらずに商品を販売する個人のBさんは、連鎖販売業を行う業者と連鎖販売契約を結び、同じ日に37条2項の書面を受け取った。Bさんがその日から起算して10日目に書面で解除の通知を発しても、40条のクーリング・オフとしての効力は生じない。
答え:✕ 分かれ目は、期間の日数です。40条1項は、連鎖販売加入者は37条2項の書面を受け取った日から起算して20日を経過するまで、書面または電磁的記録で契約を解除できるとしています。正しくは、10日目の通知は期間内で、発した時に効力を生じます(40条2項)。8日は訪問販売(9条)などの期間で、20日は連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引(58条)の期間です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
そうたさんは、自宅を訪ねてきた購入業者Cに貴金属のアクセサリーを売る契約をし、契約で引渡しの期日を決めた。クーリング・オフの期間内であれば、そうたさんは、その期日が来ていても、Cへのアクセサリーの引渡しを拒むことができる。
答え:○ 分かれ目は、引渡しの期日の定めとの関係です。58条の15は、売買契約の相手方である申込者等は、58条の14第1項ただし書の場合(期間の経過など)を除き、「引渡しの期日の定めがあるときにおいても」、購入業者とその承継人に対し、物品の引渡しを拒めるとしています。契約で期日を決めた以上は渡さなければならない、と考えると✕に見えます。訪問購入は消費者が売る側なので、先に物が渡ってしまうのを防ぐ定めです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
パン店を営むDさんは、店に訪ねてきた業者から、店で使うための業務用の機器を営業のために買う契約をした。この場合でも、Dさんは、契約書面を受け取った日から8日以内であれば、9条のクーリング・オフをすることができる。
答え:✕ 分かれ目は、適用除外です。26条1項1号は、購入者などが「営業のために若しくは営業として締結するもの」には、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の節の規定を使わないとしています。正しくは、Dさんの契約には9条のクーリング・オフは使えません。訪問販売の形なら誰でも使える、と考えると○にしてしまいます。26条1項の除外は第2章(訪問販売・通信販売・電話勧誘販売)の規定についてのもので、店舗や事業所によらずに販売や業務を行う個人を相手にした連鎖販売取引(第3章)・業務提供誘引販売取引(第5章)には、40条・58条のクーリング・オフがあります。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 7つの取引:訪問販売・通信販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供・業務提供誘引販売取引・訪問購入。
- クーリング・オフは8日(訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入)と20日(連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引)。通信販売にはない。
- 書面を受け取った日を1日目に数え、通知を発した時に効力。書面のほか電磁的記録でもよい。
- 通信販売は15条の3:特約の表示がなければ引渡しから8日は解除でき、送料は購入者。
- 営業のための契約、自分から住居での契約を請求した訪問などは適用除外(26条)。
このサイトで次に読むなら、文章理解の記事です。基礎知識の足切りを越える6問の土台は、一般知識より先に文章理解で作れます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました。改正の施行日は消費者庁の案内で確かめました(2026年10月17日確認)。
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」(1条、2条、5条2項、9条、15条の3、24条、26条、40条、48条、58条、58条の14、58条の15)
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律施行令」(17条1項)
- 消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法等改正について」(改正法の題名・番号・公布日・施行日)
働く人の法律試験ノート