ひとことで言うと、居住用の部屋を借りる契約の更新料の条項は、契約書に一義的かつ具体的に書かれ、額が高すぎるなどの特段の事情がなければ、消費者契約法10条で無効にはなりません(最高裁判所平成23年7月15日判決)。敷引特約(しきびきとくやく=退去のとき、預けたお金から一定額を差し引いて返さない約束)も、敷引金が高額に過ぎると評価されるときに限って無効になります(平成23年3月24日判決)。
この記事では、①消費者契約法10条の要件、②更新料と敷引の3つの最高裁判決の枠組み、③更新料の約束がない借地の法定更新(昭和51年判決)、を扱います。敷金を返す時期や貸主が替わったときは敷金の記事、更新しないための正当事由は借家の更新の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の消費者契約法・民法・借地借家法を e-Gov 法令検索で確かめています。消費者契約法と、消費者政策の基本を定める消費者基本法の役目の違いは消費者基本法の記事で扱っています。多くの消費者に共通する被害を団体が裁判でまとめて回復する手続は消費者裁判手続特例法の記事にあります。
身近な例で考えると
登場人物は、アパートを何棟も貸しているともこさんと、その一室を借りる会社員のそらさんです。貸す人=ともこさん(事業者)、借りる人=そらさん(消費者)です(架空の話です)。
- そらさんは、家賃月5万円、期間1年でアパートの一室を借りた。
- 契約書には「更新するときは、1年ごとに更新料として家賃の2か月分を払う」と書かれている。
- 契約のときに保証金30万円を預け、「退去のときに、住んだ年数に応じて10万円〜15万円を差し引いて返す」という敷引特約も結んだ。礼金はない。
- 1年後、そらさんは「更新料は消費者に不利な約束だから無効ではないか」と考えた。
判例の枠組みで見ると、更新料は契約書にはっきり書かれていて、家賃2か月分・1年ごとという額と期間は、最高裁が「特段の事情」はないとした事件と同じです。無効とはいえない、という方向になります。敷引特約は、敷引金が高額に過ぎるかを、家賃の額やほかの一時金の有無などに照らして考えます。
たとえるなら、10条は「お店の約款のうち、ひどく一方的な部分だけを消すルール」です。ただし本物のルールでは、民法などの原則より消費者に不利、というだけでは足りません。信義則に反して消費者の利益を一方的に害する、という2つ目の要件も満たして初めて無効になります。
条文ではこう決まっている
消費者契約法10条(無効になる条項)
- 対象:消費者契約(消費者と事業者の間の契約。2条3項)の条項。消費者は、事業として、または事業のために契約するのではない個人です(2条1項)。
- 要件1(前段):「法令中の公の秩序に関しない規定」(任意規定=当事者の約束で変えられる規定)の適用による場合に比べて、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項であること。条文は例として、消費者が何もしないことで新しい契約の申込みや承諾をしたものとみなす条項を挙げています。平成23年7月15日判決は、ここでいう任意規定には、明文の規定だけでなく一般的な法理等も含まれるとしました。
- 要件2(後段):「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であること。民法1条2項は信義則(信義に従い誠実に行う原則)です。
- 効果:その条項は無効。
民法と借地借家法の関係する条文
- 敷金(民法622条の2):賃貸借が終わって建物を返したときなどに、賃貸人は、賃料などの未払の債務を差し引いた残りを返す。民法には、敷金から一定額を差し引いて返さないという定めはありません。敷引は当事者の約束です。
- 強行規定(借地借家法30条):建物賃貸借の更新などの規定(同法第3章第1節)に反する特約で、建物の賃借人に不利なものは無効。
更新料も、民法や借地借家法に「払う」と定めた条文はありません。払う義務があるかは、契約で約束したかと、その約束が有効かで決まります。
判例はどう判断したか
| 判決 | 特約の中身 | 結論 |
|---|---|---|
| 平成23年7月15日(第二小法廷) | 更新料:家賃2か月分、1年ごと | 10条で無効とはいえない |
| 平成23年3月24日(第一小法廷) | 敷引:18万〜34万円(家賃の2倍弱〜3.5倍強) | 10条で無効とはいえない |
| 平成23年7月12日(第三小法廷) | 敷引:家賃の3.5倍程度 | 10条で無効とはいえない |
| 昭和51年10月1日(第二小法廷) | 宅地の法定更新、更新料の約束なし | 払う慣習は存在しない |
更新料(平成23年7月15日判決)
最高裁判所第二小法廷平成23年7月15日判決(平成22年(オ)第863号)は、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価などの趣旨を含む複合的な性質を持つとしました。そのうえで、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の条項は、更新料の額が賃料の額、更新される期間などに照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、10条の「消費者の利益を一方的に害するもの」に当たらないとしました。この事件は、家賃月3万8,000円、更新料は家賃の2か月分、更新期間は1年でした。
この事件の条項は、更新が「法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく」更新料を払う、と定めていました。最高裁は、更新したものとみなされた回の未払の更新料7万6,000円の支払を命じています。また、この条項は借地借家法30条の「賃借人に不利な特約」にも当たらないとしました。
敷引特約(平成23年3月24日・7月12日判決)
最高裁判所第一小法廷平成23年3月24日判決(平成21年(受)第1679号)は、敷引特約が、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害すると直ちにはいえないとしました。ただし、通常の使用による損耗や経年による損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金など他の一時金の授受の有無とその額などに照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきときは、賃料が近くの同じような建物の相場より大幅に低いなどの特段の事情のない限り、10条で無効になるとしました。この事件は、敷引金が家賃の2倍弱〜3.5倍強で、ほかの一時金は更新料1か月分だけだったことなどから、無効とはいえないとされました。
最高裁判所第三小法廷平成23年7月12日判決(平成22年(受)第676号)も、敷引金が家賃の3.5倍程度にとどまり、近くの同じような物件の敷引金の相場より大幅に高いとはうかがわれないなどの事実関係のもとで、無効とはいえないとした事例です。この判決には補足意見と反対意見があります。
借地の更新料(昭和51年10月1日判決)
最高裁判所第二小法廷昭和51年10月1日判決(昭和51年(オ)第657号)は、宅地の賃貸借の法定更新に際し、賃貸人の請求があれば当然に賃借人に更新料の支払義務が生じるという商慣習や事実たる慣習は存在しない、としました。旧借地法の時代の事件です。更新料の約束がないのに、「慣習だから払う」とはならない、という判断です。
当てはまる例・当てはまらない例
- 無効とはいえない方向(更新料):そらさんの契約のように、契約書に額と時期がはっきり書かれ、家賃2か月分・1年ごと。平成23年7月15日判決の事件と同じ形です。
- 無効になりうる方向(敷引):敷引金が、損耗の補修費用として通常想定される額や家賃の額、礼金などほかの一時金と比べて高額に過ぎる場合。家賃が相場より大幅に低いなどの特段の事情がなければ、10条で無効になります。
- 判例の枠組みの外(約束がない更新料):契約書に更新料の定めがない借地で、地主が法定更新のときに更新料を求めた。昭和51年判決により、慣習を理由に払う義務は生じません。
- ひっかけやすい(消費者契約でない):会社が事務所として借りる契約は、借りる側が消費者ではありません。10条の枠組みは使えず、民法などの一般のルールで考えます。
似ているルールとの違い
| 規定 | 無効にする条項 | 更新料の条項は |
|---|---|---|
| 消費者契約法10条 | 任意規定より不利で、信義則に反し消費者の利益を一方的に害するもの | 特段の事情がなければ当たらない(平成23年判決) |
| 借地借家法30条 | 更新などの規定に反する特約で建物の賃借人に不利なもの | 当たらない(平成23年7月15日判決) |
| 民法548条の2第2項 | 定型約款の条項で相手方の利益を一方的に害するもの(合意しなかったとみなす) | この記事の判例は10条で判断 |
民法548条の2第2項は、効果が「無効」ではなく「合意をしなかったものとみなす」です。違いは定型約款の記事で比べています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、賃貸借が主な論点の問題は26問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では8問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも25問(直近10回で6問)あります。判決文を読ませる形の問題(判決文問題)は副の論点として17問、直近10回で7問ありました。更新料・敷引の判例だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 限定要件を外す形:平成23年7月15日判決は「一義的かつ具体的に記載された」条項で、「高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り」です。「更新料の条項はどれも有効」とは言っていません。
- 敷引の判断材料を減らす形:高額に過ぎるかは、補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金など他の一時金の有無と額などに照らして判断します。家賃の何倍かだけでは決まりません。
- 約束のない更新料を払わせる形:約束がなければ、慣習を理由に支払義務は生じません(昭和51年判決)。
- 10条の要件を一つにする形:消費者に不利(前段)だけでなく、信義則に反し一方的に害する(後段)ことも要ります。
判決の一節を読ませる問題では、限定の語(「特段の事情のない限り」「直ちに〜できない」)を落とした選択肢を見分けます。読み方の手順は判決文問題の解き方にまとめています。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
みのるさんが建物を建てるためにげんさんから借りた土地の契約は、契約書に更新料の定めがないまま、期間が満了して法定更新された。この場合でも、げんさんが請求すれば、みのるさんは更新料を払う義務を負う。
答え:✕ 分かれ目は、更新料の約束があるかです。最高裁判所第二小法廷昭和51年10月1日判決は、宅地の賃貸借の法定更新に際し、賃貸人の請求があれば当然に賃借人に更新料の支払義務が生じるという商慣習や事実たる慣習は存在しないとしました。正しくは、約束がなければ、請求を受けたというだけで払う義務は生じません。契約書で更新料をはっきり約束していた平成23年7月15日判決の場面と取り違えた文です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
事業者ともこさんからアパートを借りたそらさんの契約書には、「法定更新か合意更新かにかかわらず、1年ごとに家賃2か月分の更新料を払う」とある。高額に過ぎるなどの特段の事情がなければ、法定更新となった年の更新料も、そらさんは払う義務を負う。
答え:○ 分かれ目は、更新料の条項が消費者契約法10条で無効になるかです。最高裁判所第二小法廷平成23年7月15日判決は、契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の条項は、額が賃料の額や更新される期間などに照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、10条に当たらないとしました。この事件の条項も法定更新か合意更新かを問わないもので、最高裁は、更新したものとみなされた回の未払の更新料の支払を命じています。法定更新なら払わなくてよいと考えると✕に見えますが、それは更新料の約束がない借地の場面(昭和51年判決)です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
そらさんの契約には、退去のときに保証金から一定額を差し引いて返さない敷引特約がある。判例によれば、敷引金が高額に過ぎるかは、礼金などほかの一時金を払ったかどうかに関係なく、家賃の月額の何倍かだけで判断する。
答え:✕ 分かれ目は、何に照らして高額に過ぎるかを判断するかです。最高裁判所第一小法廷平成23年3月24日判決は、損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金など他の一時金の授受の有無とその額などに照らし、敷引金が高額に過ぎると評価すべきときは、特段の事情のない限り10条で無効になるとしました。正しくは、礼金などの一時金も考えます。家賃の何倍かは、事件ごとの結論(2倍弱〜3.5倍強で無効とはいえない)に出てくる事実で、それだけで決める基準ではありません。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 消費者契約法10条は、任意規定より消費者に不利で、信義則に反し消費者の利益を一方的に害する条項を無効にする。
- 更新料:契約書に一義的かつ具体的に記載され、高額に過ぎるなどの特段の事情がなければ無効でない(平成23年7月15日判決。家賃2か月分・1年ごとの事件)。
- 敷引:補修費用の想定額・賃料・礼金など他の一時金に照らし高額に過ぎるときは、特段の事情のない限り無効(平成23年3月24日判決)。
- 約束のない借地の法定更新で、更新料を払う慣習はない(昭和51年判決)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の各法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、平成23年7月15日判決は判決全文も確かめました。
- e-Gov法令検索「消費者契約法」(2条、10条)
- e-Gov法令検索「民法」(622条の2)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(30条)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成23年7月15日判決(平成22年(オ)第863号)」(更新料条項と消費者契約法10条)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成23年3月24日判決(平成21年(受)第1679号)」(敷引特約が消費者契約法10条により無効となる場合)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成23年7月12日判決(平成22年(受)第676号)」(敷引特約が無効といえないとされた事例)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和51年10月1日判決(昭和51年(オ)第657号)」(宅地賃貸借の法定更新と更新料の慣習)
このサイトで次に読むなら、敷金の記事です。預けた敷金を、いつ、何を差し引いて返すかを、条文の順に確かめられます。
働く人の法律試験ノート