AI推進法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律):目的・基本理念・国の役割と人工知能戦略本部

ひとことで言うと、AI推進法は、AI(人工知能)の研究開発と活用を国として進めるための基本理念と、国などの責務、国の計画(人工知能基本計画)、内閣に置く人工知能戦略本部を決めた法律です。事業者に細かい義務を課して違反を罰する法律ではなく、罰則の規定はありません(2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確認)。

「AI推進法」は通称です。法律の題名は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)で、e-Gov 法令検索の略称と内閣府の説明では「AI法」と呼んでいます。令和7年(2025年)6月4日に公布され、その日に一部が施行されました。人工知能基本計画(第3章)と人工知能戦略本部(第4章)などの規定は、公布から3か月を超えない範囲で政令で定める日に施行するとされ、内閣府の説明では、9月1日に全面施行されています。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、情報通信・個人情報保護の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問を、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。AIの技術の説明、政策の評価、海外の規制との比べは扱わず、令和8年4月1日時点の条文の骨組みだけを整理します。

身近な例で考えると

けいさんは、AIを使った問い合わせ対応のサービスを作る「みらい製作所」で働く会社員で、行政書士試験の受験生です。「AIの法律ができたなら、会社に何か義務がかかったのか」が気になり、条文で確かめました。

人物・機関この法律での立場条文の書き方
みらい製作所活用事業者活用に努め、国・地方公共団体の施策に協力しなければならない(7条)
けいさん国民理解と関心を深め、施策に協力するよう努めるものとする(8条)
国施策を進める主体施策を策定・実施する責務を有する(4条)
人工知能戦略本部内閣に置く組織基本計画の案を作り、重要な施策を総合調整する(20条)

けいさんが分かったのは、みらい製作所に「協力しなければならない」という責務はあるものの、守らなかったときに罰金などを科す条文はない、ということでした。たとえると、この法律は「国がAIをどう進めるかを決めた方針書と、その司令塔の作り方」です。ただし本物のルールでは、国は調査研究の結果にもとづいて、事業者に指導・助言・情報の提供などをすることができます(16条)。

条文ではこう決まっている

法律の組み立て

章条中身
第1章 総則1条〜10条目的・定義・基本理念・責務・連携・法制上の措置
第2章 基本的施策11条〜17条研究開発・施設・適正性・人材・教育・調査研究・国際協力
第3章 人工知能基本計画18条政府が定める計画
第4章 人工知能戦略本部19条〜28条内閣に置く本部の組織と事務

目次は上の4章と附則だけで、罰則の章はありません。本文にも、罰金・拘禁刑・過料の定めはありません。

目的・定義・基本理念(1条〜3条)

  • 目的(1条):人工知能関連技術が経済社会の発展の基盤となる技術であることから、基本理念と基本計画の策定などの施策の基本となる事項を定め、人工知能戦略本部を置くことで、科学技術・イノベーション基本法やデジタル社会形成基本法などの施策と合わせて、施策を総合的・計画的に進め、国民生活の向上と国民経済の健全な発展に寄与する。
  • 定義(2条):「人工知能関連技術」とは、人工的な方法で人間の認知・推論・判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術と、入力された情報をその技術で処理して結果を出力する機能を実現する情報処理システムに関する技術。
  • 基本理念(3条):1項は、科学技術・イノベーション基本法3条の方針とデジタル社会形成基本法第2章の基本理念のほか、この条の理念にもとづいて行うとする。2項は国内の研究開発能力の保持と産業の国際競争力の向上、3項は基礎研究から活用までの総合的・計画的な推進、4項は不正な目的・不適切な方法による利用が犯罪への利用・個人情報の漏えい・著作権の侵害などを助長するおそれがあることから、過程の透明性の確保などの施策が講じられなければならないこと、5項は国際的協調の下での推進。AIの開発などで著作物を情報解析に使う場合の決まり(著作権法30条の4)は著作権法の記事で扱っています。

だれが・何をするか(4条〜8条・13条・16条)

条だれが何をする(文末)
4条国施策を策定・実施する(責務を有する)。国の行政機関でAIを積極的に活用する(進めるものとする)
5条地方公共団体国との役割分担を踏まえ、区域の特性を生かした自主的な施策(責務を有する)
6条大学などの研究開発機関研究開発と成果の普及・人材の育成、施策への協力(努める)
7条活用事業者事業活動の効率化・高度化と新産業の創出(努める)、施策への協力(しなければならない)
8条国民理解と関心を深め、施策に協力(努めるものとする)
13条国国際的な規範の趣旨に即した指針の整備などで適正な実施を図る(講ずるものとする)
16条国調査研究を行い、その結果にもとづいて指導・助言・情報の提供など(講ずるものとする)

「活用事業者」は7条1項で、人工知能関連技術を使った製品やサービスの開発・提供をしようとする者など、AIを事業活動で活用しようとする者と決められています。「研究開発機関」は6条1項で決められています。2条の定義は「人工知能関連技術」だけです。

16条は、国が事業者に関わる場面を定めた条文です。国は、国内外の動向の情報の収集や、不正な目的・不適切な方法によるAIの研究開発・活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析と対策の検討などの調査研究を行い、その結果にもとづいて、研究開発機関・活用事業者などに対する指導・助言・情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとされています。命令や処分の権限を定めた条文ではありません。

人工知能基本計画(18条)と人工知能戦略本部(19条〜28条)

  1. 政府は、人工知能基本計画を定めるものとする(18条1項)。
  2. 計画の案は人工知能戦略本部が作る(20条1号)。
  3. 内閣総理大臣は、本部の作った案について閣議の決定を求め(18条3項)、決定があれば遅滞なく公表する(4項)。変更も同じ(5項)。
  • 設置(19条):内閣に人工知能戦略本部を置く。
  • 組織(21条〜24条):本部長は内閣総理大臣。副本部長は内閣官房長官と人工知能戦略担当大臣。本部員は、本部長と副本部長以外のすべての国務大臣。
  • 協力の求め(25条):関係行政機関・地方公共団体などに、資料の提出・意見の表明・説明などの協力を求めることができる。それ以外の者にも、特に必要なときは協力を依頼できる。
  • 事務(26条)・主任の大臣(27条):本部の事務は内閣府で処理する。主任の大臣は内閣総理大臣。

附則2条は、政府が、国際的な動向などの変化を踏まえて法律の施行の状況を検討し、必要があれば措置を講ずるとしています。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:みらい製作所が、国の施策に協力して、求められた情報を提供した。7条の協力の責務に沿う行動です。
  2. 当てはまる例:国が、AIの不適切な利用で権利利益の侵害が生じた事案を分析し、その結果にもとづいて事業者に助言した。16条の措置です。
  3. 当てはまらない例:みらい製作所が国の施策に協力しなかったので、AI推進法にもとづいて過料を科された。この法律には罰則の規定がないので、このようなことは起こりません。
  4. ひっかけやすい例:けいさんがAIの仕組みに関心を持たないままでいた。国民の責務は「協力するよう努めるものとする」(8条)という努力の定めで、活用事業者の「協力しなければならない」(7条)より弱い書き方です。
  5. ひっかけやすい例:人工知能基本計画の案を作るのは、内閣総理大臣ではなく人工知能戦略本部。内閣総理大臣は、その案について閣議の決定を求めます。

似ているルールとの違い

法律何を決めたかAI推進法との関係
AI推進法AIの研究開発・活用を進める理念、責務、計画、本部—
デジタル社会形成基本法デジタル社会の形成の基本理念など3条1項が、その第2章の基本理念に基づいて推進を行うとする
科学技術・イノベーション基本法科学技術・イノベーション創出の振興の方針など3条1項が、その3条の方針に基づいて推進を行うとする
個人情報保護法個人情報を扱う事業者の義務などAI推進法は個人情報の扱いの具体的な義務を定めていない

AIを使うサービスでも、個人情報を扱えば、事業者の義務は個人情報保護法で決まります(個人情報保護法の記事)。情報通信の分野でほかに押さえる用語と法律は、情報通信の用語の記事にまとめています。国の計画の案をだれが作るかは、ほかの法律と比べると覚えやすく、環境基本計画は環境大臣(環境基本法の記事)、男女共同参画基本計画は内閣総理大臣が作ります(均等法と男女共同参画社会基本法の記事)。

試験ではここをまちがえやすい

  • 罰則:罰則の規定はない。7条の「協力しなければならない」も、違反に罰則が付いているわけではない。
  • 題名と番号:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)。「AI推進法」「AI法」は略した呼び方。
  • 施行:令和7年6月4日公布・一部施行。基本計画と戦略本部の章などは9月1日施行。
  • 責務の強さ:国・地方公共団体は「責務を有する」、研究開発機関は「努める」、活用事業者は「努める」と「協力しなければならない」、国民は「努めるものとする」。
  • 本部の置き場所と事務:本部は内閣に置き、事務は内閣府で処理する。本部長は内閣総理大臣。
  • 計画の案:案を作るのは本部、閣議の決定を求めて公表するのは内閣総理大臣。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
AI推進法7条は、活用事業者に対し、国・地方公共団体が実施する施策に「協力しなければならない」と定めているが、活用事業者がこれに従わなかったときに罰金や過料を科す規定は、この法律に置かれていない。

答え:○ 分かれ目は、義務の書き方と罰則の有無です。7条は、活用事業者は効率化・高度化と新産業の創出に努めるとともに、国・地方公共団体の施策に協力しなければならないとしています。しかし、この法律は総則・基本的施策・基本計画・戦略本部の4章と附則でできていて、罰則の章も、罰金・過料の定めもありません。「しなければならない」とあるので違反には罰則がある、と考えると✕にしてしまいます。国民の責務(8条)は「努めるものとする」で、書き方がさらに違います。

問2(このサイトのオリジナル問題)
AI推進法では、政府が人工知能基本計画を定めるものとされている。その計画の案は、内閣総理大臣が人工知能戦略本部の意見を聴いて作成し、閣議の決定を求める。

答え:✕ 分かれ目は、案を作る主体です。20条1号は、人工知能基本計画の案の作成を本部の事務とし、18条3項は、内閣総理大臣は「人工知能戦略本部の作成した人工知能基本計画の案」について閣議の決定を求めるとしています。正しくは、案を作るのは本部で、内閣総理大臣はその案について閣議の決定を求め、公表します。「内閣総理大臣が会議の意見を聴いて案を作る」のは、男女共同参画社会基本法13条3項の男女共同参画基本計画の形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
AI推進法によれば、人工知能戦略本部は内閣に置かれ、本部長には内閣総理大臣が充てられる。本部員には、本部長と副本部長以外のすべての国務大臣のほか、人工知能に関し優れた識見を有する者のうちから内閣総理大臣が任命する者も充てられる。

答え:✕ 分かれ目は、本部員の範囲です。24条2項は、本部員は「本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる」としています。正しくは、本部員はすべて国務大臣で、識見を有する者を本部員に任命する形にはなっていません。本部を内閣に置くこと(19条)と、本部長が内閣総理大臣であること(22条)は正しいので、前半だけを見て○としやすいところです。国務大臣のほかに有識者を本部員に任命する形は、知的財産基本法の知的財産戦略本部(29条2項2号)にあり、それと混ざると○にしてしまいます。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 題名は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)。令和7年6月4日公布、9月1日全面施行。
  • 4章(総則・基本的施策・基本計画・戦略本部)と附則。罰則の規定はない。
  • 国・地方公共団体は責務、活用事業者は努力と協力の義務、国民は努力。
  • 16条:国の調査研究と、その結果にもとづく指導・助言・情報の提供など。
  • 人工知能戦略本部は内閣に置き、本部長は内閣総理大臣。基本計画の案は本部が作り、内閣総理大臣が閣議の決定を求める。

このサイトで次に読むなら、情報通信の用語の記事です。情報通信の分野で、条文を深追いしなくてよいところとの線引きが分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました。罰則の規定がないことは、2026年10月17日に目次と本文で確かめました。施行の日は内閣府の説明で確かめました。

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