ひとことで言うと、景気循環とは、景気が拡張(よくなる局面)と後退(悪くなる局面)をくり返す動きのことです。拡張から後退へ変わる点を「山」、後退から拡張へ変わる点を「谷」と呼び、内閣府 経済社会総合研究所が「景気基準日付」として設定します。景気の動きを測る景気動向指数には、景気の動きの大きさやテンポ(量感)を見るCIと、各経済部門への広がり(波及度)を見るDIがあります(内閣府の説明)。物価の動きは、総務省統計局の消費者物価指数で見ます。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の経済の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、経済の指標の言葉を知るために読んでください。
「景気循環」「4つの波」は法律の言葉ではありません。景気基準日付と景気動向指数は内閣府 経済社会総合研究所、消費者物価指数は総務省統計局の説明で確かめました(2026年10月17日確認)。4つの波は公的な定義がなく、経済学の教科書などで使われる説明として扱います(確かめた資料は本文に書きます)。指数の最新の値、今の景気の判断、先の見通しは書きません。数字はすべて架空の国の例です。
身近な例で考えると
会社員のしょうたさんは、架空の「あさひ国」の統計で、景気動向指数のCIとDIの違いを確かめました。あさひ国の一致系列(景気とほぼ同時に動く統計)は10本とします。
| 月 | 3か月前より増えた系列 | DI | CIの動き |
|---|---|---|---|
| 4月 | 7本(減った3本) | 70% | 大きく上がった |
| 5月 | 9本(減った1本) | 90% | 少しだけ上がった |
- DIは、増えた系列の割合です。4月は7÷10=70%、5月は9÷10=90%。増えた系列は4月より5月のほうが多い。
- CIは、系列の変化の大きさを合成した指数です。5月は上がり方が4月より小さい。
- しょうたさんの結論:5月は「よくなっている分野が広がった」が、「よくなる勢いが強まった」とは言えない。DIが上がっても、景気の拡張が加速しているとは読めない。
たとえると、DIは「クラスで成績が上がった人の割合」、CIは「クラス全体の平均点の上がり幅」に近いものです。ただし本物のCIは、系列ごとの変化率を合成して前月の値に掛け合わせる計算で、平均点ほど単純ではありません。
内閣府の説明ではこう決まっている
景気の山と谷(景気基準日付)
- 何か:景気の局面の判断や、循環ごとの比べ方に使うため、主な経済指標の中心的な転換点を「景気基準日付(山・谷)」として設定するもの。
- 決め方:CI一致指数の各採用系列から作るヒストリカルDIをもとにし、景気動向指数研究会での議論を踏まえて、経済社会総合研究所長が設定する。
- 表の見方:内閣府の表は、1つの循環を「谷・山・谷」の順に並べ、期間を「拡張」「後退」「全循環」に分けて示している。谷から山へ向かう局面が拡張、山から谷へ向かう局面が後退です。
景気動向指数のCIとDI
- 目的:景気の現状の把握と将来の予測に役立てるための指標。
- CI:景気の変動の大きさやテンポ(量感)を測るのが主な目的。一致指数が上がっているときは景気の拡張局面、下がっているときは後退局面。2008年4月分からは、CIを中心とする公表になった。
- DI:景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測るのが主な目的。各系列を3か月前と比べて増えたか減ったかを見て、増えた系列の割合を%で表す。一致指数は拡張局面では50%を上回り、後退局面では下回る傾向がある。ただし、DIは景気拡張が加速していることを示すものではない。DIは今も参考の指標として作られている。
- 基準年:CIの基準年は、西暦の末尾が0と5の年(5年ごと)に改める。
| 系列 | 景気との関係 | 使い道 | 採用系列の例 |
|---|---|---|---|
| 先行 | 一致指数に数か月先行 | 景気の動きを予測する | 新規求人数(除学卒)、東証株価指数 |
| 一致 | 景気とほぼ一致 | 景気の現状をつかむ | 生産指数(鉱工業)、有効求人倍率(除学卒) |
| 遅行 | 一致指数に数か月から半年程度遅行 | 事後に確かめる | 完全失業率(逆サイクル)、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、前年同月比) |
2026年10月17日に確かめた内閣府の説明では、採用系列は第13次改定(2021年3月)のもので、先行11・一致10・遅行9の計30系列です。採用系列は改定で変わることがあります。「逆サイクル」は、指数の上昇・下降が景気の動きと反対になる指標のことで、完全失業率は上がると景気が悪いほうを示します。
4つの波(公的な定義のない、教科書などの説明)
景気の波を、何が原因とされるかで4つに分ける説明があります。経済学の教科書などで使われる、人の名前を付けた呼び方で、法律や内閣府の統計が定めたものではありません。周期の年数も、公的機関が定めた値がないので、この記事では書きません。
| 呼び方 | 原因とされるもの | 別の呼び方 |
|---|---|---|
| キチンの波 | 在庫投資 | 在庫循環・短期循環 |
| ジュグラーの波 | 設備投資 | 設備投資循環・中期循環 |
| クズネッツの波 | 建設投資 | 建設投資循環 |
| コンドラチェフの波 | 技術革新(シュンペーターによる説明) | 長期波動 |
公的機関が自ら定めた説明ではないので、公的機関の資料が紹介している範囲で確かめました。厚生労働省の審議会の参考資料(2018年)は、研究者の論文を引いて、キチンの波を「在庫投資が原因で起こる在庫循環と説明されることが非常に多い」とし、ジュグラーの波を設備投資循環、クズネッツの波を建設投資循環とも呼ばれる循環として紹介しています。コンドラチェフの波(長期波動)は、国土交通白書(平成29年版)のコラムが、シュンペーターがイノベーション(技術革新)によって説明しようと試みたとされる、と書いています。どの原因も「〜とされる」という説明で、統計や法令の定義ではありません。在庫の動きについては、経済企画庁の年次経済報告(昭和33年度。内閣府のサイトに掲載)も、在庫投資が短期的な景気変動の主因となることは珍しくない、と述べています。
総務省統計局の説明ではこう決まっている:消費者物価指数
- 何を測るか:全国の世帯が購入する財・サービスの価格の平均的な変動。
- 基準年:5年ごとに改定し、西暦の末尾が0と5の年を基準年とする。今の指数は2025年基準で、2025年の1年間の物価を100として比べる。
- 算式:固定基準ラスパイレス指数算式(基準年の買い物の割合を固定して比べる式)。
- 前年同月比:1年前の同じ月と比べる見方で、季節による動きの影響を除くのに使われる。
| 指数 | 除くもの | ねらい |
|---|---|---|
| 総合 | なし | 物価全体の動き |
| 生鮮食品を除く総合 | 生鮮食品 | 天候で値動きが激しいものを除いて基調を見る。「コア」指数とも呼ばれる |
| 生鮮食品及びエネルギーを除く総合 | 生鮮食品と、電気代・都市ガス代・プロパンガス・灯油・ガソリン | 原油価格の影響を直接受けるものも除いて基調を見る |
総務省統計局は、2025年基準の指数を令和8年7月10日から公表しています(基準改定の公表予定の資料による)。消費者物価指数の生鮮食品を除く総合の前年同月比が、景気動向指数では遅行系列に入っていることも、上の表と合わせて押さえておきます。物価が上がり続ける・下がり続けること(インフレ・デフレ)の意味は日本銀行の記事、物価の動きの分を取り除いた実質の値はGDPとGNIの記事で扱っています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:CI一致指数が上がり続けている期間。内閣府の説明では、景気の拡張局面に当たります。
- 当てはまる例:景気の先行きを見たいときに見る先行系列。新規求人数(除学卒)や東証株価指数が採用されています。
- 当てはまらない例:完全失業率の上昇を「景気がよくなった合図」と読むこと。完全失業率は逆サイクルの遅行系列で、上がるのは景気が悪いほうの動きです。
- 当てはまらない例:山・谷を、ある1か月のCIの上げ下げだけで決めること。景気基準日付は、ヒストリカルDIと研究会の議論をもとに設定されます。
- ひっかけやすい例:DIが90%に上がった月。広がりは大きいですが、拡張が加速しているとは言えません(身近な例の5月)。
試験ではここをまちがえやすい
- CIとDI:CI=量感(大きさ・テンポ)、DI=波及度(広がり)。公表の中心はCI(2008年4月分から)。
- 3つの系列:先行は予測、一致は現状、遅行は事後の確認。消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)と完全失業率は遅行。
- 山と谷:山=拡張から後退へ、谷=後退から拡張へ。設定するのは内閣府 経済社会総合研究所。
- コア指数:「生鮮食品を除く総合」。生鮮食品とエネルギーを除くのは別の指数。
- 基準年:消費者物価指数もCIも、西暦の末尾が0と5の年に改める(5年ごと)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
あさひ国の景気動向指数で、一致系列のうち3か月前より増えた系列の割合(DI)が、前の月の70%から今月は90%に上がった。このことだけから、景気の拡張が加速していると判断することはできない。
答え:○ 内閣府は、DIは景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測るもので、「景気拡張が加速していることを示すものではない」と説明しています。景気の動きの大きさやテンポ(量感)を見るのはCIです。「数字が大きく上がったのだから勢いも強い」と考えると✕に見えます。DIの上昇は、よくなっている系列の広がりを示すだけです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
2026年10月時点の内閣府の説明では、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の前年同月比は、景気の動きを予測するための先行系列として、景気動向指数に採用されている。
答え:✕ 分かれ目は、採用されている系列の種類です。内閣府の説明(第13次改定の採用系列)では、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、前年同月比)は遅行系列です。正しくは、一致指数に数か月から半年程度遅れて動き、景気の動きを事後に確かめるのに使う系列です。物価は景気の先を映すと考えて、新規求人数や東証株価指数のような先行系列と取り違えた誤りです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
総務省統計局の説明では、消費者物価指数のうち「コア」指数と呼ばれることがあるのは、生鮮食品とエネルギーの両方を除いた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」指数である。
答え:✕ 分かれ目は、何を除いた指数を「コア」と呼ぶかです。総務省統計局のQ&Aでは、「コア」指数と呼ばれることがあるのは「生鮮食品を除く総合」です。正しくは、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」は、そこからさらに電気代・ガソリンなどのエネルギーも除いた別の指数です。どちらも基調を見るための指数なので、除くものの範囲で見分けます。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 景気循環=拡張と後退のくり返し。山(拡張→後退)と谷(後退→拡張)を、内閣府 経済社会総合研究所が景気基準日付として設定する。
- CI=量感、DI=波及度。DIが上がっても拡張の加速とは言えない。公表の中心はCI。
- 先行(予測)・一致(現状)・遅行(事後の確認)。消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)と完全失業率は遅行系列。
- 4つの波(教科書などの説明で、公的な定義はない):キチン=在庫、ジュグラー=設備投資、クズネッツ=建設、コンドラチェフ=技術革新。
- 消費者物価指数は5年ごとに基準を改め、今は2025年基準。コア=生鮮食品を除く総合。
このサイトで次に読むなら、財政の3つの機能とビルトイン・スタビライザーの記事です。景気の波を小さくするために、税や財政支出がどう働くかを確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
内閣府・総務省統計局の説明は、2026年10月17日に確かめました。採用系列と基準年は改定で変わることがあります。表のDI・CIの数字は架空の国の例です。
- 内閣府 経済社会総合研究所「景気動向指数の利用の手引」(目的、CIとDI、先行・一致・遅行、採用系列、DIの作り方、逆サイクル、CIの基準年)
- 内閣府 経済社会総合研究所「景気基準日付」(山・谷の設定のしかた、表の並び)
- 総務省統計局「消費者物価指数に関するQ&A(回答)」(何を測るか、基準年と5年ごとの改定、コア指数、エネルギーの品目、算式、前年同月比)
- 総務省統計局「消費者物価指数 2025年基準改定に伴う公表スケジュールについて」(令和8年6月19日)
- 厚生労働省 社会保障審議会年金部会 年金財政における経済前提に関する専門委員会(2018年7月12日)資料2-2 参考資料(キチン・ジュグラー・クズネッツ・コンドラチェフの呼び方と、研究者の論文を引いた説明)
- 国土交通省「国土交通白書(平成29年版)」第1部第1章第1節のコラム「景気循環とイノベーション」
- 経済企画庁「昭和33年度 年次経済報告」総説「景気後退のメカニズム」(内閣府のサイト)(在庫投資と短期の景気変動)
働く人の法律試験ノート