e-文書法:法令で求められた書面の保存・作成・縦覧・交付を電磁的記録でできるようにした法律、電子帳簿保存法との違い

ひとことで言うと、e-文書法は、法令で「紙で保存・作成・縦覧・交付しなさい」とされている書面を、民間事業者などが電子データ(電磁的記録)でも扱えるようにした法律です。どの書面をデータにできるかは、法律ではなく、それぞれの省庁の省令(主務省令)が決めます。

まず名前に注意します。「e-文書法」は法律の題名ではなく、通称です。平成16年に成立した次の2本の法律を、まとめてそう呼んでいます(総務省「平成17年版 情報通信白書」)。

  1. 民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成16年法律第149号。この記事では「通則法」と呼びます)。共通のルールを決めた法律で、平成17年4月1日に施行されました(附則1条)。
  2. 民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成16年法律第150号。「整備法」)。通則法だけでは足りない個別の法律を直した法律です。

この記事では、試験の論点として通則法の条文を中心に整理します。企業の文書管理の実務、システムの要件、電子帳簿の保存のやり方は扱いません。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

さきさんは、小さな会社「みなと商会」で総務を担当しています。会社には、法律で「紙で保存しておきなさい」とされている書類が、棚いっぱいにあります。取引先のゆうとさんにも、法律で決まった書面を毎月渡しています。

人物立場したいこと
さきさん(みなと商会)民間事業者等紙の書類をデータで保存し、データで渡したい
ゆうとさん書面を受け取る相手方受け取り方を自分で選びたい
  1. さきさんは、棚の書類をスキャンしてデータで保存したいと考えた。その書類が主務省令で定められたものなら、通則法3条によりデータで保存できる。ゆうとさんの承諾は要らない。
  2. さきさんは、ゆうとさんに渡す書面もメールで送りたいと考えた。こちらは通則法6条の交付等で、あらかじめ方法を示して、ゆうとさんの承諾を得る必要がある。
  3. ゆうとさんが承諾したあとで、メールで「やはり紙でほしい」と申し出た(申出は書面か電磁的方法による)。それからは、改めて承諾をもらわない限り、メールで渡すことはできない(施行令2条2項)。

たとえると、自分の棚にしまう書類をデータにするのは「自分の部屋の片づけ」なので、相手に聞く必要はありません。相手に渡す書面をデータにするのは「相手の受け取り方を変える」ことなので、相手の承諾が要ります。ただし本物のルールでは、どの書類をデータにできるかは主務省令が一つずつ決めていて、何でもデータにできるわけではありません。

条文ではこう決まっている

言葉の意味(2条)

  • 民間事業者等(1号):法令の規定で、書面や電磁的記録の保存等をしなければならないとされている民間事業者その他の者。国の機関、地方公共団体とその機関などは除かれます。
  • 法令(2号):「法律及び法律に基づく命令」。条例・規則は入っていません。
  • 書面(3号):書面、書類、文書、謄本、抄本など、文字や図形など人の知覚で認識できる情報が書かれた紙その他の有体物(ゆうたいぶつ=形のある物)。
  • 電磁的記録(4号):電子的方式、磁気的方式など、人の知覚では認識できない方式で作られる記録で、コンピュータの情報処理に使われるもの。
  • 保存等(10号):保存・作成・縦覧等・交付等をまとめた言葉。裁判所での手続や刑事事件などの手続(裁判手続等)で行うものは、保存などの定義から除かれています(5号ただし書など)。

4つの場面(3条〜6条)

3条〜6条は同じ形をしています。①ほかの法令で「書面で」とされているもののうち、②主務省令で定めるものについて、③その法令の規定にかかわらず、電磁的記録で行える。そして各条の2項で、電磁的記録で行ったものは書面で行われたものとみなして、元の法令の規定を当てはめます。

条場面対象の限定相手方の承諾
3条保存主務省令で定めるもの規定なし
4条作成保存義務のある書面で、主務省令で定めるもの規定なし
5条縦覧等(閲覧させる)主務省令で定めるもの規定なし
6条交付等(渡す・出す)保存義務のある書面で、主務省令で定めるもの必要(政令で手続)
  • 作成の署名(4条3項):元の法令で署名・記名・押印(署名等)が求められているときは、氏名または名称を明らかにする措置で主務省令で定めるものを、署名等に代えることができます。
  • 縦覧等(5条):書面を見せる代わりに、電磁的記録に記録された事項か、それを書いた書類を見せることができます。
  • 交付等(6条):「政令で定めるところにより、当該交付等の相手方の承諾を得て」、主務省令で定める電磁的方法で交付等ができます。

承諾の取り方(施行令2条)

6条の「政令」は、通則法の施行令(平成17年政令第8号)です。2条1項で、事業者は「あらかじめ」、相手方に電磁的方法の種類と内容を示し、「書面又は電磁的方法による承諾」を得なければならないとしています。2項で、相手方から電磁的方法では受けないと申し出があったときは、もう一度承諾を得た場合を除いて、電磁的方法で交付等をしてはならないとしています。

宅建業法は、35条書面・37条書面などをデータで渡すことを自分の条文の中で定めていて、こちらも相手方の承諾を前もって得る形です。宅建も勉強している人は、宅建業法の電磁的方法の記事と並べると、承諾の考え方がつながります。

条例に基づく書面と主務省令(7条・9条)

  • 条例・規則の書面(7条):地方公共団体は、条例・規則に基づく書面の保存等について、情報通信の技術の利用を進めるため、必要な措置を講ずることその他の必要な施策の実施に「努めなければならない」(1項)。国も、情報の提供などの措置を講ずるよう努めなければならない(2項)。どちらも努力義務です。
  • 主務省令(9条):保存等について定める法令を所管する内閣官房・内閣府・デジタル庁・各省の命令です(会計検査院・人事院・公正取引委員会などが所管する法令に基づく保存等は、それぞれの規則)。e-Gov には、省庁ごとに「〜の所管する法令に係る…施行規則」という名前の省令が並んでいます。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:みなと商会が、法令で保存が義務付けられ、主務省令に挙がっている書類をスキャンしてデータで保存した。3条の保存で、ゆうとさんの承諾は要りません。保存したデータは、元の法令との関係では書面で保存したものとみなされます。
  2. 当てはまる例:みなと商会が、ゆうとさんに方法を示して書面で承諾をもらい、主務省令で定める方法で書面の内容をデータで渡した。6条の交付等で、施行令2条1項の手続も満たしています。
  3. 当てはまらない例:みなと商会が、ゆうとさんの承諾をもらわずに、いきなりメールで書面の内容を送った。6条は相手方の承諾を前提にしているので、通則法による交付等には当たりません。
  4. 当てはまらない例:A市の条例で保存を求められている書類を、通則法3条を根拠にデータで保存しようとした。通則法の「法令」は法律と法律に基づく命令で、条例は入りません。条例の書面は、7条で地方公共団体の努力義務とされているだけです。
  5. ひっかけやすい例:ゆうとさんが、いったん承諾したあとで紙での受け取りを申し出た。それ以降は、改めて承諾を得ない限り電磁的方法では渡せません。一度の承諾がずっと続くわけではありません。

似ている法律との違い

基礎知識の情報通信の分野には、「電子」「デジタル」と付く法律がいくつもあります。対象と、その法律で何ができるかで分けます。

法律(通称)対象決めていること
e-文書法(通則法)民間事業者等が法令で求められた書面保存・作成・縦覧等・交付等を電磁的記録で行える
電子帳簿保存法国税関係帳簿書類と電子取引のデータ所得税法・法人税法などの保存方法の特例
デジタル手続法行政機関等への申請・届出、行政機関等が行う処分の通知など行政の手続を情報通信技術で行うための基本原則など
電子署名法電子署名と認証業務本人の電子署名がある電磁的記録は真正に成立したと推定
  • 電子帳簿保存法の正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(平成10年法律第25号)です。1条で、国税関係帳簿書類の保存方法などについて、所得税法・法人税法などの国税に関する法律の特例を定めるとしています。7条は、所得税(源泉徴収に係るものを除く)と法人税の保存義務者が電子取引をしたときは、その取引情報の電磁的記録を「保存しなければならない」としています。e-文書法は「データでもできる」法律で、電子帳簿保存法7条は「データで保存しなければならない」場面がある点が違います。
  • デジタル手続法は「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」(平成14年法律第151号)です。通則法2条9号は、交付等の定義から、デジタル手続法3条8号の申請等として行うものを除いています。行政機関への申請はデジタル手続法、民間の書面はe-文書法、と分かれています。基本原則は情報通信の用語の記事で扱っています。
  • 電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)3条の効果は「推定する」です。e-文書法の3条〜6条の2項は「書面により行われたものとみなして」で、こちらは書面の規定を当てはめるためのみなし規定です。二つは役割が違うので、言葉ごと覚えます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 名前の型:「e-文書法」という題名の法律はない。通則法(平成16年法律第149号)と整備法(同第150号)の2本をまとめた通称。
  • 承諾の位置:相手方の承諾が要るのは6条の交付等だけ。保存・作成・縦覧等の条には承諾の要件がない。
  • 何でもデータにできる、の型:対象は主務省令で定めるものに限られる。作成(4条)と交付等(6条)は、さらに法令で保存が義務付けられた書面に限られる。
  • 主体の型:対象は民間事業者等。国の機関と地方公共団体とその機関は、民間事業者等から除かれている(2条1号)。
  • 条例の型:通則法の「法令」は法律と法律に基づく命令。条例・規則の書面は、地方公共団体の努力義務(7条1項)。
  • 「みなす」と「推定」:e-文書法の各条2項は「書面により行われたものとみなして」。電子署名法3条は「推定する」。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みなと商会は、法令で保存が義務付けられ、主務省令で定められている書類を、e-文書法の通則法3条により、紙に代えて電磁的記録で保存することにした。この保存について、取引先の承諾を得る必要はない。

答え:○ 分かれ目は、承諾が要るのが4つの場面のどれか、です。3条は、主務省令で定めるところにより書面の保存に代えて電磁的記録の保存ができるとし、相手方の承諾を要件にしていません。自分の手元の保存は、相手に渡す場面ではないからです。「データにするには相手の承諾が要る」と覚えていると✕に見えますが、承諾が要るのは6条の交付等(政令で定めるところにより、相手方の承諾を得て)です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みなと商会は、法令でゆうとさんへの交付が義務付けられている書面のうち、その書面にも原本・写しなどにも法令上の保存義務がないものについて、ゆうとさんの承諾を得て、主務省令で定める電磁的方法で交付することにした。この交付は、通則法6条により書面の交付とみなされる。

答え:✕ 分かれ目は、6条の対象の限定です。6条1項は、交付等に係る書面またはその原本・謄本・抄本・写しが「法令の規定により保存をしなければならないとされているもの」で、主務省令で定めるものに限っています。正しくは、保存義務のない書面の交付は、承諾があっても6条の対象になりません。承諾の有無だけで判断すると○にしてしまいます。保存義務の限定は4条(作成)にもあり、3条(保存)・5条(縦覧等)にはありません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
A市の条例で、事業者に書類の保存が義務付けられている。e-文書法の通則法は、この条例上の書類についても、3条により、事業者が紙に代えて電磁的記録で保存できると定めている。

答え:✕ 分かれ目は、「法令」に条例が入るかです。通則法2条2号は、法令を「法律及び法律に基づく命令」と定めています。3条は「他の法令の規定」で書面の保存が求められているものが対象なので、条例上の書類は入りません。正しくは、条例・規則に基づく書面の保存等は、7条1項で地方公共団体が必要な施策の実施に努めなければならないとされているだけです。国の努力義務(7条2項)と合わせて、どちらも努力義務と押さえます。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 「e-文書法」は通称。平成16年の通則法(第149号)と整備法(第150号)の2本。通則法は平成17年4月1日施行。
  • 民間事業者等が、ほかの法令で求められた書面の保存(3条)・作成(4条)・縦覧等(5条)・交付等(6条)を、主務省令で定めるものについて電磁的記録で行える。行ったものは書面で行ったものとみなされる。
  • 相手方の承諾が要るのは交付等だけ。作成と交付等は、保存義務のある書面に限られる。
  • 国の機関・地方公共団体は民間事業者等から除かれ、条例の書面は地方公共団体の努力義務。国税の帳簿は電子帳簿保存法、行政機関への申請はデジタル手続法。

このサイトで次に読むなら、基礎知識の全体の記事です。情報通信・個人情報保護の分野を、足切りの6問のなかでどう位置づけるかを確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。

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