ひとことで言うと、特別の寄与(とくべつのきよ)は、相続人ではない被相続人の親族が、無償で療養看護などの労務を提供して財産の維持や増加に特別の寄与をしたとき、相続の開始後に、相続人へお金(特別寄与料)を請求できる制度です(民法1050条)。長男の妻が義理の父を介護した、という場面が典型です。相続人どうしで相続分を調整する寄与分(904条の2)とは、使える人も、受け取り方も違います。
この記事では、①請求できる親族と除かれる人、②「無償」「労務の提供」の要件、③6か月と1年の期間、④額の上限と相続人ごとの負担、を扱います。寄与分の計算は特別受益と寄与分の記事、相続人の範囲と相続分は相続の記事に任せます。家庭裁判所の手続の書式や相続税は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は、ひでおさんの家族です(架空の話です)。
| 人物 | ひでおさんとの関係 | 相続人か |
|---|---|---|
| こうじさん | 長男 | 相続人 |
| みちこさん | 長男の妻(1親等の姻族) | 相続人ではない |
| だいすけさん | 次男 | 相続人 |
- みちこさんは、ひでおさんと同じ家に住み、5年間、お金を受け取らずに食事や通院の世話を続けた。そのおかげで、ひでおさんは介護の費用を払わずに済み、預金が減らなかった。
- ひでおさんの相続が始まった。相続人は、子のこうじさんとだいすけさんの2人。
- みちこさんは相続人ではないので、寄与分(904条の2)は使えない。そこで、相続人に特別寄与料を請求する(1050条1項)。
- まず相続人と話し合う。まとまらなければ、家庭裁判所に、協議に代わる処分を請求する(2項)。
- 家庭裁判所への請求は、相続の開始と相続人を知った時から6か月、相続開始の時から1年を過ぎるとできない(2項ただし書)。
たとえるなら、特別寄与料は「家族のために働いた分の、あと払いの請求書」です。ただし本物のルールでは、遺産の分け前をもらうのではありません。相続人一人ひとりに、決まった割合でお金を払ってもらう形です。
条文ではこう決まっている
- 請求できる人(1050条1項):被相続人に対して「無償で療養看護その他の労務の提供」をしたことで、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした「被相続人の親族」。ただし、相続人、相続の放棄をした者、相続欠格(891条)に当たる者、廃除で相続権を失った者を除く。この人を特別寄与者という。「親族」の範囲(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族。725条)は親族の範囲と親等の数え方で扱っています。
- 請求の中身(1項):相続の開始後、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求できる。
- 家庭裁判所(2項・3項):協議が調わないとき、協議ができないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求できる。家庭裁判所は、寄与の時期・方法・程度、相続財産の額その他一切の事情を考えて額を定める。
- 期間(2項ただし書):特別寄与者が相続の開始と相続人を知った時から6か月を過ぎたとき、または相続開始の時から1年を過ぎたときは、家庭裁判所に請求できない。
- 上限(4項):特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時に持っていた財産の価額から、遺贈の価額を引いた残りを超えられない。
- 相続人ごとの負担(5項):相続人が数人いるときは、各相続人は、特別寄与料の額に、その相続人の相続分(900条〜902条で算定)を掛けた額を負担する。
- 親族の範囲(725条):6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族(いんぞく=配偶者の血族や、血族の配偶者)。
法務省民事局の改正の概要(平成30年11月)は、この制度を、相続人以外の被相続人の親族が療養看護などを行った場合に、一定の要件のもとで相続人に金銭請求ができる制度として新しく作ったものと説明しています。施行は令和元年(2019年)7月1日です。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(長男の妻の介護):みちこさんは1親等の姻族で、3親等内の姻族に入ります。無償で介護をして預金が減らなかったので、特別寄与料を請求できる場面です。
- 当てはまらない(お金を出した):みちこさんが、ひでおさんの店の資金を無償で出した。1050条は「労務の提供」に限っているので、お金を出したことは対象に入りません。
- 当てはまらない(対価を受けていた):介護の代わりに、毎月決まったお金を受け取っていた。「無償で」の要件に当たりません。
- 当てはまらない(内縁の相手):結婚の届出をしていない内縁の相手は、配偶者ではなく親族に入りません。内縁で守られることと守られないことは内縁の判例の記事で比べています。
- ひっかけやすい(相続放棄した子):次男のだいすけさんが介護をしたあと相続を放棄した。放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされますが(939条)、1050条1項は「相続の放棄をした者」をはっきり除いています。
- ひっかけやすい(1年の期間):相続が始まったことを10か月後に知った。知った時から6か月の内でも、相続開始の時から1年を過ぎれば家庭裁判所に請求できません。2つの期間の早いほうで終わります。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 寄与分(904条の2) | 特別寄与料(1050条) |
|---|---|---|
| 使える人 | 共同相続人 | 相続人でない親族(放棄・欠格・廃除の人は除く) |
| 寄与の方法 | 事業に関する労務の提供・財産上の給付・療養看護など | 無償の療養看護その他の労務の提供 |
| 受け取り方 | 自分の相続分に加える | 相続人に金銭を請求する |
| だれが負担するか | ほかの相続人の取り分が減る | 各相続人が相続分の割合で負担 |
| 期間 | 相続開始から10年を過ぎた遺産分割では原則として考えない(904条の3) | 知った時から6か月・開始から1年 |
| 上限 | 遺産の価額から遺贈を引いた残り | 同じ(4項) |
いちばん取り違えやすいのは2行目です。寄与分は「財産上の給付」も入りますが、特別寄与料は労務の提供だけです。期間も、寄与分の10年(904条の3)に対し、特別寄与料はずっと短い6か月・1年です。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、相続が主な論点の問題は27問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では8問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも4問(直近10回で2問)あります。特別の寄与だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 相続人も使える、とする形:相続人は寄与分(904条の2)で、特別寄与料は相続人でない親族です。
- お金を出したことも入る、とする形:1050条は「無償で療養看護その他の労務の提供」です。財産上の給付は寄与分のほうにだけあります。
- 放棄した人も使える、とする形:相続の放棄をした者は、条文で除かれています。
- 相続人の一人に全額を求められる、とする形:各相続人は、相続分の割合で負担します(5項)。
- 期間の入れ替え:知った時から6か月、相続開始の時から1年。寄与分・特別受益の10年(904条の3)と混ぜません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ひでおさんの長男の妻みちこさんは、ひでおさんの店の資金として300万円を無償で出し、ひでおさんの財産の維持に特別の寄与をした。みちこさんは相続人ではないが、相続の開始後、相続人に特別寄与料の支払を請求できる。
答え:✕ 分かれ目は、寄与の方法です。民法1050条1項は、被相続人に対して「無償で療養看護その他の労務の提供」をしたことで財産の維持・増加に特別の寄与をした親族を対象にしています。正しくは、お金を出したこと(財産上の給付)は対象に入らず、みちこさんはこの寄与で特別寄与料を請求できません。「財産上の給付」が入っているのは、共同相続人だけが使える寄与分(904条の2第1項)で、それと取り違えた文です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ひでおさんの相続人は子のこうじさんとだいすけさんの2人で、長男の妻みちこさんの特別寄与料は、家庭裁判所の処分で240万円と定められた。この場合、みちこさんが夫のこうじさんに支払を求められるのは120万円である。
答え:○ 分かれ目は、相続人が数人いるときの負担の分け方です。民法1050条5項は、各相続人は、特別寄与料の額にその相続人の相続分(900条〜902条で算定)を掛けた額を負担するとしています。子2人の相続分は各2分の1なので、240万円×2分の1=120万円です。請求の相手を一人選べば全額を求められる、と考えると✕に見えます。相続人の全員が全額を負う連帯の形ではなく、相続分で割る形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
ひでおさんの次男だいすけさんは、ひでおさんを無償で長年介護したが、ひでおさんの相続で相続の放棄をした。だいすけさんは、相続人ではない親族として、こうじさんに特別寄与料を請求できる。
答え:✕ 分かれ目は、特別寄与者から除かれる人です。民法1050条1項は、被相続人の親族のうち、相続人のほか、相続の放棄をした者、相続欠格に当たる者、廃除で相続権を失った者を除いています。正しくは、だいすけさんは特別寄与料を請求できません。放棄した人は初めから相続人とならなかったものとみなされる(939条)ので、「相続人でない親族」に入ると考えた取り違えです。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 特別寄与料を請求できるのは、相続人でない被相続人の親族(相続放棄・欠格・廃除の人は除く)。内縁の相手は親族ではない。
- 要件は、無償の療養看護その他の労務の提供による、財産の維持・増加への特別の寄与。お金を出したことは入らない。
- 協議が調わなければ家庭裁判所へ。知った時から6か月・相続開始から1年を過ぎるとできない。
- 上限は遺産の価額から遺贈を引いた残り。各相続人は相続分の割合で負担する。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。制度ができた経緯と施行日は、法務省の資料で確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(725条、891条、900条、904条の2、904条の3、939条、1050条)
- 法務省民事局「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」の概要(平成30年11月)(特別の寄与の創設と施行日)
このサイトで次に読むなら、宅建の相続の問題です。相続人・相続分・放棄を場面の問題で解くと、特別寄与料を請求できる人とできない人の線引きがはっきりします。
働く人の法律試験ノート