内縁(ないえん)とは、婚姻の届出をしていないけれど、夫婦として共同生活をしている関係です。婚姻は届出によって効力を生じる(民法739条1項)ので、内縁の二人は法律上の夫婦ではありません。それでも判例は、婚姻の規定の一部を内縁にも当てはめて、内縁の人を守っています。
ひとことで言うと、二人が生きている間の関係(費用の分担・一方的な解消)は、婚姻に近く扱われる。一方の死亡で終わったときは、相続のルールが優先し、財産分与も相続もない。ただし、住まいについては、判例と借地借家法が、場面ごとに別の道で守っています。
この記事は、行政書士試験の民法で問われる「判例で決まる内縁の扱い」に絞ります。婚姻と離婚そのもののルールは婚姻と離婚をわかりやすくで、法律上の配偶者の相続分は相続分の計算で扱っています。
身近な例で考えるとどうなるか
登場人物は次のとおりです。ゆうこさんとたけしさんは、婚姻届を出さないまま20年間いっしょに暮らしてきました。たけしさんには、前の妻との間に子のだいきさんがいます。
- 二人が暮らす家は、二人でお金を出し合って買った、二人の共有の家だった。
- たけしさんが病気で亡くなった。たけしさんは遺言を残していなかった。
- だいきさんが、ゆうこさんに「父の持分は相続した。家に住み続けるなら、その分の家賃を払ってほしい」と求めた。
まず、ゆうこさんは相続人ではありません。相続人になる配偶者(890条)は、届出をした配偶者だからです。たけしさんの持分は、だいきさんが相続します。
では、家賃を払う必要はあるでしょうか。判例は、内縁の夫婦が共有の家に一緒に住んできたときは、特段の事情のない限り、「一方が死んだ後は、もう一方が一人で使う」という合意があったと推認されるとしました(平成10年判決)。そのため、ゆうこさんは、だいきさんに家賃にあたるお金を払わなくてよい、という結論になります。
ただし本物のルールでは、家が共有か、たけしさん一人の持ち物か、借家かで、守られ方が変わります。次の節で順に見ます。
条文ではどう決まっているか
内縁について正面から決めた条文は、民法にはありません。関係する条文は次のとおりです。
- 婚姻の成立(739条1項):「婚姻は、戸籍法…の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」届出がなければ法律上の婚姻ではない。
- 婚姻費用の分担(760条):夫婦は、資産・収入などを考えて、婚姻から生ずる費用を分担する。判例はこれを内縁に準用する。
- 財産分与(768条):協議離婚をした一方は、相手に財産の分与を請求できる。家庭裁判所への請求は、離婚の時から5年を過ぎるとできない(2項ただし書。令和8年4月1日施行の改正後。改正前は2年)。
- 配偶者の相続権(890条):「被相続人の配偶者は、常に相続人となる。」ここでの配偶者は届出をした配偶者。
- 特別縁故者(958条の2):相続人がいないとき、生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人などに、家庭裁判所が残った財産の全部または一部を与えることができる。
- 特別寄与料(1050条):無償で療養看護などをした「被相続人の親族」は、相続人に特別寄与料を請求できる。親族は、6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族(725条)で、内縁の相手は入らない。
- 配偶者居住権(1028条):「被相続人の配偶者」が、相続開始の時に住んでいた建物について取得する権利。内縁の相手は対象外。
- 居住用建物の賃貸借の承継(借地借家法36条1項):借家に住む賃借人が「相続人なしに死亡した」とき、「事実上夫婦…と同様の関係にあった同居者」が、賃借人の権利義務を承継する。ただし、死亡を知ってから1か月以内に賃貸人に反対の意思を表示すれば承継しない。
判例では何が決まっているか
| 判例 | 場面 | 結論 |
|---|---|---|
| — | — | — |
| 最判昭和33年4月11日 | 内縁を一方的に壊された | 不法行為で損害賠償を請求できる。760条も準用 |
| 最決平成12年3月10日 | 一方の死亡で内縁が終わった | 財産分与の規定(768条)は類推できない |
| 最判平成10年2月26日 | 内縁の夫婦の共有の家 | 死亡後は残った人が一人で使う合意を推認 |
| 最判昭和42年2月21日 | 借家の賃借人だった夫が死亡 | 内縁の妻は相続人の賃借権を援用して住める |
| 最判昭和39年10月13日 | 亡き夫名義の家に住む内縁の妻 | 相続人の明渡請求が権利の濫用とされた事例 |
| 最判平成16年11月18日 | 同居も家計の共同もない男女関係 | 一方的な解消に不法行為責任なし |
一方的に壊された場合(最高裁判所第二小法廷 昭和33年4月11日判決)
- 結論:内縁を不当に破棄された人は、相手に対し、不法行為を理由として損害の賠償を求めることができる。あわせて、婚姻費用の分担を定めた760条は内縁に準用されるとした。
- まちがえやすい所:損害賠償の根拠は不法行為(709条)です。届出がないから何も請求できない、とする肢は誤りです。
死亡で終わった場合の財産分与(最高裁判所第一小法廷 平成12年3月10日決定)
- 結論:内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、768条を類推適用することはできない。
- 理由の要点:決定は、離別による内縁解消に財産分与の規定を類推することは「準婚的法律関係の保護に適するもの」として合理性を承認し得るとしても、死亡による解消で遺産に財産分与の清算を持ち込むことは「相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもの」で、法の予定しないところだとした。
- まちがえやすい所:生きている間に別れた(離別)なら類推に合理性がある、死別ならできない、という対比で覚えます。死別のとき、相続人に財産分与を請求する道はありません。
共有の家に住み続ける(最高裁判所第一小法廷 平成10年2月26日判決)
- 結論:内縁の夫婦が共有する不動産を、住まいや共同の事業のために一緒に使ってきたときは、特段の事情のない限り、一方が死亡した後は他方が単独で使用する旨の合意が成立していたと推認される。
- まちがえやすい所:相続人は持分を相続しますが、合意が推認されるので、残された人に使用の対価(不当利得)を求めることはできません。家が共有であることが前提です。
借家に住み続ける(最高裁判所第三小法廷 昭和42年2月21日判決、借地借家法36条)
- 結論:家を借りていた夫が死亡した場合、内縁の妻は、相続人の賃借権を援用(えんよう=自分のために持ち出すこと)して、賃貸人に住む権利を主張できる。ただし、相続人と一緒に賃借人になるわけではない。
- 相続人がいないとき:借地借家法36条で、事実上夫婦と同様の関係にあった同居者が、賃借人の権利義務を承継する。
- まちがえやすい所:36条は「相続人なしに死亡した」場合のルールです。相続人がいるときは、判例の「援用」の道になります。
亡き夫の持ち家に住み続ける(最高裁判所第三小法廷 昭和39年10月13日判決)
- 結論:内縁の夫の死後、その持ち家に住む妻に、亡夫の相続人(養子)が明渡しを求めた事案で、相続人の事情や妻側に生じる家計上の重大な打撃などから、明渡請求は権利の濫用(1条3項)にあたり許されないとした。
- まちがえやすい所:これは個別の事情を見て判断した事例です。「内縁の妻には亡夫の家に住む権利がある」という一般的なルールを決めたものではありません。
内縁にあたらない関係(最高裁判所第一小法廷 平成16年11月18日判決)
- 事案:男女が長く関係を続け子もいたが、同居せず、家計も別々で、婚姻する意思もなかった。男性が突然関係を解消し、別の女性と婚姻した。
- 結論:関係を突然かつ一方的に解消したことを、慰謝料請求権が生じる不法行為と評価することはできない。
- まちがえやすい所:昭和33年判決の保護は、夫婦としての共同生活がある内縁が前提です。関係が長いだけでは同じ保護を受けません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(不当破棄):ゆうこさんは、たけしさんに理由もなく一方的に家を追い出され、関係を終わらされた。ゆうこさんは、不法行為として損害賠償を請求できます。
- 当てはまる(借家・相続人あり):二人がたけしさん名義の借家に住んでいて、たけしさんが亡くなった。相続人のだいきさんがいるので、ゆうこさんは、だいきさんの賃借権を援用して住み続けられます。
- 当てはまる(借家・相続人なし):たけしさんに相続人がいない場合は、借地借家法36条で、ゆうこさんが賃借人の権利義務を承継します。
- 当てはまらない(死別と財産分与):たけしさんの死亡後、ゆうこさんが相続人のだいきさんに「20年分の財産分与を」と求めても、768条の類推はできません。
- ひっかけやすい(特別寄与料):ゆうこさんが、たけしさんを無償で何年も介護した。特別寄与料(1050条)は「被相続人の親族」の制度なので、ゆうこさんは請求できません。相続人がいない場合は、特別縁故者(958条の2)として財産の分与を求める道があります。
似ているルールとどう違うか
法律上の夫婦と内縁を、場面ごとに並べます。
| 場面 | 法律上の夫婦 | 内縁 |
|---|---|---|
| — | — | — |
| 婚姻費用の分担 | 760条 | 準用される(昭和33年判決) |
| 一方的な解消 | 離婚の手続による | 不法行為で損害賠償(昭和33年判決) |
| 死亡したときの財産 | 配偶者は常に相続人(890条) | 相続権なし。財産分与の類推もなし(平成12年決定) |
| 介護への報い | 相続人として遺産を受ける | 特別寄与料(親族のみ)も対象外。相続人がいなければ特別縁故者の道 |
| 住まい | 配偶者居住権(1028条)など | 共有なら合意の推認、借家なら援用・借地借家法36条 |
覚え方は、「生きている間は婚姻に近い、死亡したら相続の外」です。死亡のあとの住まいだけは、相続とは別の道(合意の推認・賃借権の援用・36条・権利の濫用)で守られる、とまとめます。
試験ではここをまちがえやすい
- 死別にも財産分与を類推する型:平成12年決定は、死亡による解消には768条を類推できないとしました。離別の場合の扱いと入れ替えないようにします。
- 36条の前提を外す型:借地借家法36条は「相続人なしに死亡した場合」の承継です。相続人がいるのに「内縁の妻が当然に承継する」は誤りです。
- 共同賃借人とする型:昭和42年判決は、内縁の妻は相続人の賃借権を援用できるが、相続人とともに共同賃借人となるものではない、としました。
- 制度の対象を広げる型:配偶者居住権(1028条)は「被相続人の配偶者」、特別寄与料(1050条)は「被相続人の親族」の制度です。内縁の相手はどちらにも入りません。
- 事例判断を一般ルールにする型:昭和39年判決は、個別の事情から明渡請求を権利の濫用とした事例です。
行政書士試験では、5肢択一式で、婚姻の規定のうち内縁に「使われるもの」と「使われないもの」を混ぜる形が考えられます。記述式(40字程度)では、「死亡で内縁が解消した場合に財産分与の規定を類推できるか」に、結論と理由の一言(相続による財産承継の構造)で答える形が考えられます。
宅建試験では、借家の賃借人が亡くなった場面で、同居していた内縁の配偶者が住み続けられるかを、借地借家法36条の条件(相続人がいないこと)とあわせて問う形が考えられます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ゆうこさんとたけしさんは、婚姻の届出をしないまま20年間夫婦として暮らしてきた。たけしさんの死亡によって内縁が解消した場合、ゆうこさんは、たけしさんの相続人に対し、離婚の場合の財産分与の規定を類推して、財産の分与を求めることができる。
答え:✕ 分かれ目は、内縁がどう終わったかです。最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定は、一方の死亡により内縁が解消した場合に768条を類推適用することはできないとしました。理由は、相続で遺産が受け継がれる仕組みに財産分与の清算を持ち込むことは、法の予定しないところだからです。正しくは、ゆうこさんは財産分与を求められません。決定は、生きている間に別れた(離別)場合の類推には合理性を認め得るとしており、この離別と死別を取り違えると○にしてしまいます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
内縁の夫婦ゆうこさんとたけしさんは、二人の共有の家に住んできた。たけしさんの死亡後、その持分を相続した子のだいきさんは、家に住み続けるゆうこさんに、持分に応じた家賃相当額を求めることは、特段の事情のない限りできない。
答え:○ 最高裁判所第一小法廷平成10年2月26日判決は、内縁の夫婦が共有不動産を居住のために共同で使ってきたときは、特段の事情のない限り、一方の死亡後は他方が単独で使用する旨の合意が成立していたと推認されるとしました。ゆうこさんは相続人でないので✕に見えますが、相続とは別に、二人の間の合意が推認されるのです。家がたけしさん一人の持ち物の場合は、この推認の前提(共有)がありません。
問3(このサイトのオリジナル問題)
たけしさんは、自分が借主として借りている家に、内縁の妻ゆうこさんと住んでいた。たけしさんには前の妻との子だいきさんがいる場合でも、たけしさんが亡くなると、ゆうこさんは、借地借家法36条により、たけしさんの賃借人としての権利義務を承継する。
答え:✕ 分かれ目は、相続人がいるかどうかです。借地借家法36条1項は、賃借人が「相続人なしに死亡した場合」に、事実上夫婦と同様の関係にあった同居者が権利義務を承継するとしています。正しくは、相続人のだいきさんがいるので賃借権はだいきさんが相続し、ゆうこさんは、その賃借権を援用して住み続けられる(最高裁判所第三小法廷昭和42年2月21日判決)にとどまります。36条を内縁の配偶者一般の承継の規定と取り違えると○にしてしまいます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。
まとめ
- 内縁は届出のない夫婦。法律上の配偶者ではないので、相続権・配偶者居住権・特別寄与料はない。
- 一方的に壊された人は不法行為で損害賠償を請求でき、婚姻費用の規定(760条)も準用される(昭和33年判決)。
- 死亡で内縁が終わったときは、財産分与の規定を類推できない(平成12年決定)。
- 住まいは、共有なら単独使用の合意の推認(平成10年判決)、借家なら相続人の賃借権の援用(昭和42年判決)、相続人がいなければ借地借家法36条。
- 同居も家計の共同もない関係は、内縁と同じ保護を受けない(平成16年判決)。
次に読むなら、使用貸借をわかりやすくがおすすめです。家族の家にただで住む関係が、借主の死亡でどう終わるか(597条3項)を確かめると、内縁の住まいの判例がなぜ「合意の推認」や「援用」という道をとったのかが見えてきます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(597条、725条、739条、760条、768条〔令和6年法律第33号による改正後、令和8年4月1日施行〕、890条、958条の2、1028条、1050条)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(36条)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和33年4月11日判決(昭和32年(オ)第21号)」(内縁の不当破棄と不法行為、760条の準用)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成12年3月10日決定(平成11年(許)第18号)」(死亡による内縁解消と768条の類推適用)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成10年2月26日判決(平成6年(オ)第1900号)」(内縁の夫婦の共有不動産と単独使用の合意の推認)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和42年2月21日判決(昭和40年(オ)第1435号)」(家屋賃借人の死亡と内縁の妻の居住)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和39年10月13日判決(昭和37年(オ)第885号)」(相続人の家屋明渡請求が権利の濫用とされた事例)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成16年11月18日判決(平成15年(受)第1943号)」(婚姻外の男女関係の一方的解消と不法行為)
働く人の法律試験ノート