ひとことで言うと、審査請求の審理手続は「弁明書→反論書→証拠→終結→審理員意見書」の順に進みます。進行役の審理員(しんりいん)が、処分をした役所に弁明書(べんめいしょ=処分の内容と理由を書いた書面)を出させ、審査請求人は反論書で言い返し、証拠を出し合います。審理員は、必要な審理を終えたら審理手続を終結し、審理員意見書を審査庁に出します(行政不服審査法29条〜42条)。
審理全体の目安として、審査庁となるべき行政庁は、裁決までにふつうかかる標準審理期間を定めるよう努め、定めたときは公にしておかなければなりません(16条)。この記事では、16条と28条〜42条を「だれが・何を・いつ」の流れにし、条文の言い方(努める・ものとする・できる・しなければならない)で分けます。口頭意見陳述と代理人は審査請求の代理人・総代・参加人の記事、審理員になれない人は審理員と聴聞の主宰者の記事、審査請求の期間など全体の流れは審査請求の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の行政不服審査法・行政手続法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
| 人物・機関 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ひなたさん | 審査請求人 | 営業停止の処分に審査請求をした |
| B市長 | 処分庁であり審査庁 | 営業停止の処分をした |
| 村上さん | 審理員(市の職員) | 審理手続を進めた |
- ひなたさんは、法律にもとづいてB市長から受けた営業停止の処分に不服があり、B市長に審査請求書を出した。B市長は、処分に関わっていない職員の村上さんを審理員に指名した。
- 村上さんは、相当の期間を定めて、処分庁であるB市長に弁明書の提出を求めた(29条2項)。届いた弁明書を、ひなたさんに送った(29条5項)。
- ひなたさんは、弁明書に対する反論書を出した(30条1項)。村上さんは、反論書を処分庁に送った(30条3項)。
- ひなたさんは、店の衛生記録を証拠書類として出した(32条1項)。村上さんは、職権で、市の担当課に検査の記録の提出を求めた(33条)。
- 村上さんは、必要な審理を終えたと認めて審理手続を終結し(41条1項)、その旨と意見書を出す予定時期をひなたさんたちに知らせた(41条3項)。
- 村上さんは、遅滞なく審理員意見書を作り、事件記録とともにB市長に出した(42条)。このあと、原則として第三者機関への諮問を経て、裁決になる。
たとえるなら、審理員は「双方の書類を受け取って相手に回し、足りない資料を取り寄せる進行役」です。弁明書と反論書は、言い分の書面のやりとりです。ただし本物のルールでは、審理員は結論を決める人ではなく、決めるのは審査庁のB市長で、審理員が出すのは「どう裁決すべきか」の意見書です。
条文ではこう決まっている
審理の目安と進め方(16条・28条)
- 標準審理期間(16条):審査庁となるべき行政庁は、審査請求がその事務所に到達してから裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努め、定めたときは、自分と関係処分庁の事務所での備付けなどの方法で公にしておかなければならない。
- 計画的な進行(28条):審査請求人・参加人・処分庁等(まとめて「審理関係人」)と審理員は、簡易迅速かつ公正な審理のため、相互に協力し、審理手続の計画的な進行を図らなければならない。
書面のやりとり(29条・30条)
- 写しの送付(29条1項):審理員は、指名されたら直ちに、審査請求書(または口頭の審査請求の録取書)の写しを処分庁等に送る。処分庁等が審査庁なら送らなくてよい。
- 弁明書(29条2項〜5項):審理員は、相当の期間を定めて、処分庁等に弁明書の提出を求める。弁明書には、処分の内容と理由(不作為なら、処分をしていない理由と、予定される処分の時期・内容・理由)を書く。処分庁が聴聞の調書・報告書や弁明の機会の付与の弁明書(行政手続法24条・29条)を持っていれば、それを添える。審理員は、弁明書を審査請求人と参加人に送る。
- 反論書・意見書(30条):審査請求人は反論書を、参加人は意見書を出すことができる。審理員が相当の期間を定めたときは、その期間内に出さなければならない。審理員は、反論書を参加人と処分庁等に、意見書を審査請求人と処分庁等に送る。
証拠を集める(32条〜36条)
- 証拠書類等(32条):審査請求人・参加人は証拠書類や証拠物を、処分庁等は処分の理由となる事実を証する書類などを出すことができる。審理員が相当の期間を定めたら、その期間内に出す。
- 物件の提出要求(33条):審理員は、審査請求人・参加人の申立てにより、または職権で、書類などの物件の所持人に、相当の期間を定めて提出を求めることができ、出された物件を留め置くことができる。
- 参考人・鑑定(34条)、検証(35条)、審理関係人への質問(36条):どれも申立てまたは職権でできる。申立てによる検証は、あらかじめ日時と場所を申立人に知らせ、立ち会う機会を与える(35条2項)。
計画的な遂行・閲覧(37条・38条)
- 計画的遂行(37条):審理すべき事項が多いなど事件が複雑なときは、審理員は審理関係人を招集して、あらかじめ審理手続の申立てに関する意見を聴くことができる(遠くに住んでいるときなどは電話のような音声の方法でも可)。聴いたら遅滞なく、口頭意見陳述などの期日・場所と、審理手続の終結の予定時期を決めて審理関係人に通知する。
- 閲覧・写しの交付(38条):審査請求人・参加人は、審理手続が終結するまで、提出された書類などの閲覧や写しの交付を求めることができる。審理員は、第三者の利益を害するおそれがあるときなど正当な理由がなければ拒めない。
終結と意見書(41条・42条)
- 終結(41条1項):審理員は、必要な審理を終えたと認めるときは、審理手続を終結するものとする。
- 終結できる場合(41条2項):①弁明書・反論書・意見書・証拠書類等・提出を求めた物件が相当の期間内に出されず、さらに一定の期間を示して求めたのに、その期間内にも出されなかったとき。②口頭意見陳述の申立人が、正当な理由なく出頭しないとき。
- 通知(41条3項):終結したら速やかに、審理関係人に、終結した旨と、審理員意見書・事件記録を審査庁に出す予定時期を知らせる。
- 審理員意見書(42条):終結したら遅滞なく作成しなければならず、作成したら速やかに、事件記録とともに審査庁に出さなければならない。
審理員意見書を受けた審査庁が、原則として行政不服審査会などに諮問する手続(43条)は、行政不服審査会への諮問の記事で扱っています。
条文の言い方で分けると
| 条 | だれが | 何を | 条文の言い方 |
|---|---|---|---|
| 16条 | 審査庁となるべき行政庁 | 標準審理期間を定める/公にする | 努める/しなければならない |
| 28条 | 審理関係人と審理員 | 協力し、計画的な進行を図る | しなければならない |
| 29条2項 | 審理員 | 弁明書の提出を求める | ものとする |
| 30条1項 | 審査請求人 | 反論書を出す | できる(期間を定められたら期間内に) |
| 33条 | 審理員 | 物件の提出を求める(申立てか職権) | できる |
| 41条 | 審理員 | 審理手続を終結する | 1項はものとする、2項はできる |
| 42条 | 審理員 | 意見書を作り、出す | しなければならない |
表の読み方のこつは2つです。①審理員の手続のうち、弁明書の要求(29条2項)と、必要な審理を終えたときの終結(41条1項)は「ものとする」、物件の提出要求(33条)と、書面が出ないときなどの終結(41条2項)は「できる」。審査請求人が出す側(反論書・証拠)も「できる」で、反論書を出さなくても違反ではありませんが、期間を定められたら期間内に出します。②標準審理期間は、設定が努力義務で、定めたら公表は義務。行政手続法の標準処理期間と同じ組み合わせです。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例:申立てがなくても資料を取り寄せる
ひなたさんが何も申し立てていなくても、村上さんは、職権で、検査の記録を持つ市の担当課に提出を求め、出された記録を手元に留め置けます(33条)。参考人の陳述・検証・質問も、申立てまたは職権でできます(34条〜36条)。
当てはまらない例:期間内に反論書が出なかっただけ
ひなたさんが反論書の期間を過ぎても出さなかったとします。41条2項1号で終結できるのは、さらに一定の期間を示して求めたのに、その期間内にも出なかったときです。1回期間を過ぎただけでは、この号には当たりません(必要な審理を終えたと認めて41条1項で終結するのは別の話です)。
ひっかけやすい例:口頭意見陳述に来ない
口頭意見陳述を申し立てたひなたさんが、正当な理由なく出頭しなかった場合は、改めて求める手順なしに終結できます(41条2項2号)。書面が出ない場合(1号)と、出頭しない場合(2号)で、終結できる条件が違います。
ひっかけやすい例:終結の予定時期を決める人
複雑な事件で審理関係人の意見を聴いたあと、その事件の終結の予定時期を決めて通知するのは審理員です(37条3項)。これに対し、標準審理期間は、事件ごとではなく、審査庁となるべき行政庁があらかじめ定めるよう努める目安です(16条)。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 標準審理期間(行審法16条) | 標準処理期間(行手法6条) |
|---|---|---|
| 何の期間か | 審査請求の到達から裁決まで | 申請の到達から処分まで |
| だれが定めるか | 審査庁となるべき行政庁 | 申請を受けて処分する行政庁 |
| 定めること | 努力義務 | 努力義務 |
| 公にすること | 定めたら義務 | 定めたら義務 |
行政手続法6条は、申請先が処分をする行政庁と別の機関のときは、その機関に届いてから行政庁に届くまでの期間も併せて定めるよう求めています。行政不服審査法16条は、公にする場所として、審査庁となるべき行政庁と関係処分庁(処分の権限を持つ審査庁以外の行政庁)の事務所を挙げています。申請に対する処分の手続全体は行政手続法の記事で確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
- 標準審理期間を決める人:審理員が事件ごとに定めるとする形。定めるよう努めるのは審査庁となるべき行政庁で(16条)、事件ごとの終結の予定時期を決めるのが審理員です(37条3項)。
- 終結の条件の入れ替え:書面が期間内に出なければすぐ終結できるとする形。41条2項1号は、さらに一定の期間を示して求めたのに出なかったときです。すぐ終結できるのは、口頭意見陳述に正当な理由なく出頭しない2号です。
- 職権の有無:物件の提出要求・参考人・検証・質問は申立てがなければできないとする形。どれも「申立てにより又は職権で」できます(33条〜36条)。
- 反論書の義務:審査請求人は反論書を出さなければならないとする形。出すことが「できる」で、期間を定められたときに期間内に出す決まりです(30条1項)。
- 意見書の名前と時期:審理員意見書は、終結したら「遅滞なく」作成し、「速やかに」事件記録とともに審査庁に出します(42条)。参加人が出す「意見書」(30条2項)とは別の書面です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
審理員の村上さんは、ひなたさんに反論書の提出期間を2週間と定めたが、ひなたさんは期間内に出さなかった。必要な審理を終えたとはいえない段階でも、村上さんは、改めて期間を示して提出を求めることなく、このことを理由に審理手続を終結することができる。
答え:✕ 分かれ目は、書面が出ないときに終結できる条件です。41条2項1号は、30条1項後段の期間内に反論書が出されない場合に、さらに一定の期間を示して提出を求めたにもかかわらず、その期間内にも出されなかったときに終結できるとしています。正しくは、村上さんは、もう一度期間を示して求め、それでも出なかったときに終結できます。取り違えの相手は、口頭意見陳述の申立人が正当な理由なく出頭しないときに終結できるとする41条2項2号で、こちらには改めて求める手順がありません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ひなたさんからの申立てがなくても、審理員の村上さんは、市の担当課に対し、相当の期間を定めて営業停止の理由になった検査の記録の提出を求め、提出された記録を留め置くことができる。
答え:○ 分かれ目は、物件の提出要求に審査請求人の申立てが要るかです。33条は、審理員は、審査請求人もしくは参加人の申立てにより「又は職権で」、書類その他の物件の所持人に、相当の期間を定めて提出を求めることができ、提出された物件を留め置くことができるとしています。不服申立ては申し立てた人が資料をそろえるもの、と考えると✕にしてしまいます。参考人の陳述・検証・審理関係人への質問も、同じく申立てまたは職権でできます(34条〜36条)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
行政不服審査法の標準審理期間は、審査請求があるごとに、審理員が、その事件の審理手続の終結の予定時期として定め、審理関係人に通知するものである。
答え:✕ 分かれ目は、だれが・どの単位で定めるかです。16条は、審査庁となるべき行政庁が、審査請求の到達から裁決までに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努め、定めたときは公にしておかなければならないとしています。正しくは、標準審理期間は、事件ごとではなく、審査庁となるべき行政庁があらかじめ定める目安です。取り違えの相手は、複雑な事件で意見を聴いたあと、審理員がその事件の審理手続の終結の予定時期を決めて通知するとする37条3項です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 審理は、弁明書(29条)→反論書・意見書(30条)→証拠(32条〜36条)→終結(41条)→審理員意見書(42条)の順。
- 標準審理期間は、審査庁となるべき行政庁が定めるよう努め、定めたら公にする(16条)。行政手続法6条と同じ組み合わせ。
- 物件の提出要求・参考人・検証・質問は、申立てでも職権でもできる。
- 書面が出ないときの終結は、さらに期間を示して求めても出ないとき。口頭意見陳述に正当な理由なく出頭しないときは、そのまま終結できる。
- 審理員意見書は、終結後遅滞なく作成し、速やかに事件記録とともに審査庁へ。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」(16条、28条〜42条)
- e-Gov法令検索「行政手続法」(6条、24条、29条)
このサイトで次に読むなら、行政不服審査会への諮問の記事です。審理員意見書が出たあと、裁決までに何があるか(諮問しなくてよい場合も)を続けて確かめられます。
働く人の法律試験ノート