ひとことで言うと、審査請求とは、役所の処分に納得できない人が、裁判ではなく役所に「見直してください」と申し立てる手続きです(行政不服審査法2条)。期間は、処分を知った日の翌日から3月、処分があった日の翌日から1年です(18条)。
裁判より手軽で、「違法」だけでなく「不当」(法律違反ではないが、判断として適切でない)も争えるのが特徴です。この記事は、令和8年度試験の基準日である令和8年4月1日時点の条文で書いています。
身近な例で考えると
登場人物は次の3人です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| そうたさん | パン屋の店主 | 店の前の歩道に看板を置く許可を市長に申請した |
| 市長 | 許可を決める役所のトップ | 申請を断った(処分庁=処分をした役所) |
| 木村さん | 市の職員 | 審査請求を審理する「審理員」に指名される |
ここでは行政不服審査法の基本ルールだけで考えます。実際には、個別の法律に特別な決まりがあることもあります。
- 4月10日、そうたさんの手元に「許可しません」という通知が届きました。通知には、審査請求ができること、出す先、期間が書いてあります(教示=きょうじ、不服申立ての方法の案内)。
- そうたさんは納得できません。7月10日までに、審査請求書を出すことにしました。4月11日から数えて3か月です。
- 出す先は市長です。市長には上の役所(上級行政庁)がないので、処分をした市長本人に出します。
- 市長(審査庁=審査請求を受けて裁決する役所)は、処分に関わっていない職員の木村さんを審理員に指名します。
- 木村さんは、市の担当部署に言い分の書面(弁明書)を出させ、そうたさんに送ります。そうたさんは反論の書面(反論書)を出します。
- そうたさんが申し立てたので、木村さんは口頭で意見を述べる場を開きます。そうたさんは木村さんの許可を得て、市の担当部署に質問します。
- 木村さんは「どう裁決すべきか」の意見書(審理員意見書)を作り、市長に出します。
- 市長は、第三者の委員でつくる機関に意見を聞き(諮問=しもん)、その答えを受けて裁決(さいけつ=審査請求への答え)をします。
たとえるなら、審査請求は「お店の対応に納得できないとき、本部のお客様窓口に見直しを頼む」ようなものです。ただし本物の審査請求では、処分に関わっていない審理員が双方の言い分を聞き、手続きの順番も法律で決まっています。そこが、ふつうの苦情窓口とは違います。
条文ではこう決まっている
目的と対象(1条・2条・3条)
- 行政庁の「違法又は不当な処分」などについて、「簡易迅速かつ公正な手続の下で」不服を申し立てられるようにする法律です(1条1項)。
- 処分に不服がある人は、審査請求ができます(2条)。
- 法令にもとづいて申請したのに、相当の期間がたっても役所が何もしない(不作為=ふさくい)ときも、申請した人は審査請求ができます(3条)。
出す先(4条):法律に特別の定めがある場合を除き、原則は処分をした役所の「最上級行政庁」です。上級行政庁がないときや、処分をしたのが大臣などのときは、処分をした役所そのものに出します。
期間(18条)
- 処分があったことを知った日の翌日から起算して(数え始めて)3月。再調査の請求(後で説明)をしたときは、その決定を知った日の翌日から起算して1月。
- 処分(再調査の請求をしたときはその決定)があった日の翌日から起算して1年。
- どちらも「正当な理由があるとき」は例外です。郵便で出したときは、送るのにかかった日数は期間に入れません。
出し方(19条):法律や条例に口頭でよいと書いていない限り、審査請求書を出して行います。
教示(82条):審査請求ができる処分をするとき、役所は相手に「申し立てができること・出す先・期間」を書面で知らせなければなりません。処分を口頭でするときは除かれます。
審理の流れ
- 審査庁は、所属する職員から審理員(しんりいん=審査請求を調べる担当者)を指名します(9条1項)。処分に関わった人、審査請求人本人やその親族・代理人などはなれません(9条2項)。
- 審査庁が委員会などのときや、明らかに不適法で24条により却下するときは、審理員を指名しなくてよいとされています(9条1項ただし書)。
- 審理員は、処分をした役所に相当の期間を定めて弁明書を出させ、審査請求人に送ります(29条)。審査請求人は反論書を出せます(30条)。
- 審査請求人などが申し立てたら、審理員は口頭で意見を述べる機会を与えなければなりません(31条)。申し立てた人は、審理員の許可を得て処分をした役所に質問できます。
- 審理員は審理を終えたら審理員意見書を作り、審査庁に出します(42条)。
- 審査庁は原則として、国なら行政不服審査会、地方公共団体なら81条の機関に諮問します(43条)。審査請求人が希望しないと申し出たとき(参加人が反対していないとき)などは不要です。
裁決(45条・46条・48条)
- 期間を過ぎているなど不適法なら「却下(きゃっか)」です。中身を調べずに門前払いにする、という意味です(45条1項)。
- 中身を調べたうえで、言い分に理由がなければ「棄却(ききゃく)」です(45条2項)。
- 違法・不当でも、取り消すと公の利益(みんなの利益)に著しい障害が出るときは棄却できます。このときは、裁決の主文(結論の部分)で違法・不当だと宣言します(45条3項、事情裁決=じじょうさいけつ)。
- 理由があれば、処分の全部か一部を取り消すか、変更します。変更できるのは、審査庁が上級行政庁か処分をした役所のときだけです(46条1項)。
- 審査請求人に不利益になるように処分を変えることはできません(48条、不利益変更の禁止)。
審査請求をしても、処分の効き目は止まりません(25条1項)。止めてもらう方法は執行停止の記事で扱います。
当てはまる例・当てはまらない例
- 市長の処分 → 市長に出す。市長に上級行政庁はないので、4条1号により処分をした市長に出します。「上の役所に出すのが審査請求だから、県知事に出す」とするのはひっかけです。ただし、国から任された仕事(法定受託事務)の処分などは、地方自治法に別の定めがあり、知事などに出すことがあります。
- 申請したのに返事がない → 不作為の審査請求ができる。ただし、できるのは申請をした人だけです(3条)。申請していない近所の人は使えません。
- 4月10日に処分を知った → 7月10日まで。知った日の翌日の4月11日から数えて3月です。知らないままでも、処分があった日の翌日から1年たつと、正当な理由がない限りできなくなります。
- 処分を知ってから5か月後 → 原則としてできない(当てはまらない例)。3月を過ぎているので、正当な理由がなければ却下されます。
- 通知に教示が書いてなかった → 処分をした役所に出せばよい。教示がないときは、処分庁に不服申立書を出せます。出す先が別の役所なら、処分庁がそこへ送ります(83条)。
- 教示がまちがっていた → 救われる。まちがって教示された役所に書面で出したときは、その役所が正しい先へ送ります。送られたら、初めから正しい先に出したものとみなされます(22条)。
似ているルールとの違い
行政不服審査法には、審査請求のほかに2つの申立てがあります。
| くらべる点 | 審査請求 | 再調査の請求 | 再審査請求 |
|---|---|---|---|
| 出す先 | 原則は最上級行政庁 | 処分をした役所 | 法律が定める役所 |
| できるとき | 処分に不服があるとき | 法律に定めがあるとき | 法律に定めがあるとき |
| 知った日の翌日から | 3月 | 3月(54条) | 裁決を知って1月(62条) |
| あった日の翌日から | 1年 | 1年 | 裁決から1年 |
再調査の請求は、処分をした役所が自分でもう一度調べ直す手続きです(5条)。処分をした役所以外に審査請求できる場合で、法律に定めがあるときだけ使えます。審査請求をしたら、再調査の請求はできません。逆に再調査の請求をしたら、原則としてその決定を経てからでないと審査請求できません。ただし、請求の翌日から3月たっても決定がないときや、正当な理由があるときは例外です。
再審査請求は、審査請求の裁決にまだ不服があるときに、法律に定めがあればもう一段申し立てる手続きです(6条)。
裁判(取消訴訟)との違いも整理します。
| くらべる点 | 審査請求 | 取消訴訟 |
|---|---|---|
| 判断する人 | 審査庁(役所) | 裁判所 |
| 争える中身 | 違法と不当 | 違法(裁量は逸脱・濫用のみ) |
| 知った時からの期間 | 翌日から3月 | 知った日から6箇月 |
| 処分の効き目 | 止まらない(25条1項) | 止まらない(行訴法25条1項) |
裁量処分とは、法律が役所に判断の幅(裁量)を与えている処分です。取消訴訟でこれを取り消せるのは、裁量権の範囲をこえたり濫用(らんよう=本来の目的から外れて使うこと)したりしたときに限られます(行政事件訴訟法30条)。審査請求なら、違法とまでいえなくても「不当」を理由に争えます。取消訴訟の要件は取消訴訟の要件の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
行政書士試験では、期間の数字と起算点、審理員、裁決のルールが問われやすい形です。
- 「審査請求は処分を知った日から3月」→ 起算点がずれています。条文は「知った日の翌日から起算して」です。取消訴訟は「知った日から6箇月」で、「翌日」の文字がありません。
- 「再調査の請求の決定後の審査請求は3月」→ 誤り。決定を知った日の翌日から1月です。
- 「再審査請求の期間は3月」→ 誤り。原裁決(最初の審査請求への裁決)を知った日の翌日から1月です。
- 「審理員には、処分に関わった職員も指名できる」→ 誤り。9条2項でなれません。
- 「審査庁は、審査請求人に不利益に処分を変更できる」→ 誤り。48条で禁じられています。
- 「上級行政庁でない審査庁も、処分を変更できる」→ 誤り。上級行政庁でも処分庁でもない審査庁は、取消しまでです。
- 「口頭意見陳述では、自由に処分庁へ質問できる」→ 審理員の許可が必要です。
- 「審査請求をすれば処分の効き目は止まる」→ 誤り。止まらないのが原則です。
- 「不作為の審査請求は、だれでもできる」→ 誤り。申請をした人に限られます。
期間の数字は期間・数字の一覧で、行政事件訴訟法と並べて覚えると混同しにくくなります。行政法全体の中での位置づけは行政法の勉強法にまとめています。
○✕でたしかめよう
(このサイトのオリジナル問題)
問1:処分があったことを4月10日に知った人が審査請求をする場合、知った日を基準とする期間は、4月11日から起算して3月である(正当な理由がある場合を除く)。
答え:○。18条1項は「知った日の翌日から起算して三月」です。
問2:審査請求に理由があると認めるときは、審査庁は、審査請求人の不利益になるように処分を変更することもできる。
答え:✕。48条により、審査請求人の不利益に処分を変更することはできません。
問3:再調査の請求をした人は、その決定を待たずに、いつでも審査請求をすることができる。
答え:✕。原則として決定を経た後でなければ審査請求できません(5条2項)。例外は、請求の翌日から3月たっても決定がないときと、正当な理由があるときです。
まとめ
- 審査請求は、処分や不作為に納得できない人が役所に見直しを求める手続き。違法だけでなく不当も争える。
- 期間は、知った日の翌日から3月、あった日の翌日から1年(正当な理由があれば例外)。
- 出す先は原則として最上級行政庁。上級行政庁がなければ処分をした役所。
- 処分に関わっていない審理員が審理し、原則として第三者機関に諮問してから裁決する。
- 不利益変更は禁止。変更できるのは上級行政庁か処分庁だけ。
次は、処分の前の手続きと比べると理解が深まります。聴聞と弁明の機会の付与の記事で、処分の前に言い分を聞く仕組みを確かめてください。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」(1条、2条、3条、4条、5条、6条、9条、18条、19条、22条、25条、29条、30条、31条、42条、43条、45条、46条、48条、54条、62条、82条、83条)
- e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」(14条、25条、30条)
- 行政書士試験研究センター「令和8年度 試験案内」(出題の基準日)
働く人の法律試験ノート