行政手続法をわかりやすく:申請に対する処分と不利益処分のルール

行政手続法は、役所が処分を出すときに守る手続のルールです。目的は「行政運営における公正の確保と透明性」の向上です(1条1項)。処分は大きく2つに分かれます。許可などを求められて答える「申請に対する処分」と、役所の側から義務を課したり権利を制限したりする「不利益処分」です。

申請に対する処分では、判断の基準(審査基準)を作って公にし、申請が届いたら遅滞なく審査を始め、断るときは理由を示します。不利益処分では、事前に相手の言い分を聞き(聴聞または弁明の機会の付与)、理由を示します。試験では、「しなければならない」(義務)と「努めなければならない」(努力義務)の区別が問われやすい形です。この記事では2章と3章の通則(12条〜14条)を扱います。聴聞と弁明の手続の中身は聴聞と弁明の記事で説明します。

身近な例で考えると

ゆいさんが、中古スマホの買取店を開く場面で考えます。ここでは、ある法律で「県知事の許可」が必要とされている仕事(架空の「買取業の許可」)とします。

人物立場したこと
ゆいさん買取店を開きたい人許可を申請した
知事(県の担当課)許可を出す役所申請を審査した
そらさんゆいさんの友人同じ許可を申請し、断られた
  1. ゆいさんが県の窓口で、許可の判断基準(審査基準)と、ふつう何日で結論が出るか(標準処理期間)を見る。どちらも窓口で見られるようになっている。
  2. ゆいさんが申請書を出す。添付書類が1つ足りなかった。
  3. 県は、「受け取れません」と突き返すことはできない。足りない書類を出すよう求める(補正)か、申請を拒否するか、どちらかを速やかに行う。
  4. ゆいさんが書類を出し直し、審査のあと許可が出る。
  5. そらさんの申請は、基準を満たさず拒否された。拒否の通知書には、理由が書かれていた。
  6. 1年後、ゆいさんの店に法律違反が見つかる。県は営業停止を考え、その前にゆいさんの言い分を聞く機会を設ける。

1〜5が「申請に対する処分」、6が「不利益処分」の場面です。役所が勝手に基準を変えたり、申請を放っておいたり、理由を言わずに断ったりしないよう、手続で縛っているのが行政手続法です。

「お店の入会審査に、決まった基準と、断るときの説明がある」というたとえで考えるとつかみやすいでしょう。ただし本物のルールでは、役所は法律にもとづいて判断します。基準も、その法律の定めに従って判断するためのものです(2条8号ロ)。

条文ではこう決まっている

言葉の意味(2条)

  • 申請(3号):法令にもとづいて、許可・認可・免許など自分に利益を与える処分を求める行為で、役所が「よい・だめ」を答えるべきもの。
  • 不利益処分(4号):役所が、法令にもとづいて、特定の人を名あて人(なあてにん=処分を受ける相手)として、直接に義務を課し、または権利を制限する処分。ただし、申請を拒否する処分、相手の同意のもとでする処分、事実上の行為などは除かれる(4号イ〜ニ)。
  • 審査基準(8号ロ):申請された許認可をするかどうかを、法令の定めに従って判断するための基準。
  • 処分基準(8号ハ):不利益処分をするか、どんな不利益処分にするかを、法令の定めに従って判断するための基準。

申請に対する処分(5条〜11条)

  • 審査基準(5条):役所は審査基準を「定めるものとする」。できる限り具体的にしなければならない。行政上特別の支障があるときを除き、「公にしておかなければならない」(窓口に置くなどして、だれでも見られるようにすること)。
  • 標準処理期間(6条):申請が届いてから処分までに通常かかる期間を、定めるよう努める。定めたときは、公にしておかなければならない。
  • 審査・応答(7条):申請が役所の事務所に届いたら、遅滞なく(ぐずぐずせずに)審査を始めなければならない。書類の不足など形式に合わない申請は、速やかに、期間を決めて補正(ほせい=足りない所を直すこと)を求めるか、申請を拒否しなければならない。
  • 理由の提示(8条):申請を拒否するときは、同時に理由を示さなければならない。書面で拒否するときは、理由も書面で示す(2項)。
  • 理由の提示の例外(8条1項ただし書):基準が「面積◯㎡以上」のような数値などではっきり決まっていて、申請書などから基準に合わないことが明らかなときがある。このときは、申請者に求められたときに示せばよい。
  • 情報の提供(9条):申請者に求められたら、審査の進み具合や処分の見通しを示すよう努める。申請しようとする人に、必要な情報を提供するよう努める。
  • 公聴会など(10条):処分によっては、申請者以外の人(近所の住民など)の利害を考えることが、法令で許可の条件になっている。その場合は、必要に応じ、公聴会(こうちょうかい)などでその人たちの意見を聞く機会を設けるよう努める。
  • 複数の役所が関わるとき(11条):ほかの役所で関連する申請を審査中だからといって、自分の審査や判断を殊更に(ことさらに=わざと)遅らせてはならない(1項)。関係する役所は、審査の促進に努めるものとする(2項)。

不利益処分(12条〜14条)

  • 処分基準(12条):処分基準を定め、公にしておくよう努める(1項)。定めるときは、できる限り具体的にしなければならない(2項)。
  • 意見を聞く手続(13条1項):許認可を取り消すとき、資格や地位を直接はく奪する(取り上げる)ときなどは聴聞(ちょうもん)。それ以外の不利益処分は弁明(べんめい)の機会の付与。聴聞は会って話を聞く手厚い手続、弁明はふつう書面で言い分を出してもらう手続。
  • 例外(13条2項):次のようなときは、この手続をとらなくてよい。公益上、緊急に処分する必要があるとき(1号)。納めるお金の額を決めたり、お金の納付を命じたりするとき(4号)。課す義務がとても軽いものとして政令で決められた処分をするとき(5号)など。
  • 理由の提示(14条):不利益処分をするときは、同時に理由を示さなければならない。ただし「差し迫った必要がある場合」は別で、その場合は処分の後、相当の期間内に示す(1項・2項)。書面で処分するときは、理由も書面で(3項)。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:営業停止は弁明、許可の取消しは聴聞

県がゆいさんに営業停止を命じるのは、義務を課す不利益処分です。許可の取消しではないので、13条1項2号の弁明の機会の付与になります。もし県が許可そのものを取り消すなら、13条1項1号イに当たり、聴聞が必要です。重い処分ほど、手厚い手続になるしくみです。

当てはまらない例:申請を断ることは不利益処分ではない

そらさんの申請が拒否されたのは、そらさんにとっては不利益です。しかし行政手続法では、申請を拒否する処分は「不利益処分」の定義から除かれています(2条4号ロ)。だから、拒否の前に聴聞や弁明の機会は要りません。そのかわり、申請に対する処分のルールとして、拒否と同時に理由を示す必要があります(8条1項)。

ひっかけやすい例:「受理しない」はできない

窓口の担当者が、書類が足りない申請書を「受理できません」と言って返すことは、7条の考え方に合いません。7条は、申請が事務所に届いたら遅滞なく審査を始めると定めています。不備があれば、補正を求めるか拒否するかを選んで、速やかに対応します。どちらも選ばずに放っておくことは認められていません。

ひっかけやすい例:条例が根拠の処分

同じ許可でも、根拠が市の条例や規則なら話が変わります。地方公共団体の機関がする処分で、根拠が条例・規則に置かれているものには、行政手続法の2章から6章は適用されません(3条3項)。そのかわり、地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされています(46条)。根拠が「法律」か「条例」かで、適用が分かれます。

似ているルールとの違い

申請に対する処分と不利益処分を並べると、次のようになります。

比べる点申請に対する処分不利益処分
基準審査基準:定める・公にする(義務)処分基準:定めて公にするよう努める
期間標準処理期間:定めるのは努力、定めたら公にする義務定めはない
事前の手続公聴会などは努力義務(10条)聴聞か弁明の機会(13条)
理由の例外基準が数値などで明らかなら、求めに応じて示す差し迫った必要があれば、処分の後に示す

義務と努力義務は、条文の語尾で見分けます。

条文内容強さ
5条審査基準を公にする義務
6条標準処理期間を定める努力義務
6条定めた標準処理期間を公にする義務
7条遅滞なく審査を始める義務
8条拒否の理由を示す義務
9条進み具合・情報を示す努力義務
10条公聴会などを開く努力義務
12条処分基準を定めて公にする努力義務
14条不利益処分の理由を示す義務

なぜ処分基準は努力義務なのでしょうか。一つの説明として、どんな違反なら営業停止になるかを細かく公にすると、基準ぎりぎりの違反を誘ってしまうおそれがある、という考え方があります。審査基準は、申請する人が準備するために必要なもの、と対比すると覚えやすくなります。

処分が出たあとに争う方法は、別の法律です。役所に見直しを求めるのが行政不服審査法(審査請求の記事)、裁判所に取消しを求めるのが行政事件訴訟法(取消訴訟の記事)です。行政手続法は、その前の段階のルールです。

試験ではここをまちがえやすい

  • 審査基準は義務、処分基準は努力義務:逆にしたひっかけに注意。
  • 標準処理期間は「定める」が努力、「公にする」が義務:1つの条文の中で強さが違う。
  • 審査の始まりは「到達」:申請が事務所に届いたら遅滞なく審査を始める。「受理したら」ではない。
  • 形式不備への対応:補正を求めるか、拒否するか。どちらかを速やかに。
  • 申請拒否は不利益処分ではない:聴聞・弁明は不要。ただし理由の提示は必要(8条)。
  • 理由の提示の例外がちがう:申請拒否は「数値などで明らかなら求めに応じて」、不利益処分は「差し迫った必要があれば後で」。
  • 書面なら理由も書面:8条2項・14条3項。口頭の処分なら書面は求められていない。
  • 条例が根拠の処分には適用されない:3条3項。法律が根拠なら、地方公共団体の処分にも適用される。

行政書士試験では、5肢択一式で条文の語尾(義務か努力義務か)や例外の要件を入れかえて問う形が考えられます。記述式(40字程度)で、どの手続が必要かを書かせる形も考えられます(書き方は記述式の記事)。行政法の中での順番は行政法の勉強法を参考にしてください。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題) ある法律にもとづく許可について、県は標準処理期間を定めなければならない。

答え:✕ 標準処理期間は、定めるよう「努める」ものです(6条)。ただし、定めたときは公にしておかなければなりません。

問2(このサイトのオリジナル問題) はるきさんが法律にもとづく免許を申請したところ、役所は拒否することにした。この場合、役所は拒否の前に、はるきさんに弁明の機会を与えなければならない。

答え:✕ 申請を拒否する処分は、不利益処分の定義から除かれています(2条4号ロ)。弁明の機会は不要です。ただし、拒否と同時に理由を示す必要があります(8条1項)。

問3(このサイトのオリジナル問題) 役所は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。

答え:○ 処分基準は努力義務です(12条1項)。審査基準(5条)が義務なのと区別します。なお、処分基準を定めるときは、できる限り具体的にしなければなりません(12条2項)。

まとめ

  • 申請に対する処分:審査基準を定めて公にする(義務)。標準処理期間は定めるのが努力、公にするのが義務。
  • 申請が届いたら遅滞なく審査開始。不備は補正か拒否。拒否するときは同時に理由。
  • 不利益処分:処分基準は努力義務。許認可の取消しなどは聴聞、それ以外は弁明の機会。理由は同時に(差し迫った必要があれば後で)。
  • 申請拒否は不利益処分ではない。条例が根拠の処分には行政手続法の2章〜6章は適用されない。

次に読むなら、聴聞と弁明の機会の付与の記事がおすすめです。この記事で「どちらになるか」まで見た手続の中身(通知・期日・文書の閲覧など)を続けて確かめられます。処分そのものの効力(公定力など)は行政行為の記事で説明しています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年度試験の出題の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。