ひとことで言うと、国連の専門機関は、政府間の協定で設けられ、経済・社会・文化・教育・保健などの分野で広い国際的責任を持ち、国連と「連携関係」をもたされた機関です(国際連合憲章57条)。国連の中の機関ではなく、国連と協定を結んだ別の国際機関です。外務省の資料(2023年2月)は、国際労働機関(ILO)・世界保健機関(WHO)・国連教育科学文化機関(UNESCO)・国際通貨基金(IMF)など、15の専門機関を挙げています。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。
各機関の予算・分担金、事務局長の名前、本部の所在地、活動の評価は扱いません。憲章は外務省の訳文で、専門機関の一覧は外務省の資料で確かめました。外務省の説明は、国連の諸計画・基金を「総会の補助機関」とし、国連システムはほかに事務局・専門機関・その他の関連機関で構成される、としています。どの機関が関連機関に当たるかは、外務省の説明に一覧が見当たらないため、国連広報センター(国連の日本での広報の拠点)の「国連システム図」によります(2026年10月17日確認)。専門機関の数と名前は、資料の時点のものです。
身近な例で考えると
行政書士試験の受験生のことはさんは、ニュースでよく聞く国連児童基金(UNICEF)も、WHOと同じ「国連の専門機関」だと思っていました。調べてみると、つくられ方が違いました。
- WHO(世界保健機関):外務省の資料が挙げる15の専門機関の一つ。分野は保健・医療。
- UNICEF(国連児童基金):外務省の説明では、1946年の第1回国連総会で設立された、総会の補助機関(国連の計画・基金の一つ)。国連システム図でも、総会の下の「計画と基金」に置かれている。
- IAEA(国際原子力機関):国連システム図では「関連機関」に置かれていて、専門機関ではない。
ことはさんが分かったのは、専門機関かどうかは「国連の名前が付いているか」ではなく、憲章57条の定義と、63条の協定で決まる、ということです。
憲章ではこう決まっている
専門機関の定義と連携の協定(57条・63条・59条)
- 57条1:政府間の協定によって設けられる各種の専門機関で、経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的分野並びに関係分野において、その基本的文書で定めるところにより広い国際的責任を有するものは、63条の規定に従って国際連合と連携関係をもたされなければならない。
- 57条2:こうして国連と連携関係をもたされる機関を、以下「専門機関」という。
- 63条1:経済社会理事会は、57条の機関との間に、国連と連携関係をもたされるについての条件を定める協定を締結することができる。この協定は、総会の承認を受けなければならない。
- 63条2:経済社会理事会は、専門機関との協議と専門機関への勧告、総会と加盟国への勧告によって、専門機関の活動を調整することができる。
- 59条:国連は、適当な場合には、新たな専門機関を設けるための関係国間の交渉を発議する。
つまり、専門機関になるには、①政府間の協定で設けられた機関であること、②経済・社会・文化・教育・保健などの分野で広い国際的責任を持つこと、③経済社会理事会と協定を結び、総会の承認を受けて国連と連携関係をもつこと、がそろいます。外務省の資料も、専門機関は「国連の主要機関のひとつである経済社会理事会と協定締結を行って」いる、と説明しています。
主要機関と補助機関(7条・22条・29条)
7条1は、主要機関として、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会、国際司法裁判所及び事務局の6つを設けています。7条2は、必要と認められる補助機関を憲章に従って設けることができる、としています。具体的には、総会は「その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる」(22条)、安全保障理事会も同じく補助機関を設けることができる(29条)、と定めています。補助機関は国連の中の機関で、国連の外にある専門機関とは別のものです。主要機関の働きと安全保障理事会の決まりは国際連合のしくみの記事で扱っています。
外務省が挙げる15の専門機関
| 略称 | 名前 | 分野(資料の言葉) |
|---|---|---|
| ILO | 国際労働機関 | 労働 |
| FAO | 国連食糧農業機関 | 食料安全保障・農業 |
| UNESCO | 国連教育科学文化機関 | 教育・科学・文化・情報・コミュニケーション |
| WHO | 世界保健機関 | 保健・医療 |
| IMF | 国際通貨基金 | 国際通貨制度 |
| World Bank Group | 世界銀行グループ | 開発資金 |
| ICAO | 国際民間航空機関 | 航空 |
| UPU | 万国郵便連合 | 郵便 |
| ITU | 国際電気通信連合 | 電気通信・ICT |
| WMO | 世界気象機関 | 気象 |
| IMO | 国際海事機関 | 海事・海洋 |
| WIPO | 世界知的所有権機関 | 知的財産権 |
| IFAD | 国際農業開発基金 | 食料安全保障・農業 |
| UNIDO | 国連工業開発機関 | 工業・持続可能な開発 |
| UNWTO | 世界観光機関 | 観光 |
出典は外務省「知っておきたい国際協力 Vol.11 国連専門機関とSDGs」(2023年2月)の表です(並べ方は当サイトが変えました。分野は表の言葉から一部を省いています)。国連広報センターの国連システム図(2024年8月の日本語版)も、同じ15を専門機関に挙げ、世界銀行グループとして国際復興開発銀行(IBRD)・国際開発協会(IDA)・国際金融公社(IFC)を示しています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:国際労働機関(ILO)。外務省の資料の15に入る専門機関です。日本の労働の基本の法律は労働三法の記事で扱っています。
- 当てはまる例(意外に見えるもの):国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループ。お金を扱う機関も、外務省の資料と国連システム図で専門機関に挙がっています。
- 当てはまらない例:国連児童基金(UNICEF)。1946年の第1回国連総会で設立された総会の補助機関で、政府間の協定で設けられた57条の機関ではありません。
- 当てはまらない例:国際原子力機関(IAEA)や世界貿易機関(WTO)。国連システム図では「関連機関」で、専門機関の欄には入っていません。
- ひっかけやすい例:専門機関との協定を結ぶのを「安全保障理事会」や「事務総長」とすること。63条1は経済社会理事会で、協定には総会の承認が要ります。
主要機関・補助機関・専門機関・関連機関の違い
| 区分 | 根拠 | 例 |
|---|---|---|
| 主要機関 | 憲章7条1 | 総会・安全保障理事会・経済社会理事会・信託統治理事会・国際司法裁判所・事務局 |
| 総会などが設ける機関 | 憲章7条2・22条・29条 | 国連児童基金・国連難民高等弁務官事務所など(外務省の説明で総会の補助機関) |
| 専門機関 | 憲章57条・63条(経済社会理事会との協定) | ILO・WHO・UNESCO・IMF など15 |
| 関連機関 | 国連システム図の区分 | IAEA・WTO・国際移住機関(IOM)・化学兵器禁止機関(OPCW)など |
国連システム図は、国際刑事裁判所(ICC)も関連機関に置いています。国連難民高等弁務官事務所が関わる難民の定義は難民条約の記事、IAEAが保障措置を担う核兵器不拡散条約の決まりは核兵器不拡散条約と核兵器禁止条約の記事で扱っています。
略称は英語の意味で覚える
語呂合わせより、略称の英語を日本語の名前と結びつけると、分野も一緒に思い出せます。
- ILO:International Labour Organization(国際・労働・機関)
- WHO:World Health Organization(世界・保健・機関)
- UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization(国連・教育・科学・文化・機関)
- IMF:International Monetary Fund(国際・通貨・基金)
- UNICEF:United Nations Children’s Fund(国連・児童・基金)。「Fund」でも、IMFと違って専門機関ではない。
試験ではここをまちがえやすい
- 定義:政府間の協定で設けられ、広い国際的責任を持ち、63条の協定で国連と連携関係をもつ機関(57条)。
- 協定の主体:経済社会理事会が締結し、総会が承認する(63条1)。活動の調整も経済社会理事会(63条2)。
- 補助機関:総会(22条)と安全保障理事会(29条)が、それぞれ自分で設けられる。加盟の承認(4条2:安保理の勧告に基づき総会が決定)と混ぜない。
- UNICEFとIAEA:UNICEFは総会が設立、IAEAは関連機関。どちらも専門機関ではない。
- IMFと世界銀行グループ:専門機関に入る。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
国連児童基金(UNICEF)は、1946年の第1回国連総会で設立され、児童の分野で活動しているので、国際連合憲章57条の専門機関に当たる。
答え:✕ 分かれ目は、機関がどう設けられたかです。57条1の専門機関は「政府間の協定によつて設けられる」機関で、63条の協定で国連と連携関係をもたされたものです。正しくは、UNICEFは国連総会が設立した機関で、57条の専門機関ではありません(外務省の説明では総会の補助機関。国連システム図では総会の下の「計画と基金」)。国連の名前が付き、社会の分野で活動するという点だけで、専門機関と取り違えた誤りです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ある政府間の機関を、専門機関として国際連合と連携させることになった。この連携の条件を定める協定は、経済社会理事会がその機関との間で締結し、総会の承認を受ける。
答え:○ 分かれ目は、協定を結ぶ機関と承認する機関です。63条1は、経済社会理事会が57条の機関との間に連携の条件を定める協定を締結でき、この協定は総会の承認を受けなければならない、としています。国連を代表して協定を結ぶのは事務総長や安全保障理事会だ、と考えると✕に見えます。協定を結ぶ経済社会理事会と、承認する総会の2つの機関が関わる点を押さえます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
国連総会が、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けるときは、新しい加盟国の承認と同じく、安全保障理事会の勧告に基づくことが必要である。
答え:✕ 分かれ目は、安全保障理事会の勧告が要る場面かどうかです。22条は「総会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる」とだけ定め、安全保障理事会の勧告を求めていません。正しくは、総会は自分で補助機関を設けられます。安全保障理事会の勧告に基づいて総会が決定するのは、加盟国となることの承認(4条2)で、それと混ぜた誤りです。安全保障理事会も、自分の補助機関を設けられます(29条)。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 専門機関=政府間の協定で設けられ、経済・社会・文化・教育・保健などで広い国際的責任を持ち、国連と連携関係をもたされた機関(57条)。
- 連携の協定は経済社会理事会が締結し、総会が承認(63条1)。
- 外務省の資料(2023年2月)は15の専門機関を挙げる。IMF・世界銀行グループも入る。
- 補助機関は総会(22条)・安保理(29条)が設ける国連の中の機関。UNICEFは総会が設立。IAEA・WTOは関連機関。
このサイトで次に読むなら、政府開発援助(ODA)の記事です。国際機関への拠出が、日本の開発協力の中でどう分けられているかを確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
憲章は外務省の訳文で確かめました(2026年10月17日確認)。
- 外務省 条約データ「国際連合憲章」(4条2、7条、22条、29条、57条、59条、63条)
- 外務省「知っておきたい国際協力 Vol.11 国連専門機関とSDGs」(2023年2月)(15の国連専門機関と分野、経済社会理事会との協定)
- 国連広報センター「国連システム図」(2023年7月版、2024年8月の日本語版)(専門機関・関連機関・計画と基金の区分)
- 外務省「国連計画・基金」(令和2年6月15日)(国連の諸計画・基金は総会の補助機関であること、国連児童基金・国連難民高等弁務官事務所などの一覧、国連システムの構成)
- 外務省「国連児童基金(UNICEF)の概要」(平成26年2月現在)(1946年の第1回国連総会での設立)
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