岐阜県青少年保護育成条例事件:有害図書の自動販売機への収納禁止と、表現の自由・青少年の知る権利

ひとことで言うと、この判決は、有害図書に指定された本を自動販売機に入れることを禁止し、違反を処罰する条例の規定は、憲法21条1項に違反しないとしたものです(最高裁判所第三小法廷平成元年9月19日判決。昭和62年(あ)第1462号。一般に「岐阜県青少年保護育成条例事件」と呼ばれます)。青少年に対してはもちろん、成人に対しても、本の流通を幾分制約するが「必要やむをえない制約」だとしました。

この判決には、裁判官1人の補足意見が付いています。補足意見は、青少年の知る権利(補足意見の言葉では「知る自由」)を正面から論じましたが、判決の結論を支える法廷意見とは別のものです。この記事では、条例の仕組み、法廷意見の理由、補足意見の中身を分けて扱います。検閲の定義そのものは表現の自由の記事、審査基準の考え方は違憲審査基準の使い分けに任せます。指定された図書の中身は扱いません。

身近な例で考えると

判決と同じ形の架空の話で、筋をつかみます。登場するのは、みどり県で本の自動販売機を置いている業者のたくやさんと、県内の高校に通う16歳のひなたさんです。

  1. みどり県の条例は、青少年の健全な育成を害するおそれがある本を、知事が「有害図書」に指定できるとしている。
  2. 条例は、指定された有害図書を青少年に売ることと、自動販売機に入れること(収納)を禁止し、どちらの違反にも罰則を置いている。
  3. たくやさんは、指定された雑誌を自動販売機に入れた。機械は無人で、夜中でも買える。
  4. たくやさんは「大人が本を買う自由まで奪っている。表現の自由に反する」と主張した。
  5. 判例の考え方によれば、この収納の禁止と処罰は、憲法21条1項に違反しない。

たとえると、レジのある書店では、店員が客と顔を合わせて売ります。無人の機械では、売る人と買う人が顔を合わせません。判決は、この違いを規制の必要性の理由の一つにしました。ただし本物の判決は、書店での販売の禁止の規定まで判断したわけではありません。判断の対象は、自動販売機への収納の禁止とその罰則です。

判決ではこう決まっている

事件の概要

項目中身
裁判所・日付最高裁判所第三小法廷 平成元年9月19日判決
事件番号昭和62年(あ)第1462号
争われた規定条例6条2項、6条の6第1項本文、21条5号
原審名古屋高等裁判所 昭和62年11月25日判決
結論上告棄却。規定は憲法21条1項に違反しない
意見裁判官全員一致。伊藤正己裁判官の補足意見あり

条例の仕組み(判決が説明したもの)

  • 1冊ずつの指定(6条1項):知事は、図書の内容が、著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長するため、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めるときは、その図書を有害図書として指定する。
  • 前もっての指定(6条2項):有害図書のうち、一定の種類の写真が編集紙面の過半を占める刊行物については、知事は、1冊ずつの指定に代えて、その写真の内容を、あらかじめ規則で定めるところにより指定できる。補足意見は、これを「包括指定」と呼んでいます。
  • 禁止と罰則:指定された有害図書は、販売・貸付けを業とする者が青少年に販売・配付・貸付けをすること、自動販売機業者が自動販売機に収納することが禁止され(6条の2第2項、6条の6第1項)、いずれの違反にも罰則がある(21条2号・5号)。

法廷意見の理由の流れ

  1. 有害図書が、一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼすなど、青少年の健全な育成に有害であることは、「既に社会共通の認識になつているといってよい」。
  2. 自動販売機による販売は、売手と対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができることなどを、自動販売機での販売を規制する理由として挙げた。
  3. そうすると、収納の禁止は、青少年に対する関係で21条1項に違反しないことはもとより、成人に対する関係でも、「有害図書の流通を幾分制約することにはなるものの」、有害環境を浄化するための規制に伴う「必要やむをえない制約」である。
  4. よって、憲法21条1項に違反しない。
  5. 21条2項前段の検閲に当たらないことは、税関検査の大法廷判決(昭和59年12月12日)と出版物の事前差止めの大法廷判決(昭和61年6月11日)の趣旨に照らして明らか、とした。

法廷意見は、成人への影響を「ない」とはしていません。「幾分制約する」と認めたうえで、必要やむをえない制約だから違反しない、という組み立てです。検閲については、二つの大法廷判決の趣旨に照らして明らかとしただけで、理由を詳しく書いていません。

補足意見は何を述べたか(法廷意見との区別)

補足意見は、判決の結論に賛成する裁判官が、自分の考えを付け加えたものです。判決の結論を支える理由(法廷意見)そのものではありません。この判決では、伊藤正己裁判官が補足意見を書いています。判決文で確かめた要点は次のとおりです。

  • 「青少年もまた憲法上知る自由を享有していることはいうまでもない」。
  • ただし、その自由の憲法的保障という角度からみると、「その保障の程度が成人の場合に比較して低いといわざるをえない」。
  • 理由は、青少年は一般的にみて精神的に未熟で、知識や情報を選別する能力を十全には持たず、受ける情報の影響が大きいので、「成人と同等の知る自由を保障される前提を欠く」から。
  • 包括指定は、基準が明確で、指定の範囲が必要最少限度に抑えられている限り、成人の知る自由が封殺されていないことを前提にすれば、違憲と断定しえない。
  • 税関検査の大法廷判決が示した検閲の定義を引いたうえで、条例の規制は、1冊ずつの指定でも包括指定でも、すでに発表された図書を対象とし、指定を受けても成人には入手する途が開かれているから、その「検閲」に当たるということはできない。
比べる点法廷意見伊藤裁判官の補足意見
位置づけ判決の結論を支える理由結論に賛成したうえでの付け加え
青少年の知る自由「知る自由」の語を使っていないある。ただし保障の程度は成人より低い
検閲でない理由大法廷判決の趣旨に照らし明らか発表済みの図書が対象、成人は入手できる
成人との関係幾分制約するが必要やむをえない成人の知る自由が封殺されていないことが前提
「包括指定」の語使っていない使っている

「青少年の知る自由は成人より保障の程度が低い」は、補足意見の言葉です。試験で「判例は〜とした」と書かれていたら、それが法廷意見の内容か、補足意見の内容かを確かめます。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:たくやさんが、知事に1冊ずつ指定された有害図書を自動販売機に入れた。収納の禁止と処罰は、判例によれば21条1項に違反しません。
  • 当てはまる例(前もっての指定):たくやさんが入れた雑誌は、1冊ずつの指定はされていないが、規則で前もって定めた写真の内容に当たる刊行物だった。判決が判断した規定には6条2項が入っているので、この場合の禁止と処罰も21条1項に違反しないとされます。
  • 当てはまる例(成人):大人の客が夜中に自動販売機で買えなくなった。法廷意見は、成人に対する関係でも、流通を幾分制約するが必要やむをえない制約だとしました。
  • 当てはまらない例:書店の店員がひなたさんに有害図書を売った場合の規定(6条の2第2項)。条例はこれも禁止していますが、この判決の判示事項に挙がっている規定ではありません。判決が判断したのは、自動販売機への収納の禁止の規定です。
  • ひっかけやすい例:「行政が本の中身を見て流通を止めるのだから検閲だ」と考えること。法廷意見は、検閲に当たらないことは大法廷判決の趣旨に照らして明らかとしました。補足意見は、すでに発表された図書が対象で、成人には入手する途があることを挙げています。

似ているルールとの違い

指定のしかたと判断

指定のしかた規制の中身判決の判断
1冊ずつの指定(6条1項)青少年への販売等と、自販機への収納を禁止収納の禁止は21条1項に違反しない
前もっての指定(6条2項)同じ禁止がかかる6条2項も判示事項に入り、違反しない
どちらの指定も(検閲かどうか)指定による流通の制限21条2項の検閲に当たらない

条例で表現を規制すること・法律による青少年の保護

この事件の規制は、県の条例によるものです。条例でどこまで定められ、罰則を置けるかは条例と規則の記事で扱っています。インターネットについては、18歳未満の利用者とフィルタリングを定めた法律があり、青少年インターネット環境整備法の記事で扱います。どちらも青少年の保護を目的にしますが、こちらは国の法律で、仕組みも別です。

試験ではここをまちがえやすい

  • 成人への影響の言い方:「成人の流通は制約しないから合憲」とする形。法廷意見は「幾分制約することにはなるものの」必要やむをえない制約としました。
  • 補足意見と法廷意見の取り違え:「青少年の知る自由の保障の程度は成人より低い、と判例は判示した」とする形。これは伊藤裁判官の補足意見の言葉です。
  • 判断の対象の広げすぎ:判示事項は、6条2項、6条の6第1項本文、21条5号の規定です。自動販売機への収納の禁止と罰則についての判断として覚えます。
  • 規制の必要性の理由:自動販売機は売手と対面しないため心理的に購入が容易で、昼夜を問わず買える、という点です。
  • 検閲の扱い:法廷意見は、検閲に当たらないことを大法廷判決の趣旨に照らして明らかとしました。「検閲に当たるが公共の福祉で許される」という形は、結論も筋も違います。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
ある県の条例は、知事が指定した有害図書を自動販売機に収納することを禁止し、違反を処罰する。判例は、この規定が成人に対しては有害図書の流通を制約するものではないから、憲法21条1項に違反しないとした。

答え:✕ 分かれ目は、成人への影響をどう扱ったかです。最高裁判所第三小法廷平成元年9月19日判決は、成人に対する関係でも、有害図書の流通を「幾分制約することにはなるものの」、有害環境を浄化するための規制に伴う必要やむをえない制約だから21条1項に違反しないとしました。正しくは、制約はあると認めたうえでの合憲です。結論は同じでも、理由が「制約がない」にすり替わっています。

問2(このサイトのオリジナル問題)
たくやさんは、知事から1冊ずつの指定は受けていないが、規則で前もって定めた写真の内容に当たる雑誌を、自動販売機に収納した。判例は、この場合に収納を禁止し処罰する条例の規定も、憲法21条1項に違反しないとした。

答え:○ 分かれ目は、前もっての指定(6条2項)も判断の対象かどうかです。平成元年9月19日判決は、6条2項、6条の6第1項本文、21条5号の規定が21条1項に違反しないとしました。1冊ずつ中身を見て指定していないから許されない、と考えると✕に見えます。補足意見も、基準が明確で範囲が必要最少限度に抑えられている限り、この指定のしかたを違憲と断定しえないとしています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
平成元年9月19日の最高裁判所の判決は、法廷意見の理由として、青少年は精神的に未熟で情報の影響を受けやすく、成人と同等の知る自由を保障される前提を欠くと述べた。

答え:✕ 分かれ目は、だれの意見かです。この言葉は、伊藤正己裁判官の補足意見のもので、補足意見は青少年も憲法上知る自由を持つとしたうえで、保障の程度は成人より低いと述べました。正しくは、法廷意見の理由ではなく補足意見の内容です。法廷意見は、有害図書の青少年への害が社会共通の認識であることや、自動販売機の特性を理由にしています。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 最高裁判所第三小法廷平成元年9月19日判決:有害図書の自動販売機への収納を禁止処罰する条例の規定は、憲法21条1項に違反しない。
  • 成人に対しても「幾分制約する」が、有害環境を浄化する規制に伴う必要やむをえない制約。
  • 理由は、青少年への害が社会共通の認識であること、自動販売機は対面せず昼夜を問わず買えること。
  • 21条2項の検閲には当たらない(大法廷判決の趣旨に照らして明らか)。
  • 青少年の知る自由と「包括指定」の議論は、伊藤裁判官の補足意見。法廷意見と分けて覚える。

次に読むなら、憲法の判例まとめがおすすめです。表現の自由のほかの判例と並べると、この判決が「何を規制した事件か」を区別しやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、理由と補足意見の言葉は判決全文で確かめました。条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。条例の規定の説明は、判決文の記載によります。

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