ひとことで言うと、聴聞の主宰者(しゅさいしゃ)は不利益処分をする「前」の聴聞の進行役、審理員(しんりいん)は処分の「後」の審査請求で、双方の言い分を聞く進行役です。どちらも、最後に意見を書いた書面を出し、行政庁がそれを踏まえて結論を出します。
いちばん取り違えやすい違いは、処分に関与した職員の扱いです。審理員には「処分に関与した者」はなれませんが、聴聞の主宰者には同じ除外の規定がありません。この記事は、令和8年4月1日時点の行政手続法と行政不服審査法で、2つの役を比べます。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| さとしさん | 居酒屋の店主 | 営業許可の取消しの手続を受けた |
| 森さん | 市の職員 | 聴聞の主宰者に指名された |
| 林さん | 市の職員 | 審査請求の審理員に指名された |
- 市長は、さとしさんの営業許可を取り消そうと考え、聴聞を開くことにしました。進行役として、職員の森さんを主宰者に指名しました。
- 聴聞の期日の冒頭で、市の職員が、予定している処分の内容と理由を説明しました。さとしさんは意見を述べ、森さんの許可を得て市の職員に質問しました。
- 森さんは、期日ごとの記録(調書)と、さとしさんの主張に理由があるかの意見(報告書)を市長に出しました。市長は、これを十分に参酌して取消しを決めました。
- さとしさんは納得できず、審査請求をしました。市長は、取消しに関わっていない職員の林さんを審理員に指名しました。
- 林さんは、双方の言い分を聞き、どう裁決すべきかの審理員意見書を市長に出しました。
たとえると、主宰者は「判定を出す前の聞き取りの司会」、審理員は「判定が出た後の再審査の担当者」です。ただし本物のルールでは、どちらも最終的な結論を出す人ではありません。結論を出すのは、処分をする行政庁や、裁決をする審査庁です。
条文ではこう決まっている
聴聞の主宰者(行政手続法)
- 聴聞は、行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰します(19条1項)。
- 主宰者になれない人:当事者・参加人、その配偶者・四親等内の親族・同居の親族、代理人・補佐人、これらの人だった人、後見人・保佐人・補助人とその監督人、参加人以外の関係人(19条2項1号〜6号)。
- 期日では、主宰者は当事者に質問したり、行政庁の職員に説明を求めたりできます。当事者は、主宰者の許可を得て行政庁の職員に質問できます(20条2項・4項)。期日の審理は、行政庁が公開を相当と認めるときを除き、公開しません(20条6項)。
- 主宰者は調書を作り、聴聞が終わったら速やかに、当事者の主張に理由があるかの意見を書いた報告書を作って、調書とともに行政庁に出します(24条1項〜3項)。当事者・参加人は、調書と報告書の閲覧を求められます(同条4項)。
- 行政庁は、調書の内容と報告書の主宰者の意見を「十分に参酌して」不利益処分を決めます(26条)。
審理員(行政不服審査法)
- 審査庁は、所属する職員から審理員を指名します(9条1項)。審査庁が委員会などのときや、審査請求が明らかに不適法で却下するときなどは、指名しません(同項ただし書)。
- 審理員になれない人:審査請求に係る処分や再調査の請求の決定に関与した人、不作為に係る処分に関与し、または関与することとなる人、審査請求人、その配偶者・四親等内の親族・同居の親族、代理人、これらの親族・代理人だった人、後見人・保佐人・補助人とその監督人、利害関係人(9条2項1号〜7号)。
- 審査庁となるべき行政庁は、審理員となるべき者の名簿を作るよう努め、作ったときは公にしておかなければなりません(17条)。
- 審査請求人などの申立てがあれば、審理員は口頭で意見を述べる機会を与えなければなりません(31条1項)。申立人は、審理員の許可を得て処分庁などに質問できます(同条5項)。
- 審理員は、審理手続を終えたら遅滞なく審理員意見書を作り、速やかに事件記録とともに審査庁に出します(42条)。
- 審査庁は、原則として行政不服審査会などに諮問し(43条1項)、答申を受けたら遅滞なく裁決します(44条)。裁決書の理由には、主文が審理員意見書や答申書と異なる内容のときは、「異なることとなった理由」を含めます(50条1項4号)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(主宰者):取消しの準備を担当した課の職員を、市長が主宰者に指名する。行政手続法19条2項には、処分の準備に関わった職員を外す規定はありません。
- 当てはまらない例(審理員):さとしさんの許可の取消しを担当した職員を、審理員に指名する。処分に関与した人は審理員になれません(行政不服審査法9条2項1号)。
- ひっかけやすい例(諮問しない場合):審査請求人が諮問を希望しない旨を申し出た場合などは、審査会への諮問をしないこともあります(43条1項4号。参加人が反対しているときを除く)。この場合、審理員意見書を裁決書に添付します(50条2項)。
- ひっかけやすい例(審理員を置かない場合):審査庁が委員会などのときは、審理員を指名しません(9条1項ただし書)。審理員がいないことが違法とは限りません。
似ているルールとの違い
まず、だれがなるか・なれないかを比べます。
| 比べる点 | 聴聞の主宰者 | 審理員 |
|---|---|---|
| 指名する人 | 処分をする行政庁 | 審査庁 |
| 選ばれる人 | 職員その他政令で定める者 | 審査庁に所属する職員 |
| 処分に関与した職員 | 外す規定なし | なれない |
| 名簿 | 規定なし | 作成は努力、作れば公表 |
次に、手続の中ですることと、最後の書面を比べます。
| 比べる点 | 聴聞の主宰者 | 審理員 |
|---|---|---|
| 相手方への質問 | 当事者は主宰者の許可で職員に質問 | 申立人は審理員の許可で処分庁等に質問 |
| 最後に出す書面 | 調書と報告書 | 審理員意見書(事件記録とともに) |
| 結論を出す人の扱い | 十分に参酌して決める | 異なる結論なら裁決書に理由 |
| 第三者機関 | 関与なし | 原則、審査会などに諮問 |
聴聞と弁明の機会の付与の分かれ目は聴聞と弁明の機会の付与をわかりやすくで、審査請求の期間と流れは審査請求をわかりやすくで確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
- 除外の規定の流用:「処分に関与した職員は聴聞の主宰者になれない」は、審理員の規定を主宰者に持ち込んだ誤りです。
- 従う義務の作り込み:「行政庁は主宰者の意見に従わなければならない」「審査庁は審理員意見書と同じ裁決をしなければならない」はどちらも誤り。前者は十分に参酌、後者は異なるときに理由を書く、です。
- 名簿の義務:審理員の名簿は「作成するよう努める」で、作ったら公にすることが義務。作ること自体を義務とする肢に注意します。
- 書面の名前:主宰者は「調書」と「報告書」、審理員は「審理員意見書」。報告書と意見書の入れ替えに注意します。
- 質問の許可:どちらの手続でも、相手方への質問は進行役の許可がいります。
2つの手続は、進行役(主宰者/審理員)と最後の書面(報告書/審理員意見書)を組にして覚えると、入れかえた肢に気づけます。審査請求と取消訴訟の比較は行政不服審査法と行政事件訴訟法の違い一覧にまとめています。この論点は宅建試験の範囲ではありません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
市長は、さとしさんの営業許可を取り消すための聴聞をすることにした。この場合、取消しの準備を担当した市の職員は、行政手続法上、聴聞の主宰者に指名することができない。
答え:✕ 分かれ目は、処分に関与した職員を外す規定があるかです。聴聞の主宰者になれない人は、当事者・参加人やその親族・代理人などで(行政手続法19条2項)、処分の準備を担当した職員を外す規定はありません。正しくは、行政手続法上、この職員を主宰者に指名することは禁じられていません。処分に関与した人を外すのは、行政不服審査法の審理員の規定(9条2項1号)です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
さとしさんの審査請求で、審理員の林さんは、取消処分は違法なので取り消すべきとする審理員意見書を出した。審査庁は、この意見書と異なり請求を棄却する裁決をすることができるが、その場合は、裁決書の理由に、異なることとなった理由を含めなければならない。
答え:○ 審理員の意見に従う義務があると考えると✕にしてしまいます。審査庁は審理員意見書に拘束されませんが、裁決の主文が審理員意見書や審査会の答申書と異なる内容のときは、裁決書の理由に「異なることとなった理由」を含めます(行政不服審査法50条1項4号)。聴聞の主宰者の報告書も、行政庁は「十分に参酌」すればよく(行政手続法26条)、従う義務まではありません。
問3(このサイトのオリジナル問題)
行政不服審査法によれば、審査庁となるべき行政庁は、審理員となるべき者の名簿を作成しなければならず、作成した名簿は事務所に備え付けるなどの方法で公にしておかなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、名簿の作成が義務か努力義務かです。審査庁となるべき行政庁は、名簿を「作成するよう努める」とされ、作成したときに公にしておくことが義務です(行政不服審査法17条)。正しくは、作成は努力義務、公表は作成した場合の義務です。標準処理期間で、定めることは努力義務・定めたら公にすることは義務、とされている行政手続法6条と同じ組み立てなので、並べて覚えます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 主宰者は処分前の聴聞、審理員は処分後の審査請求の進行役。結論を出すのは行政庁・審査庁。
- 処分に関与した人は審理員になれない。主宰者には同じ除外の規定はない。
- 主宰者は調書と報告書、審理員は審理員意見書を出す。
- 行政庁は報告書を十分に参酌。審査庁は意見書と異なるなら裁決書に理由を書く。
- 審理員の名簿は作成が努力義務、作ったら公にする義務。
次に読むなら、役所が返事をしないときの3つの手段がおすすめです。不作為についての審査請求でも審理員が指名され、なれない人の規定(不作為に係る処分に関与することとなる人)が出てきます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。
- e-Gov法令検索「行政手続法」(6条、19条、20条、24条、26条)
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」(9条、17条、31条、42条、43条、44条、50条)
働く人の法律試験ノート