行政不服審査会への諮問:審理員意見書のあと、裁決までに何があるか(諮問しなくてよい場合)

ひとことで言うと、行政不服審査会への諮問(しもん=意見を求めること)は、審査請求の審理が終わったあと、裁決の前に、第三者の機関に「この結論でよいか」を確かめる手続です。審査庁が大臣などのときは総務省の行政不服審査会、地方公共団体の長のときは81条の機関に諮問し、その答申(とうしん=答え)を受けて裁決します(行政不服審査法43条・44条)。

ただし、どの事件でも諮問するわけではありません。43条1項は、諮問しなくてよい場合を8つ定めています。この記事は、令和8年4月1日時点の行政不服審査法で、審理員意見書から裁決までを順に整理します。審理員の役割そのものは審理員と聴聞の主宰者の違いで扱っています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
みおさん事業者国の出先機関の長から営業停止処分を受け、審査請求をした
大臣審査庁審理員を指名し、裁決をする
行政不服審査会総務省に置かれた機関大臣の諮問に答申する
  1. 審理員が審理手続を終え、どう裁決すべきかの審理員意見書を大臣に出した(42条)。
  2. 大臣は、審理員意見書と事件記録の写しを添えて、行政不服審査会に諮問した(43条1項・2項)。そして、みおさんに諮問したことを知らせ、審理員意見書の写しを送った(43条3項)。
  3. 審査会は、委員3人の合議体で調査審議した(72条1項)。必要があれば、資料の提出を求めたり、関係者に事実を述べてもらったりできる(74条)。
  4. みおさんは、審査会に主張を書いた書面や資料を出し(76条)、ほかの人が出した資料の閲覧も求めた(78条1項)。
  5. 審査会は答申をし、答申書の写しをみおさんに送り、答申の内容を公表した(79条)。
  6. 大臣は、答申を受けて遅滞なく裁決をした(44条)。答申と異なる結論にするなら、裁決書の理由に、異なることとなった理由を書く(50条1項4号)。

たとえるなら、審理員意見書は「担当者の報告書」、審査会は「社外の有識者による点検」です。ただし本物のルールでは、審査会の答申に大臣が従う義務まではありません。異なる結論にするなら理由を示す、という形で答申が重みを持ちます。

条文ではこう決まっている

審査会の組織(67条〜73条)

  • 総務省に、行政不服審査会を置きます(67条1項)。
  • 委員は9人で、非常勤です。ただし3人以内は常勤にできます(68条)。
  • 委員は、公正な判断ができ、法律や行政について優れた識見を持つ人から、両議院の同意を得て総務大臣が任命します(69条1項)。任期は3年です(69条4項)。
  • 事件の調査審議は、審査会が指名する委員3人の合議体でします。審査会が定める場合は、委員全員の合議体でします(72条)。

諮問の決まり(43条)

  • 審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、43条1項の各号に当たる場合を除き、諮問しなければなりません。審査庁が主任の大臣・宮内庁長官・内閣府や省に置かれる庁の長なら行政不服審査会に、地方公共団体の長なら81条1項・2項の機関に諮問します(43条1項)。
  • 諮問は、審理員意見書と事件記録の写しを添えてします(43条2項)。
  • 諮問した審査庁は、審理関係人(審査請求人・参加人・処分庁等)に諮問した旨を知らせ、審理員意見書の写しを送ります(43条3項)。

諮問しなくてよい8つの場合(43条1項各号)

号場合(短く)
1号法令に、処分の前に審議会等の議を経る(経ることができる)定めがあり、その議を経て処分がされた
2号法令に、裁決の前に審議会等の議を経る(経ることができる)定めがあり、その議を経て裁決する
3号46条3項・49条4項により審議会等の議を経て裁決する
4号審査請求人が諮問を希望しない旨を申し出た(参加人が反対を申し出た場合を除く)
5号審査会等が、事件の性質などから諮問を要しないと認めた
6号審査請求が不適法で、却下する
7号処分(申請の却下・棄却と事実上の行為を除く)の全部を取り消すなど(反対する意見書・口頭の意見がある場合を除く)
8号法令にもとづく申請の全部を認める措置をとる(反対する意見書・口頭の意見がある場合を除く)

諮問しなかったときは、裁決書に審理員意見書を添付します(50条2項)。

審査会の調査審議と答申(74条〜79条)

  • 調査:審査会は、必要があれば、審査関係人に主張書面や資料の提出を求め、適当と認める人に事実の陳述や鑑定を求めるなどの調査ができます(74条)。
  • 口頭の意見:審査関係人の申立てがあれば、口頭で意見を述べる機会を与えなければなりません。ただし、審査会がその必要がないと認めるときは、この限りでありません(75条1項)。
  • 書面と閲覧:審査関係人は主張書面や資料を出せます(76条)。審査会に出された主張書面や資料の閲覧・写しの交付を求められ、審査会は、第三者の利益を害するおそれがあるときなど正当な理由がなければ拒めません(78条1項)。
  • 答申:答申書の写しを審査請求人と参加人に送り、答申の内容を公表するものとされています(79条)。

地方公共団体の場合(81条)

  • 地方公共団体には、執行機関の附属機関として、この法律でその権限に属させられた事項を処理する機関を置きます(81条1項)。
  • 不服申立ての状況などからその機関を置くことが不適当または困難なときは、条例で定めるところにより、事件ごとに執行機関の附属機関として置くことができます(81条2項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる:みおさんの営業停止の審査請求で、審理員が棄却すべきとの意見書を出した。どの号にも当たらないので、大臣は審査会に諮問します。
  • 当てはまらない(全部取消し):大臣が営業停止処分の全部を取り消すことにし、反対の意見書も口頭の反対意見もない。7号に当たり、諮問しなくてよい場合です。
  • 当てはまらない(不適法):期間を過ぎた審査請求で、正当な理由もない。却下するので諮問は要りません(6号)。
  • ひっかけやすい(希望しない申出):みおさんが諮問を希望しないと申し出ても、参加人が諮問しないことに反対していれば、4号に当たりません。
  • ひっかけやすい(申請の拒否の取消し):申請を拒否した処分の全部を取り消す場合は、7号のかっこ書きで除かれています。申請の全部を認める措置として8号で判断します。

似ているルールとの違い

比べる点審理員行政不服審査会
だれか審査庁に所属する職員総務省に置かれた委員9人の機関
出すもの審理員意見書(42条)答申(79条)
口頭の意見の申立て困難な場合を除き機会を与える(31条1項)必要がないと認めれば与えなくてよい(75条1項)
審査庁との関係意見書と異なる裁決には理由答申と異なる裁決には理由

審査会への諮問は、審査請求だけの手続です。再調査の請求と再審査請求には準用されていません(61条・66条1項)。くわしくは再調査の請求と再審査請求で比べています。審査請求全体の流れの中の位置は審査請求をわかりやすくで確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 諮問先の取り違え:地方公共団体の長が審査庁のとき、諮問先は総務省の行政不服審査会ではなく、81条の機関です。
  • 口頭の意見の断り方:審査会は「必要がないと認めるとき」、審理員は「所在その他の事情により困難なとき」。語を入れ替えた形に注意します。
  • 4号の条件:審査請求人が希望しなくても、参加人が反対していれば諮問します。
  • 7号・8号の範囲:審査請求人に有利な全部取消し・全部認容は、反対の意見がなければ諮問不要。申請の拒否の取消しは7号から除かれ、8号で扱います。
  • 答申の効力:審査庁は答申に拘束されませんが、異なる裁決には理由が要ります(50条1項4号)。諮問しなかったときは、裁決書に審理員意見書を添付します(50条2項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みおさんの営業停止処分についての審査請求で、審査庁の大臣は、審理員意見書を受けて処分の全部を取り消すことにした。取消しに反対する意見書の提出も口頭意見陳述での反対の意見もないときは、大臣は行政不服審査会に諮問せずに裁決できる。

答え:○ 分かれ目は、審査請求人に有利な結論のときにも諮問が要るかです。行政不服審査法43条1項7号は、処分(申請を却下・棄却する処分と事実上の行為を除く)の全部を取り消す場合を、反対する意見書の提出や口頭意見陳述での反対の意見がない限り、諮問を要しない場合としています。審理員意見書を受けたら一律に諮問する(43条1項柱書)と覚えていると✕にしてしまいます。申請の拒否を取り消して全部認めるときは、8号の定めになります。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みおさんの審査請求について諮問を受けた行政不服審査会に、みおさんが口頭で意見を述べたいと申し立てた。審査会は、みおさんの所在などの事情で困難な場合を除き、その機会を与えなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、機会を与えなくてよい場合を表す語です。審査会は、審査関係人の申立てがあれば口頭で意見を述べる機会を与えなければなりませんが、審査会がその必要がないと認めるときは、この限りでないとされています(行政不服審査法75条1項)。正しくは、審査会は必要がないと認めれば機会を与えなくてもかまいません。「所在その他の事情により困難な場合」を除いて機会を与えるのは、審理員の口頭意見陳述(31条1項)の規定です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
C町では審査請求がほとんどなく、行政不服審査法81条1項の機関を常に置いておくことが困難である。この場合、C町は、条例で定めるところにより、事件ごとに、執行機関の附属機関としてその機関を置くことができる。

答え:○ 分かれ目は、地方公共団体の諮問先を常設しなければならないかです。81条1項は、地方公共団体に執行機関の附属機関としてこの機関を置くとし、2項は、不服申立ての状況などに照らして置くことが不適当または困難なときは、条例で定めるところにより、事件ごとに置くことができるとしています。1項だけを読むと常設が義務に見えるので✕にしてしまいます。総務省の行政不服審査会(67条1項)は、大臣などが審査庁となる場合の諮問先です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。

まとめ

  • 審理員意見書を受けた審査庁は、原則として諮問する。国の大臣などは行政不服審査会、地方公共団体の長は81条の機関。
  • 諮問しなくてよいのは43条1項の8つ。審議会等の議を経た場合、審査請求人が希望しない場合(参加人の反対がない)、却下する場合、全部取消し・全部認容(反対の意見がない)など。
  • 審査会は委員9人(3人以内は常勤可)、両議院の同意を得て総務大臣が任命、任期3年。調査審議は3人の合議体。
  • 審査会は、必要がないと認めれば口頭の意見の機会を与えなくてよい。答申は写しを送り、内容を公表する。
  • 審査庁は答申を受けて遅滞なく裁決。答申と異なる裁決には理由を書く。

このサイトで次に読むなら、行政不服審査法と行政事件訴訟法の違い一覧です。裁決のあとに取消訴訟へ進む場合に、期間や執行停止の違いを1枚で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です