行政書士試験の勉強に、紙の六法(ろっぽう=法律の条文を集めた本)はなくてもかまいません。試験範囲の法律の条文は、国のサイト「e-Gov(イーガブ)法令検索」で無料で読めます。また六法は、試験本番の机に置けるものに入っていません。本番では使えないのです。
六法が役に立つのは、勉強中の2つの場面です。①基本書で読んだ条文を、元の言葉で確かめるとき。②過去問を解いたあと、正解のよりどころになる条文を確かめるとき。
紙の六法を買うなら、次の3つで選びます。1つ目は、基準日に合う版か。基準日とは、その年度の4月1日のことで、この日に施行されている(効き目のある)法律から出題されます。2つ目は、試験範囲の法律が全文で入っているか。3つ目は、持ち運べるかです。
六法は買わないといけないのか
買わなくても勉強はできます。試験を行うのは、行政書士試験研究センター(以下「センター」)です。センターのよくある質問には、おすすめの参考書をたずねる質問が載っています。答えは、資格講座や教材についての問い合わせには答えない、というものです。どの六法を使うかは、受験する人が決めることです。条文を読むだけなら、e-Gov法令検索で足ります。
紙かe-Govかは、使い方で決めます。
| 使い方 | 向くもの | 理由 |
|---|---|---|
| 通勤中に1条ずつ読む | e-Gov | スマホで開ける。無料 |
| 前後の条文と見比べる | 紙の六法 | 見開きで複数の条を見られる |
| 線を引く・書き込む | 紙の六法 | 自分用の印が残る |
| 判例の結論も一緒に見る | 判例付き六法 | 条文の後に判例の要旨がある |
まずe-Govで始めてもかまいません。条文を何度も行ったり来たりするようになったら、紙の六法を考えます。基本書と過去問集の選び方は独学の記事に書いています。
六法にはどんな種類があるか
商品名ではなく、中身の違いで分けます。
- 試験用の六法:行政書士試験の範囲に合わせて、入れる法律を絞ったものです。範囲外の法律が少ない分、薄くなります。
- 判例付き六法:判例(はんれい=過去の裁判の判断)の要旨が、条文のすぐ後に付いています。要旨とは、判決の結論や理由を短くまとめたものです。これは本を作った側がまとめた文で、判決そのものの文ではありません。公開されている判決の文は、裁判所のサイトの「裁判例検索」で読めます。
- 一般向けの六法:いろいろな分野の法律を入れたものです。小さいものから大きいものまであり、大きいものほど入っている法律が増えます。
- 電子版:アプリやウェブで読む形です。検索はしやすくなります。ただ、どの法律が入っているか、いつの時点の条文かを確かめる点は、紙と同じです。
判例付き六法が役に立つのは、憲法や民法を読むときです。この2つは、判例の結論も覚える必要があるからです。行政手続法のように、条文の条件で答えが決まる法律もあります。こちらは、条文だけの六法かe-Govで足ります。
使う場面①:条文の言葉をそのまま確かめる
基本書は、条文を別の言葉に言いかえて説明していることがあります。ところが試験では、条文の文の終わり方の違いで、正しいかまちがいかが分かれることがあります。たとえば「しなければならない」(やらないといけない決まり)か、「努めなければならない」(できるだけやる決まり)か、です。だから元の言葉で確かめる価値があります。
先に知っておく条文の形
- 条・項・号:条の中の段落が「項(こう)」です。条や項の中で、いくつか並べて挙げるものが「号(ごう)」です。たとえば行政書士法第2条を見てみましょう。まず「次の各号のいずれかに該当する者は、行政書士となる資格を有する。」という文があります。号の前に置かれたこの文を、柱書(はしらがき)といいます。その下に、資格がある人を6つの号で挙げています。
- 枝番号の条:「第1条の2」「第1条の3」のような番号です。あとから条を足したときに付きます。法律が改正されると、中身が入れ替わることがあります。
- ただし書(がき):「ただし、」で始まる文です。その前の文の例外を決めています。たとえば行政書士法第19条第1項は、まず次のことを禁じています。行政書士や行政書士法人でない人が、人に頼まれてお金をもらい、仕事として第1条の3の業務をすることです。そのうえで、ただし書で、ほかの法律に別の決まりがある場合などを除いています。
ここからは、行政手続法の例で、文の終わり方の違いを見ます。
(このサイトのオリジナル問題)行政手続法によれば、行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておかなければならない。○か×か。
答えは×です。言葉の意味から見ていきます。行政庁(ぎょうせいちょう)は、決める力をもつ役所の側です。処分基準は、不利益処分をするかどうか、どんな不利益処分にするかを判断するための基準です(第2条第8号ハ)。不利益処分とは、たとえば営業停止のように、相手に義務を負わせたり権利をせばめたりする処分です。
この処分基準について、第12条第1項は「行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。」としています。「しなければならない」(義務)ではなく、「努めなければならない」(努力義務)です。問題文は終わり方が義務になっているので、×になります。
これと対になるのが審査基準です。申請(お店の営業許可を求めるときなど)を認めるかどうかを判断するための基準です(第2条第8号ロ)。
| 基準 | 定めること | 公にすること |
|---|---|---|
| 審査基準 | 義務(第5条第1項) | 義務(第5条第3項) |
| 処分基準 | 努力義務(第12条第1項) | 努力義務(第12条第1項) |
第5条第1項は「行政庁は、審査基準を定めるものとする。」としています。第3項は、審査基準を「公にしておかなければならない」としています(行政の仕事に特別な差しつかえがあるときを除く)。
このように、似た2つの条文を並べて、文の終わり方を見比べる作業があります。これは、見開きで読める紙の六法のほうがやりやすい場面です。e-Govで読むなら、2つの条を別々に開いて、メモに並べて書きます。行政手続法のほかの論点は行政法の勉強法にまとめています。
使う場面②:過去問の正解の根拠を確かめる
センターが公開している過去問には、正解(記述式は正解例)だけが載っています。解説はありません。市販の過去問集の解説を読むときも、根拠(よりどころ)の条文は自分で引くと記憶に残ります。当サイトがすすめる手順は次のとおりです。
- 解説に書かれた条番号を、六法かe-Govで引く。
- 選択肢の言葉と条文の言葉を並べ、違う所に線を引く(主語、期間、「できる」と「しなければならない」など)。
- その条番号が今も同じかを確かめる。古い年度の問題では、改正で条番号や言葉が変わっていることがあります。
- 紙の六法なら、その条の余白に、問われた点を一言で書き込む。
手順3の例が、行政書士法です。令和8年1月1日に施行された改正で、業務を決める条文は第1条の2から第1条の3に移りました。そして第1条の2は「職責」(行政書士の心がまえ)の条文になりました。
たとえば、そうたさんが改正前の古い解説で「第1条の2=業務」と覚えたとします。すると、令和8年度の試験の条文とずれてしまいます(行政書士法の改正の記事)。過去問そのものの使い方は過去問の記事で書いています。
選ぶ基準①:試験の基準日に合う版か
いちばん大事な基準です。令和8年度の試験は「令和8年4月1日現在施行されている法令に関して出題します」とされています。六法を買う前に、いつの時点までの法律を入れているかを確かめます。本のはじめにある凡例(はんれい=本の使い方の説明)や、はしがきに書かれています。
気をつけたいのは、新しすぎる場合もあることです。4月1日より後に施行された改正は、その年度の試験の範囲に入りません。たとえば行政書士法には、2026年5月21日に施行された改正(令和5年法律第63号)があります。これは令和8年度の範囲外です。4月1日より後の改正を入れた版を使うときは、その改正の施行日を確かめます。そして、試験の条文とは分けて読みます。
手持ちの六法が古い場合も、すぐ買い替えなくてかまいません。改正があった法律だけをe-Govで確かめる方法があります。民法の親族・相続のように、試験の年度に合わせて改正の施行を確かめたい分野は民法の勉強法で書いています。基準日の考え方は出題範囲の記事で扱います。
選ぶ基準②:試験範囲の法律が全文で入っているか
センターの試験概要では、出題の範囲は次のとおりです。法令等は、憲法、行政法、民法、商法、基礎法学から出ます。行政法は、一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法が中心です。基礎知識は、行政書士法などの業務に関係する法令や、個人情報保護などから出ます。六法の目次で、次の法律が入っているかを見ます。
- 日本国憲法
- 行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法
- 民法
- 商法、会社法
- 行政書士法、個人情報の保護に関する法律
もう一つ見るのが「抄(しょう)」の表示です。六法では、条文の一部だけを入れた法律に「抄」と付けることがあります。地方自治法や会社法のように条文の多い法律が「抄」だと、引きたい条が載っていないことがあります。載っていない条は、e-Govで補います。基礎知識で出る業務関係の法令(戸籍法や住民基本台帳法など)の扱いは基礎知識の記事に書いています。
選ぶ基準③:持ち運べるか、読み続けられるか
最後は、使う場所で決めます。
- 家の机で使う:少し重くても、文字が読みやすく、余白に書き込めるものを選びます。
- 持ち歩く:かばんに入る大きさと重さかを、お店で手に取って確かめます。持ち歩かないなら、外ではe-Govを使い、紙は家に置くという分け方もあります。
- 文字の大きさ:小さい六法ほど、文字も小さくなります。毎日開くものなので、数ページ読んで目が疲れないかを見ます。
同じ種類を何冊もそろえる必要はありません。基本書と過去問集に出てきた条文を引ければ十分です。
e-Gov法令検索で無料で条文を読むには
e-Gov法令検索は、国の電子政府の総合窓口(e-Gov)にある法令検索です。憲法・法律・政令・府省令などの中身を、無料で公開しています。法令の名前で検索して開けます。下のリンクから、試験範囲の主な法律をそのまま開くこともできます。
e-Govを使うときの注意は1つです。e-Govで開いた条文は、今の時点の条文です。試験の基準日(4月1日)より後に改正が施行された法律では、試験の条文と違うことがあります。
そこで、改正の履歴を見ます。e-Govでは法律ごとに、どの改正法で、いつ施行されたかが公開されています。たとえば行政書士法の改正履歴です。ここで、施行日が4月1日より前か後かを確かめます。
このサイトで次に読むなら、行政法の勉強法がおすすめです。行政手続法から地方自治法まで、法律ごとにどの条文を先に引けばよいかを書いています。六法やe-Govを開く順番が、そのまま決まります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「試験概要」(出題の範囲)
- 同「令和8年度 試験案内」(令和8年4月1日現在施行の法令、試験時間中に机に置けるもの)
- 同「よくある質問(試験について)」(教材に関する問い合わせへの回答)
- 同「過去の試験問題と正解」
- e-Gov法令検索:行政手続法 第2条第8号、第5条、第12条(2026年10月時点の条文で確認)。行政書士法の改正履歴
- 裁判所「裁判例検索」
働く人の法律試験ノート