行政書士の条文の素読は効くか:読むより「穴を埋めて思い出す」条文の覚え方

条文の素読(そどく=意味を深く考えず、条文を何度も読み通すこと)は、覚えるためのやり方としては、時間のわりに残りにくい方法です。学習法の研究では、読み返しは「有用性が低い」とされ、読んだあと自分で思い出す練習のほうが、日がたってからよく覚えていることが示されています。

当サイトのすすめは、素読を「法律の組み立てをつかむ最初の1回」と「問題で確かめたあとの前後の条文の確認」に限り、覚えるのは、条文の分かれ目の語を隠して思い出す「穴埋め」で行うことです。この記事では、素読を使う条文・回数・やり方を限ったうえで、行政手続法と行政不服審査法で穴埋めを自分で作る手順を示します。六法の選び方とe-Gov法令検索の使い方は六法は必要かの記事で扱っているので、ここでは条文の覚え方に絞ります。

素読は効くか:研究から言えること

研究で分かっていることを、試験勉強に関係する所だけ並べます。

  • 読み返しは有用性が低い:Dunlosky ら(2013年)は、10の学習法を比べ、読み返し・線を引く・要約を「有用性が低い」、練習テスト(自分で思い出す練習)と分散学習(間をあけた学習)を「有用性が高い」と評価しました。読み返しは、学習者がよく使うのに、効果が一貫しないという評価です。
  • 続けて読み返しても、差が出にくい:Callender と McDaniel(2009年)は、教科書のような文章を「1回読む」と「すぐにもう1回読み返す」を比べ、多くのテストで、はっきりした差が出なかったと報告しています(一部に例外がありました)。
  • 思い出したほうが、あとで残る:Roediger と Karpicke(2006年)の実験では、読み返す組は5分後のテストではよくできましたが、2日後と1週間後には、思い出して書き出した組のほうがよく覚えていました。読み返しは「覚えた」という自信を高めましたが、記憶の残り方とは一致しませんでした。
  • 一度言えたあとも、思い出す練習を続けるほうが残る:Karpicke と Roediger(2008年)は、外国語の単語の学習で、一度正しく答えられた単語について、学習だけを続けても遅れて行ったテストの成績は上がらず、テストを続けると大きく上がったと報告しています。学習者が自分で予想した成績は、実際の成績と関係がありませんでした。

ただし、どの実験も、文章や単語を思い出して書くテストで行われていて、法律の条文や5肢択一式で確かめたものではありません。それでも「何度も読む」より「隠して思い出す」ほうがよい、という向きは、条文の覚え方にもそのまま使えます。くわしくは読むより「思い出す」ほうが覚えるで説明しています。

それでも素読を使うなら:どの条文に・何回・何をしながら

素読をやめる必要はありません。役割を「覚える」から「組み立てをつかむ」「確かめる」に変えて、使う場面を限ります。

場面どの条文に回数の目安(当サイト)何をしながら
組み立てをつかむ行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法、憲法最初に1回章と見出しの並びをメモする
問題のあとの確認まちがえた肢の条文まちがえたその日に同じ条のほかの項と前後の条も読む
1周目の終わり同じ法律の全体1回穴埋めで言えなかった条だけ印を見る

向いているのは、条文が短く、手続の順に並んでいる法律です。行政手続法は「申請に対する処分」「不利益処分」「行政指導」「処分等の求め」「届出」「意見公募手続等」と、手続の種類ごとに章が分かれています。最初に1回通して読むと、肢を読んだときに「どの章の話か」を探せるようになります。条文の数が多い民法は、通して読むより、問題に出た条文をそのつど開く使い方にします。

「条文を聞き流す」やり方も、受け身で入れる点では読み返しと同じです。通勤で使うなら、聞いたあとに一度止めて、さっきの条文の主語と期間を自分で言う、という「思い出す」一手を足します。

穴埋めを自分で作る手順

市販の穴埋め教材がなくても、e-Gov法令検索の条文から自分で作れます。自分で答えを作り出す形の学習は、読むだけより覚えが残りやすいことが古くから知られています(Slamecka と Graf、1978年。単語を使った実験です)。手順は次のとおりです。

  1. 条文を写す:e-Gov法令検索で、令和8年4月1日時点の条文をコピーし、ノートやメモアプリに貼る。
  2. 分かれ目の語を穴にする:1つの条に2〜3か所まで。穴にするのは、主語(誰が)、義務か努力義務か(「しなければならない」「努めなければならない」)、期間と起算点(「翌日から起算して」)、例外(「ただし」「除き」)の4種類です。
  3. 翌日以降に、隠したまま言う:作った日には解かない。翌日か2〜3日後に、穴の語を口に出すか書く。
  4. 言えなかった穴に印をつける:印のついた条だけを、数日あけて解き直す。言えた条も、1週間後にもう一度通す。
  5. 似た条文と並べる:取り違えやすい相手の条文を、同じ形の穴埋めにして隣に置く。

例1:行政手続法の審査基準と処分基準

審査基準(申請を許可するかを判断する基準)と処分基準(不利益処分をするかを判断する基準)は、義務か努力義務かが入れ替えられやすい組です。条文はこうなっています。

  • 5条1項:行政庁は、審査基準を【定めるものとする】。
  • 5条3項:行政庁は、【行政上特別の支障があるとき】を除き、…審査基準を【公にしておかなければならない】。
  • 12条1項:行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう【努めなければならない】。

【 】の中を隠して言えるかを確かめます。5条と12条を隣に並べておくと、「審査基準は定める・公にする(支障があるときを除く)」「処分基準は定めて公にするよう努める」という差が、一目で分かります。

例2:標準処理期間

6条は、行政庁は、申請が事務所に到達してから処分をするまでに通常要すべき標準的な期間を【定めるよう努める】とともに、これを定めたときは、【公にしておかなければならない】と定めています。前半が努力義務、後半が義務です。一つの条の中で義務の強さが変わる所は、穴埋めにする価値が高い所です。行政手続法の申請と不利益処分のルールは行政手続法の記事でまとめています。

数字と起算点は、別の法律と並べて穴にする

期間の数字は、似た数字の別の制度と取り違えると点を落とします。行政不服審査法と行政事件訴訟法の期間を、同じ形の穴埋めにして並べます。

  • 行政不服審査法18条1項:処分があったことを知った日の【翌日から起算して】【三月】(再調査の請求をしたときは、決定があったことを知った日の翌日から起算して【一月】)を経過したときは、することができない。ただし、【正当な理由】があるときは、この限りでない。
  • 行政事件訴訟法14条1項:処分又は裁決があつたことを知つた日から【六箇月】を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

並べると、審査請求は「翌日から起算して三月」、取消訴訟は「知つた日から六箇月」と、期間だけでなく書き方も違うことが分かります。素読では読み流してしまう「翌日から起算して」の一語が、穴にすると思い出す対象になります。行政法の中でどの法律から穴埋めを作るかは、行政法の勉強法の順番(行政手続法→行政不服審査法→行政事件訴訟法)に合わせます。

穴埋めは、どの間隔で回すか

作った穴埋めは、作った日・翌日以降・1週間後のように、間をあけて回します。間をあけて学ぶほうが、続けて学ぶよりよく残ることは、多くの実験をまとめた分析で示されています(Cepeda ら、2006年)。働きながら回すときの例です。

日やること時間の目安
月(机)行政手続法の1章を読み、穴埋めを作る30〜40分
水(すき間)月に作った穴埋めを隠して言う。言えない穴に印10〜15分
土(休日)印のついた条と、似た条文の組を並べて解き直す30分
翌週の月前の週の穴埋めを全部通す。言えた条は2週間後へ15分

穴埋めで言えるようになったら、肢別の問題で確かめます。穴埋めは条文の言葉を思い出す練習で、肢別の問題は、その言葉が入れ替えられた文に気づく練習です。両方を回すと、条文の一語が5肢択一式の正誤にどうつながるかが見えます。

今日からやること

  • e-Gov法令検索で行政手続法を開き、章と見出しの並びだけを1回通して読み、メモする(これが素読の1回目)。
  • 5条と12条をコピーし、義務・努力義務の語を【 】にした穴埋めを作る。今日は解かない。
  • 2〜3日後の通勤時間に、穴埋めを隠して言う日を予定に入れる。
  • まちがえた肢の条文を開いたら、同じ条のほかの項と前後の条も読む。

このサイトで次に読むなら、読むより「思い出す」ほうが覚えるです。穴埋めのほかに、テキストと問題集をどう使い分けるか、30分・60分の勉強をどう組むかを説明しています。

参考にした研究・資料(2026年10月確認)

  • Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.(DOI)
  • Callender, A. A., & McDaniel, M. A. (2009). The limited benefits of rereading educational texts. Contemporary Educational Psychology, 34(1), 30–41.(DOI)
  • Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.(DOI)
  • Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.(DOI)
  • Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604.(DOI)
  • Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.(DOI)
  • e-Gov法令検索(令和8年4月1日時点の条文):行政手続法 5条・6条・12条、行政不服審査法 18条、行政事件訴訟法 14条