行政書士試験の一問一答(肢を1つずつ「正しい・誤り」で答える問題)やアプリは、覚えた条文の要件・期間・数字を、すき間時間に思い出す道具としては役に立ちます。ただし、それだけで受かる準備にはなりません。令和7年度の配点では、多肢選択式が24点、記述式が60点で、合わせて84点あります。○✕を押す練習では、この2つの形をほとんど練習できません。基礎知識の文章理解(国語の読み取り)も、知識の○✕では練習になりません。
当サイトがすすめる使い方は3つです。①使う場面を、基本書で読んだ単元を思い出す練習と、間違えた肢の解き直しにしぼる。②○✕を押す前に、理由を一言で言う。③間違えた肢と自信のなかった肢だけを、日をあけて出し直す。科目でいえば、行政法の手続の法律と、民法の条文知識にいちばん効きます。
一問一答・アプリは、何の役に立つのか
一問一答の1問は、本試験の5肢択一式(5つの肢から1つを選ぶ問題)の肢1つ分の大きさです。1問が短いので、電車の1駅や昼休みの数分でも区切れます。しかも、答えを見る前に自分で正誤を決めるので、テキストを読み返すより「思い出す練習」になります。
学習法の研究をまとめたDunloskyら(2013年)は、10の学習法を比べました。そして、練習テスト(自分をテストすること)と分散学習(間をあけて繰り返すこと)の2つを「効果が高い」と評価しています。一問一答は、この2つを手軽に回せる形です。
裏を返すと、一問一答で鍛えられるのは「示された1つの文が正しいか誤りか」を判断する力です。行政書士試験で点になる力は、ほかにもあります。次の章で分けて見ます。
一問一答だけ・アプリだけで受かるか
当サイトの答えは「それだけでは足りない、と考えて準備する」です。理由は3つあります。
多肢選択式と記述式の84点を練習していない
令和7年度の合否判定基準の配点では、満点300点のうち、5肢択一式が216点(法令等160点・基礎知識56点)、多肢選択式が24点、記述式が60点です。仮に多肢選択式と記述式が0点だとすると、全体の基準の180点(令和7年度)に届くには、5肢択一式54問のうち45問(約83%)の正解がいります。合格基準は補正されることもありますが、記述式と多肢選択式で点を取りにいかない計画が苦しいことに変わりはありません。
本試験の5肢択一式は、1肢ずつ問われるとは限らない
当サイトが令和3年度の問題冊子で確かめたところ、5肢択一式には、ア〜オの記述から正しいものの組合せを選ぶ形や、当てはまる記述の数を答える形がありました。数を答える形は、5つの記述を全部判断できないと正解できません。また、民法の5肢択一式9問のうち6問は、A・Bなどの人物が出てくる事例の形でした(どちらも当サイトが数えたもので、公式の内訳ではありません)。一問一答の短い文で正誤を言えても、事例の中で「誰が誰に何を言えるか」を当てはめる力は、別に練習がいります。
文章理解は、知識の問題ではない
基礎知識の文章理解は、文章を読んで要旨や並べ方を判断する問題です。覚えた知識の○✕では練習になりません。基礎知識には足切り(令和7年度の基準で24点)があります。ここを落とすと、法令等の点がよくても不合格です。
多肢選択式・記述式には、なぜ一問一答では足りないのか
同じ知識でも、形が変わると、求められる力が変わります。行政手続法39条(意見公募手続)で並べてみます。39条3項は、意見を出せる期間を「同項の公示の日から起算して三十日以上でなければならない」としています。下の3つは、どれも形を短くした、このサイトのオリジナル問題です。
| 形 | 問われ方 | いる力 |
|---|---|---|
| 一問一答 | 「意見提出期間は、公示の日から起算して2週間以上でなければならない」は正しいか | 示された文のずれに気づく(答え:誤り。30日以上) |
| 多肢選択式 | 「公示の日から起算して[ア]以上」の[ア]を、2週間・30日・60日・3か月などから選ぶ | 似た候補の中から、条文どおりの言葉を取り出す |
| 記述式 | 命令等を定めようとするとき、何をしなければならないかを40字程度で書く | 案と資料の公示、意見の提出先と期間、広く一般の意見を求めることを、自分で組み立てる |
一問一答で「誤り」を選べても、「30日」を自分で出せるとは限りません。○✕は、示された文を見て判断する形です。多肢選択式は、似た候補の中から条文の言葉を選ぶ形です。記述式は、何も見ずに要件を自分の言葉で組み立てる形です。
選ぶ形と書く形の違いを調べた実験に、Kangら(2007年)があります。大学生が短い論文を読んだあと、選択式のテストか、短い答えを自分で書くテストを受けました。約3日後の最終テストでは、テストのたびに正しい答えを示した実験で、自分で書くテストを受けた条件がいちばんよく覚えていました。選択式や、読み直しよりもよい結果です。一方、正しい答えを示さなかった実験では、選択式のほうがよい結果でした。
試験勉強ではこう使います。○✕を押す前に「どの言葉がどう違うか」を自分で言い、そのあとで答え合わせをする。○✕を「自分で答えを作る」形に近づける工夫です。ただし、この実験は論文の内容を覚える課題で、○✕アプリを使ったものではありません。法律の○✕にそのまま当てはまるかは、当サイトの推測です。
多肢選択式と記述式は、一問一答とは別の時間に、別の練習を入れます。空欄の前後から入る語の種類を決める手順は多肢選択式の解き方に、要件を40字にまとめる型は記述式の書き方にまとめています。
どの科目で効き、どの科目で効きにくいか
一問一答が効くのは、正誤が条文の言葉で決まる所です。効きにくいのは、事例への当てはめ、判例の理由、文章の読み取りです。当サイトの見立てを科目ごとに並べます。
| 科目 | 効く所 | 効きにくい所 | 補い方 |
|---|---|---|---|
| 行政法 | 期間、主語、「しなければならない」か「努める」か | 判例の事案、多肢・記述 | 判例を1件ずつ整理 |
| 民法 | 要件と効果、期間 | 人物が何人も出る事例、記述 | 図を描いて5肢で解く |
| 憲法 | 統治の数字と主語 | 人権の判例の理由、多肢 | 判例の理由の言葉を読む |
| 商法・会社法 | 機関・設立の数字 | 細かい所 | 基本の範囲でとめる |
| 基礎知識 | 行政書士法、個人情報保護法の定義 | 時事、文章理解 | 文章理解は別に練習 |
行政法は、当サイトが令和3年度の問題で数えると、5肢択一式で19問ありました(公式の内訳ではありません)。一問一答をいちばん多く回す価値があるのはここです。行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法は、期間や「誰が・誰に」、義務か努力義務かという条文の言葉で正誤が決まるので、○✕と相性がよい所です。
民法は、一問一答で要件を固めたら、同じ単元の5肢の問題に移ります。事例の問題では、人物と矢印の図を描いてから肢を読みます。一問一答で覚えた要件を、図の上で当てはめる練習です。
憲法と行政法の判例は、一問一答で結論だけを覚えると、理由を問う肢や、多肢選択式の判決文で手が止まります。判例を「事案・争点・結論・理由」で整理するやり方は判例の覚え方の記事にまとめました。
○✕を押す前に、何をするか
一問一答は、何も分からなくても2回に1回は当たります。アプリの正答率が8割でも、その中には当たりが混じっています。そこで、1問ごとに次の順で進めます。
- 文を読んだら、○✕を押す前に、決め手の言葉を一言で言う(例:「30日以上。2週間ではない」)。
- 答え合わせをしたら、自分の理解を3段階で記録する。○=根拠まで言えた、△=当たったが根拠があいまい、✕=間違えた・分からなかった。
- △と✕の肢は、解説で根拠の条文を確かめ、1行だけメモする。
正解でも根拠を言えなかった肢を△にするのが、いちばん大事な所です。実力は、正答率ではなく○の数で見ます。印の付け方とその根拠になる研究は「できたつもり」を防ぐでくわしく書いています。
間をあけた復習と、どう組み合わせるか
一問一答のいちばんよい使い道は、間をあけた復習です。同じ単元を同じ日に何周もするより、日をあけて思い出すほうが後まで残ることが、学習の研究で確かめられています。当サイトの目安は、学んだ日のあと、2〜3日後・約1週間後・3〜4週間後です。研究の中身と、試験日が近いときの縮め方は復習の間隔の決め方で説明しています。
平日に机で60分、通勤で15分ほどとれる人なら、たとえば次のように組みます。
| いつ | やること | 時間 |
|---|---|---|
| 行きの電車 | 予定日が来た△と✕の肢を一問一答で | 10〜15分 |
| 夜の机 | 基本書で新しい単元を読み、同じ単元の5肢の問題 | 45分 |
| 夜の机の最後 | 2〜3日前に学んだ単元を一問一答で10問 | 10分 |
| 休日 | その週の✕の解き直しと、多肢・記述を1問ずつ | 1時間ほど |
アプリを使うなら、「間違えた問題だけ出す」「日をあけて出し直す」機能があるかを見ます。なければ、問題番号と日付をメモしておき、予定日に開きます。
手持ちの問題集のほかに、すき間の10問がほしいときは、このサイトの5分○✕ドリル(行政書士試験のオリジナル問題300肢)も使えます。上の○△✕と同じく、押したあとに「根拠を言えた・自信がない・分からなかった」を選び、△と✕の肢を3日後・7日後・24日後に出し直す作りです(記録はその端末のブラウザにだけ残ります)。
一問一答の問題集やアプリを選ぶとき、何を確かめるか
- 令和8年4月1日現在の法令に合わせてあるか:試験は、その年度の4月1日現在施行されている法令から出ます。たとえば行政書士法は、2026年1月1日施行の改正で、業務の条文が第1条の2から第1条の3に移りました。民法819条1項(協議離婚のときの親権者)は、2026年4月1日施行の改正で「その一方を親権者と定めなければならない」から「その双方又は一方を親権者と定める」に変わりました。古い版のままの肢は、答えが逆になることがあります。
- 解説に根拠の条文が書いてあるか:条番号があれば、e-Gov法令検索で条文を開き、前後の項まで読めます。
- 肢は過去問から取ったものか、作った問題か:過去問の肢は本試験の言い回しに慣れるのに、作った問題は過去問にない所を埋めるのに向きます。
- 間違えた肢だけを、日をあけて出せるか:アプリなら機能で、本なら印と日付で代わりにできます。
具体的な教材の組み合わせは教材の選び方にまとめています。一問一答の本かアプリは、1つにしぼります。同じ役割の物を2つ持つと、復習の予定が2か所に分かれて、どの肢がいつ予定日かを追いにくくなります。
今日からやること
- 今使っている一問一答やアプリで、○✕を押す前に理由を一言言う。言えずに当たった肢は△にする。
- △と✕の肢に日付を付け、2〜3日後に出し直す予定を入れる。
- 使っている問題集やアプリが、令和8年4月1日現在の法令に合わせてあるか、版と更新日を確かめる。
- 週に1回、一問一答の時間の一部を、多肢選択式か記述式の1問に替える。
- 基礎知識の文章理解は、一問一答とは別に、練習する曜日を決める。
このサイトで次に読むなら、肢別問題集の使い方がおすすめです。過去問の肢を○✕で回すときの印のつけ方と、年度別の過去問へ進む順番を書いています。判例を○✕で覚えにくいと感じたら、判例の覚え方もあわせて読んでみてください。
参考にした公式の情報・研究(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「合否判定基準」(令和7年度、PDF)(配点、法令等・基礎知識・全体の基準)
- 行政書士試験研究センター「過去の試験問題と正解」(令和3年度の問題冊子で、出題の形を確認)
- 行政書士試験研究センター「試験の概要」(出題の基準日)、「よくある質問(試験について)」(合格基準の補正的措置)
- e-Gov法令検索:行政手続法39条、行政書士法1条の3、民法819条(2026年3月31日時点と4月1日時点の版を比べて確認)
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.(DOI)
- Kang, S. H. K., McDermott, K. B., & Roediger, H. L. (2007). Test format and corrective feedback modify the effect of testing on long-term retention. European Journal of Cognitive Psychology, 19(4/5), 528–558.(DOI)
働く人の法律試験ノート