行政書士はテキストなしで受かるか:問題集と条文で足りる科目・足りない科目

行政書士試験は、科目によっては、テキスト(基本書)なしで問題集の解説と条文だけで進められます。行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法のように、要件・期間・主語が条文にそのまま書いてある分野です。一方で、民法を初めて学ぶ人、憲法の人権、行政法の一般的な法理論は、条文を読んでも場面や筋道が見えにくく、説明した本がないと止まりやすい分野です。

つまり「テキストがいらない」かどうかは、試験全体ではなく、科目と自分の経験で決まります。この記事では、科目ごとに「問題集と条文で足りる」「テキストがいる」を分け、テキストを持たずに問題集を回す手順と、記述式の練習でテキストのどこを使うかを示します。予算別の教材の組み合わせ(商品名つき)はテキスト・問題集の選び方で扱っているので、ここでは「減らしてよいか」の判断に絞ります。

テキストなしで進められるかは、何で決まるか

判断の物差しは2つです。

  1. 答えが条文に書いてあるか:正誤の分かれ目が条文の一語(主語・期間・義務か努力義務か)なら、問題集の解説で条文を確かめれば足ります。条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点のものを無料で読めます。
  2. 条文の外に筋道があるか:判例が作ったルール、条文のない理論、場面を思い浮かべないと分からない事例は、筋道を説明した文章がないと、解説を読んでも次の問題に使えません。

これを科目に当てはめると、次のようになります。表は当サイトの判断で、法律の勉強が初めての人を前提にしています。

科目・分野問題集と条文で足りるか理由
行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法足りる要件・期間・主語が条文にある
国家賠償法・地方自治法おおむね足りる国家賠償法は判例、地方自治法は範囲の広さに注意
行政法の一般的な法理論テキストがいる行政行為・裁量などは条文がない
民法(初めて学ぶ人)テキストがいる場面と要件を結ぶ説明が要る
民法(宅建などで学んだ人)足りることが多い増える範囲だけ本で補う
憲法の統治足りる条文が短く、数字と主語で決まる
憲法の人権判例の説明がいる判例の結論と理由で決まる
商法・会社法範囲を決めれば足りる設立・株式・機関の入口に絞る
基礎知識分野で分かれる法令と文章理解は足りる。一般知識は範囲が読みにくい

問題集と条文で足りる分野では、どう進めるか

足りる分野は、テキストを読む時間を、問題を解いて条文を確かめる時間に回せます。肢別問題集(選択肢を1つずつ○✕で解く問題集)を使う場合の手順です。

  1. その法律の条文を、目次(章の名前)だけ先に見る。行政手続法なら「申請に対する処分」「不利益処分」「行政指導」の順に並んでいることをつかむ。
  2. 章ごとに肢別問題を解く。解説に出てくる条番号を、e-Govでその場で開いて読む。
  3. まちがえた肢は、条文のどの一語で決まったかを書く(例:「審査基準は定める義務、処分基準は努力義務」)。
  4. 3〜4日あけて、まちがえた肢だけ解き直す。正解した肢も、翌週にもう一度通す。

問題を解いてから条文を読む順番には理由があります。Roediger と Karpicke(2006年)の実験では、文章を読み返す組より、読んだあと思い出して書き出す組のほうが、2日後・1週間後によく覚えていました(5分後のテストでは逆でした)。問題集を先に解くのは、毎回「思い出す」ところから始める形です。ただし、この実験は文章の中身を書き出すテストで、試験の5肢択一式とは形が違います。条文の確かめ方とe-Govの使い方は六法は必要かの記事で説明しています。

例:期間の肢を、条文で確かめる

肢別問題で「審査請求の期間は3か月」と解説されていたとします。行政不服審査法18条1項を開くと、本文は「処分があったことを知った日の翌日から起算して三月」で、かっこの中に「再調査の請求をしたときは、…決定があったことを知った日の翌日から起算して一月」とあり、ただし書で「正当な理由があるときは、この限りでない」とされています。解説の一言が、条文では起算点・別の期間・例外の3つとセットになっていることが分かります。

続けて、取り違えやすい相手の条文も開きます。取消訴訟の期間は、行政事件訴訟法14条1項で「処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月」です。テキストがなくても、条文を2つ並べるだけで「3か月か6か月か」「翌日から起算かどうか」という、肢の入れ替えに使われる所が見えます。この確かめ方ができる分野が、テキストを減らせる分野です。

憲法の統治と基礎知識の法令

憲法は前文と103条までで、国会・内閣・裁判所の数字と主語は条文に書いてあります。基礎知識のうち行政書士法などの業務関連法令と個人情報保護法の定義も、条文で答えが決まります。どれも、条文を一つの表にまとめ、列を隠して言えるかで確かめれば足ります。文章理解は知識ではなく読み方なので、テキストより問題の量で慣れます。

テキストがいる分野は、どこか

  • 民法(初めて学ぶ人):民法の肢は、登場人物が3人以上の事例で出ます。「無効」「取消し」「対抗」「善意」などの言葉と、どの場面でどの条文を使うかの説明がないと、解説を読んでも次の事例に使えません。総則と債権だけでも、筋道を説明した本を一度通すほうが、結局は早く進みます。
  • 行政法の一般的な法理論:行政行為の効力、行政裁量、行政行為の取消しと撤回などは、まとめて定めた法律がありません。条文で確かめる先がないので、説明した本がいります。
  • 憲法の人権:結論と理由は判例にあります。判例を「何条の話か・結論・理由の一言」で並べた説明が必要です。判例集を別に買わなくても、テキストの判例の部分で足りることが多い分野です。
  • 基礎知識の一般知識:公式には、政治・経済・社会などの細かい範囲は示されていません。問題集だけだと何をどこまでやるかが決めにくいので、薄い本で全体の地図を一度見ておくと、深追いする所としない所を決めやすくなります。

宅建などで民法を勉強したことがある人は、民法のテキストを全部読み直す必要はありません。親族、債権の深い所、記述式のように、行政書士で増える範囲だけを本で補います。

記述式の練習には、テキストのどこを使うか

記述式は、令和7年度の配点では3問で60点ありました。40字程度で、問われている条文の要件と効果を書きます。問題集の解説は「答え」は示しても、要件がいくつあり、それぞれ何かを並べていないことがあります。記述式の練習では、テキストを次のように使います。

  • 制度ごとの要件の箇条書きの所:たとえば民法の代理や時効の完成猶予、行政事件訴訟法の訴訟の種類ごとの要件。要件を3つ前後の言葉で言えるかを、見出しだけ見て確かめます。
  • 似た制度を比べた表の所:取消しと無効、取消訴訟と無効等確認訴訟のように、記述式で「どちらの制度か」を決める手がかりになります。
  • 条文の言葉をそのまま使っている所:記述式は条文の言葉で書くと要素がそろいます。テキストの説明が言い換えになっている所は、e-Govで条文の言葉に戻して覚えます。

テキストを持たない場合は、記述式の問題集の解説と条文を使い、要件を自分で箇条書きにしてから40字にまとめます。書き方の型は記述式の書き方の記事にあります。

テキストを減らすときに気をつけること

  • 版と基準日:令和8年度試験は、令和8年4月1日現在施行の法令から出ます。問題集だけで進める場合も、問題集の版がその基準日に合っているかを確かめます。古い問題集の解説は、改正前の条文で書かれていることがあります。
  • 読み返しに戻らない:テキストを持つと、読み返しに時間を使いがちです。学習法を比べた Dunlosky ら(2013年)は、読み返しを有用性の低い学習法に入れ、練習テスト(思い出す練習)を有用性の高い学習法としています。テキストは、まちがえた所を引く辞書として使う、と役割を決めておきます。
  • 問題集だけで回すときの弱点:問題に出た所しか知らない状態になります。肢別問題集を一通り終えたら、条文の同じ条のほかの項、すぐ前後の条にも目を通します。肢別問題集の回し方は肢別問題集の使い方で説明しています。

テキストを持たない分野と持つ分野を、1週間でどう回すか

平日に1日60分、休日に3時間ほど取れる人の例です(この時間で1年で足りるかの判断は働きながら受かるかの記事にあります)。テキストを持たない行政手続法と、テキストを使う民法の総則を同じ週に回します。時間は当サイトの目安です。

曜日やること使うもの
月・水行政手続法の肢別を1章ずつ解き、条文で確かめる肢別問題集・e-Gov
火・木民法の総則を1単元読み、閉じて要件を3行で書き、問題を解くテキスト・問題集
金その週にまちがえた肢だけ解き直す印をつけた問題
休日前の週の範囲を混ぜて解き直し、次の週の範囲を決める問題集・条文

テキストを使う曜日も、読むのは1単元だけにし、残りの時間は問題に回します。テキストを持たない曜日にまちがえた所が、条文を読んでも分からなかったときだけ、テキストの索引で引きます。

今日からやること

  • 自分の経験で表を見直す。民法を学んだことがあるか、法律の文章に慣れているかで、テキストがいる分野を決める。
  • テキストなしで進める分野(行政手続法など)を一つ選び、肢別問題を10問解いて、解説の条番号をe-Govで開く。
  • テキストがいる分野(民法の総則など)は、1冊だけ決めて、問題を解いてまちがえた所を引く使い方にする。
  • 記述式を始める時期が来たら、テキストの要件の箇条書きの所に印をつけ、見出しだけで要件を言えるか確かめる。

このサイトで次に読むなら、テキスト・問題集の選び方です。テキストを1冊だけ持つ場合の組み合わせと、令和9年度版をいつ買うかを書いています。

参考にした研究・資料(2026年10月確認)

  • Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.(DOI)
  • Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.(DOI)
  • 行政書士試験研究センター「試験概要」(試験科目・出題の範囲)、同「試験案内」(令和8年4月1日現在施行の法令から出題)、同「令和7年度 合否判定基準」(PDF。記述式の配点)
  • e-Gov法令検索(令和8年4月1日時点の条文):行政手続法 5条・12条、行政不服審査法 18条、行政事件訴訟法 14条、日本国憲法