相続人になるはずの人が、相続人でなくなる場合が民法に2つあります。一つは相続欠格(そうぞくけっかく)で、民法891条の5つの事由に当たると、手続なしに当然に相続人になれません。もう一つは廃除(はいじょ)で、亡くなる人(被相続人=ひそうぞくにん)が家庭裁判所に請求して、相続人から外します(892条)。
二つの共通点は、どちらも代襲相続(だいしゅうそうぞく=子の代わりに孫が相続すること)の原因になることです(887条2項)。この点で、自分から相続をやめる相続放棄とは違います。放棄した人の子は代わりに相続しません。相続人でない人が遺産を持ったままのとき、本当の相続人が取り戻す請求(相続回復請求権)は相続回復請求権の記事で扱っています。
この記事では、欠格と廃除を「だれが決めるか・だれが対象か・取り消せるか・遺贈を受けられるか」で比べ、遺言書を隠しても欠格にならない場合の最高裁判所の判決を2つ確かめます。相続人と相続分の全体は相続の記事、相続分の計算の練習は相続分の計算の記事で扱っています。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると:遺言書を隠した長男と、廃除された次男
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| はるおさん | 被相続人(父) | 生前に次男の廃除を請求し、のちに亡くなった |
| みちこさん | はるおさんの妻 | 相続人 |
| けんたさん | 長男 | 父の遺言書を見つけて隠した |
| ひなさん | けんたさんの子(孫) | けんたさんの代わりに相続するか |
| そうたさん | 次男(子はいない) | 父に重大な侮辱をくり返し、廃除された |
- はるおさんは、次男のそうたさんから、長いあいだ重大な侮辱を受けていました。はるおさんは家庭裁判所にそうたさんの廃除を請求し、廃除を認める審判が確定しました。
- その後、はるおさんが亡くなりました。
- 長男のけんたさんは、父の机から遺言書を見つけました。自分の取り分が少ない内容だったので、自分の取り分を増やそうと考えて、遺言書を隠しました。のちに隠したことが分かりました。
- けんたさんの行為は、遺言書の隠匿(いんとく=隠すこと)に当たり、相続欠格の事由です(891条5号)。けんたさんは、家庭裁判所の手続がなくても、はるおさんの相続人になれません。
- けんたさんが欠格になったので、けんたさんの子のひなさんが、けんたさんに代わって相続人になります(887条2項)。
- そうたさんは廃除されたので相続人ではありません。そうたさんには子がいないので、代わりに相続する人もいません。
結果として、相続人は妻のみちこさんと孫のひなさんです。子の相続分2分の1は、子の側で相続人になるのがひなさんだけなので、ひなさんが受けます(900条1号・901条1項)。
たとえるなら、欠格は「ルールを破ったら自動で退場」、廃除は「審判に申し出て退場させてもらう」仕組みです。ただし本物のルールでは、退場した人の子は代わりに出場できます(代襲相続)。自分から辞退する相続放棄だけは、子が代わりに出ることはありません。
条文ではこう決まっている
相続欠格(891条)
891条は「次に掲げる者は、相続人となることができない。」として、5つの事由を並べています。
- 1号:故意に被相続人や、相続について先の順位か同じ順位にある人を死亡させ、または死亡させようとして、刑に処せられた人。
- 2号:被相続人が殺害されたことを知って、告発や告訴をしなかった人。ただし、是非の弁別(ぜひのべんべつ=善い悪いの判断)がないとき、殺害者が自分の配偶者や直系血族(親・子など)だったときは除かれます。
- 3号:詐欺や強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、変更することを妨げた人。
- 4号:詐欺や強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、変更させた人。
- 5号:相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した人。
欠格には、家庭裁判所の手続がありません。事由に当たれば、それだけで相続人になれません。
廃除(892条〜895条)
- だれを(892条):遺留分を有する推定相続人(すいていそうぞくにん=今相続が始まれば相続人になるはずの人)。遺留分は兄弟姉妹にはないので(1042条1項)、兄弟姉妹は廃除の対象になりません。
- どんなとき(892条):被相続人に虐待をしたとき、重大な侮辱を加えたとき、またはその他の著しい非行があったとき。
- どうやって(892条):被相続人が、家庭裁判所に廃除を請求します。
- 遺言でも(893条):遺言で廃除の意思を示したときは、遺言執行者が、遺言の効力が生じた後、遅滞なく家庭裁判所に請求します。廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼって効力を生じます。
- 取消し(894条):被相続人は、いつでも、廃除の取消しを家庭裁判所に請求できます。遺言による取消しもできます(同条2項で893条を準用)。
- 審判の前に相続が始まったとき(895条):家庭裁判所は、親族・利害関係人・検察官の請求で、遺産の管理について必要な処分を命じることができます。
代襲相続・受遺者・放棄(887条2項・965条・939条)
- 887条2項:被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、または891条に当たり、もしくは廃除によって相続権を失ったときは、その者の子が代襲して相続人になります。
- 965条:891条(欠格)は、受遺者(遺言で財産をもらう人)にも準用されます。廃除の規定は準用されていません。
- 939条:相続の放棄をした人は、その相続について、初めから相続人とならなかったものとみなされます。887条2項の代襲の原因に、放棄は入っていません。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- 長男が、自分の取り分を増やそうとして父の遺言書を破り捨てた。→ 遺言書の破棄で、欠格です(891条5号)。長男の子が代襲します。
- 子が親に重大な侮辱をくり返し、親が家庭裁判所に廃除を請求して認められた。→ 廃除です(892条)。子の子(孫)が代襲します。
- 遺言で「次男を廃除する」と書かれていた。→ 遺言執行者が家庭裁判所に請求し、認められれば、親が亡くなった時にさかのぼって廃除の効力が生じます(893条)。
当てはまらない例
- 親が、兄弟姉妹(自分の兄)を廃除したいと考えた。→ 兄弟姉妹には遺留分がないので、廃除の対象外です(892条・1042条1項)。財産を渡したくなければ、遺言で別の人に遺贈すれば足ります。
- 子が遺言書を隠したが、相続に関して不当な利益を得ようとしたわけではなかった。→ 判例は、欠格に当たらないとしています(下の判例1)。
- 長男が相続を放棄した。→ 放棄は代襲の原因ではないので、長男の子は代わりに相続しません(887条2項・939条)。
ひっかけやすい例
- 欠格の長男にも子がいる。→ 欠格は「罰」に見えますが、子は代襲します。欠格・廃除で代襲が止まる、とは書かれていません。
- 方式に不備のある遺言書(たとえば押印がない)に、相続人が押印して形を整えた。→ 形の上では偽造・変造に当たりますが、遺言者の意思を実現させるために方式を整えただけなら、欠格に当たらないとした判例があります(下の判例2)。
- 欠格の人に、被相続人が「それでも財産をあげたい」と遺言で遺贈した。→ 欠格は受遺者にも準用されるので(965条)、欠格の人は受遺者にもなれません。廃除の規定は受遺者に準用されていない点と比べます。
判例:遺言書を隠しても、欠格にならない場合
891条5号の文言だけを読むと、遺言書を隠したり手を加えたりすれば、いつでも欠格になるように見えます。最高裁判所は、次の2つの判決で、そうならない場合を示しています(courts.go.jp で確かめました)。
判例1:最高裁判所第三小法廷 平成9年1月28日判決(平成6年(オ)第804号)
裁判所の要旨は、相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄または隠匿した場合でも、その行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、その相続人は891条5号の相続欠格者に当たらない、というものです。分かれ目は、隠した事実ではなく「相続に関して不当な利益を目的とするか」です。
判例2:最高裁判所第二小法廷 昭和56年4月3日判決(昭和55年(オ)第596号)
遺言書やその訂正が方式を欠いて無効な場合に、相続人が方式を整えて有効な外形を作る行為は、891条5号の偽造・変造に当たります。ただし、それが遺言者の意思を実現させるために法形式を整える趣旨にすぎないときは、その相続人は欠格者に当たらない、とされました(反対意見があります)。
2つの判決は、どちらも「5号の行為をしたこと」だけでは欠格にしない点で共通しています。試験では、「遺言書を隠した者は、どんな目的でも欠格になる」のように、判例の限定を消した文に注意します。
欠格・廃除・放棄はどこが違うか
3つを比べます。
| 比べる点 | 欠格 | 廃除 | 放棄 |
|---|---|---|---|
| だれが決めるか | 法律(当然に) | 家庭裁判所(被相続人の請求) | 相続人本人(家庭裁判所に申述) |
| 対象になる人 | 相続人全般 | 遺留分のある推定相続人 | 相続人全般 |
| 子が代襲するか | する | する | しない |
| やめられるか | 取消しの定めなし | いつでも取消しを請求 | 撤回できない(919条1項) |
| 根拠の条 | 891条 | 892条〜895条 | 938条・939条 |
遺留分への影響も整理します。欠格や廃除で相続人でなくなった人には、遺留分もありません。遺留分は「兄弟姉妹以外の相続人」が持つものだからです(1042条1項)。一方、代わりに相続人になった子(代襲者)は、相続人として遺留分を持ちます。親が全財産を友人に遺贈していれば、代襲者は遺留分侵害額を請求できます(1046条1項)。
相続放棄の期間(知った時から3か月)や、放棄したとみなされない場合は相続の記事で、遺言の方式は遺言の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが機構の公開問題(昭和63年度〜令和7年度の40回・2,000問)を1問ずつ読んで分けた集計では、相続を主な論点とする問は全40回で27問、直近10回で8問でした(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。欠格・廃除だけの数は数えていません)。取り違えやすい組み合わせは次のとおりです。
- 放棄と代襲:代襲の原因は「死亡・欠格・廃除」の3つ。放棄を足した形に注意します。
- 廃除の対象:遺留分のある推定相続人だけ。兄弟姉妹を廃除できるとする形は誤りです。
- 手続の主体:生前の廃除は被相続人が請求、遺言による廃除は遺言執行者が請求(893条)。「相続人が請求する」は誤りです。
- 効力の時期:遺言による廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼって効力を生じます。
- 欠格に手続がいるか:欠格は当然に効果が生じ、家庭裁判所の審判はいりません。廃除の手続と入れ替えた形に注意します。
- 判例の限定:遺言書を破棄・隠匿しても、相続に関して不当な利益を目的としないなら欠格に当たらない(平成9年1月28日判決)。
- 取消し:廃除はいつでも取消しを請求できる。欠格には取消しの定めがない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
Aの子Bは、Aの死亡後にAの遺言書を見つけて隠した。Bのこの行為が、相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、Bは相続欠格者に当たらず、Aの相続人となる。
答え:○ 分かれ目は、遺言書を隠した目的です。891条5号は遺言書の隠匿を欠格の事由に挙げていますが、最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決は、相続に関して不当な利益を目的としない破棄・隠匿なら欠格者に当たらないとしました。隠した事実だけで欠格になると考えると✕にしやすい肢です。似た限定に、方式を欠く遺言書を遺言者の意思どおりに整えただけの行為は欠格に当たらないとした最高裁判所第二小法廷昭和56年4月3日判決があり、こちらは偽造・変造の場面の判断です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
Aは、遺言で子Bを廃除する意思を表示して死亡した。この場合、遺言の効力が生じた後、遅滞なく、家庭裁判所にBの廃除を請求するのは、Aの相続人であるBのきょうだいCである。
答え:✕ 分かれ目は、遺言による廃除を請求する人です。被相続人が遺言で廃除の意思を示したときは、遺言執行者が、遺言の効力が生じた後、遅滞なく家庭裁判所に請求します(893条)。正しくは、請求するのはCではなく遺言執行者です。生きているうちの廃除なら被相続人A自身が請求する(892条)ので、その主体と、ほかの相続人とを取り違えた文です。廃除が認められると、Aの死亡の時にさかのぼって効力が生じます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
Aの子Bは廃除され、Bの子CがBを代襲してAの相続人となった。Aが全財産を友人Dに遺贈していた場合でも、Cは、Dに対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
答え:○ 分かれ目は、代襲者が遺留分を持つかです。廃除は代襲相続の原因で(887条2項)、Cは子の代襲者として相続人になります。兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を持つので(1042条1項)、Cは受遺者Dに遺留分侵害額を請求できます(1046条1項)。廃除されたB本人は相続人でないので遺留分もなく、その扱いがCにも及ぶと考えると✕に見えます。代襲が起きない相続放棄の場合と取り違えないようにします。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 欠格は891条の5つの事由に当たると当然に相続人でなくなる。手続はいらない。受遺者にもなれない(965条)。
- 廃除は、被相続人が家庭裁判所に請求する。対象は遺留分のある推定相続人だけで、兄弟姉妹は対象外。遺言による廃除は遺言執行者が請求し、死亡の時にさかのぼる。
- 欠格・廃除では子が代襲する。放棄では代襲しない。
- 遺言書を隠しても、相続に関して不当な利益を目的としないなら欠格ではない(平成9年1月28日判決)。
- 廃除はいつでも取消しを請求できる。代襲者は相続人として遺留分を持つ。
このサイトで次に読むなら、宅建の相続の問題(○✕20問)がおすすめです。代襲・放棄・遺留分を、別の家族の場面で続けて確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「民法」(第887条第2項・第3項、第891条、第892条、第893条、第894条、第895条、第900条第1号、第901条第1項、第919条第1項、第939条、第965条、第1042条、第1046条第1項を、令和8年4月1日時点の条文で確認)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成9年1月28日判決(平成6年(オ)第804号)」(判示事項・裁判要旨)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和56年4月3日判決(昭和55年(オ)第596号)」(判示事項・裁判要旨)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
働く人の法律試験ノート