外国移住の自由と国籍離脱の自由:憲法22条2項、無国籍になる自由はあるか・外国人の出国と再入国

ひとことで言うと、憲法22条2項は「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。」と定めています。判例は、ここでいう外国移住の自由に外国へ一時旅行する自由も含まれるとしたうえで、その自由も公共の福祉のための合理的な制限に服するとしました。国籍を離脱する自由については、国籍法が、外国の国籍を持つ日本国民に限って、届出で日本の国籍を離脱できると定めています(国籍法13条)。

外国人については、日本から出国する自由は22条2項で保障されるとした判例がある一方、日本に入国する自由、日本に住む外国人が外国へ一時旅行して戻る自由(再入国の自由)は憲法上保障されないとした判例があります。この記事は、22条2項の2つの自由と、国籍法の離脱の条文、日本国民と外国人の違いを扱います。外国人の人権の全体(どの権利がどこまで及ぶか)は人権の主体の記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で、判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。

身近な例で考えると

人物立場したいこと
はるとさん日本国民(日本の国籍だけ)海外の会議に出たい。いつか日本の国籍をやめたい
りなさん日本と外国の両方の国籍を持つ日本国民日本の国籍をやめたい
エマさん日本に住む外国人母国へ一時帰って、また日本に戻りたい
  1. はるとさんの海外の会議への参加は、外国へ一時旅行する自由の話。22条2項で保障されるが、公共の福祉のための合理的な制限はありうる(昭和33年の判例)。
  2. はるとさんは日本の国籍しか持たないので、国籍法13条の届出で日本の国籍を離脱することはできない。離脱できるのは「外国の国籍を有する日本国民」。
  3. りなさんは外国の国籍も持っているので、法務大臣に届け出れば、届出の時に日本の国籍を失う(国籍法13条)。
  4. エマさんが日本から出国することは、22条2項で保障される(昭和32年12月の判例)。しかし、一時旅行して日本に戻る自由は、憲法上保障されていない(平成4年の判例)。戻れるかどうかは、法律にもとづく出入国の管理の問題になる。

たとえるなら、22条2項は「家(日本)から出ていく自由」を守る条文です。出ていく自由は外国人にもありますが、外から「家に入る」自由や、いったん出てまた戻る自由までは憲法で守っていない、というのが外国人についての判例の考え方です。ただし本物のルールでは、出ていく自由にも公共の福祉による制限があり、国籍をやめる自由も国籍法の要件の中で使います。

条文ではこう決まっている

憲法22条

  • 1項:何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
  • 2項:何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
  • 2項には、1項のような「公共の福祉に反しない限り」の文言がありません。それでも、判例は2項の自由にも公共の福祉による合理的な制限があるとしています(次の節)。どれも、国家から邪魔されない自由(自由権)です。職業選択の自由(1項)は職業選択の自由と財産権の記事で扱っています。

国籍法11条〜13条

  • 11条1項:日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。届出は要らず、取得したときに失う。
  • 11条2項:外国の国籍を持つ日本国民は、その外国の法令でその国の国籍を選んだときは、日本の国籍を失う。
  • 12条:出生で外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれた人は、戸籍法の定めにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、出生の時にさかのぼって日本の国籍を失う。
  • 13条:外国の国籍を持つ日本国民は、法務大臣に届け出ることで、日本の国籍を離脱できる(1項)。届出をした人は、届出の時に日本の国籍を失う(2項)。

国籍法は、届出で離脱できる人を外国の国籍を持つ人に限っています。憲法の教科書では、22条2項の国籍離脱の自由は、無国籍になる自由まで含むものではないと説明されています。この点を正面から判断した最高裁判所の判例は、当サイトでは確かめられていません。天皇・皇族に22条2項がどう及ぶかは学説が分かれており、この記事では結論を書きません。

旅券法13条

外務大臣または領事官は、一定の人について、一般旅券(パスポート)の発給や渡航先の追加を「しないことができる」(旅券法13条1項)。そのひとつが、外務大臣が「著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」です(同項7号)。外務大臣がこの認定をするときは、あらかじめ法務大臣と協議します(同条2項)。

判例はどう判断したか

  • 旅券の発給拒否(最高裁判所大法廷 昭和33年9月10日判決):海外の国際会議に出るための旅券の発給を拒まれた人が、国に損害賠償を求めた事件。判決は、22条2項の「外国に移住する自由」には「外国へ一時旅行する自由をも含む」と解したうえで、外国旅行の自由も「公共の福祉のために合理的な制限に服する」とし、当時の旅券法13条1項5号(いまの7号と同じ内容)は22条2項に違反しないとしました。発給拒否も違法とはいえないとしています。
  • 外国人の出国(最高裁判所大法廷 昭和32年12月25日判決):外国人の出国の手続を定めた出入国管理令25条が争われた事件。判決は、22条2項の外国移住の自由は「その権利の性質上外国人に限つて保障しないという理由はない」としたうえで、25条は出国そのものを制限するものではなく出国の手続を定めたもので、公共の福祉のための規定として合憲としました。
  • 外国人の入国(最高裁判所大法廷 昭和32年6月19日判決):判決は、憲法22条は外国人が日本に入国することについて何ら規定していないとしました。
  • 外国人の再入国(最高裁判所第一小法廷 平成4年11月16日判決):日本に住む外国人が、再入国の許可を受けられなかったことを争った事件。判決は、日本に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されていないとしました。理由として、昭和32年6月19日と昭和53年10月4日の大法廷判決の趣旨を挙げています。

日本国民と外国人を表で比べる

場面日本国民外国人
外国へ出る・移住する22条2項で保障。一時旅行も含む(昭和33年)出国の自由は22条2項で保障(昭和32年12月)
制限できるか公共の福祉のための合理的な制限はできる(旅券法13条は合憲)出国の手続を定めるのは合憲(昭和32年12月)
国籍の離脱外国籍を持つ人は届出で離脱できる(国籍法13条)。無国籍になる自由は含まないと説明される日本の国籍がないので問題にならない
日本への入国・再入国この記事では扱わない入国(昭和32年6月)・再入国(平成4年)とも憲法上保障されない

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:日本と外国の両方の国籍を持つりなさんが、法務大臣に届け出た。届出の時に日本の国籍を失います(国籍法13条2項)。
  • 当てはまる例:日本に住むエマさんが、母国に帰るため日本から出国する。外国人の出国の自由は、22条2項で保障されます(昭和32年12月25日判決)。
  • 当てはまらない例:日本の国籍だけを持つはるとさんが、国籍法13条の届出で日本の国籍を離脱しようとする。13条は「外国の国籍を有する日本国民」に限っているので、この届出はできません。
  • ひっかけやすい例:「22条2項には公共の福祉の文言がないから、外国旅行の自由は制限できない」という説明。判例は、文言がなくても公共の福祉のための合理的な制限に服するとしました(昭和33年9月10日判決)。
  • ひっかけやすい例:「外国人の出国の自由が保障されるなら、一時旅行して戻る自由も保障される」という説明。判例は、日本に在留する外国人は外国へ一時旅行する自由を憲法上保障されていないとしました(平成4年11月16日判決)。出国と再入国で結論が分かれます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 1項と2項の文言:「公共の福祉に反しない限り」があるのは1項だけ。2項の自由も、判例では公共の福祉による合理的な制限に服する。
  • 一時旅行の位置:判例は、外国への一時旅行を22条2項の「外国に移住する自由」に含めた。1項の「移転の自由」ではない。
  • 外国人の出国と入国・再入国:出国は保障される。入国と、在留する外国人の一時旅行(再入国)は保障されない。
  • 国籍を失う場面の区別:自分の志望で外国の国籍を取得したときは、届出なしで失う(国籍法11条1項)。外国の国籍を持つ人が届け出たときは、届出の時に失う(13条)。
  • 旅券法の号の番号:昭和33年の判決が扱ったのは当時の13条1項5号。いまは同じ内容が7号にある。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
憲法22条2項には、1項と違って「公共の福祉に反しない限り」の文言がない。それでも判例は、外国へ一時旅行する自由も公共の福祉のための合理的な制限に服するとし、旅券の発給を拒める旅券法の規定を合憲とした。

答え:○ 分かれ目は、文言がないことと制限できるかどうかの関係です。最高裁判所大法廷昭和33年9月10日判決は、22条2項の外国移住の自由に外国へ一時旅行する自由も含むとしたうえで、外国旅行の自由も無制限ではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するとし、当時の旅券法13条1項5号を22条2項に違反しないとしました。文言がない以上、制限はできないと考えると✕に見えます。個別の人権の条文で「公共の福祉」の文言を置くのは22条1項と29条2項(12条・13条は人権の総則の条文)で、それと比べて迷わせる形です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
日本に在留する外国人Aが、外国へ一時旅行して日本に戻ろうと考えている。判例によれば、Aには、日本から出国する自由と同じく、外国へ一時旅行する自由も憲法上保障されている。

答え:✕ 分かれ目は、外国人の出国と再入国の扱いの違いです。最高裁判所第一小法廷平成4年11月16日判決は、日本に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されていないとしました。正しくは、Aの出国の自由は22条2項で保障されますが(最高裁判所大法廷昭和32年12月25日判決)、一時旅行して戻る自由は憲法上の保障がありません。外国人の出国についての判例を、再入国にまで広げた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
日本の国籍だけを持つ日本国民Bが、無国籍になることを望んでいる。この場合でも、Bは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を離脱することができる。

答え:✕ 分かれ目は、届出で離脱できる人の範囲です。国籍法13条1項は、届出で日本の国籍を離脱できる人を「外国の国籍を有する日本国民」に限っています。正しくは、日本の国籍だけを持つBは、この届出で日本の国籍を離脱することはできません。22条2項が国籍を離脱する自由を定めているので、だれでも届出で離脱できると考えると○にしてしまいます。届出なしで日本の国籍を失うのは、自分の志望で外国の国籍を取得したとき(同法11条1項)で、これとも区別します。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 22条2項:何人も、外国に移住し、国籍を離脱する自由を侵されない。外国への一時旅行も含む(昭和33年9月10日大法廷判決)。
  • 2項に公共の福祉の文言はないが、合理的な制限に服する。旅券の発給拒否の規定は合憲。
  • 国籍の離脱:外国の国籍を持つ日本国民は、法務大臣への届出で離脱できる(国籍法13条)。無国籍になる自由は含まないと説明される。
  • 外国人:出国の自由は保障(昭和32年12月25日)。入国(昭和32年6月19日)と再入国(平成4年11月16日)は保障されない。

このサイトで次に読むなら、憲法の判例まとめです。22条の判例を、ほかの人権の判例と並べて結論を見直せます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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