ひとことで言うと、地方公共団体のお金は「長が予算を作り、議会が議決し、決算は監査委員の審査を経て議会が認定する」流れで動きます(地方自治法211条・233条)。1年のすべての収入と支出を予算に入れ(総計予算主義)、その年の支出はその年の収入でまかないます(会計年度独立の原則)。地方の財源(地方交付税・国庫支出金・地方債・地方税)の違いは地方交付税の記事で扱っています。
財産では、公有財産が行政財産(庁舎・学校のように公の用に使う財産)と普通財産(それ以外)に分かれます。行政財産は原則として貸し付けられず、用途を妨げない限度で使用を許可できるだけです。普通財産は貸し付けたり売ったりできます。この記事は、令和8年4月1日時点の条文を試験の論点として整理し、予算書の科目や事務の実務は扱いません。国の予算の憲法の条文は財政と地方自治の記事で扱っています。
身近な例で考えると
登場するのは、架空の「さくら市」の財政課で働くゆうまさんと、市役所の1階で売店を開いているはるなさんです。
- 1月、市長は来年度の予算を調製(作ること)した。指定都市ではないので、遅くとも年度開始の20日前までに議会に出すようにする(211条1項)。
- 議会は3月に予算を議決した。議会は予算を増額して議決することもできるが、長の予算の提出の権限を侵すことはできない(97条2項)。
- 4月1日から新しい会計年度が始まる。翌年3月31日に終わる(208条1項)。
- 市庁舎は行政財産。はるなさんは、庁舎の一部で売店を開くため、使用許可を受けている(238条の4第7項)。使用料は条例で定めた額を払う(225条・228条1項)。
- 年度の途中で、道路工事が予算の成立後の事情で年度内に終わらない見込みになった。予算で繰越明許費として定めておけば、翌年度に繰り越して使える(213条)。
- 年度が終わると、会計管理者が決算を作る。市長は監査委員の審査に付し、その意見を付けて議会の認定に付す(233条)。
たとえると、予算は「家族で決める1年分のお小遣いの計画表」、決算は「1年たって実際にいくら使ったかの報告」です。ただし本物の予算は、計画を作れるのは長だけで、議会は議決で決めます。家族のだれでも計画を出せるわけではありません。
予算は条文でこう決まっている
| 決まり | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 会計年度 | 4月1日に始まり翌年3月31日に終わる | 208条1項 |
| 会計年度独立 | 各年度の歳出は、その年度の歳入でまかなう | 208条2項 |
| 会計の区分 | 一般会計と特別会計。特別会計は条例で設置 | 209条 |
| 総計予算主義 | 一切の収入と支出を、すべて歳入歳出予算に入れる | 210条 |
| 調製と議決 | 長が毎会計年度調製し、年度開始前に議会の議決を経る | 211条1項 |
| 提出の期限 | 都道府県・指定都市は30日前、その他の市と町村は20日前まで | 211条1項 |
| 増額修正 | 議会は増額して議決できる。長の提出権は侵せない | 97条2項 |
予算の中身と、年度をまたぐ支出
予算は、歳入歳出予算・継続費・繰越明許費・債務負担行為・地方債・一時借入金・歳出予算の各項の経費の金額の流用、の7つの定めから成ります(215条)。年度をまたぐ3つは、名前が似ているので中身で分けます。
| 名前 | どんなときに | 条文 |
|---|---|---|
| 継続費 | 履行に数年度かかる事件で、経費の総額と年割額を定めて数年度にわたり支出する | 212条 |
| 繰越明許費 | 性質上または予算成立後の事由で年度内に支出を終わらない見込みの経費を、翌年度に繰り越して使う | 213条 |
| 債務負担行為 | 歳出予算などの範囲内のものを除き、債務を負う行為を予算で定めておく | 214条 |
- 繰越しの原則禁止:繰越明許費の金額を除き、歳出予算の経費は翌年度に使えない。ただし、年度内に支出負担行為をし、避けがたい事故のため年度内に支出を終わらなかったものは、翌年度に繰り越して使える(事故繰越し。220条3項)。
- 予備費:予算外の支出や予算超過の支出に充てるため、歳入歳出予算に予備費を計上しなければならない(特別会計は計上しないことができる)。予備費は、議会の否決した費途に充てることができない(217条)。
- 補正予算・暫定予算:既定の予算に変更を加える必要が生じたときは補正予算、必要に応じて一会計年度のうちの一定期間の暫定予算を、長が調製して議会に出せる(218条1項・2項)。
国の予算と比べる
| 比べる点 | 国(憲法) | 地方公共団体(地方自治法) |
|---|---|---|
| 予算を作る | 内閣(86条) | 長(211条1項) |
| 議決する | 国会 | 議会(96条1項2号) |
| 予備費 | 国会の議決に基づき設け、支出は事後に国会の承諾(87条) | 計上しなければならない。議会の否決した費途には使えない(217条) |
| 決算 | 会計検査院が検査し、内閣が国会に提出(90条1項) | 会計管理者が調製、監査委員の審査を経て議会が認定(233条) |
決算はどう進むか
- 会計管理者が、毎会計年度、決算を調製し、出納の閉鎖後3か月以内に、証書類などとあわせて長に出す(233条1項)。
- 長は、決算を監査委員の審査に付す(2項)。監査委員の意見は合議で決める(4項)。
- 長は、監査委員の意見を付けて、次の通常予算を議する会議までに議会の認定に付す(3項)。議会の権限としても「決算を認定すること」が挙がっている(96条1項3号)。
- 長は、認定に付した決算の要領を住民に公表する(6項)。
- 認定の議案が否決された場合に、長が議決を踏まえて必要と認める措置を講じたときは、速やかに議会に報告し、公表する(7項)。
監査委員の選び方と仕事は監査委員と議会の調査権の記事で扱っています。
財産は条文でこう決まっている
財産の種類と、議会の関与(237条・96条)
- 財産とは、公有財産・物品・債権・基金をいう(237条1項)。
- 財産は、条例または議会の議決によらなければ、交換し、出資の目的とし、支払手段として使用し、適正な対価なく譲渡し、貸し付けることができない(237条2項)。議会の議決事件にも同じ中身が挙がっている(96条1項6号)。
- 公有財産は、行政財産と普通財産に分かれる(238条3項)。行政財産は、公用または公共用に供し、または供すると決定した財産。普通財産は、行政財産以外の一切の公有財産(238条4項)。
行政財産と普通財産の違い
| 比べる点 | 行政財産 | 普通財産 |
|---|---|---|
| 例 | 庁舎・学校・道路の敷地 | 使っていない土地・建物 |
| 貸付け・売払い | 原則できない(例外は238条の4第2項〜4項) | できる(238条の5第1項) |
| 使わせ方 | 用途・目的を妨げない限度で使用を許可(7項) | 契約で貸し付ける |
| 借地借家法 | 使用許可による使用には適用しない(8項) | 貸付けは契約による(238条の5第1項) |
| 途中で必要になったら | 公用・公共用に必要が生じたとき等、許可を取り消せる(9項) | 公用・公共用に必要が生じたとき、契約を解除できる(238条の5第4項) |
| 補償 | 地方自治法に規定なし(判例あり) | 解除で生じた損失の補償を求められる(同条5項) |
判例:行政財産の使用許可の取消しと補償(昭和49年2月5日)
最高裁判所第三小法廷 昭和49年2月5日判決(昭和44年(オ)第628号)
- 事案:都の行政財産である土地について、建物の所有を目的とし期間の定めのない使用許可を受けていた人が、本来の用途のために許可を取り消された。土地の使用権を失ったことの補償が争われた。
- 結論:本来の用途または目的上の必要にもとづいて将来に向かって取り消されたときは、使用権者は、特別の事情のないかぎり、使用権を失ったことについての補償を求めることはできない。
- 理由の要点:国有財産法の補償の規定は、都の行政財産の使用許可の場合にも類推適用される。けれども、期間の定めのない使用許可の使用権は、本来の用途・目的上の必要が生じたときは原則として消滅すべきもので、その制約が内在しているものとして与えられている。
- まちがえやすい所:特別の事情の例として、使用許可を受けるときに対価を払っていたのに、それを償却するに足りない期間内に必要が生じた場合や、許可のときに別段の定めがある場合などが挙げられています。「補償は一切不要」ではありません。
分担金・使用料・手数料は条文でこう決まっている
| 名前 | 何についてとるか | 条文 |
|---|---|---|
| 分担金 | 数人または団体の一部に利益のある事件について、受益の限度で | 224条 |
| 使用料 | 行政財産の使用許可による使用、公の施設の利用 | 225条 |
| 手数料 | 団体の事務で特定の者のためにするもの | 227条 |
- 分担金・使用料・加入金・手数料に関する事項は、条例で定めなければならない(228条1項)。
- 条例で、これらの徴収に関し5万円以下の過料を科す規定を設けられる(228条2項)。詐欺その他不正の行為で徴収を免れた者には、免れた金額の5倍に相当する金額(それが5万円を超えないときは5万円)以下の過料を科す規定を設けられる(228条3項)。
- 長以外の機関がした徴収の処分についての審査請求も長にする。長は、不適法で却下するときを除き、議会に諮問してから裁決し、議会は諮問を受けた日から20日以内に意見を述べる(229条1項〜3項)。
- 納期限までに納めない人には、長は期限を指定して督促する(231条の3第1項)。督促しても納めないとき、地方税の滞納処分の例により処分できるのは、分担金・加入金・過料・法律で定める使用料などに限られる(同条3項)。手数料と、法律に定めのない使用料は、3項に挙がっていない。
公の施設は「住民が利用する施設」という使い方の仕組み(244条)、行政財産は「公有財産の分け方」(238条)で、見ている面が違います。公の施設の利用のルールは公の施設の記事、学問上の公物の分け方は公物の記事で扱っています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:はるなさんが、庁舎の一角で使用許可を受けて売店を開く。行政財産の使用許可による使用なので、借地借家法は適用されません(238条の4第8項)。
- 当てはまる例:市が、使っていない元の職員住宅の土地(普通財産)を会社に貸し付けた。貸付期間中に公共用に使う必要が生じて契約を解除したときは、会社は損失の補償を求められます(238条の5第4項・5項)。
- 当てはまらない例:市が、庁舎の敷地を売店の運営会社に売り払う。行政財産は、原則として売払いや貸付けができません(238条の4第1項)。
- 当てはまらない例:市が、条例も議会の議決もなく、普通財産の土地をただで会社に貸した。適正な対価なく貸し付けるには、条例か議会の議決が要ります(237条2項)。
- ひっかけやすい例:数年度にわたる大きな工事の経費を、総額と年割額を決めて支出する。これは継続費(212条)で、繰越明許費(213条)ではありません。
- ひっかけやすい例:予備費を、議会が予算の審議で否決した使い道に充てる。予備費は、議会の否決した費途に充てられません(217条2項)。
試験ではここをまちがえやすい
- 予算を作る人:予算を調製するのは長。議会は議決し、増額して議決することもできますが、長の提出権を侵せません。
- 提出の期限の数字:都道府県・指定都市は30日前、その他の市と町村は20日前まで。入れ替える形に注意します。
- 継続費と繰越明許費:数年度にわたるのが継続費、年度内に終わらない見込みのものを翌年度に繰り越すのが繰越明許費。
- 決算の流れ:会計管理者が調製し、長が監査委員の審査に付し、議会が認定する。会計管理者が直接議会に出すのではありません。
- 行政財産の使わせ方:行政財産は「貸付け」ではなく「使用許可」が原則。使用許可による使用に借地借家法は適用されません。
- 補償の規定の場所:損失の補償の規定があるのは普通財産の貸付契約の解除(238条の5第5項)。行政財産の使用許可の取消しについては、判例が特別の事情のない限り使用権の補償は要らないとしました。
- 条例で定めること:分担金・使用料・手数料は条例で定める。過料は5万円以下、不正に免れた者には、免れた額の5倍以下(5倍が5万円を超えないときは5万円以下)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
K市の道路工事が、予算の成立後に起きた事情で年度内に支出を終わらない見込みになった。このような経費を予算で定め、翌年度に繰り越して使えるようにするものを、地方自治法は継続費と呼んでいる。
答え:✕ 分かれ目は、年度をまたぐ3つの仕組みの名前と中身です。予算成立後の事由などで年度内に支出を終わらない見込みの経費を翌年度に繰り越して使うのは、繰越明許費です(地方自治法213条)。正しくは、この経費は繰越明許費として予算で定めます。継続費は、履行に数年度を要する事件について、経費の総額と年割額を定めて数年度にわたって支出するものです(212条)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
L市は、市役所の庁舎の1階の一部について、Mさんに売店を開くための行政財産の使用許可をした。Mさんのこの使用には、借地借家法の規定は適用されない。
答え:○ 分かれ目は、行政財産の使用許可による使用の性質です。地方自治法238条の4第7項は、行政財産を用途または目的を妨げない限度で使用許可できるとし、8項は、この許可を受けてする使用には借地借家法の規定を適用しないとしています。建物の一部を使うのだから借家として守られる、と考えると✕に見えます。普通財産の貸付けとは違い、使用許可は、公用・公共用に必要が生じたときなどに取り消すことができます(9項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
都の行政財産である土地について、Nさんは建物所有を目的として期間の定めのない使用許可を受けていた。その土地を本来の用途に使う必要が生じて許可が取り消されたとき、判例によれば、Nさんは、特別の事情がなくても使用権を失ったこと自体の補償を求められる。
答え:✕ 分かれ目は、使用権の喪失そのものに補償が要るかです。最高裁判所第三小法廷昭和49年2月5日判決は、本来の用途または目的上の必要にもとづいて将来に向かって取り消されたときは、使用権者は、特別の事情のないかぎり、使用権の喪失について補償を求めることはできないとしました。正しくは、この使用権には本来の用途の必要が生じたときに消滅するという制約が内在しています。普通財産の貸付契約の解除の損失補償(238条の5第5項)と取り違えた誤りです。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 会計年度は4月1日〜3月31日。会計年度独立と総計予算主義(208条・210条)。
- 長が予算を調製し、年度開始前に議会が議決(都道府県・指定都市30日前、その他20日前までに提出)。議会は増額修正できるが長の提出権は侵せない。
- 継続費は数年度にわたる支出、繰越明許費は翌年度への繰越し、債務負担行為は債務を負う行為を予算で定めるもの。予備費は議会の否決した費途に使えない。
- 決算:会計管理者が調製→長→監査委員の審査→議会の認定(233条)。
- 行政財産は使用許可(借地借家法は不適用)、普通財産は貸付け(解除の損失補償あり)。分担金・使用料・手数料は条例で定める。
改正の注意:長が住民に財政状況を公表する回数は、令和8年4月1日時点では「毎年二回以上」です(243条の3第1項)。第16次地方分権一括法(令和8年法律第27号)で「毎会計年度少なくとも一回以上」に改められ、令和9年4月1日に施行されます。行政書士試験は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されている法令から出題されるので、令和8年度試験は改正前の条文、令和9年度試験(基準日:令和9年4月1日)は改正後の条文で考えます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、理由の要点は判決全文で確かめました。243条の3の改正の中身と施行日は、総務省自治行政局長の通知(令和8年6月3日)で確かめました。
- e-Gov法令検索「地方自治法」(96条1項2号・3号・6号、97条2項、208条〜215条、217条、218条、220条3項、224条、225条、227条〜229条、231条の3、233条、237条、238条3項・4項、238条の4、238条の5、243条の3)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和49年2月5日判決(昭和44年(オ)第628号)」(都有行政財産である土地の使用許可の取消しと損失補償)
- 総務省自治行政局長「『地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律』による地方自治法の改正について(通知)」(令和8年6月3日、内閣府の地方分権改革のページに掲載)(243条の3の改正と施行日。同法附則1条4号)
働く人の法律試験ノート