議院内閣制と大統領制の違い、地方自治の二元代表制:だれを選挙で選び、だれがだれに責任を負うか

ひとことで言うと、国の議院内閣制は「国民が選ぶのは国会議員だけで、内閣総理大臣は国会が国会議員の中から指名し、内閣は国会に責任を負う」仕組みです(日本国憲法66条3項・67条1項)。地方の二元代表制は「住民が、長(知事・市町村長)と議会の議員を、別々に直接選ぶ」仕組みです(憲法93条2項)。大統領制は、行政の長である大統領を有権者が選び、大統領は議会に政治責任を負わない仕組みとして説明されます。

この記事の位置づけ:行政書士試験の基礎知識の4分野(一般知識・行政書士法等の業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点以上。6問分)を越えるには、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固めるのが、基礎知識の記事で書いた当サイトの方針です。この記事は、その方針のうえで、憲法と地方自治法の条文で決まっている「選び方と責任の向き」だけを扱います。外国の政治や人物、制度の良し悪しは書きません。条文は令和8年4月1日時点の日本国憲法・地方自治法を e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。

身近な例で考えると

みどり市に住む会社員のこはるさんが、国と市の選挙で投票する場面です。

  1. 衆議院議員の総選挙:こはるさんが選べるのは衆議院議員だけ。内閣総理大臣の名前を書く投票用紙はない。
  2. 選挙のあと、国会が、国会議員の中から内閣総理大臣を指名する(憲法67条1項)。内閣総理大臣が国務大臣を任命し、その過半数は国会議員から選ぶ(68条1項)。
  3. みどり市の選挙:こはるさんは、市長の選挙と市議会議員の選挙で、それぞれ別に投票する(憲法93条2項、地方自治法17条)。
  4. 当選した市長は、市議会の議員を兼ねられない(地方自治法141条2項)。一方、国の内閣総理大臣は、国会議員でなければならない(憲法67条1項)。

たとえるなら、議院内閣制は「クラスの代表委員(国会)を選び、委員会の中から委員長(内閣総理大臣)を決めてもらう」形です。二元代表制は「委員長も委員も、クラス全員の投票で別々に選ぶ」形です。ただし本物のルールでは、地方でも議会が長の不信任を議決し、長が議会を解散できる場面があり、完全に切り離されているわけではありません。

条文ではこう決まっている

国:議院内閣制(日本国憲法)

  • 責任の向き(66条3項):内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。責任の相手は「国会」で、衆議院だけではない。
  • 首相の選ばれ方(67条1項):内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名する。この指名は、ほかのすべての案件に先だって行う。
  • 国務大臣(68条1項):内閣総理大臣が任命する。ただし、その過半数は国会議員の中から選ばなければならない。国会議員でない人も、過半数の枠の外なら国務大臣になれる。
  • 不信任と解散(69条):内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。不信任の決議でこの効果が生じるのは衆議院だけ。
  • 総選挙のあと(70条):衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは、内閣は総辞職をしなければならない。

地方:二元代表制(憲法93条2項・地方自治法)

  • 直接選挙(憲法93条2項):地方公共団体の長、議会の議員、法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接選挙する。地方自治法17条も、議員と長は選挙人が投票で選挙すると定める。
  • 兼職の禁止(地方自治法141条):長は、衆議院議員・参議院議員を兼ねられない(1項)。地方公共団体の議会の議員や常勤の職員なども兼ねられない(2項)。
  • 不信任と解散(地方自治法178条):議会が長の不信任を議決したとき、長は、通知を受けた日から10日以内に議会を解散できる。解散しなければ長は職を失う。手続と議決の数は、記事の終わりで案内する議会と長の関係の記事に任せます。

大統領制の骨組み(公的な資料の説明)

大統領制は外国の制度なので、日本の条文はありません。衆議院憲法審査会事務局の資料(衆憲資第104号「『衆議院の解散』に関する資料」、令和7年5月)は、議院内閣制と大統領制を比べる表で、大統領制を次の3点で説明しています(表では、大統領制は「アメリカ型」、議院内閣制は「イギリス型」を典型として並べています)。

  • 大統領は、議会によってではなく、有権者によって公選される。
  • 行政府の首長である大統領は、議会に対して政治責任を負わない。
  • 議会が大統領によって解散されることはない。

同じ資料は、議院内閣制を「行政権を担う内閣は、議会に対して政治責任を負う」仕組みとして説明しています。国ごとの制度の細かい違いや、実際の運用は、この記事では扱いません。

3つを1枚の表で比べる

比べる点国(議院内閣制)地方(二元代表制)大統領制(資料の説明)
有権者が直接選ぶ人国会議員だけ長と議会の議員の両方大統領(議会によってではなく有権者が公選)
行政の長の選ばれ方国会が国会議員の中から指名(67条1項)住民の直接選挙(93条2項)有権者が公選
議会との関係内閣は国会に連帯して責任(66条3項)。首相は国会議員長は議員を兼ねられない(自治法141条2項)大統領は議会に政治責任を負わない
不信任と解散衆議院の不信任→10日以内に解散か総辞職(69条)議会の不信任→10日以内に解散できる(自治法178条)議会が大統領に解散されることはない

表の「直接選ぶ人」と「選ばれ方」の行では、地方の仕組みは大統領制と同じ側にあります。一方、「不信任と解散」の行では、地方にも不信任と解散の仕組みがあり、資料の説明する大統領制とは違います。国の内閣の権能(73条の事務、解散の決定)は内閣の権能の記事、国会・内閣・裁判所の抑制の関係は三権分立の記事にあります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(国務大臣):内閣総理大臣が、国会議員でない研究者を国務大臣に任命した。国務大臣の過半数が国会議員であれば、憲法68条1項に反しません。
  • 当てはまらない例(首相):国会が、国会議員でない人を内閣総理大臣に指名した。67条1項は「国会議員の中から」と定めているので、できません。国務大臣とちがって、例外の枠はありません。
  • 当てはまらない例(地方の長):市議会が、議員の中から市長を選んだ。長は住民が直接選挙します(憲法93条2項)。議会が長を選ぶ仕組みは、憲法の上で置けません。
  • ひっかけやすい例(不信任の相手):参議院で、内閣を信任しないという趣旨の決議がされた。69条で内閣が総辞職か解散かを迫られるのは、衆議院で不信任の決議案を可決したとき(または信任の決議案を否決したとき)だけです。

試験ではここをまちがえやすい

  • 責任の相手の入れ替え:内閣が連帯して責任を負う相手は「国会」(66条3項)。不信任の決議で総辞職か解散かになるのは「衆議院」(69条)。2つの条文で言葉が違います。
  • 「過半数」の付く相手:過半数が国会議員でなければならないのは国務大臣(68条1項)。内閣総理大臣は全員が国会議員の中から(67条1項)。
  • 兼職の向き:国は「首相は国会議員でなければならない」、地方は「長は議員を兼ねられない」。向きが逆です。
  • 地方を「大統領制そのもの」とする型:長と議員を別に直接選ぶ点は大統領制と同じですが、地方には不信任と解散の仕組み(地方自治法178条)があります。
  • 直接選挙の範囲:憲法93条2項で住民が直接選挙するのは「長、議員、法律の定めるその他の吏員」。地方の仕組み全体は地方自治の本旨の記事で、憲法92条〜95条と地方自治法の対応として整理しています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
内閣総理大臣Aは、国務大臣10人のうち4人を、国会議員でない人から任命した。残りの6人は国会議員なので、この任命は憲法に反しない。

答え:○ 分かれ目は、「過半数」が国会議員であればよいという点です。内閣総理大臣は国務大臣を任命し、その過半数は国会議員の中から選ばなければなりません(憲法68条1項)。10人中6人が国会議員なので、過半数を満たします。内閣総理大臣が全員国会議員の中から指名される(67条1項)のと同じに考えると✕に見えます。「過半数」の要件は国務大臣についてのもので、内閣総理大臣には例外の枠がありません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
議院内閣制をとる日本国憲法のもとで、内閣は、行政権の行使について、衆議院に対してだけ連帯して責任を負い、参議院に対しては責任を負わない。

答え:✕ 分かれ目は、責任の相手を表す語です。憲法66条3項は、内閣は行政権の行使について「国会に対し」連帯して責任を負うと定めています。正しくは、責任の相手は衆議院と参議院からなる国会です。衆議院だけに認められているのは、不信任の決議案の可決により、内閣に解散か総辞職かを迫る仕組み(69条)で、これと取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みどり市長に当選したBは、その任期中、衆議院議員を兼ねることはできない。一方、国の内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名される。

答え:○ 分かれ目は、国と地方で兼職の向きが逆になる点です。普通地方公共団体の長は、衆議院議員・参議院議員と兼ねることができません(地方自治法141条1項)。内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名されます(憲法67条1項)。「議会と行政の長を分ける」地方の決まりを国にも当てはめると、後半を✕と見てしまいます。地方では、長は市議会の議員とも兼ねられません(同条2項)。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 国:国民が選ぶのは国会議員。首相は国会が国会議員の中から指名(67条1項)。国務大臣は過半数が国会議員(68条1項)。
  • 内閣は国会に連帯して責任(66条3項)。衆議院の不信任→10日以内に解散か総辞職(69条)。
  • 地方:住民が長と議員を別々に直接選挙(憲法93条2項・自治法17条)。長は国会議員・地方議会の議員を兼ねられない(自治法141条)。
  • 地方にも不信任と解散がある(自治法178条)。大統領制の説明(議会が大統領に解散されない)とはここが違う。

このサイトで次に読むなら、議会と長の関係の記事です。表の「不信任と解散」の行の、議決の数と10日の数え方を条文で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました(2026年10月17日確認)。大統領制と議院内閣制の骨組みは、衆議院憲法審査会事務局の資料の説明だけを使いました。

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